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鳥籠の姫  作者:
13/22

十三話

その人を見たとき、御伽噺に出てくる天女様のようだと祥蘭は思った

漆黒の艶やかな髪を結わずに腰まで伸ばし、金に輝く瞳は凪いでいて何処までも静かで

青白い肌が少し病的でやつれて見えるが其れすらも、美しかった

この人が、今上帝鳳凰

祥蘭は白鐸から声が掛かるまで暫しの間ぼんやりと芸術品のような姿を見続けた


「そのように、見つめられてしまうと穴が開いてしまうよ雛」

困ったように祥蘭に声をかける白鐸は、十年黎明宮で仕える陽が見たことの無いほど柔らかな表情をしていた

「!!!!!!!」

夢見心地なふわふわした気分は吹っ飛んだ

祥蘭は慌てて平伏しようとするも膝を着く前に白鐸の手で制される

「同じ鳳凰、そなたに平伏されたくはない。


・・・あぁ、随分やつれているな。私のほうが健康に見える位だ

腕も足もか細い・・・風が吹けば折れてしまうんじゃないかい?


それに、先ほどから一言も発していないようだ

喉・・・どうしたんだい雛?誰に喉を潰された?

・・・・・・・・・・・・陽」


「はっ!」

「雛をこんな姿にした塵をまさか生かしてはいないだろうな?」

その言葉に、陽は背筋が凍ったような感覚に見舞われた

祥蘭とのやり取りを聞いていれば、とても同一人物とは思えないほど、冷ややかな声に絶対零度の視線

怒気も混ざっていて思わず息を詰める

ゾワリとした畏怖から背筋を冷たい汗が伝う

「っ恐れながら!!姫様を害した者は現在、武官並びに冥月の者の手により尋問中との事!!

このような不敬は、過去に例がないため、処遇は刑官ではなく、文官長、武官長が定めるとの事であります!!」

「刑など八つ裂きにして鴉に突かせれば良い・・・・・・・だが簡単に死なせるのも、な


私に時間が残っていれば私自ら覚めぬ悪夢を見せたいものだ」

鼻を鳴らし不機嫌を全身で表している白鐸に、室内にいる祥蘭奪還の任に就いていた三十人が三十人とも肩を震わせる

「・・・・・・・・・・・・雛よ」

唐突に声を和らげた白鐸は祥蘭を自身の座る椅子まで招く

<・・・!?>

オロオロと忙しなく陽たちの顔を見た祥蘭は、促されるままに何度か振り返りながら白鐸の前三歩の所で止まった

「雛、私には本当に時間が残っていないんだ。

正直に言ってしまえば君の痩せすぎている身体を元に戻したりとか、君をこんな可哀想な姿にした奴を私自ら八つ裂きにしたいところなんだがね・・・


さぁ恐れずにもう二歩進みなさい」


二歩、進む

少し手を前に伸ばせば今上に触れる位置となる

「口惜しいが、今の私にはこの程度が限界だ」

近寄った祥蘭に手を伸ばしその首に指先を当てた白鐸がそう言えば指先がほのかに光りだす

「鳳凰の聖獣としての力は、治癒だ


蘇生は、まぁしたことがないから出来るのか知らんが、生きてさえいれば、完璧に治癒できる

そなたの、喉もだ


使わなかったから枯れたのか、心が壊れそうになったから枯れたのか、それは分からぬ。

・・・が、生まれたときから喋れなかったわけではないから治せる


ほうら、喋ってみなさい。もう、音は出るはずだ」

「・・・・・・・・・・・・・っあ」

指が離され、言われるがまま喉を震わせれば、少し掠れた声が漏れた

「私は今上帝白鐸だ

雛よ、そなたの名前は?」

「っしょう、らん」

「祥蘭か。良き名だ

会えて、嬉しく思うよ祥蘭」

「わたしも、です。はくたくさま」

「うん。

さて、力の使い方を、ちまちま教えている時間は無い。よって、強制的に頭に入れる

何、大丈夫だ。私も先代にコレをやられたのだがね、二・三日寝込めば自然と使えるようになっている」

え。と惑う時間も無く一度は話された指先が再び光を纏って祥蘭の額に伸ばされ、小突かれた


その衝撃は、言葉にならぬほど大きく、祥蘭はその場で昏倒する


「姫様っ」

「陽、暫く安静にさせておけ


さて、私の最期の仕事は終わった

・・・・・・・雛、会えて良かった。無事ではなかったみたいだが、生きていればそれで良い」

口さがない者達の噂は、白鐸の元にも届いていた

力が次代へと流れ移っているのを少なからず感じていたからこそ、戯言と嘲笑ったがそれでも不安は残った

過去の鳳凰達は、もっと早くに次代を見つけることが出来たのに、と


次代の捜索に鳳凰が加わることが出来れば少なからず、黎明宮で待つだけという次代の為に何もしてやれない苦痛は除かれただろう

だが世代交代が始まった瞬間から体力が削られていくのだから出来るはずも無い

世代交代に激痛があるわけではない

ただ緩やかに、確実に力は流れ衰弱していく


死に対する恐怖は無かった

200年も鳳凰をしているのだから、今更というものだ

恐怖を抱いたのは、このまま、次代に会うことなく、能力も引き継げず、想いも託せず消えてなくなるかもしれないということだった


其れ故に、消え行く今、心を占めるのは次代と会った事に対する安堵と、鳳凰を無事勤め終わる事に対する安堵、次代への期待、二百年、考えないようにしていた両親のこと

「(二百年は長かった・・・・・・だが、漸く、任が解かれる。・・・・・・先代貴方もこんな感覚だったのでしょうか)」


すっと目を閉じた白鐸は、やがて足先から光り始め、やがてサラサラと消えていく

陽達は、予想外のその様子に目を見開き見つめ続ける

「(これが、鳳凰様の、最期)」

近衛隊の者が息を呑み見送る

やがて、その全てが消えた時漸く陽は時が動き出したように、祥蘭を姫抱きにした状態で深々と頭を下げた

続くように、背後の近衛達が暫しの間、頭を深々と下げ国の主に敬意を表し続けた



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