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“め”  作者: 橘樒
1/6

不穏

 あれは三年前の夏だった。恐ろしい体験だった。あれから俺の人生は壊れてしまった。


 当時、俺は大学二年で、サークルにばかり入り浸っている典型的なダメ大学生だった。学業などは身にも入らず、サークル仲間と飲み会をしてばかり、テストは仲間内で問題を共有して乗り切るという有様だった。


 そのサークルの中で特に仲の良かった奴らがいた。あの出来事以降、俺たちは自然と距離を置くようになり今となってはもう連絡を取っていないがそいつらと当時は毎日飲み明かしていた。

 

 そいつらは太田太一、長嶋雄介、石田悠斗といった。太田と長嶋は高校時代からの友達だった。そこに俺と石田が集うようになってこの四人グループになっていた。


 俺たちはとにかくよくつるんでいた。四人とも同じテニスサークルのメンバーで、しかも同期、学部も同じで一年の大学入学直後から俺たちはずっと仲が良かった。


 いつもガサツだが場を盛りあげるのが上手い太田、何でもそつなくこなせて付き合いもいい長嶋、俺たちグループの中で唯一真面目で若干天然の石田、そして特に普通の俺。四人とも性格はばらばらだったけど、気恥ずかしいが俺たちはお互いをちょうどよく補完し合っていた。


 俺たちが四人とも集まって飲み会をするのは決まって木曜日のサークルの後だった。授業の空き具合やバイトの入り方がそれぞれ違っていて他の曜日は四人全員で集まることはできなかった。だからこそ毎週木曜日のサークルだけは皆楽しみにして参加を断らなかった。


 その日は確か6月の半ばごろのことだったと思う。例によって木曜日の飲み会の最中だった。唐突に太田が言い出した。


「なあ、夏休みに旅行行かね?」


 染めたての金髪のつんつん頭に、生意気な笑みを浮かべて、いつもの調子だった。


「男四人で?」


 俺がそう言うと、


「ちょうどいいじゃん、俺、先週フラれたばっかだし。女抜きで騒ごうぜ」

 

 そう言って長嶋は丁寧に持っていた焼酎のグラスを置いた。


「よっしゃ、決まりな」


 太田は勢いに任せてジョッキを飲み干した。


「それにしてもお前よくフラれるよなー、顔も頭も出来いいのに」


 太田がからかうように言う。俺もそれにノって


「性格が悪いのが付き合ってる途中でバレるんだろ」


 なんて言って笑う。


「うるせーよ、いいんだよあんな女、お前らとつるんでる方が楽しいわ」

 

