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やっとたどり着いた ~オードリーの生きる場所~  作者: 藍銅 紅@『お姉様はずるい』コミカライズ連載中


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第1話 オードリー! 平民女がちょっとくらい儲けた程度で偉そうにするな! 

書籍化していただいた『前向き令嬢と二度目の恋 ~『醜い嫉妬はするな』と言ったクズ婚約者とさよならして、ハイスペ魔法使いとしあわせになります!~』

電子書籍にて2巻が2026年2月10日発売です。


書籍2巻の数年後設定の話ですが、書籍の登場人物たちは、こちらの話ではわき役として登場。

こちらの話の主人公はオードリーなので、独立した話としてもお読みいただけます。


よろしくお願いします。


「オードリー! 平民女がちょっとくらい儲けた程度で偉そうにするな! オレは貴族だ! 敬えっ!」

「私の店から勝手に商品を持ち出して支払いもしない。泥棒のごときマイケル様をどうやって敬えと?」


 婚約者であるはずのマイケル・L・マースデン子爵令息が、私を睨む。

 私はため息を吐きながら、店の中をさっと見渡した。


 幸いにして客はいない。店内にいるのは私とマイケル様と、奥の事務室から心配そうに私を見てくる従業員のミリーだけ。

 窓から店の中に差し込んでくる夕日のオレンジ色が、妙に目に痛い。

 ああ……。物事が駄目になる時は、いつも夕刻……なんて。私は感傷的な気分おちいりそうになる。目を瞑って堪えるけど……、昔を思い出してしまう。


 夕刻の、オレンジ色の記憶。

 昔。多分、私が……七歳か八歳くらいのとき。それまで母と暮らしていた屋敷を突然追い出された。


 何故、追い出されたのかなんて、私には分からない。

 半ば無理やりに馬車に押し込められた母は、ずっと泣いていた。


「お母様……」


 呼びかけても返事はない。泣き声だけが返ってくる。

 しばらくすると、母は泣き疲れて眠ってしまったらしい。私の耳に届くのは馬車の車輪が回るガラガラした音だけになった。


「お母様……」


 馬車の小窓から差し込んできた夕日のオレンジ色の光が母の横顔を照らす。

 じっと見ているうちに、日が落ちて、暗くなって、夜になった。馬車の小窓からは冷えた風が入ってくる。寒い。


 どこに行くの? 

 どうして帰らないの?

 どうしていきなりお屋敷から追い出されたの?


