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鳥籠の姫  作者:
17/22

十七話

「私達、結婚する事にしたの」

「祝って、くれるか・・・?」

幼い頃から、手を引いてくれた二人が、結婚する

酷く驚いたが、同時にとても嬉しかった

幸せそうに笑う、もう少女とは呼べない年になった彼女と

大きな体をほんの少し縮こめた少年から青年になった彼

二人の耳に光る夫婦の証

「勿論、祝うに決まってるじゃないか!!」

「ほうら、やっぱり。--なら祝ってくれるって言ったじゃない!」

「あぁ。有難う--。」

二人ともとても幸せそうに笑うから、ついつい自分も笑ってしまう

自分の一等大事な二人が、幸せになる

目出度い事だ

「ふふ。私達の大事なお友達だから、親より先に言おうって言ったのよ!!」

「親に祝われるより、お前に祝われたほうが遥かに嬉しいからな」

「!・・・・・・光栄だ!!」

「ふふ、あのね--、実は一つお願いがあるの」

「お願い?結婚祝いか?勿論、構わないよ。二人の新しい門出を祝うんだ。考えとくよ」

「いや、違うんだよ

あのな、--、俺達の大事な幼馴染で、大親友な君にしか頼めないんだ」

「?」

二人の揃った台詞に目を丸くする

「どう?」

「どうだ?」

キラキラした二人の目に、頬が緩むのがわかった

「勿論だとも!!精一杯、イイモノを考える!」

快諾した私に二人は一層笑みを深めた

木の葉の舞う、秋の事だった




祥蘭は黎明宮の奥、今はもう、先代鳳凰という扱いになる白鐸の暮らしていた部屋に来ていた

祥蘭の部屋は黎明宮の中程にある

陽の光が良く入り、個別の庭も付いている部屋だ

白鐸の部屋は、黎明宮の奥なだけあって陽の光はほとんど入らないようだった

豪華な部屋で調度品はとても美しい

その部屋の中でも一際目を引くのが壁の肖像画だ

絵の保存関係もあって三代分しかない歴代鳳凰の肖像画

どの鳳凰も美しいが酷く冷たい目をしていた

実際に会った筈の白鐸も恐ろしいほど冷たい眼差しを向けている


祥蘭がこの肖像画に気付いたのは偶然だった

例のごとく時に護衛の近衛から逃げながら黎明宮を探検していて見つけたのだ

三人の姿を見て、祥蘭は思う

三人含め歴代の鳳凰達は、<鳳凰>に戸惑わなかったのだろうかと


鳳凰様と呼ばれるのが自分でなくなったような気がして慣れない祥蘭に、黎明宮に勤めるものは何時の間にか皆、姫様と呼ぶようになった

公孫などは祥蘭様と名前で呼ぶ

嬉しかった

<自分>をちゃんと呼んでもらえていると思ったから


そう思った時何気なく思ったのだ

歴代の鳳凰達はどんな心境だったのだろうかと

特に、三代前の農民の生まれだという鳳凰は・・・

祥蘭はこの白雲城にやってきてもう何週間も立つというのに、未だ未だ傅かれる事に慣れそうに無かった

追記するなら勉強は知らなかった事を知るのが楽しく良いのだが、礼儀作法というのは苦手を通り越して嫌いになりそうだった

重く息を吐く

この後祥蘭にはその嫌いになりそうな礼儀作法の時間が控えている

「自由はとても嬉しい

孤独でなくなったのも、とても・・・

けれど、身体は自由でもなんだかイロイロなものに縛られてる」

一人では着替えも出来ないなんて・・・と祥蘭は重い息を吐いた

「祥蘭様」

「!!!!

