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鳥籠の姫  作者:
12/22

十二話

貴州宝林の関所をくぐったのは予定通り、空が茜になろうとしている頃だった

祥蘭が州都を訪れたのは文州華山に続いて二つ目だが、宝林の賑やかさや広さは、崋山の商業地としてのそれとは異なっている様に思えた

「宝林は王都ですので、ココには白雲城で働いている者達や、貴族が居を構えていますよ

また、歓楽街も国一番を誇りますのでイロイロな職種の者達も集まるのです


あぁ、経済の中心でもありますから職を求めて半獣を始め民が一番集まるのもこの宝林ですね」

キョロキョロと窓を開けて街を見渡す祥蘭に久遠が説明する

馬車は街中を進みどんどん坂を上って行く

<白雲城は、坂の上にあるの?>

「えぇそうですよ姫様。

白雲城の名の由来は、真白な外壁と国一番の高台にあることから雲を眼下に見下ろすように立っていることからだと言われています


開城は四千年前で現在城には千の文官、千の武官、五百の下働きが働いている山三つ分にもなる広大な城です。この地は国の中心ですから、働く人間の数も桁違いなのです」

数が大きすぎて想像が出来ないと眉を寄せる祥蘭に李伯は微笑んだ

「とにかく、滅茶苦茶広いですよ。自分もまぁだ迷いますもん」

「李伯、そろそろ言葉遣いを直しておいた方が良い。今上帝に見られたら何を言われるか分からないぞ」

「分かってるよ久遠。誰だって今上の絶対零度の眼差しを受けたいと思わないさ」

<鳳凰様は、恐ろしい方なのですか>

祥蘭の脳裏には飼い主が思い浮かぶ

孤独も死も祥蘭には恐ろしかったが同じくらい飼い主の黎音が恐ろしかった

十年をかけて心に積もった畏怖に恐怖は紛れはしても消えはしない

祥蘭の瞳に恐怖が映った事に気が付き翔慶、翔林は無意識のうちに頭を撫でていた

「「・・・!!失礼いたしました!!」」

「お前ら・・・久遠、こいつ等のがよっぽどじゃないかい?」

李伯が少しだけその瞳に悔しさを宿らせたのに気が付いた久遠は溜息を吐いた

「姫様、今上帝は(姫様にとっては)恐ろしい方ではありませんよ」

久遠はそっと祥蘭と視線を合わせる

久遠は、祥蘭のことを殆ど知らない

知っているのは名前と年齢、次代だという事のみ

「(本当に自分はこの方のことを知らないのだな)」

それを残念に思っても焦りはしない

これから何年も仕えて行くのだ・・・その間に知れば良い

<久遠?>

「大丈夫です姫様。貴女を傷つけるような輩は我ら近衛が許しはしません

命をかけてお守りいたします」

本心だ

たとえ今上が相手でも、祥蘭を傷つける事は許さない、許されない

そんな久遠の心とは異なり祥蘭は目を瞬かせていた

祥蘭にとって、近衛隊という存在は今でも未知だ

近衛が鳳凰を守るというのは、理解した

しかし、自分を守る為に居ると言うのは良くわからない

それは、祥蘭自身まだ自分が次代鳳凰だと納得していないこともあるし

十年にわたり飼い主である黎音に命を握られ続けたからかもしれない

どちらにせよ、思うことはただ一つ

<だめ>

「?」

<だめよ久遠。それはダメ


私の為に、大事な大事な命を懸けちゃダメなの

命は大事よ

とっても大事なの>

祥蘭は、恐ろしくて仕方ない

脳裏に思い浮かぶ大切な大切な二人の死

その二人の顔が近衛に代わる

恐ろしい事だ

自分を助けてくれた近衛たちが、命の危険に晒されるというのは


「姫様」

久遠は、すぐに否定したかった

しかし思うように良い言葉が浮かばない

祥蘭の危惧する事は短い付き合いの自分でも分かった