 長嶋は素でこういうことを言えるところがモテるんだろうと思っていた。


「強がり出ましたー」


「だる、死ね」


 こうして俺たち三人が軽口を言い合っているとトイレから戻ってきた石田が聞いた。


「何、どしたの?今なんの話?」


「長嶋がフラれた話してたら強がってる、コイツ」


「強がってねーよ、事実」


 早く教えてやれよ、そう思いつつ俺は石田に言った。


「そうじゃねーだろ、旅行の話だっただろうが」


「旅行?」


 石田が聞き返す。


 得意気そうに太田が言った。


「夏休み俺らで旅行行こうって話になったんだよ」


「お前が勝手に決めただけな」と毒を吐く長嶋。


「いや俺が言わねーと皆来ねーじゃん」


 これは太田の言うとおりだった。太田は人を引っ張る才能があったと今でも思う。


「結局行くのか?」


 俺は誰かの返事を期待して言った。


「行くに決まってんじゃん」


「どこ行くことに決まったの?」


「未定」


「太田いっつも言うだけ言って計画しないじゃんね」


 枝豆をきれいな手で捌きながら長嶋が言った。


「まあ、言い出しっぺが太田の唯一の取り柄だからな」


 敢えて腐して俺は言った。


「じゃあ結局どこに行く感じなの?候補はある?」


 石田が聞いてくる。いつも詳細を決めてくれるのは石田の役割だと皆思っていた。


「どこがいい?」


 ジョッキ片手に太田がこちらを向いた。


「どうせなら人気のないところがいいわ、俺は。USJとか行き飽きたし」


「長嶋君モテるもんね。女の子と行きまくったんでしょ」


「まあな」


 あえて全員がスルーした。


「佐藤君は?どこがいい?」


 石田が俺にも聞いてきた。


「俺はまあ、どこでもいいよ」


「いっつもそういうけどそれ困るんだって、ちゃんと意見だして」


 石田はここら辺がきっちりしている。まるで俺とは真逆だった。


「じゃあ、俺も静かなところで」


「お前らジジイかよ、俺ディズニーいきてーんだけど」


 太田が横槍を入れてくる。


「さすがに男四人でディズニーはねーだろ、彼女作ってテメーでいけ」


 長嶋が言う。全く持って同感だった。


「まあ多数決的にも静かなほうがいいんじゃない?僕もそっちに賛成かな。それとも太田君が全部やって

くれるの?ホテルとか新幹線のチケットとか、車ならレンタカーとか」


「あー、俺も静かなとこがいいわー。滝行やりてー」


「お前、マジふざけんなよ」


 長嶋が半ギレでツッコんだ。全員が太田に呆れてグラスを口に近づけた。


「じゃあ、とりあえず静かなところね、田舎の旅館とかどう?田舎だと良い旅館とかも結構安いし」


 こういう石田の否定されることを恐れず意見を出せるところを俺は素直に尊敬していた。


「いいんじゃない?俺は賛成」


 長嶋は相変わらず枝豆を手に持ったままだ。テキトーにしながらでも様になるこいつの容姿が少し羨ましい。


「ほんと?佐藤君は?それでいい?」


「ああ、いいよ」


「太田君は?異論ある?」


「異論て。弁護士かよ。異議無し」


 太田は最後の唐揚げに躊躇なく手を伸ばした。


「じゃあ、決まりだね」


 石田のその一言で行き先が決まった。

 

 そしてその日は確かそのまま解散した。結局詳細なことは石田がまとめて調べてきてくれることが暗黙の中で決まり、後はいつものようにくだらない雑談で時間を潰した。

 

 居酒屋を出た時はもう終電が近かった。


 俺たちは何も気にすることなく、いつものようにそれぞれ別の家に帰っていった。


 

その次の週の飲み会で石田は旅行の詳細をまとめてきた。そういうフットワークの軽さを見るたび、俺は石田の頭の良さに感心していた。


「こことかどう?頑張って探したんだけど」


 石田がスマホに表示された旅館についてのページを見せる。


「これブログじゃん」


 長嶋が言った。


 太田の言うとおり石田の見せてきた画面は旅館の公式サイトや旅行サイトのものではなく、個人の旅行体験を綴ったブログだった。ページの先頭には一枚の古びた旅館の写真が掲載されていた。


「ん?何この目?」


 写真の端に小さな目のようなものが映っている。


「は?め?」


 長嶋が変なイントネーションで聞いてくる。


「め、って何?」


 石田も不思議そうに俺の方を見た。


「え、いやなんか、目みたいなの映ってね?」


「すまん、何言ってっかわからん」


 太田があしらう。


「いや、この端の奴だって」


「いやだから何が?」


「目に見えるじゃん、心霊写真的な」


「見えねーよ」


 こいつらには見えていないのだろうか?俺にはどう見ても写真の端に小さな目のようなものが見えるのだが………。


「シミュラクラ現象ってやつじゃない?」


「なんそれ」


「三つの点が顔に見えるってやつ」


「佐藤が酔ってるだけだろ」


「つーかそんなことよりいくらなんでも旅館すぎね?俺金ねーよ」

 

 太田が言った。


 まあ、確かに俺の見間違いかもしれない。目のことは一度忘れて写真をもう一度全体的に見る。


 太田の言う通り写真を見る限りかなり古そうだが、しかし十分立派な建物だった。当然俺たちは大学生という身分でありさほど金はない。さほどどころか毎週毎週飲み明け暮れているせいで俺たちは全員かなり金欠だった。