吃驚した・・・公孫?」

突然声をかけられて肩を揺らしてしまう

近衛達は、最峰級の武人だからなのか、祥蘭に声をかけるまで気配無く、音無く近寄る事が多く、その度に祥蘭の小鳥のような心臓は大きく脈打つのだ

いつか近衛に驚かされ続けて死ぬんじゃないかと祥蘭は思っていたりする

「祥蘭様、私はまた足音消していましたか・・・」

「うん。」

「申し訳ありません」

頭を下げる公孫に、謝る必要なんてないのよ、と祥蘭は苦笑しながら言った

「私が気付けないのが悪いんだもの。

もう、時間?」

「えぇ。仰るとおり、礼儀作法の勉強のお時間が迫っておりますのでお迎えにあがりました

・・・・・・しかし、祥蘭様・・・

「??あーーー

分かっちゃった。公孫、何時からいた?絶対最初っから居たよねぇ」

祥蘭とて、近衛の実力の高さは伝え聞いている

撒いた撒いたと言ってはいるが、彼らが祥蘭の意思を尊重して隠れているだけという事に此処数週間の間に気付いていた

今は、気付いていない振りをしてその優しさに甘んじているだけだ

「・・・・・・・・ハイ」

「あはー聞かれちゃった」

えへへ、と笑う祥蘭を公孫は心配そうに見る

公孫は、確かに聞いていた

祥蘭がこの先代鳳凰の部屋で呟いた不安も不満も全て

祥蘭は、この三週間近くの間に公孫たちに見せる表情を変化させて来た

始まりは、恐怖と惑い

途中、切なさと黎明に対する畏怖

白雲城に到着後は、子供のようなあどけなさ

最高官達は祥蘭が黎明からの解放により安堵し、精神が幼くなったと判じた

けれど、と公孫は思う

「(きっと全て貴女なのでしょうね)」

人格というのは、幼いころの暮らしの中で形作られているのだと公孫は自分の子供を思い浮かべながら思う

人と接した経験や覚えた感情を元にするのだと

公孫の主観による推測でしかないが、十年かけて作られた<祥蘭>という存在は、更に十年の石牢での日々で生まれた頃のように真白になり今、周りを見て、色んな感情を浮かべて、新しい<祥蘭>を作っているのではないかと


だから、好奇心旺盛な頑是無い子供のように動き回る

けれど其れまでの<祥蘭>の経験が無に帰したわけではないから、年相応の思考も持ち合わせる

不安定だと、公孫は危惧すら覚える

人としても、鳳凰としても、不安定で危なっかしい

陽達とよく話し合わなければな、と公孫は頭の端に置き祥蘭の側に方膝を付き、下から覗き込む

覗き込んだ翔蘭の瞳は、公孫に呟きを聞かれた事に対する焦りと、更にその奥に不安が渦巻いているような気がした


置き去りになった子供のような目だ

そう思って、あぁ・・・と公孫は内心で息を吐く

祥蘭は、十年前のあの日から、ある意味両親に置き去りにされていたと

きっと祥蘭の時間はいったん其処で止まっているのだ

祥蘭にまず必要なのは、勉強じゃない

一番必要なのは、十年前から足踏みしているそこから、手を引き、進ませ

此処に居て良いのだと

自分達には<鳳凰>ではなく<祥蘭>が必要なのだと知ってもらう事なのではないかと

もう<祥蘭>を置いて誰も急にはいなくならないと知ってもらう事なのだと

考えて、それは難題だな、と重い息を吐きたくなった

とにもかくにも、陽に伝えてみようと決め、祥蘭に笑いかける


「公孫・・・・?」

「祥蘭様、そんなに身構えなくても、怒りませんよ・・・?」

「っ」

何で、と目を丸くする祥蘭に勤めて安心させるように笑う

「不安に思って、当然です。

誰が何を言っても、それは当たり前のことなのです

私だって、突然近衛隊に異動するよう言われたときは驚愕し、余りの事に人生で初めて知恵熱がでましたよ


新しい場所に突然移動してきて、今迄とはまるで違う生活を送るようになると、嬉しさよりも恐怖します。不安に思います

それは当たり前の事ですよ


私には歴代の鳳凰の方々の思いは分かりません。

けれどその悩みを身近なものに置き換えてみるとほんの少しは私にも分かるような気がします

きっと、戸惑ったことだと思います。不安に思った事だろうと

自分には無理だと投げたくなった方も、ひょっとしたらいらっしゃったかもしれません

鳳凰様は、皆さん初めは同じ人間だったわけですから、無くは無いと思います」

不敬は今は目を瞑ってもらおうと公孫は内心で思った

「長く悩んだ方も、きっと居たでしょう

ですから姫様も、不安に思っていいと思いますよ

それが当たり前なのですから


ただ、一人思い悩んでいるときっと心が磨耗してしまいますから、私や他の誰か、一人でもいいのです

ほんの少し、零してみるだけで違うと思います


なんでもお話ください。勿論、祥蘭様の中で纏まっていなくても構いません

私たち近衛は、ガタイも良く、厳つい奴の集まりみたいなものですから言い辛いかもしれませんけど・・・」


最後は頬を掻きながら苦笑した公孫に祥蘭は首を振る

少なくても、今まで会って来た近衛達は見た目の厳つさとは裏腹に気さくで優しかった


「さぁ、祥蘭様、今日の礼儀作法の勉強どう致しますか?

貴女様の好きなようになさって良いのですよ」

公孫の言葉に首を振った祥蘭は、甘えるように公孫の鍛え上げられた腕を掴み、先に部屋を出ようと先導するように歩き出す

公孫の言葉は、額面どおり受け取るなら冷たい、突き放すようなものだ

でも祥蘭は、公孫の瞳を見て、表情を見て、纏う空気を感じて、<自由>なのだと気付いた

鳳凰なのは、それは決まっていること

けれど、その先どう進むかは自由

学ぶも、遊ぶも、閉じこもるのも、動き回るのも自由

選択は自由だ

選択した先には、確かに、その結果が付いて回る

なら、鳳凰の力を何一つ実感していなくても、後悔したくないから、

掌からもう何もこぼしたくないから

選択できるだけ、選択しよう

自分で決めて、自分で歩いて


不意に、見上げた空は抜けるような青空だった

遮るものは、何一つ無い青空

白雲城に到着するまでにも何度も見て、着いてからも何度も見上げた

その空の中で一番、綺麗だと思った




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