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白い稲妻

作者: THIS

大学時代に書いた小説を書きなおして載せてみました。

 短編として出しますが、好評なら・・・続きをだすかもしれません。

 「・・・犯人から要求はあったか?」

 銀行の支店の前、無数のパトカーなどの警察関連車両が囲むように止まり、その周りをさらに報道関係の車が止まっていた。

 臨時対策本部と名づけられたバスのような車両の中で、彼――高野忠司警視は本日何度目になるか判らないため息をつきながら事件の様子を見ていた。

「・・・いえ・・特に何も・・。」

 電話が鳴る気配は一向にない。

 武装した銀行の襲撃があってからすでに三時間。犯人から何の連絡はない。交渉するにも、相手から何も連絡があってようやく始める事ができるというものだ。

「嫌な予感がするな。連絡では超能力者と生体兵器らしき者たちもいたのだろう?」

「はい。防犯カメラが切られる前の映像で、それは確認できています。」

「・・・用意がいいな。」

 忠司は手際のよさから、この犯行は入念に計画されたものだと察していた。そのような計画で、彼らが無事に逃げられる目算も無しに事件を起こしたとは考えにくい。だが、カーテンやシャッターは閉められ、中の状況がまったくわからない状況では、迂闊なこともできない。

「様子を見るしかないのか・・・・。」

 忠司は事態の様子が見えない苛立ちを胸の内に押さえ込むように、コーヒーを口にした。



 その頃、銀行内では数人の男が人質たちに銃を向けていた。

「作戦は順調。予定通りに頼む。」

 無線越しにリーダーと思われる男が指示を出す。

 その男の傍には火傷をして倒れている男がいた。彼は襲撃を受けた際に抵抗した警察官だ。別の事件の捜査中に彼らと遭遇し、拳銃を手に戦おうとしたのだが、相手が悪すぎた。

 相手はサブマシンガンなどで武装している上に、そのリーダーは普通の人間ではなかったのだ。銃の引き金を引く前に彼の手から放たれた炎の塊を受け、爆発。そのまま倒れたのだ。

 彼は生体兵器。その名の通り、生きた兵器である。人間を超えた戦闘力を持たせること目的にあらゆる研究所で生み出された者達のことである。しかし、その中には彼らのように人間と極めて近い者もいる。外見的、そして思考的には人と何も変わらない彼らは戦場でその戦闘力を遺憾なく発揮していた。しかし、事故などによる脱走や、激しい戦闘の中で行方不明になるなどを経て、自由を得た者達がいた。

 自由を得た彼らの中には、戦うのみが己の存在意義として、戦う場所を求めて戦場をさまよい歩く者もいれば、その力を隠し社会に溶け込もうとするものもいた。だが・・溶け込めずに、彼のように犯罪に手を染めるものもいた。

そして・・・それが、社会に暗い影を落とすようになっていた。

 

彼らの無線に一報が入ってきた。

 その連絡にリーダーの口元が不敵に歪んだ。



 その頃、銀行の金庫室の床には大きな穴が空けられていた。金庫室には二人の男。

「・・・さすがです。」

 それを行ったのは穴の傍に立ち尽くす男である。彼は不可視の力で、地面を削り大穴を空けて行ったのだ。しかも、その音はほとんどない。

「褒め言葉はいい。それよりも俺達の担当の分の爆弾の設置は完了しているのか?」

「はい。あとここに仕掛ければ完了です。」

 彼は超能力者。近年、生体兵器の誕生と共に突然変異的に一般の人の中に不可思議な力を持つものがごく少数だが出てきたのだ。その中には武装した人間では対処できないほど強力な力を持つものもおり、社会を揺るがせている。