「いや静かな場所って探してみたんだけど、なかなかないんだよね。田舎にある旅館って結構いい値段するんだよ。多分他のライバルになるホテルとかがないからさ。でもここならかなり旅費が安く済みそうなんだよね。ブログ見る限り」


「ほーん、安いならまあいいんじゃね?」


 長嶋は案外気乗りしているようだった。


「安いっていくらくらいなんだよ」


「一人5000円だって。このタイプの旅館にしては相当安いと思うんだけど」


「まあ確かにな」


「でもこれどこにあんの?距離によってはめっちゃ高くつかね?」


「山形県かな。レンタカーで行けばまあまあ安く済むと思うよ。ついでにドライブ気分でさ。どうせ新幹

線とかこの旅館の近くにはないし。公共交通機関で行こうとしたらめっちゃ乗り継ぐことになってその分お金かかるよ?」


 金勘定はプラン立てしてくれた石田に従っておくのが丸いだろう、そう思って


「安いし旅館とかも乙じゃね?敢えてさ」


 俺はそう言った。


 話が少し纏まってきたところで俺たちは追加の酒を注文した。


「すいませーん」


 太田のでかい声が小さい居酒屋の店内に響き渡った。


「声デッカ」

 

 長嶋は半笑いで残りのレモンサワーを飲み干す。


「僕、次もサワーで」


 スマホを見つめながら石田は次の注文を済ます。


「佐藤は?」


「俺ハイボール」


「あいよ」



 追加のグラスが届いて俺たちはしばらくくだらない雑談に戻っていた。それなりに笑落ち着いた後石田が口を開いた。


「結局さっきのとこでいいの?一応他にも候補あるけど」


「いいっしょ、ビビッと来たわ」


 また太田が大口を叩いている。


「候補も見ねーのかよ、せっかく調べてきてくれたんだぞ」


 長嶋は石田の肩を持つようなことを言う。だが実際は単に太田に対抗するのが長嶋の癖なだけだった。


「いいっていいって、俺の直感当たるから。俺は間違いなくアタリの旅館と見たね」


「お前旅館とか高尚なとこ行ったことねーだろ」


「たぶんある、知らんけど」


「アホくさ」


 談笑の途中なぜか俺はふと気になった。


「そこってなんでそんな安いの?」


「わかんない、なんでだろう?」


 石田は素直に言った。


「おい、調べてくれたんじゃねーのかよ」


 太田がすかさず悪役ムーブをかます。


「だって情報がないんだよ、公式ページとかも見つからないし。さっきブログ見せたでしょ?あれが一番

詳細に書いてあるぐらいなんだって」


「あのブログ場所と感想と値段しか載ってなかったけどな」


 長嶋の一言のあと少しの沈黙が流れた。


「不思議だな、なんかあんのかな」


「何心配してんだ?」


 長嶋は不思議そうにこちらを見た。


「いや、別に、なんとなく気になって。今どき不自然かなって」


「古い田舎のタイプだとこういうの結構あるみたいだよ?ほかの候補の中にも公式ページがない奴はあっ

たし」


 石田は他のサイトもしっかり調査してくれているらしかった。


「それもそうか」


 俺は適当に納得した。


「事故物件だったりするんじゃね?人死んでるとか」


「不謹慎なことを大声でいうなよ。そんでそうだとしてもいいだろ別に。そんなん言い出したら京都とか東京とかそこら中心霊スポットだぞ」


「長嶋はそういうの気にしなそうだよな」


 俺が呟く。


「そりゃ今までで人が死んでない場所なんか地球上どこにもないだろ。それにビビっててもしょうがないじゃん」