 胸の中にいくつもの疑問が渦巻いた……。


 ……どれくらいの間、馬車に乗せられていたのかは……覚えていない。

 数時間とかではなく、数日間かもしれない。

 私と母は、どこかの街で馬車から降ろされた。


「あちらの店で着ているドレスを売ることができます」


 馬車の御者か誰か……男の人に言われ、母は私の手を引いて古着店に入った。


 私も母も着ていたドレスや靴を売って、ごわごわして手触りの悪いワンピースに着替えた。

 でも小さな首飾りだけは売らなかった。お母様のものも、私のものも。


「……服の中に入れて、隠しておきなさいね」


 屋敷を追い出されてから初めて、母は私を見た。


「……はい、お母様」


 私は言われたとおりにかけていた首飾りを服の中に仕舞った。

 金貨に似ている形。その表面には何かの花が、裏面には「オードリー・K・プレスコード」という文字が彫られている。

 オードリーは私の名前。プレスコードは家名。だから、この首飾りは身分証明のようなものなのだろう。

 服の上から私はぎゅっと首飾りを握った。


 古着屋の次に理髪店に行った。

 髪を切って売って、お金に換えたのだ。

 母の金色の髪はそれなりに高く売れた。

 私のチョコレートみたいな濃いブラウンの髪はそうでもなかった。

 腰まであったはずの髪が、肩までの長さになった。軽い……というよりも不安定感が強い。

 私の髪を撫でて、母は涙を流した。母の短くなった髪も涙も、夕刻のオレンジ色の夕日に染まっていた。


「ごめんなさい、オードリー」

「……それよりもお腹がすいたの」

「そうね。何か食べましょうね」


 簡単な食事をして、乗合馬車で別の街に向かった。


 母は私に何も説明はしなかった。私も聞かなかった。聞けばよかったと思うこともあるけど、聞いてもどうしようなかっただろう。


 それから宿を転々とした。母に、目的の地があったのどうかも、私は知らない。屋敷から離れて、ただあてもなく彷徨っていただけかもしれない。


 そうしているうちに、ふらふらと歩いていた母が馬車に轢かれたのだ。

 私は茫然とした。

 屋敷を追い出されて、母まで……。


 街の人たちが、私に事情を聞いてきたけど答えられることはあまりなかった。ただ、それまで住んでいた屋敷を追い出されたことなどをぽつぽつと伝えた。

 この時も、時刻は夕刻。

 夕日のオレンジ色の光が目に痛かった。


「……事情があるなら、ここで家名なんかない平民として埋葬したほうがいいかもな」


 街の人たちに助けられながら、共同墓地に母の亡骸を葬った。母の首飾りをどうしようかと思ったけど「墓泥棒もいるから貴重な品は墓に入れないほうがいい」言われ、私は母の首飾りも首にかけることにした。


「ありがとうございます」


 助けてくれた人たちに、私は頭を下げた。その中の一人が私に聞いてきた。


「……お嬢ちゃん、ウチの家の店で働くかい?」


 突然の申し出。

 身寄りのない子どもとなった私。売られることも警戒したけど。


「実は帳簿をつけるのが苦手でな。俺の字は汚くて読めないと従業員にぼやかれるんだ」

「文字……」

「お嬢ちゃんが書いていたその書類の字。きれいで読みやすい」


 母の埋葬手続き書類を見て、雇おうと思ってくれたらしい。

 ありがたかった。


 それから、私は必死に働いた。店や街の人たちもおおむね親切だった。


 働いて、働いて……。

 二十歳になった時、雇われではなく、自分の店を開くことができた。


 小さな店でも嬉しかった。

 やっと自分の居場所を得られたと思った。


 なのに。


 息を吐いてから、私は目を開けた。今もまた、オレンジ色の夕日が差し込んでいる。


 マイケル様が、唾を飛ばしながら、怒鳴り声を上げてきた。


「貴族のオレが平民女のお前と婚約してやってるんだ! 少しくらい融通しろ!」


 流行に乗って儲けをかなり出していた私の店。

 経営者が独身で平民の若い私だったから、あっという間にあちらこちらからハイエナがやって来た。

 みかじめ料を寄越せなんていうゴロツキ。

 詐欺や強盗。

 求婚者のフリをして店を乗っ取ろうとしたクズもいた。

 次第に、儲けを出すよりも対処に追われるようになってしまった。まともに商売ができない日さえあったほどだった。

 だけど、せっかく開店した店を捨てて、どこかに行く……のはさすがに惜しかった。

 だったら後ろ盾を得て店を守るしかない。

 つまり、貴族の令息と婚約を……と、私は考えた。

 平民の女が営んでいる店ならどうとでも巻き上げられると見下してくる輩も、貴族の後ろ盾がある店には手が出しにくいから。

 だから、爵位は持っているが、借金を抱えていたマースデン子爵家のマイケル様と婚約を結んだのだ。

 正直に言えば、マイケル様のご実家のマースデン子爵家程度では、後ろ盾としては弱い。

 だけど、これ以上高位の令息とは縁を結べなかった。

 子爵位でも、居場所を守る鉄壁の盾……にはならなくても、一応の抑止力にはなった。

 運命の恋! とか。真実の愛! とか。盛り上がる気持ちはなかったけれど、感謝の気持ちを持って、マイケル様との関係を積み重ねてきた……つもりだった。

 積み重ねていけば、店を守るための感謝だけではなく、愛と呼べるものも育っていくと……思っていた。そうしていつか、お互いを大事にしあって家族になれたら……って。


 全てが過去形。


「少しくらい融通? マイケル様が私の店から持ち出した商品の総額は、既に金貨百二十枚分に達しています。それが少しというのなら、即金で金貨百二十枚、お支払いいただけますね!」

