第14話 一言で夜会と言っても、内容は様々
一言で夜会と言っても、内容は様々だ。
たとえば、王家主催の夜会。
大勢が招待され、全員が会場に集まるまでかなりの時間がかかる。高位貴族は個室でゆったりと開催時刻を待つ。下位貴族程度だと先に夜会会場に案内され、立ったままお待ちくださいだとなる。
王族への挨拶の順番も下位になればなるほど後になって、何時間も待った挙句、ご挨拶は数分なんてこともある。
ラドフォード侯爵夫人が開催する夜会はそこまで大きなものではないみたい。単に親しい人間を集めた交流会。参加人数は百人もいない。
流れとしては、玄関ホールで家令がお迎えしてくれて、使用人が会場となる大ホールへとご案内。招待客が全員集まるまでお酒や軽食を楽しみながら歓談。
招待客が全員集まったら、ラドフォード侯爵夫妻のご挨拶があり、まず夫妻や高位の皆様がダンスを披露。
それ以降は、比較的自由な交流とのこと。
招待客たちも音楽に合わせて踊ったり、別室でカードゲームをしたり、ビリヤードをしたりする人もいる。男性なんかはシガールームで男同士のお話も。ま、女性もサロンかなんかで噂話を喋りまくる……みたいだけど。
「新しいものや魔法が好きな方だからね、ラドフォード侯爵夫人は。オードリー嬢のプリザーブドフラワーを招待客の皆さんに広めてくださるおつもりなんじゃないかな?」
ありがたい! 私のプリザーブドフラワーの売り込み的な感じになるのはありがたいけど……!
いくらレシュマ先生とラドフォード侯爵夫人が親しくやり取りをしているからとはいえ、私とは初対面。
しかも私は他国の平民。
侯爵夫人に無礼のないように……なんて。あ、あああ、胃が痛みそう……。
弱音を吐いている場合じゃないわ。
気合いを入れないと!
それに、マダムのお店に卸しているプリザーブドフラワーは、まだ色目が均一なものばかり。
自然な発色のものはまだ研究途中で完成形には至っていない。
贈るべきレベルには至っていない。
だから、今回の夜会ではラドフォード侯爵夫人にも誰にもプリザーブドフラワーをプレゼントはしない。
オレンジ色のラナンキュラスのプリザーブドフラワー。
ボリュームのあるラナンキュラスを左耳にかぶるように結った髪に挿す。その周りに色目の異なるアスクレピアスやフリージア。フリージアは咲いた花だけではなく、つぼみの黄緑色のものもアクセントとして使う。
それらのプリザーブドフラワーを、私の結った髪に飾った。派手にならない程度に、それでも人目を引く程度にはたくさん盛り付けて。
夜会の招待客たちは、私の髪に飾ったプリザーブドフラワーに興味津々だ。
し、視線が……、たくさん向けられる……。注目されている……。ひいいいいいい……!
ラドフォード侯爵夫妻に招待される皆様だから、流行には人一倍敏感なのかもしれない。
マダムの店でプリザーブドフラワーを取り扱っているのも知っている人がいるのだろう。
「あれが、噂の……」とか「わたくし、実はマダムの店で購入しましたのよ……」とか、声が聞こえてくる。
そんな中を笑顔で! ええ、もう、笑顔で私は進んでいく。ルーク様のエスコートがなければくるりと背を向けて、撤退したいくらい心臓はバクバクなっているけど。
と、とにかく! 失礼の無いように! ひいいいいいい‼ と、叫びそうになる心をを無理やりにでも押さえつけけて、令嬢チックな笑顔を顔に張り付ける!
私とは異なり、ルーク様は平然としている……というか、慣れている?
子爵家の令息なのに、高位貴族と向き合っても平気とは……心臓、強いのかしら?
思わず、キトキトとルーク様を見つめてしまったら、ルーク様は小さく苦笑した。
「……レシュマに付き合っていろいろ駆り出されたこともあってですね。レシュマの夫君からも、こういった場所での立ち居振る舞いを教えていただいたこともありましたし」
「なるほど……」
「……何より、突拍子もないことをいきなり起こす認定魔法使いの皆さんに付き合っていますとね、たいていのことには動じなくなります……」
「たいてい……の、こと……」
「空を見上げていたら、突然、人間が降ってきた程度では、ルーク子爵家の使用人たちも慣れましたよ……」
あ、ははははは……。これ、笑うところかしら……。
なんて話しているうちに、私たちの順番になり、私はルーク様と一緒にラドフォード侯爵夫妻にご挨拶をさせたいただいた。
「ご無沙汰しております」
「ええ、お久しぶり。そちらのお嬢様を紹介してくださるかしら?」
ルーク様とラドフォード侯爵夫人が二言三言、挨拶を交わした後、すぐにラドフォード侯爵夫人は私に笑顔を向けた。
「初めまして。ご招待に預かり光栄です。オードリー・K・プレスコードと申します」
「お会いできてうれしいわ。レシュマさんからもお手紙はいただいたけれども、それより先にマダムのお店の噂を聞いてね。お会いしたいと思っていたの」
ラドフォード侯爵夫人はきれいな人だった。淡い色の青色の髪。紺色のドレスを着ているので、まるで海の女神様みたい。
お年は四十代だそうだけど、どう見ても三十歳くらいにしか見えない。シャンデリアの光が、まるでラドフォード侯爵夫人を照らすスポットライトみたい。
ほわああああ……。美しい……。
なんて、見惚れている場合ではない。
私の髪に飾った花を、ラドフォード侯爵夫人に見てもらった。
「こちらと似たようなものを、マダム・クリスのお店で取り扱っていただいておりますが、実はこれ、まだ完成形ではないのです」
「まあ、そうなの? とても美しいけれど……」
「まだ色目が均一なので……、完成形のものが出来ましたら、その時に改めてラドフォード侯爵夫人にお渡ししたいと考えております」
「楽しみね! 期待して待っているわ!」
ラドフォード侯爵夫人の言葉にほっとして、あとはルーク様と一曲程度ダンスを踊って、夜会会場から辞せばいい……と思ったところで、ラドフォード侯爵夫人は茶目っ気たっぷりに聞いてきた。
「ところで、オードリーさんはルーク様と婚約をされるのかしら?」
え⁉ とか、ぐっ⁉ とか。
大声を出さずにいられたことが僥倖だ。
でも、私は口をパクパクと開け閉めしてしまって。
ルーク様も顔が真っ赤になっていた。
二人であたふたしてしまったら、楽しそうにラドフォード侯爵夫人がころころと優雅に笑う。
「だって、ドレスの刺繍がルーク様の髪の色に似ているのだもの。花はオレンジだけれど、茎や葉の色はルーク様の瞳の色に似ていると言えないことも、ないものね」
……この後、どういうことを言って、ラドフォード侯爵夫妻の前から辞したのか、私は覚えていない。
気が付けば、ギクシャクと。
あたふたと。
心臓がバクバクした音だけしか聞こえないまま。
私は、いつの間にか、ルーク様と一緒に帰途についていたのだった……。あわわわわ……。




