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鳥籠の姫  作者:
15/22

十五話

朝日が昇るところが好きだと、その子は言った

自分が好きなものを、自分の一等気に入っている場所で、一緒に見て、そうして君も好きになってくれたら、私はとても嬉しい


そう言って、鮮やかに笑った


朝日が昇るのを見るために、丘で一番大きな楠に登った

紅葉が赤く色づいているのが綺麗だからと腕一杯に抱えた紅葉を登った木からひらりひらりと落としてくれた


狭く暗かった世界は、その子の手でどんどん広げられていった


「なぁんだ、一人だと思って誘いに来たのに。

なぁ、二人とも一緒に遊ばないか?」


声を掛けて来たのは、同い年なのに、大きな子だった

ニカリと笑って手を差し伸ばした

その手をとってから、三人で一緒に過ごすようになった

朝日が昇って、西に沈むまで、朝も昼も夕も、時には夜も一緒にいた

とても、幸せな時間・・・





「姫様、ココにいたんですか」

「っ?よう、めい?吃驚した」

「陽の奴から逃げてるのか?それとも紫白?」

「・・・・」

「違うか?ならば、凱志殿?」

「!」

「あたりか。分かりやすいな姫様。

なんだ?苦い薬でも飲まされそうになったか」

「ん・・・・すっごく苦いのよ

私嫌い」

「俺も薬は嫌いだ、だから飲まないように、身体を鍛えてるよ

姫様はまだまだ身体が出来てないから抵抗力が弱いんだ

今迄姫様の身体は一生懸命働いてたからな、薬に助けてもらわなきゃダメなんだよ」

「・・・身体を鍛えたら、飲まなくていいの?」

「姫様の身体は鍛える前に治さねぇとな」

祥蘭が白雲城に入城して、二週間が過ぎた

正式な鳳凰の交代が国に知らされるのは、更に一ヵ月後に行われる即位の儀になる

祥蘭の存在は、それまで公にはならない

この間に、祥蘭は体の状態を出来る限り年相応になるよう、栄養の高い食事、適度な運動をし

更に執務をこなしていく為に本格的に字、礼儀作法、国の歴史、世界の歴史などを紫白を教師に勉強しているのである

祥蘭の関わる人間は、紅国の文官長の紫白、武官長の耀明、医官長の凱志、凱志の部下の雪奈、陽緋

更に近衛隊と、黎明宮専属の料理人、黎明宮付きの数少ない侍女侍官のみである

新しい生活に慣れるまで、祥蘭の立場を自身で自覚するまで極限られた人間とのみの接触になる


祥蘭にとって、見るもの全てが珍しく、空き時間などに部屋を抜け出しては黎明宮内を探検する

まるで頑是無い子供の様であるが、白雲城に来てから緊張が多少なりとも緩み、精神の年齢が退行したのではないか、と凱志は判断した

鳳凰の寿命は平均して長い

数百年生きる者が多いので、十やそこら精神が退行しても、問題はないだろうというのが高官の下した結論だ

むしろ、好奇心旺盛なほうが、勉強も興味を持って覚えやすいと喜ぶものも多い


そんな官達の中で、一際気安く接しているのが武官長の耀明だ

一人称も、口調も素のままで祥蘭に接する

何度紫白に改めるよう言われても、当人の祥蘭が喜ぶのだ

祥蘭が、嫌と言えば前鳳凰と対した時のように口調も何もかも改まったものに戻そうとは思っているのだが・・・

笑顔の祥蘭に接していると当分このままがいいと柄にも無く思ってしまう耀明である


「さぁ姫様、今日の探検はこれで終いだ。薬飲んだら飯の時間だからな」

「・・・・・・ん」

渋々頷く祥蘭に笑ってしゃがみ背を貸せば、慣れた様に負ぶさる祥蘭

傍から見れば年の離れた兄弟のようだった

「姫様、ちょっと体重増えました?」

「ん。結構増えた、って言ってたよ」

「良い事です。」

「良いことなの?前に雪奈たちがまた太った!!って騒いでるの、聞いたけど嬉しそうじゃ無かったよ」

「姫様みたいな成長期はもっと体重あって良いんだよ。

成長止まったら、それなりでないとかえって身体に悪いしなぁ


あいつ等は見た目全然細いと思うんだが女心は生憎、男だから分からん。

ひょっとしたら姫様はそのうち二人の気持ちが分かるかもしれねぇな」

「ふーん?」

分かったような分からないような、曖昧な返事を返していると一つの扉の前に立つ

黎明宮含め、白雲城の扉はそれぞれ特徴があって、白い扉に、位を表す横の線が描かれている

線の色は所属しているものによって変わる

医官の場合は白い扉に桃色の線である

神話にある全ての病を治す仙桃の色からとったらしい 

本数は三官・・・文官長・武官長・医官長ならば一本で官の長を示す

二本で文官ならば部署の長、武官ならば将軍職を示し

三本は個室ではなく各部署の入る建物それぞれの扉に入っている



「凱志殿、いるか?姫様連れてきたぜ」

「「姫様!!」」

扉を開けると直ぐに話題にしたばかりの二人が声を上げ、慌てて伏礼をする

「よくお戻りくださいました。耀明殿、ありがとう御座います」

「いや、たまたま見つけたんでな」

「さて・・・・・・・・姫様」

「!」

「苦い薬が嫌なのはとてもよく分かるのです

よく分かるのですが、この薬は、医官の薬師が姫様の身体が早く治るようにと祈りながら煎じたものです

飲んでいただけないと、薬師は任じられた仕事が来なかったと処罰を受けるやも知れません」

「それはだめ!」

「でしたら、どうぞお飲みくださいませ」

「うぅ・・・」

酷く嫌な顔をしながら差し出された薬を一気に呷る祥蘭に、凱志は良かった良かったと笑った

「よく飲んだじゃないか。偉いな」

耀明はワシワシと大きな掌で祥蘭の頭を撫で豪快に笑った

「さぁて姫様、飯食いにいくか!」

「ん!!!」

「じゃあ凱志殿、これで失礼する」

「有難う耀明殿

姫様、夕刻・・・そうですね、食事の前に今日の健診をさせて頂いて宜しいでしょうか?」

「勉強の後?大丈夫です」

こくりと頷いた祥蘭にではまた後でお会いしましょう、と言って去っていく耀明と祥蘭を見送る


「それにしても姫様可愛らしかったですねぇ」

「えぇホンマに。苦い薬を一気飲みしたときのお顔!!」

祥蘭達がいた間喋ることもせず、ひたすら伏礼をしていたのに、二人が去った途端、ニコニコと笑いながら会話する雪奈と陽緋に凱志は溜息を吐く

「お前達、あのように頑是無くいらっしゃるが あの方は鳳凰様なのですよ?

