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鳥籠の姫  作者:
19/22

十九話

悩み、紫白耀明と共に頭を突き合わせた結果、やはり、ありのまま・・・全て話そうという結論に至った

きっと、止まってしまった時が、再び動き出すと信じて



黎音から事の仔細を聞いた次の日、祥蘭と共に陽、紫白、耀明は黎明宮の一角にある泉に面した東屋に来ていた

祥蘭は此処に来たのは初めてだったようで、付き従った女官達が茶を淹れているのを横目に落ち着き無く足をぷらぷらとさせている

理由は何も告げずにきた

これから話す内容は、祥蘭にとって酷な事だろう

分かっていて、伝える自分達は鬼だな、と紫白は内心で己を嘲笑った


湯気が立ち上り、祥蘭の好みに合わせて少し甘めの茶が四人の前に置かれる

切り出したのは、意外な事に耀明だった

「姫様、俺達は昨日な、黎音に会って来た」

ゆっくり、言葉を切りながら祥蘭に話せばその瞳を零れんばかりに見開いて耀明を見つめる

「あのヒト、怒ってた・・・?」

伺うように耀明達を見回す祥蘭に、誰がとも無く首を横に振る

「正直申し上げてコレを伝えるべきか悩みました

貴女は、鳳凰として真っ白な存在ですから、コレを話す事で、色づき傾いたら、と思うと今でも文官長としては躊躇います


けれど、貴女は王であるとともに国であり、我々が抱く唯一ですから

そして私は、貴女の臣で、民でありたいと思いますから

貴女がそのままで在ると言う事を願って

貴女が、折れず傾かないと祈って申し上げます」


文官長としては、鳳凰が大地を揺らす原因になるかもしれない事を話すなんて有り得ない事だ

引き離しこそすれ、自ら伝えるなど


それでも、と思った

それでも教えなくては、と

一人の男の魂の叫びを聞いて、真実を知ってもらいたいと

祥蘭には知る権利がある

知って、感情を揺らす権がある

文官長である前に、一人の紅国国民としてその感情を受け止めるべきだと心が叫ぶのだ

「(この国の中枢を担う者としては、いけない事だとわかってはいても)」

信じたいのかもしれない

真っ白な新しい王が、この話を聞いて、前に進む事を

乗り越えて、行って欲しいから

この先、ひょっとしたら、数百年の時を生きる祥蘭の、最初の山


紫白は顎を引き、決意を固めた顔で、口を開いた





即位の儀の当日、朝になって祥蘭は真っ白な衣に身を包んで、栗色の髪を複雑に結われた頭を揺らしながら歩いていた

衣は聖獣が即位の儀にのみ身に纏う純白で特殊な生地で作られているもので

ゆったりして裾まである長さに、指先に向かうほどに幅広になる袖などは祥蘭の細過ぎる身体を民の目に触れさせないために手直しがされた特別製だ

六国全ての聖獣が、即位の儀にはこの純白の衣を身に纏うのだが、国それぞれで挿している場所は異なるものの国が冠する色を挿して、国花が見事に刺繍されている

紅国だから袖口に挿されている色は紅で国花の桜は裾にある、

紫国なら紫に菖蒲、蒼国ならば蒼に桃というように



祥蘭はその即位の儀の為に着飾った格好のまま、薄暗い冥月所有の牢を一人で訪れていた

・・・最も、牢のある建物の入り口には近衛が待機している・・・

近衛の反対をおして無理を言ってでも一人で牢に来たかった理由は、勿論黎音と会うためだ

薄暗い牢への道を足音を立てず進めば一番奥に目的の牢があった

息を少し止め、唇を軽く噛みそして目に光を宿して直ぐ間近まで歩を進めた

衣擦れの音に気が付いた黎音が暗闇の中目を見開いたのが分かった

「・・・・・・この度の即位、おめでとう御座います」

まともに向き合って、初めて言われた言葉に、ほんの少し心が揺れた

