Route:008 - 迷宮の戦利品
結論から言うと、服は手に入った。
ただ、やっぱり長期間放置されていたこともあって、ハンガーにかかったまま埃を被っているものもあれば、虫食いでボロボロになっているものもあった。
その中で、ビニール包装されていたものや、奥の方にあって無事だったものを幾つか回収してきたのだけれど……。
「ねえ、ルナ」
「ん、ユキ」
『ポラリス』のリビングスペース。
テーブルの上に戦利品を広げて、私たちは微妙な顔を見合わせた。
「……結局、同じようなものばっかりだね」
「ん。やっぱり、これが一番落ち着く」
人のことは言えない。
私が選んだのは、今着ているのと代わり映えしない動きやすいパーカーとショートパンツ、スカートなど。ルナも似たような黒系の服ばかりだ。
冒険しようと思えばできたのに、結局は「機能性」と「着慣れたもの」を選んでしまう。悲しいかな、サバイバーの性というやつだ。
とはいえ、パッケージに入った新品の下着や、サイズの合う靴を新調できたのは大きい。多少の経年劣化はあるけれど、ゴムが伸び切った古着よりは何倍もマシだ。
「で、ルナさん……これは何?」
私は山積みになった服の中から、異質なオーラを放つ『それ』を摘まみ上げた。
黒と白のフリル。光沢のあるエプロン。
「ん。メイド服」
「それは見れば分かるけど! なぜ!?」
コスプレコーナーにあったやつだこれ!!
しかもドン・ペンギン(仮)特有の、妙に布面積が少なくて可愛らしいデザインのやつ。あの迷宮のような店内で、ルナはいつの間にこれをカゴに入れたの?
「メイド服は機能性に優れる」
「……はい?」
「エプロンがあるから汚れても平気。ヘッドドレスは髪をまとめるのに役立つ。つまり、作業着として優秀」
「……いやまあ、百歩譲ってそうかも知れないけど」
真顔で力説されると、そんな気もしてくるから不思議だ。
でも、ルナがこれを着て車内を掃除するところを想像すると……うん、悪くない。むしろ見たい。
「ん。それよりもユキもおかしい。これは何?」
ルナが私の袋から、黒いテカテカした物体を取り出した。
網タイツと、うさ耳カチューシャがセットになっている。
「え? ……バニーガール衣装」
「……それこそ、いらなくない? 機能性ゼロ」
「ぐっ、正論……!」
「なんで持ってきたの」
「いや、その……魔が差したというか……」
あの店の魔力だ。
黄色い壁、所狭しと並べられた商品、そしてスピーカーから途切れ途切れに流れる『ドンドンドン、ド~ン……』という歪んだテーマソング。
あの独特な空気が、私の判断力を鈍らせたに違いない。
「あ、あと! ルナに着てもらったら可愛いかなと思ったからかも!」
「っ!」
「ほら、ルナって黒髪ロングだし、絶対似合うよ。ちょっとあててみていい?」
「……ばか」
ルナが顔を赤くして、ポコポコと私の肩を叩いてくる。
痛い痛い、ごめんって。
でもその反応を見る限り、満更でもなさそうだ。
「いやでも、メイド服もなんかちゃっかり2着あるし……」
「……一緒に着るのも、楽しいと思う」
「……ルナ」
ボソッと言われたその言葉に、今度は私が赤面する番だった。二人でメイド服を着て、誰もいない世界でお茶会?
……何それ、最高に楽しそう。
「うん、まあ……今すぐ着るかどうかは置いといて。大事にしまっておこうか」
「ん。ここぞという時の勝負服」
「誰と勝負するのさ」
私たちは笑い合って、フリルの塊をクローゼットの奥へとしまった。
話が逸れたが、流石はあの店だ。品揃えはかなり豊富だった。
店内は真っ暗というわけでもなく、自家発電が生きているエリアはライトが点いていたし、驚くことに空調も微弱ながら動いていた。
外の世界よりひんやりとした店内で、ホラー映画の主人公みたいに懐中電灯片手に歩き回るのは、なかなかのスリルだったけれど。
冷凍庫や冷蔵庫の一部も稼働していたから、冷えたジュースや、奇跡的に無事だった真空パックのおつまみなんかも回収できた。
これ以上は車に載らないから諦めたけれど、まさに宝の山だったと言える。
「あ、あとこれ。一番の収穫」
私が袋から最後に取り出したのは、お揃いのパッケージに入った服だ。
「パジャマはおそろい」
「ん」
白いデザインの、肌触りの良さそうな綿のパジャマ。
女性向けのコーナーで、奇跡的に色あせもせず残っていたものだ。今まで寝る時もジャージやスウェットだったけれど、今夜からはこれを着て眠れる。
「早速、着替えてみよっか」
「ん。……お風呂上りだし、ちょうどいい」
外はもう暗い。
窓の外には廃墟の街が広がっているけれど、車の中だけは明るくて、新しい服の匂いがする。今夜は、ペンギンの迷宮で見つけたささやかな幸せに包まれて、いい夢が見られそうだ。
(続く)