そういう会話が誰かに聞かれたら面倒です」

「そう、なんですよね・・・あんな御可愛らしいのに、鳳凰様」

「鳳凰様でなかったら撫で回すんですけど・・・」

反省というより、ただひたすら残念そうに息を吐く二人に凱志は深い溜息を吐いた

「(才能溢れるのは認めますが・・・どうも自由というか)」

医官は文官や武官ほど上下関係が厳しくない

どんな地位にあろうと、医官たるもの目の前の命には平等でなくてはならないからだ

故に近衛と等しく、医官は紅国において特殊な扱いになる

「(姫様の前では猫を被っているだけ良いのかも知れませんねぇ)」

やれやれと肩を竦めた凱志は、それまでの呆れた顔を変える

「報告を」

「はい、まず私から。

姫様の喉ですが、様子を見る限り起床時は違和感が多少ある様なのですが、それ以降は特に問題なく、完治したと見ていいと思います」

「体重ですが、二週間で以前試算した年齢別平均体重の二十歳の三分の二まで増えています

筋量も動き回っているからか増えて来ていますね

此方は引き続き、料理長に言って栄養価の高い食事の提供をお願いします」

「ふむ。ここまで順調ですね

・・・徒人ならばもっと時間が掛かりますから、お前達は其れをしかと胸に留めておきなさい」

「初歩的な質問、宜しいですか?」

「ん?なんです」

「鳳凰様だとかなり回復が早いのは、やはり聖獣だからですか」

「初歩的過ぎますね


その質問には、是と答えておきましょう。

ただ、わたくしは聖獣様は先代鳳凰様しか知りませんから、他国聖獣様が同じかどうかは分かりかねます

歴代医官長の鳳凰様に関して綴った本を紐解くと、どの鳳凰様も差はあれど回復能力は高かったと記されています

お前達も鳳凰様付きとなったのですから、しっかり読んでおきなさい」

「「はい」」

頷く二人に、下がって良しと伝えると、恐らく医官府に向かったのだろう

心なしか早足で伏礼の後去っていった


医官府は医官の詰め所である

医官長のみ執務室は黎明宮にあるが他の医官達は医官府で普段は作業する

それこそ新薬開発だったり、過去に起こった流行り病の傾向を調べ対策を練ったり

医官府は国中の医療所の総本山であるので中々忙しい

その医官府の中には、過去の事例や凱志が言った歴代医官長の鳳凰に関する書も多く残る書庫がある

出入りは医官ならば自由で、日夜そこで勉強に励む医官は決して少なくない

凱志もまた今も昔も書庫の常連である

「さて、報告書を纏めるとしましょうか」




凱志が報告書を書くために机に向かった頃、祥蘭と耀明は食堂に来ていた

食堂と言っても、庶民の集まるような安い飲食店ではなく、食事をする為の部屋のことである

人の集まる部屋を堂と呼ぶので、食事のために人が集まる部屋、省略して食堂と呼ぶ


食堂には羽を広げ空を飛ぶ優雅な鳳凰の大きな絵が飾られ、天井にある大きな採光用の窓には透明度の高い硝子が嵌められている

昼は窓から人為的に遮った太陽の光が間接的に入り、夜には月と星の光が直接入る

標高の高い白雲城故に、夜の星空は手が届きそうなほど近く感じる


本来鳳凰というのは、国の頂点に君臨し、且つ馴れ合いを好まない性質から食事は一人だ

しかし祥蘭は、精神の年齢退行からなのか、長年一人だったからか、白雲城に来るまでの道中は近衛と食べていたからか、或いはそれら総てか、一人の食事を嫌がった


滅多に望みを言わない祥蘭の目に見えて分かる嫌がりように、結果、耀明や近衛達、稀に紫白や凱志も共に食事を取るようになったのである