祥蘭にとっては、黎音は絶対の存在で、常に自身を見る目は無感動なものだった

その瞳が恐ろしくて、目を合わせないようにしていたのに、今は、話を聞いた今はその目を見て、その心を知りたいと思っている

僅か一月と少しなのに不思議なものだと祥蘭は苦笑を一つ漏らした


「貴方に、申し渡す事があります」

「・・・・・・なんでしょう」

「・・・・・私の、一番最初の仕事。

貴方への刑罰について」

「そうですか・・・何時いつ?」

漸くだ、と俯きながら笑む

ずっと、待っていた

愛しい二人の娘に引導を渡される事を

だから、鉄牢の呪いを弱めにしていた

だから、祥蘭の存在を明るみにしたであろう出入りの商人に気付いていながら見送った

しかし

「・・・・・・・・・・・・・・・・貴方は、死を望んでいるのでしょうが、私は其れを申し渡す気は露ほどもありません」

祥蘭の言葉に黎音は緩々と頭を上げ、瞳を驚きに見開いている

「何故・・・」

予想外の台詞に脳内を占めるのは疑問ばかり


「貴方の事を聞いたから。


貴方が、私を護って下さっていた事を知ったとき、私はとても悩んだ

貴方の一挙一動に心を揺らした十年

貴方の無感動な目は恐ろしく、あの鳥篭の日々はひもじく、寒く、良い事は何一つ無く

早く、死ねればと思った」


何度も頭の中で考えて来たのだろう

祥蘭の口からは読み上げるようにスラスラと言葉が出た


「ますますを持って分かりませんな。何故、私に死刑を命じないのですか

私は十年にわたり、不当な拘束をした。貴方を鳳凰と知りながら、食事は三日に一度

貴女が鉄格子越しに空に手を伸ばしていることを知りながら外に出す事も無く


・・・貴方は何時死んでも可笑しくなかったのに」

祥蘭には眉間に皺を寄せ、何故、と繰り返す黎音がこの時初めて小さく感じた

実際は祥蘭より大きいはずなのに

ずっと恐ろしかったのに


「何時死んでも可笑しくはなかったけれど、私は今、生きています

そして、沢山沢山・・・短い間に経験して、出会って

・・・・この十年が帳消しになるほどに<生きて>いる


厳罰をと、紫白に言われました

近衛たちにも。

だから、私なりの厳罰を考えてみました」

悩んだ

黎音と両親の事、あの十年前の惨劇の真相

受け取った絵は今、黎音が提げていたように首に同じ紐に形見の入った守り袋と一緒に提げている

ギュウッと服の上から握って、黎音と視線を交わらせた

「黎音、紅国聖獣鳳凰より、刑罰を申し渡す


文州州境にある祥華と洸輝の墓の守り人となれ」

「は・・・・・・・・・・・・・」

「・・・貴方でしょう?墓を定期的に参って、花を添えて、雑草を抜いていたのは


本当は、私が出来れば良かったのだけれど、中々行く事もできないみたい

だから、貴方が私の代わりにこの先も一生、守って

そうして、何時か土に還るその時、墓を並べて死後も二人の側にいて


これが、直ぐにでも死にたい貴方には、何よりも厳罰だと思ったの」

言ってやったとばかりに少し晴れやかに笑う祥蘭に、黎音は口をポカンと開けひたすら祥蘭を凝視した

「私、貴方が死ぬところだって見たくない」

それが結局のところ、恐怖すら上回ったのだ

固まったままの黎音を困ったように見て、そうして後ろを向いた

振り向かず未練なく立ち去った祥蘭の背中を見て言葉を反芻して

「・・・・っ」

流れた涙は、生きることが嫌だからでも、嬉しいからでもなく

ただ、ずっと蹲っていた少女の立ち上がり、自身の足で歩き出した姿に

「(祥華!洸輝!)」

二人の幻が、祥蘭に添うように立っているように見えたのだ





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