「ぐっ!」


 私は手にしていた書類を、店の会計台として使っている大きなテーブルの上に一枚一枚並べていく。


 平民の商売女と婚約を結ぶのを承諾するくらいに資金に乏しいマイケル様のご実家、マースデン子爵家のため、私はいろいろと奔走もした。

 たとえば陶器。

 マースデン子爵領で、鉄分を多く含んだ赤っぽい色の粘土を見つけ、陶器を作ることを提案した。

 できた陶器はちょっとしたものだった。

 もちろん王族が使うような高級品が出来たわけではない。

 かといって、普段使い用の安い品でもない。

 裕福な平民、もしくは下級貴族。

 そのあたりの皆様が、手土産や誕生日プレゼント用に使えるような、ちょっとだけ良い品物。最高級品ではないが、おもてなし用としてなかなかハイセンスな陶磁器。

 莫大な儲けには至らなかったが、それなりに需要があった。マースデン子爵には感謝されたし、できた陶器を私の店で扱って、毎月コンスタントに売り上げが出ていた。

 私もマースデン子爵家も共に利益を得る、とてもいい結果になった。

 おかげで、私が平民だということをマースデン子爵夫人からもネチネチと文句も言われなくなった。貴族相手の私の商売も順調だった。


 ただ、マースデン子爵領の経済が好転していくにつれて、私に対するマイケル様の態度が尊大になっていった。婚約を結んだ当初の謙虚さなんて皆無になった。


 友人をたくさん引き連れて、私の店に来て「ここがオレの店だ」と偉そうに胸を張るくらいなら許せる。マイケル様の店ではなく、私の店だけど……と胸の中で文句は言うけどね。


 だけど。


「どれでも好きなものを選べよ。みんなにプレゼントしてやるから」


 支払いをしないで、店の商品を勝手に持っていくのは……許せない。


「無料配布はできません。お支払いを」


 詰め寄った私に「うるさいな婚約者なんだから、オレの顔くらい立てろ」と怒鳴ってきた。


「それとこれは話は別です。代金も支払わず奪うというのなら、それは強盗や泥棒と同じ。被害届を出します」

「ああ、うるさい! だったらツケ払いにすればいいだろ! そのうち支払ってやるからさ!」


 ……同じようなことが何度も繰り返された。もちろん請求書を書いた。未支払いと明記し、購入者の欄にきちんとフルネームでマイケル様の名を書かせた。

 支払期限は、購入日より一か月後とも書いた。

 支払期限が迫っている、支払い期限は過ぎた。何度伝えても、代金が支払われたことはない。


 だから、まず、マースデン子爵に支払い請求を出した。


 最初は申し訳なさそうに謝って、きちんと代金を払ってくれていたマースデン子爵。

 だけど、十回を超える頃から「婚約者同士なのだから、直接マイケルから取り立てるか、もう君の店でツケ払いをやめさせれば良いだろう」と言い出した。


 ツケ払いは駄目だと言っても、マイケル様はわたしの店の商品を持って行ってしまう。何とか請求書にサインはさせたけど、踏み倒す気は満々だろう。


 マイケル様にとって、私という婚約者は、既に搾取してもいい相手になり果てている。


 だから、今のように、私に高圧的な態度をとるのだ。


 請求書を並べ終えた会計台の上に、更に一枚、別の書類も置いた。


「請求書、それから婚約解消届よ。届にサインをしてくれるのなら、請求書はこの場で破り捨ててあげる」

「はぁ?」


 私はマイケル様をギッと睨む。


「さあ、どうしますかマイケル・L・マースデン子爵令息。婚約解消届にサインをするのなら、溜まりに溜まった未支払いの代金をチャラにして差し上げますが。それとも婚約破棄にしますか?」

「解消と破棄の何が違うんだよ!」

「解消ならお互いの合意の上。破棄ならばマイケル様の有責となります。なので未払いの代金のお支払いを請求します。当然慰謝料も」

「ぐっ!」


 金貨で百二十枚分が、即金で支払えるはずがない。


「婚約は継続したいが支払えないなんて、舐めたこと言わないでくださいね。この請求書を持って、裁判所に駆け込んでもいいんですよ」

「うっ!」


 支払うべき料金の踏み倒しだ。裁判に持ちこめば私が勝つだろう。だけど、時間がかかる。裁判の間、身動きが出来なくなる。

 だから、裁判という手段は使いたくはない。


「ついでに言うのなら、顛末を記した文章、請求書の写しなどを、既に複数の新聞社に届けております。記事掲載料は支払ってありますので、私が掲載不許可と言わない限り、後日、新聞の一面トップを飾りますよ」