祥蘭達に提供される食事は全て、白雲城黎明宮付きの専属料理人達が腕によりをかけて作る

熟練した職人とも呼べる料理人達の手から作られる品々は目にも鮮やかで祥蘭にはその全てがキラキラと輝いて見えた

「・・・!耀明!このお野菜美味しいですよ!!」

「ん?八宝菜か。好きな味か?」

「はい!」

頬に手を当て幸せそうに食べる祥蘭を見て耀明は笑顔になる

そしてその様子を厨房から覗いていた料理人たちは祥蘭の好物・八宝菜と脳に書き加えるのだ


初日に出した料理の、1割も食べることの出来なかった祥蘭は、文州崋山城の時と同じく酷く名残惜しそうに、残念そうに食べれなかった料理を見ていた

その様子をしっかり見ていた料理長達は翌日、種類は変わらず多く、だが全て祥蘭の分は一口分に減らしたのだ

本来、鳳凰が食べる食事を減らすなどありえないことだ

残して当然であり、残されて当然だ

だが、祥蘭は先代とは違い残すことを気にしていたが故の判断

・・・祥蘭が不満を感じれば一発で処罰を受ける故の賭け

賭けには見事に勝ったようで、祥蘭は翌日の食事を笑顔で食べ始め、笑顔で食べ終わった

それには陽たちも驚き、正式に料理人達に紫白から通達が下り、一口料理は今も続く

ニコニコと食事をする祥蘭は、冷めた目で淡々と食べていた先代とは大きく異なり、料理人たちを喜ばせ癒している

知らぬは本人のみ、といったところか

「ご馳走様!!美味しかったです。鳴殻、蓮」

食べ終わって、白雲城にやって来て最初に習った食事の挨拶をすると、祥蘭を覗いていた料理長の鳴殻と蓮の元にやって来て感想を言う

これには初め驚いた二人・・・というより調理場と侍女、侍官皆が驚いた

今では、祥蘭の言葉を励みにしているくらい嬉しいものだ

髪を剃っていて、かつ下手したら武官にも見られる体格の鳴殻に髪は短く左の眉の部分に十字傷を持つ一見してその道の人間のような虎の半獣の蓮は、普段女子供に怖がられ、泣かれ、逃げられている分とても嬉しいようで普段は釣りあがる目も穏やかだ

何より、何でも美味しそうに食べ、ニコニコと笑っているのを見るのは提供するものとしてこれ以上になく幸せなのだ

「此方こそ、今日も完食嬉しく思います。どうでしょう、もう少し食べれるようでしたら量を増やしますが」

「ううん。いらない。今の量が丁度いいの

満腹です!」

にっこり笑う祥蘭に鳴殻はそうですか・・・?と言って笑った

「食事が少しでも物足りなくなったら何時でも仰ってくださいね。

何か食べたいものがある時も、遠慮なさらず!」

「んー、じゃあ、夜も八宝菜食べたいです・・!・」

「準備しておきますよ。これから勉強のお時間ですか?頑張ってくださいね。何時もの時間、今日は胡麻団子を準備しておきますよ」

「!!ホント?

頑張らないと!


じゃあ勉強行って来ます!!」

耀明の手を引き食堂を出て行く祥蘭を見送る

初めは本当に、手足はトリガラの様であったのに少しずつ肉付きが増してきた

身長はまだまだ本来のモノに遠く及ばず耀明や陽の半分しかないが、凱志の見立てでは体の機能が本来のモノに戻れば自ずと伸びるのだそうだ

それまで自分達が出来るのは、祥蘭のために栄養価の高い食事を提供していくこと

「さあ!!気合入れて八つ時の菓子と夕飯の仕込みするぞ!!」

鳴殻の声に様子をこそこそ覗き見していた調理場スタッフからヤル気の篭った返事が上がった



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