第5話 授業の後
授業の後、ジードさんという魔法学校の事務の人が教室にやってきた。
家庭教師の雇用契約書。サインをして渡す。
それから、レシュマ先生と軽くご飯を食べながら、明日の待ち合わせ時間と場所を決めて、宿泊場所である女子職員寮に案内してもらった。
女の子同士なので、余計な話も少々……。
驚いたことに、私とレシュマ先生は同じ年だった……。わあ……。
そんなこんなで、夜になって。
部屋で一人になって「ふう……」と息を吐く。
今日、レシュマ先生に教えてもらったこと、注意点なんかをノートに書きだす。
暗記ができるまで、何度も何度も書いて覚える。
明日、レシュマ先生に付き合ってもらって、器具や材料を買って。
それで、作り方を覚える。
体にしみ込むまで、何度も繰り返して練習する。
そのうち、どこかに拠点を置いて、そこでこの保存花を作っていくだろうけど……。
ずっと魔法学校でお世話になるわけにはいかないから。
とにかくレシュマ先生に教えてもらえる期間中に、気になることを解消して、練習して。それから、私が一人で思い通りの花を作れるようにしないと。
がんばろう。
次の日。
レシュマ先生とのお買い物を終えた後は、もう、練習に次ぐ練習。
着色液に漬けた後の花を乾燥させる魔法は上手くできるようになった。
だけど、脱色液や着色液に漬けずに、一瞬で保存花を作ることは……、いくら練習しても、できなかった。
うーん……。やっぱり、乾燥の魔法がちょっとできる程度では、すべての工程を魔法で一瞬に……というわけにはいかないか。
それが出来るレシュマ先生たちはやっぱりすごいんだなあ……なんて。
さすが認定魔法使いというべきか……。
だけど、私は商人だ。
全部が全部、魔法でできないからって、魔法を追求するつもりはない。悲観するつもりもない。
器具を使って、脱水液だの着色液だのを使っても、最終的に望む商品が出来ればそれでいいのだ。
だから、レシュマ先生に習える最終日に、作った保存花を使って、私が商品として思い描いているものを形にしてみた。
まずはフラワーバスケット。
山葡萄の蔓や木の皮を薄く削いだウッドチップ素材の籠。小ぶりなバスケットに保存花を入れて、そのまま贈り物にできるような感じに保存花を入れる。持ち手にリボンも飾ってみた。
それから、リース。保存花を輪状に編んでみた。ドアノブに掛けたりして飾るのもできるし壁に飾ってもいい。小さく作ったら腕輪にもなる。
お礼にと、レシュマ先生とクライヴ・ユーバンク・クリス様にフラワーバスケットとリースを贈った。
ありがとうございますとのメッセージカードも添えて。
レシュマ先生はすっごく喜んでくれて「これ、私のお母様や友達とか……ええと、それから……、ヴィクトリア様にも贈りたい!」と言ってくれた。
「レシュマさんのお母様やお友達に差し上げるにはとても良いと思います。ですが、ヴィクトリア・アン・ラドフォード侯爵夫人に贈るには……」
クライヴ・ユーバンク・クリス様はフラワーバスケットとリースをしばらく眺めていた。何か考えているようだった。
き、気に入らなかったとか……かな。男の人だし……。
でも、真剣に、保存花を眺めている……。
「だ、駄目ですか? 魔法で保存できた花なんて、ヴィクトリア様、すっごくお好きそうですけど……」
レシュマ先生が首を傾げながら、聞いた。クライヴ・ユーバンク・クリス様はしばらく考えた後に言った。
「思い付きました。オードリーさん、ランディア王国に行きませんか?」
「は、はい? どこで商売をするかはまだ決めていませんが……」
ルブルクセン王国に戻るつもりはない。元々はランディア王国まで行って、魔法を習うことも視野に入れていた。
だから、行くのは別に構わないのだけれど……。
「この花は、きっと売れると思います。ですが、このままでは平民や下級貴族相手にしかならない。つまり、儲けが少ない。装飾に凝れば高位貴族相手にも売れると思いますし、レシュマさんの希望通りラドフォード侯爵夫人にも贈れるほどの品になると思うので……」
「装飾……ですか……」
「ええ。ちょうど私の娘がランディアの王都で服飾店を営んでおりますので。このフラワーバスケットを持って、会いに行ってみてください。高級仕様の装飾ができると思います」
「マダムなら、すんごい装飾、できますよね!」
レシュマ先生の顔が、ぱああああっと華やいだ。マダムというのがクライヴ・ユーバンク・クリス様の娘さんなのかな?
「娘の店は王都にあります。地図も書きますが、王都の大通りの店ですから、迷わずにたどり着けますよ」
有名店かな?
だったら行ってみたい。
今後の私の商売の参考にもなりそう。
「ありがとうございます。是非行かせてください」
「紹介状も書きますから、ご安心を」
初めて行くランディア王国で伝手が出来た! すごい、ありがたい!
ありがたいのはこれだけじゃなかった。
「この魔法学校から船着き場に行って、船に乗ってランディア王国に行くと、私の実家のミラー子爵家を通って、ランディア王都に行くような感じになるんです。だから、ランディア王国についたら、ミラー子爵家に立ち寄ってください。私の兄様に伝えておきますから、王都まで送ってもらうといいですよ」
「そ、そこまでお世話になって……、いいんですか?」
レシュマ先生からの、すごくありがたい申し出。
知らない国で、若い女が一人で……なんて、馬車に乗るだけでのも一苦労なのだ。レシュマ先生のお兄様に連れて行ってもらえるのなら、すごく助かる。
「ちょうど時期的に、今はミラー子爵家の領地に、兄様、いると思うんです。で、もう少しあったかくなったら王都のタウンハウスに行くでしょうから。ついでに一緒に行けばいいですよ」
「すごくありがたいです。ありがとうございます」
何かお礼を……と言ったら、レシュマ先生はにっこりと笑った。
「マダムのお店で、保存花の高級装飾バージョンが出来たら。それをラドフォード侯爵家のヴィクトリア様にお渡ししてもらいたいです。あ、ちゃんと紹介状書きますし、先にお手紙も出しておきますので! それから、商売が軌道に乗った後でいいので、保存花を贈りたい相手が幾人かいます!」
侯爵夫人に伝手なんて……レシュマさん、すごい。さすが最年少認定魔法使い。
必ずと答えて。
それから私はお二人にたくさんお礼を言って、ランディア王国に向かった。
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