 名誉を重んじる貴族の令息が、婚約者の店の品物を、料金も支払わずにいくつも強奪し、そのせいで婚約破棄を言い渡された。それが新聞に載る。ものすごく不名誉だろう。

 マイケル様個人だけではなく、そんな息子を放置していたマースデン子爵家の評判だって、地に落ちる。


「く……! 生意気な平民女め! 困るのはオマエなんだからな!」


 マイケル様が私を睨みつけるけど。


「いいえ。ぜんぜん、まったく、困りません」


 このまま搾取され続ける方が問題。私は不敵に笑った。


「さあ選びなさい。婚約解消届にサインをするか、金貨百二十枚の支払いか、裁判所に駆け込まれるか。私はどれを選んでもらっても構わないわよ」


 マイケル様はわたしを睨みつけて、それでもペンを奪うようにして取り、婚約解消届にサインをした。


「これでいいんだろ!」


 私はじっとそのサインを確認する。マイケル様がわざと書き損じて、届が無効とならないように。うん、良し。問題ない。


「ええ。これで、私とマイケル様は無関係。さようなら、二度と私の店に来ないでね」


 私は蔑むように、フンッと鼻を鳴らした。

 来ても、もうすぐ私の店はなくなるけどね。

 ……マイケル様は貴族だ。裁判だの新聞社だのを使ったところで、貴族に本気を出されたら、私みたいな若い女なんてどうなるか分からない。

 このままこの街にいて、私の知り合いやお世話になった商会の人たちにまでなんらかの影響が出るのも困る。強気で拒絶したのち、さっさと逃げる。それが最善だろう。


「ちっ!」


 マイケル様は会計台を蹴っ飛ばしてから、私の店を出て行く。

 乱雑に閉められたドアの音に、ミリーは顔を顰めたけれど、私は目の下に右手の人差し指を当てて、舌を出した。


「あっかんべー! 二度と来るな!」


 それから、破り捨ててあげると言った請求書は細かくビリビリに破って、それを天井に向かって投げ捨てる。

 紙吹雪。

 きれい。


 金貨百二十枚はもったいないけど、新聞社への記事掲載は止めると言っていないからね。

 止める気もないし、五日後には新聞にマイケル様の記事が乗る。

 新聞社の人には即日掲載も可能と言われたけど、逃げる時間も欲しいから。だから、五日後にしてもらったのだ。

 ささやかな仕返しよ。

 ざまあみろ!

 あーっはっはっはと、高笑い。実は半分ヤケだ。泣きたくないから、敢えて笑う。


 私のその様子を見て、ミリーが溜息をつく。


「……オードリー店長、子どもじゃないんですから」

「まあ、いいじゃない、ミリー。それよりも、私は行くから後始末はお願いね」


 後始末というのは紙吹雪にしたゴミ紙の始末ではない。

 実は、借りているこの店は、もうすぐ賃貸契約が切れる。更新はしなかった。

 つまり、私は元々、婚約を破棄なり解消なりして逃げるつもりだったのだ。

 借りるときに支払っていた敷金、それから礼金。礼金はともかく敷金はそれなりに返金されるだろう。

 残りの今日と明日で店に残った商品は全品半額でも九割引きでもなんでもいいから、とにかく売れるだけ売って、売れ残ったものは捨てろと言ってある。

 返金された敷金とセールの売上金、すべてミリーに渡して、他の従業員にも分配するよう指示もした。


「敷金は多分半分くらいは返してもらえるでしょうし、商品は閉店セールとして売りまくったら……かなりの金額になりますよ?」

「後始末の迷惑料込みだから」

「店長……」

「新聞記事を読んだマイケル様が怒鳴り込んでくる前に、ミリーたちも逃げてね。私が居なければ大丈夫だとは思うけど、万が一乗り込まれたら、私は他国に行ったと告げて頂戴」