「え、じゃあ俺んち誰か死んでんの?」


 太田が間抜けな声で驚いていた。


「馬鹿、大昔の話だよ」


 全員それなりに酔ってきて飲み会も終わりに差し掛かったころ太田が言い出した。


「なあ、どうせなら心霊スポット行かねー?」


 俺ははっきり言って心霊の類が苦手だった。存在を信じているわけでもないが気持ちの良いものでもない。


「別に行く必要ないだろ」


 強めに否定する俺。


「いいだろ別に、おもろそうじゃん、田舎なら近くに一個くらい心霊スポットあるだろ。せっかくさっき事故物件の話したじゃん」


「せっかくってなんだよ」


「俺はまあどっちでもいいけど」


 本当にどっちでも良さそうに長嶋が言った。


「まあ予定はまだ組んでないから行きたければ行けるけど」


 まずい、三対一の構図になった。


「んじゃ行こうぜ、キャンプとか心霊とかどうせ田舎行くんだから田舎でできることしようぜ」


「キャンプは都会でもできるだろ」


「じゃあ心霊スポット巡りだな」


 ここまでくると引き返せない。きっと本人は気付いていないだろうが、太田と俺のパワーバランスは均等ではない。発言力というもので太田には勝てなかった。


「わかったよ」


 俺は渋々納得した。


 結局その日はそれで解散することになった。細かい予定や日程は今後の飲み会やLINEグループで予定を決めようという話だった。

 

 そうして決まった予定が8月20日、21日の一泊二日で山形県の山奥、猪後という土地にある旅館、山楽荘に泊まること、一日目にはゆったり旅館で過ごし二日目の昼に近くにあるらしい廃トンネル、猪後トンネルにいくこと、夜には東京に戻ってきてバーベキューをすること、レンタカーは免許を持っている太田と俺が交互に運転していくことに決まった。


 どうにか仲間内で協力し合いテストを乗り切って迎えた夏休み。俺たちはついに8月の20日を迎えた。朝10時。


「おっしゃいくかー」


 そういって太田が車のエンジンをかける。俺たちは全員半袖短パンで見るからに浮かれた大学生と言った身なりだった。そして実際に浮かれていた。計画としてはまず太田がレンタカーを運転して道中にあるサービスエリアまで行くという計画だった。車内からは旅行への期待が漏れ出ていた。


「旅館どんな感じかな、結局あれから調べても大した情報出てこなかったんだけど」


「大丈夫だって、俺の直感がそう言ってる」


「当てになんねーんだよ、いいから黙ってハンドル握っとけ」


「今全員の命が俺に委ねられてるってこと忘れんなよ」


「お前も死ぬけどな」


「お前らと心中すんなら悪くねーか」


「気持ち悪、俺は御免だから三人で死んでな」


「やめとけって長嶋。太田、頼むから真面目に運転してくれ……」


「してるだろ。安心しとけって」


 こんなくだらない会話を続けて二時間。一度昼食のために車を降りてそこからさらに一時間。俺たちはサービスエリアに到着した。田舎特有のバカでかいのにガラガラの駐車場に車を停め、俺たちは各自休憩することになった。


「んじゃあ10分後、ここ集合で」


「「「あいよ」」」


 それぞれが各自で行動することになり俺たちは一度車から離れ、別れた。


 俺は特に用もなかったので自販機で適当にスポーツドリンクを買いトイレに言って早めに車に戻った。運転のためにも先にシートの調整等しておく必要もあると思ってのことだった。


