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鳥籠の姫  作者:
10/22

十話

一人で、眺め続けた

春も夏も秋も冬も、朝も昼も夜も

寂しかった切なかった

一人で見た夕焼け空は自分の孤独を突きつけられた

孤独に、寂しさに膝を抱え蹲る自分

そんな自分に一人の少年が手を差し出した

その少年に続くように少女もまた、手を差し出す 


その日から孤独でなくなった




男は、揺れる馬車の中、両手足を縛られ猿轡をされながら唯一の小窓から茜に染まる空を眺めた

つまらない風景だ・・・男は内心で呟く

見えるのは代わり映えしない空と雲とたまに飛んでいる鳥のみ

つい先日まで男の鳥篭にいた娘はよくまぁ飽いてもこんな景色を見続けたものだ

見張りの屈強な男から不審そうに見られようが気にしない

男にとって娘以外はどうでも良かった

「-----」

喉の奥、呟いた言葉は形を成さず宙に消えた

「・・・・・・・・」

「白雲城に、入城するぞ」

見張りの男が短く告げる

これからどうなるか、など手に取るように分かる

だから、どうでも良かった

男にとって、娘以外どうでも良い

そう、自身の命すらどうでも良かったのだ



男、黎音が白雲城の裏門から入城したその頃、祥蘭もまた、茜に染まる空を見上げていた

遠くでは鴉が鳴いている

-いい?祥蘭、空が茜に染まったら、帰ってくるのよ-

ふと、昔交わした指きりを思い出した

ジッと交わした右手小指を見つめる

「姫様、どうしました?」

陽が竹筒を持って近寄る

祥蘭たちは、夕食の為に少し早いが草原で炊き出しをしている所だった

急ぎの旅路ではあるが、昼同様、食事だけは時間を取っている

何分にも、祥蘭は長くまともな食事をしてこなかった

やせ細った身体はたった五日、まともに食事をしているだけでは変わらないが、それでも食事に慣れ、胃に食べ物を入れる事に慣れなければいけない

故に時間を別にきちんと取るのだ


差し出された竹筒には炊いた粥が入っている

この道中で竹の即席器には随分お世話になったものだと祥蘭はふと思った

その粥を持って小岩に座ると傍らに文字表を置き指差していく

文字表はとても便利だが、両手が塞がると使えないのが難点であった

<綺麗な、茜空>

ピンと人差し指を上に向け空を指す

すると今初めて気付いたように陽が空を見上げた

「あぁ・・・・確かに美しい茜空ですね


思えば随分、空を見上げる余裕も無かった」

<そう、なの?>

ふっと笑った陽に祥蘭は首を傾げてみせる

「えぇ。近衛入隊後もですが、入隊前もひたすら前のみ見て訓練を重ねていましたから


見上げる心のゆとりも無かった、ようですね

お恥ずかしいことに、そのこと自体に今気が付きました

私もまだまだですね」

照れたように頬を掻く陽に、意外なものを見たとばかりに祥蘭はニコニコ笑った

「なにやら楽しそうじゃないですかぁ」

「面白いものでもありましたか?」

「・・・別に、ただ綺麗な空だと話していただけだ」

「へぇ・・・?あぁ・・・でも本当に綺麗な茜空だ

自分が餓鬼の頃はよく、茜の空になったら家に帰って来い!て母に言われたモンです」

「あぁ。よく剣術の修行をしていたら茜空を通り越して空に満点の星が広がっていたなんて・・・ザラで、母には怒りを通り越して呆れられたもんだ」

「隊長もですか?自分もですよ。未だに嫁に呆れられてます」

クツクツと笑う三人に祥蘭も笑う

聞けば、陽の様な経験は近衛の皆が経験したらしい

食事休憩の僅か四半刻の間、和やかに笑い声が絶えることが無かった 



夜通し駆けるという事もあり馬車組みと騎馬組みが少し変更する

馬車には李伯と久遠という若い男、それに近衛唯一の双子の翔慶、翔林が乗る

陽は一番後ろ、殿を勤め公孫は一番前にそれぞれ就く

「では出発する!夜が更けると獣や賊の類が出てくる可能性がかなり高くなる!!各自注意しつつ進むぞ!!」

陽の声に揃えた声で応える近衛たち

祥蘭は今まで開けていた小窓を閉める

「姫様、窓、良かったんですか?」

<どうせ真っ暗だもの。あまり、明かりが漏れちゃダメなんでしょう??>

「えぇ」

「確かに明かりが漏れるとそれを目指して獣が寄ってきますからね」

李伯が頷き久遠が答えた

「「姫様はどうぞお休みください・・・揺れる馬車は余り寝心地が良いとはいえないでしょうが」」

揃いの声に祥蘭は頷いて椅子の上、渡された布に包まって寝る体制になる

「姫様、男の固い膝でよければ枕にしますか?」

<大丈夫。慣れてるわ

ありがとう李伯>

ニコリと笑って目を閉じるとそう経たないうちに寝息が漏れ始めた

「やはりお疲れのご様子・・・」

「そりゃあまぁねぇ・・・今迄ずうっと一人で、急にこんな大人数のむさい男達に囲まれて、しかも急ぎの旅だし


心も身体も、疲れきっちゃってるさ」

優しく頭を撫でると無意識なのか宛てた掌に更に頭を押し付けてくる

「・・・癒しだよねぇ」

「「李伯さん、隊長にどやされますよ」」

「うるさいなぁ、分かっているさ。でも、癒されるじゃない?

いや、本当に冗談抜きで祥蘭様が姫様で良かったと思うよ。」

「「「それは同感です」」」

「だろ?おまけに堅物なはずの隊長が別人だし」

祥蘭に会ってから随分、陽は笑うようになり、雰囲気もどこか柔らかくなった

「・・・堅いだけの男が柔軟になっちゃったら、最強だよねぇ」

にぃっと笑った李伯に同意した3人

この会話を陽が聞いていたら不敬だと怒り狂ったに違いない



夜が更けるにつれて近衛の中にはピリピリした空気が流れ出す

貴州は、王都があるということもあり他州より比較的安全ではあるものの危険性はゼロではない

気を緩める気は始めから無かったが、王都直前で襲われたなんて事に万が一でもなれば近衛隊の沽券に関わる

より一層気を引き締めた一同は、一路王都宝林目指し駆け続けた




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