「・・しかし、うまく行き過ぎて怖いですね。」

「それくらいがちょうどいい。この手の計画はどのような障害が発生するか予想もできないからな。」

 彼らは軽口を叩きながら金庫にあった札束を袋につめ、下にいるはずの仲間に向けて送る。

 だが・・穴からは誰もやってこなかった。

 穴は下水道に通じており、そこから仲間と合流する手はずになっていたのだ。

「・・・おかしいな。予定通りにことは運んでいるはずなのに・・。」

「ちょっと・・様子を見てくる。」

 仲間の一人が穴を降り、下水道にいるはずの仲間に会いに行く。

 それを見送りながら、もう一人が作業に専念しようとしたその時であった。

「うぎゃあああああ!!」

 突然、穴から悲鳴が聞こえてきたのだ。

『!?』

 その悲鳴は先ほど下水道に向かった男に間違いなかった。

 その悲鳴に超能力者の男がとっさに銃を手にする。気配は感じない。しかし・・何者かがいるのは間違いないようだった。

強力な力を持つ超能力者。だが彼らは、肉体は普通の人とまったく変わらないという共通した弱点がある。

 超能力者の男が恐る恐る穴を覗き込むのと、穴からその何かが高速でかけあがってくるのはほぼ同時であった。

「ひっ!?」

とっさに彼はその何かに不可視の力の一撃を加える。一撃で厚いコンクリートの床を抉り取るその力は穴ごとそれを吹き飛ばしたはずであった。

「・・やっ・・・やった・・・・・ッ!?」

だが次の瞬間、彼の後頭部に衝撃が走った。無駄のないその一撃に、悲鳴を上げる暇も、その相手を目にすることもないまま、彼は倒れていった


「よし、そろそろ仕上げだ。」

 リーダーの男が腕時計の時間を見て、仲間に指示を出す。

 彼らは隅においていたバッグから次々と爆弾を取り出しそれを部屋のあちこちに取り付ける。各々の爆弾はそれぞれ十分のタイマーが刻まれていた。

「よし、そろそろ、警察に電話を入れるぞ。そうだな、内容は・・・人質を解放するとしておこうか。」

 彼らの計画は佳境に入ろうとしていた。その最後の幕を引くべく、リーダーの男が銀行内にある電話に手を伸ばそうとした瞬間であった。

「・・・本当に良く考えているよね。」

 彼らでも、人質でもない第三者の声が聞こえてきたのは。

 その声のした方に彼らは一斉に銃を向けた。

 声の主がいたのは銀行のロビーの上。いつの間にか声の主はそこに腰掛けていた。彼が現れる瞬間を彼らだけでなく、その場にいた人質も誰も気付かなかった。

 全身を白に赤と青のメッシュが胸に走っている薄手のラバースーツのようなものに身を包んでいる。黒いバイザーの白のヘルメットをかぶり、首には黄色の長いマフラー。左手首には金色に緑色の宝石がはめ込んだブレスレットが巻かれている。

「お前、どこから?」

「電話で人質を解放すると言って警察をぎりぎりまで引き付け、その瞬間にこの建物を爆破。自分達は現金とともに、金庫室から空けた下水道から逃げてその先にいる仲間と合流すると言う寸法でしょ?」

「・・・!?」

 強盗達はその目の前にいる謎の男の言葉に動揺を隠せなかった。何しろ謎の男の話している内容は、彼らの計画そのものだったのだ。

「成功したのなら、爆発して死んだ人質の確認などに手間取って時間が稼げる。その間に海外へ逃亡するつもりだった。・・・でも、残念だったね。」

 リーダーの男は、とっさに無線を手に仲間に連絡を取ろうとする。だが、金庫室、下水道、そしてその先の車に乗っているはずの仲間からの応答はなかった。

「・・・貴様。」

 謎の男はロビーから降り立つ。銃を向けられているのにもかかわらず、彼は気にする様子も見せず、平然としていた。

リーダーは容赦なく、彼に拳銃を向け、その引き金を引いた。

 何度も部屋に轟く銃声。

だが、彼は平然とその場に立っている。

「無駄だよ。」

 彼は握り締めた拳を目の前で下に開く。そして、轟いた銃声と同じ数だけの銃弾が彼の足元に甲高い音を立てて落ちていった。

 その場にいた数人の仲間が手にしていたサブマシンガンの引き金を引こうする。その瞬間、男の身体から電撃が走った。彼の身体から走る電撃は、サブマシンガンを放とうした仲間達を捕らえる。