「お待たせ、早くね?」


 一番最初に戻ってきたのは長嶋だった。


「んまあ用もないし、レンタカーだから車の調子も確認しとこうかと思って」


「運転サンキュー」


「あれ?もうお前ら戻ってんの?」


 続いて太田が戻ってくる。両手には串焼きと唐揚げが握られていた。


「串焼き買ってきた、後唐揚げ」


「さっき昼飯食っただろ」


「四人で食べる分には問題ないだろ、それに車の中で食べる飯って普段よりうまいし」


「「それはわかる」」


 こうして俺たちは石田を待ちながら太田の買ってきた串焼きと唐揚げを食っていた。


「石田遅くね?」


 太田が言う。既にこの時点で集合時間の目安から10分過ぎていた。


「そうだな、連絡してみるか?」


「トイレとか?」


「にしてもだろ、石田が遅れるなんて珍しいな、ちょい電話するわ」


 気にするほどのことでもない時間ではあるが石田はこの辺をきっちりしている。遅れるなら連絡があるのが普通だった。


 長嶋がスマホで石田に連絡する。


プルルルル……。プルルルル……。


 数コールの着信音を待つ間、なぜか俺たちの間には緊張が走っていたような気がする。


プルルルル……。プルルルル……。


「だめだ、電話でねえ」


「どこいってんだよ、探しに行くか」


 太田がドアノブに手をかけた瞬間、手を振りながらこっちに走ってくる石田の姿が俺には見えた。


「あ、石田来た」


「え、どこ」


「皆ごめん、遅くなった」


 石田はそういいながら車内に駆け込んできた。ドタバタと後部座席に座る。


「どしたの?なにしてたんだ?電話も出ねえし」


「いやごめん、ちょっとサービスエリアの人に話聞いてて。返信にスタンプ送ったんだけど見えてな

い?」


「あ、今きてる」


 確かにグループLINEを確認すると石田が“待って”のスタンプを送ってきていた。


「ここ電波悪いのか?」


「まあ、田舎だから仕方ないとは思うが……。てか話聞いてたって何?どういうこと?」


「いや、旅館の情報が何も出ないってのがなんか引っかかって……。行って休業中とかだったら最悪かな

って思って」


 そこは俺も確かに気になっていた。太田と長嶋は特に気にしている素振りはなかったが、もしも休業中であれば今からでも道を変えなければならない。ここからはほぼ旅館まではほぼ一本道で山の中を走っていく。行ってみてからでは野宿や車中泊もあり得るのだ。


「それで、どうだったんだ?」

 

 長嶋が尋ねる。


「うーん、休業はしてないみたい。でも聞いた人も実際には行ったこともないし、行く人もほとんど聞いたことないから今どうなっているかは分からないって。多分やってると思うけどって言ってた」


「まあやってんならいいんじゃん」


「うん、それと猪後トンネルに行く人は多いけど本当に危険って聞いたことあるからやめといたほうがいいよって」


「余計なお世話だっつの」


「それって結局何も分からなかったってことか?」


「言い方棘あるな」

 

 長嶋に窘められた。


「ああ、悪い。他意はないんだ。別に」


 確かに今のは俺の言い方が悪かったなと反省する。


「いやいいよ、でもそう、わかんなかった。旅館のことは。猪後トンネルのことはマジな顔で言われたけどね」


 笑いながら石田は言う。石田の情報を聞いて俺はますますその猪後トンネルに行きたくなくなってきていた。


「俺らの旅にケチつけんなって話よ」


 俺はさっきの失敗を取り戻そうと話を切り替える。


「石田、そこに太田の買ってきた串揚げと唐揚げあるからよかったら食えよ」


「ありがとう、というか太田君、さっき皆でお昼食べたよね?」


「いいだろ別にどいつもこいつも。いらねーんなら全部俺が食うよ」


「腹壊すぞ」


「いや、食べる食べる。ありがとう」


 車内はいったん和やかな雰囲気に戻った。


「んじゃあ食い終わったら出発するわ」


 俺はシートベルトを引っ張り出す。


「はいよ、特に普通の車だから」


 太田はさりげなく俺を気遣ってくれた。


「了解」


「じゃあ、よろしく。佐藤タクシー」


「だれがタクシーだよ」


 こうして俺たちはサービスエリアを後にして旅館へ向かった。


 ここから先は一本道だ。カーナビを確認すると道中にあるのは地元のホームセンターくらいのものでそこを通り過ぎると山道に向かっていくルートになっていた。一時間ほど車を走らせ山道に入る。景色も代り映えが無くなり、やや無言の時間が続くようになった。


 俺の頭の中では不安が少し芽吹いていた。正体不明の旅館、そして本物と言われる心霊スポット、何か因果めいたものを感じるのは考えすぎだろうか。そんなことを考えながら運転していて大丈夫だろうか。そもそも旅館はほんとに営業しているのか。皆といるのにこんなに胸がざわつくのは初めてのことだった。

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