第7話 水やりもせずに、数年……?
「水やりもせずに、長期間……?」
「まだ実際に実験はしていませんが、クライヴ・ユーバンク・クリス様の予想では数年間……、二年や三年は艶やかなままだろうと」
「……どうやって、作っているんだこれ」
ルーク様の呟きに、私は言った。
「製造方法はクライヴ・ユーバンク・クリス様が完成させてくださいましたが。それを私でも作れるようにを教えてくださったのが、レシュマ先生です」
「え、えええええーっ!」
ルーク様とミラー子爵が叫んだ。あはは、やっぱり驚いたのねえ。
ミラー子爵夫人は感嘆の溜息をついた。
「うちの娘が……、すごいのねぇ……」
ええ、すごいんです。
「商品としては、とても素晴らしいので。これをどうやって売るか。私、これから王都にあるクライヴ・ユーバンク・クリス様の娘さんのお店まで行って、相談をする予定なんです」
「ああ、マダム・クリスのお店ね……」
夫人はぼそっと言って。
「オードリーさんは、ランディア王国の王都に行ったことはあるのかしら?」
「いいえ。初めてですが、大通りの有名店とお聞きしていますので、迷うことはないと思います」
「マダムのお店は迷いようはないわね。……そうじゃなくて、王都に知り合いはいらっしゃるの? 泊まる場所とか、商売をされるのならなんらかの伝手ですとか……」
「あ、いえ。私はルブルクセン王国でずっと過ごしていて……、こちらの国自体、今回来たのが初めてで……」
「じゃあマダムに相談した後はルブルクセン王国に帰ってご商売を?」
「あー……、いえ、帰りません……」
私は簡単にかいつまんで、私のこれまでの話をした。
ルブルクセン王国で店を構えて商売をした。売り上げはかなりあったけど、平民の独身女が成功すれば、ごろつきや結婚詐欺など、私を搾取する輩がやってきた。
それを防ぐために、貴族の令息と婚約を結んだけど、結局その令息……マイケル様が私の店の商品を、代金を支払わずに持って行ってしまったことなどなど。
別に隠すことではないからね。
「オードリーさんは、ご苦労されたのねぇ……」
「金にたかる輩はどこにでもいるな……」
「あ、でも、ルブルクセン王国を出るときに、ちゃーんと仕返しはしましたので!」
複数の新聞社に記事を掲載させる手配をしてから、出国したこと告げた。
「損はしたかもしれないけど、気が済んだ……とかですか?」
「ええ、まさに! 金銭的には大損ですが、気は晴れました!」
私はにっこーっと、笑って見せた。強がりではない。気が晴れた。うん、その通り。
私のお店で、マイケル様は大盤振る舞いをしてきた。好き勝手商品を持ち帰っていたマイケル様のご友人たち。もうできないと言えば、ご友人はマイケル様から離れていくでしょうし。マイケル様とそのご友人のせいで店が潰れた上に、婚約解消の上、私が失踪した……なーんてくらいはきっとミリーは言いまくっている。言わなくても、その程度の噂は立つよね。だとすると……マイケル様は今頃どうなっているのかしらね。
まあ、別に私にはもう関係ないからね。さよーならー!
「レシュマが肩入れするはずだ……。未練もなく国を飛び出して、知り合いのいない国に行く行動力……」
ルーク様がお笑いになった。楽しそうというか、感心しているというか、実に朗らかなお顔で。
ミラー子爵夫人も「本当にねえ。レシュマもあっさりとエルミスの魔法学校に行ってしまったし。レシュマもオードリーさんも、行動力と決断力が同じね」と笑う。
お、同じ……かなぁ?
私は家族はいない。身一つだし。トランクだけ持って、どこにで行ける。
故郷なんて、ないようなもの。
だから、私は……正直に言えば、ルブルクセン王国に思い入れはない。
だけど、もしも……。
もしもだけど。
マイケル様と仲睦まじい夫婦になって、子でもできていたのなら……ルブルクセン王国が自分の故郷だと思えるようになったのかもしれない……。
……なんて、ありもしない未来を考えてもどうしようもないか。
想いに沈みそうになったところでミラー子爵夫人から「ああ、それでね、オードリーさん」と言われ、はっとした。
「は、はい、夫人」
「ルークはそろそろ王都に行って社交に励むのよ。よかったらルークと一緒に行って、我が家のタウンハウスに滞在してちょうだいね」
ありがたい申し出だけど。初対面に相手に……。
「え、ええと、そこまでお世話になるわけには……」
「いいのよ。ルークだって一人で王都に行くのは暇だろうし。道中の話し相手、それから、社交のときのパートナーにでもなってやってちょうだい」
「え、ええええ!」
パートナーって!
「あの、ルーク様、失礼ですが、奥様とか婚約者が居らっしゃる……」
年齢的に、いないとおかしいと思うんだけど。だって、貴族のご令息で、子爵家の跡継ぎ。家族仲もよいご家庭で、しかも妹であるレシュマ様は最年少認定魔法使い。気負いなく、私に滞在を勧めてくださるってことは、経済的にも余裕があるのだろうと思われるし。
聞いた途端に、ルーク様はむすっとした顔になった。
「……おりません。社交上、パートナーが必要な時は、これまでは従妹に頼んでいたのですが」
「その従妹もねえ、お嫁に行ってしまったから。社交の場ではルーク、今、一人なのよ……」
え、えええええ! どうして?
家に問題もなく、性格もよさそうなのに。
普通に探せば婚約者程度すぐに見つかる……と思ったのが、私の顔にでも出ていたのか。
「……元々は、レシュマが貴族学校に入学したら、レシュマの女友達でも紹介してもらおうと思ってのんびりしていたのですが」
ああ、妹の友達のご令嬢なら、安心してお嫁に来てもらえるって考えだったのね。
「それが、レシュマのヤツ。貴族学校に入学せず、いきなり認定魔法使いの資格を取るし、あいつの婚約はなくなるし、あっという間にエルミスの魔法学校に行くしで……当てが外れて」
「あら……」
「私の友人たちも……、その、私が嫁探しに焦っていなかったので、既に婚約者なり相手なりがいると思っていたようで。友人の妹や従妹などを私ではなく別の知人に紹介し……」
「あら……」
「レシュマが、認定魔法使いとなって、貴族学校には入学せず、その上、さっさとエルミス王国に行ったあと……、慌てて誰かいないかと、知り合いに声をかけたのですが……」
「ええと、もしや、その頃にはもう……」
「ええ。知り合い関係のご令嬢は皆結婚済みか婚約済みで……。友人たちからは、嫁探しが遅すぎると呆れられました……」
そうしていまだにお相手がいらっしゃらないと……。あ、あああ……。の、のんびりしすぎだわルーク様もご家族も……なんて言えない……。
「社交パーティも王都にいる期間に、二回程度顔を出せばいいですので。そのパートナーを務めていただく代わりに……という交換条件的になってしまうのですが、もしよろしければ、我が家のタウンハウスに滞在していただいてはどうかなと」
「私にはありがたいお話ですが。よいのですか?」
「こちらも助かるのです……」
ルーク様だけではなく、ミラー子爵夫妻も、うんうんと大袈裟に頷いた……。そ、そんなにパートナー探しに困っていたのでしょうか……。
「あ……、では、遠慮なく、お世話になってもよろしいでしょうか……」
ぼそぼそと返事をしたら「ありがとう! 助かる!」とルーク様に言われてしまった。
いいえ、ありがたいのはホントに私のほうなんですが……。
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