祥蘭は自分の死よりも自分に近しい人の死のほうが堪えるのだ

だがそれでも自分にとって祥蘭は絶対だし、万に一つも傷つけてはいけない至上の方なのだ


一方、久遠と祥蘭の会話に三人は口を挟むか酷く悩んだ

気持ちは久遠と同じだ

だが、ココで口を挟むべきでないことも理解していた

歯痒さを感じながら二人を静観し続けていれば何時の間にか馬車は止まる


「姫様、着きました白雲城です・・・?どうしたんです?随分空気が重い」

扉を開けた陽になんでもないと祥蘭は首を振る

いけない、と久遠は思った

このままでは、祥蘭との間に少なからず隔たりが残ってしまう

第一、祥蘭には守られるということを自覚してもらわなければならなかった

この細く頼りない少女にも見えてしまう方の双肩には、紅国の明日が懸かっている

「姫様、聞いてください


有事の際、自分も他の近衛達も命を懸けて貴女をお守りします

しかし、貴女が私達の命を惜しんでくださるのならば、自分達は決して!簡単に死なないと誓いましょう

寿命以外で死なない為に努力することを誓いましょう

ですから、どうか御身を守らせてください

貴女が大切なのです」


真摯な目だ

伝わりきらない言葉や思いは全て視線に乗せて、まっすぐ久遠は祥蘭を見つめた

陽は口をつぐんで成り行きを見守る

いまいち状況は掴めないが、普段は余りアツくならない部下の、常に無い言動と行動に見守ることを選んだのだ

「姫様」

懇願にも似た呟きに祥蘭は唇を噛み締めそっと文字表に指を滑らせた

<簡単に、死なない?>

「約束いたしましょう」

<命、大事にしてくれる?目の前で、死んだりしない?>

「必ず!!」

祥蘭はゆっくり息を吐くと頷いた

<約束、ね>

「はい」


「(もとより、姫様を悲しませる気は無いが・・・簡単に怪我も負えなくなったな

この後しっかり訓練させよう)」


この後、以前の数割増で訓練が厳しくなるのだが、今は誰も知らない



祥蘭と久遠の話も終わり、それぞれ馬車を降りる

何時の間にか白雲城の城門どころか城内の奥まった場所まで来ていたらしい

崋山の州城とは異なるのが、馬車を降りて初めて気が付いた幾つもの建物

崋山の州城は大きな一つの城に執務室も食堂も客室もあったのだが、流石に約二千五百の人間が働いているだけあってそれぞれ部屋というより建物が異なっているようだ


「姫様、目の前の扉が、鳳凰様の宮、黎明宮の入り口です。

執務も、寝食も鳳凰様はこの宮で行います


後で詳しく説明いたしますが、この黎明宮の横にある黎明宮より少し低い建物が近衛の詰め所になります


ここから少し下ったところには医官府や文官の各詰め所


城門近くには食堂や武官詰め所もありますよ」

陽の説明に驚く

やはり崋山州城とは規模が桁違いのようだと目の前の黎明宮の巨大な門を見て思った


黎明宮の門は派手なわけでは無いが細かく隅々まで意匠が凝らしてある

そしてとても大きく開閉には近衛隊三人がかりで行わなければ成らない

初めてこの門を潜った時、鳳凰と人の壁を大きく感じたものだ

それは、他の近衛も同じ事

特殊な石を使われたこの門は厚く高く冷たい

陽はちらりと祥蘭を見た

この先、この門の奥に住むのが祥蘭だと思うとどこか優しく感じるのは何故なんだろうか


「近衛隊隊長!!陽だ!!次代の姫様をお連れした!!!開門せよ!!!」

辺り一体に響くような陽の声に、すぐに重い音を立てて扉が開き始める

徐々に露になる黎明宮の内部に祥蘭は目を見開き、ただ見つめた




5/18黎明→黎音に

微調整もしまし

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