 体の奥底から搾り出されるような悲鳴を上げ、そして彼らは倒れていく。

「・・・・。」

 一瞬で倒された仲間を見てリーダーは確信する。仲間達が応答しなかったその理由を。

 彼は手の平に炎を発生させ、それを瞬時に巨大な球状に固めて放つ。それを謎の男は電撃を纏わせた片手で払い、掻き消してしまった。

「・・・・・・ちっ、近づくな。近づくと・・銀行各地に仕掛けた爆弾を・・。」

 リーダーは爆弾のリモコンのボタンを押す。

 だが・・押してもその場にあった爆弾のタイマーは何故か作動しない。

「無駄だよ。その爆弾はもう役には立たない。」

「・・くっ・・・くそ!」

 リーダーはリモコンを投げ捨て、近くにいた人質に向かって走り出す。

 だが・・次の瞬間、リーダーの体を衝撃が突き抜ける。

「・・・がっ・・・はっ?」

「見え見えの手だ。追い詰められたら、人質を取ることなんて三流のやることだよ。」

 いつの間にか腹部にめり込んでいた白い拳。いつの間にか目の前に立っている謎の男の姿に目を見開きながら、リーダーは気を失った。



「・・・何が起こっている?」 

 突然の銃声に、現場に緊張が走る。

 忠司は現場の者達を落ち着かせるために待機の指示を出しながら、状況の整理をしていた。いくら待っても来ない犯人からの電話。動かない事態に上層部から特殊部隊による強行突入の指示が飛んできた矢先の出来事だったのだ。

 銃声から少しの時間が空き、突然シャッターが上がり始めた。

 ざわめく現場。そして、そこから次々と逃げ出してくる人質と思しき人達。

 逃げていく人質の保護のために突入していく機動隊員。

 そして、中に入った者達からの連絡があった。

「何?犯人達が倒れているだと?一体だれが・・・・。」

「高野警視!」

「何だ?」

「屋上に誰かいます!」

 忠司はモニター越しに銀行の屋上に立っている白い影を見る。彼は黄色の長いマフラーを風に靡かせながら、すぐに姿を消してしまった。その動きを見ることはできない。

「まさか・・白い稲妻・・?」

 忠司はその白い影の名前を知っている。その名は闇夜に走り、そして轟く稲妻のような動きをすることからつけられた彼の二つ名だ。本当の名前は知らないので、いつの間にかこちらが彼の呼び名になってしまった。

「また・・・彼に助けられたのか。」



 ビルの間を飛び越える彼。彼を車で追いかけながら、カメラのシャッターを切る一人の男がいた。望遠レンズのついた一眼レフのデジタルカメラ。

 彼の名前は山本祐司。一介のジャーナリストで、カメラマンでもあった。

 彼のカメラは月をバックにビルの間を飛び越える瞬間の白い稲妻の姿を撮った。そして次の瞬間、白い稲妻の姿が霞みのように消える。辺りを見回してもその姿は見えない。

「・・・今日はここまでか・・。」

 そして、祐司はカメラを下ろす。白い稲妻の姿はどこにも見えなかったのだ。

「相変わらず、尻尾をつかませてくれないよ。彼は・・・。」

 白い稲妻を追い続ける彼は、月を見ながら軽くため息をする。

そのため息は、少し息を抜くそれにとてもよく似ていた。



 そして、銀行の向かいのビルから事件の一部始終を見ていた男がいた。

「やっと見つけたと思ったのにな・・・。がっかりだ・・。」

 手には鞘に収められた刀。全身を赤の薄いラバースーツのようなものに身を包んでいた。腰には着物を思わせる黒いローブのようなものが巻かれており、両腕には黒い革のような篭手。頭には黒いバイザーの入った赤いヘルメットを被っている。ヘルメットの頭には銀色の角のようなものがついている。

「噂通り、中々・・鮮やかなお手並みだな。去る時も、追跡者がいることを前提にうまくやっている。さすがにこの状態では追いかけられないか・・・。」

 男は白い稲妻の姿を見失ってしまったことを悔やんでいる様子であった。もっとも、それも仕方ないと認めている部分もあり、悔いはそれほど大きくない。

「だが・・今度は逃がさないぜ。」

 バイザー越しの視線が鋭く光る。

 春先のまだ冷たい夜風が吹き抜けると共に、彼はその場から姿を消した。


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