 いくらマイケル様だとて、他の国までは追いかけてこないだろう。私は用意してあったボストンバッグを手にした。


「今までありがとう、ミリー」


 このルブルクセン王国を出て、隣国であるエルミス王国に向かう。

 今回の失敗を教訓に、今度こそ、私は私の居場所を見つけたい。


「……本当に、行っちゃうんですね」


 ミリーは涙ぐむ。

 従業員のほとんどは、この街出身。生まれ故郷から離れたことはない人ばかり。

 ……私とは、違う。

 私の生まれ故郷はこの街じゃない。この国じゃないかもしれない。


 母と一緒にお屋敷を追い出されて馬車に乗った。彷徨って、たまたまこの街に定住できただけ。

 ……ここが、元々の故郷じゃないから、店も捨てて他国に行く決心がついたのかもしれない。

 もしかしたら、私は定住することなく、彷徨う運命なのかも……なんて。


 ああ、悲観的になっちゃダメだ。

 この店をなくして他国に行くのは前向きな選択。

 新天地への出発なの。

 私の未来は明るい……はず。


 国を出ずに、国内の他の都市での商売も考えた。

 でも……国内なら、縁を切ったはずのマイケル様からまた搾取される可能性もある。搾取されないまでも、悪い噂程度は振りまかれるだろう。

 それを考えれば、拠点を別の国に移すくらい、なんてこともない。母の遺品の首飾りだけは私の首にいつもかけてあるから、共同墓地にお墓参りに行けなくても、これでいい。


 全て清算しての再出発。持っているのは首飾りとボストンバックの中身だけ。身軽だ。


 それに、次の商売としてやりたいことも、もう考えてある。

 魔法の加工品。

 そのためには、近隣諸国で一番魔法が発達しているランディア王国まで行くのが良いのだろけれど……。


 私が今暮らしているルブルクセン王国。南下するとエルミス王国がある。エルミス王国から陸路か海路で西に行くと、ランディア王国に到達する。


 ランディア王国には、ローレンス・グリフィン・ミルズ魔法伯という、歴史書に名を残すほどの魔法使いが所属している魔法協会がある。


 世の中に、魔法を使える人間は割といるけど、その魔法協会に認定される魔法使いはごく少数。


 なにせ、認定試験の開催は年に一回。

 試験の合格者は年に一人いるか、いないか。合格者がいない年さえある。


 だから、試験に合格して、認定魔法使いになった人は、突出して優秀な魔法使いなのだ。


 そんな優秀な認定魔法使いに魔法を習えたらいいんだけど……。


 まず、伝手がない。そして、認定魔法使いに個人教授をお願いできるほどのお金が私にはない。ついでに言うのなら、私には認定されるほどの突出した魔法の才能もない。


 ないない尽くしだから諦める……つもりもない。


 行き止まりだと思う道でも、よく見れば、どこかしらに開けているものだ。


 ランディア王国で認定魔法使いになる……なんて、難しい道を選ばなくても、もっと簡単な道がある。

 そう、エルミス王国には、認定魔法使いたちが作った新しい魔法学校があるのだ。


 魔法学校は、数年前にローレンス・グリフィン・ミルズ魔法伯が、エルミスの王族に請われて設立した学校らしい。

 ローレンス魔法伯の片腕であり弟子のクライヴ・ユーバンク・クリス様や、若手の認定魔法使い第一人者であるなんとか氏、それから、名前は知らないけど最年少認定魔法使いの人も、エルミスの魔法学校で教鞭をとっているとか。


 もちろん、彼らに魔法を教えてほしいと頼むのは無理だろう。

 でも、ちょうど一か月後に行われる入学試験は誰でも受けることはできる。

 なにせ、試験料は銀貨三十枚。私の食費、一か月分程度。

 高いが、支払えないというレベルではない。

 その試験を受ける。

 だけど、受けて、合格して、魔法学校に通う……のではない。だって、入学金とか授業料とかめちゃくちゃ高額だもの! 入学金だけで、食費一年分相当よ!


 筆記の一次試験。それから面接の二次試験。

 二次試験では、認定魔法使いが面接官を務めるらしい。


 だから、そのときに。

 私は面接官の認定魔法使いに頼むつもりなのだ。


 格安で、個人教授をしてください……と。


 だから、私は行く。エルミス王国へ。新天地で、居場所を探す。


 首からかけてある自分と母のネックレスを、服の上からぎゅっと握る。


 ここは、私の居場所じゃなかった。ただ、それだけ。捨てる選択を悔やむことはない。



 でも……。



 私の居場所は、本当に落ち着ける場所は、どこにあるのだろう……。



お読みいただきましてありがとうございました!


主人公オードリーをよろしくお願いいたします!

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