Route:007 - 賞味期限とペンギンの迷宮
「あ、これもらっていこう」
翌日。
私たちは町の中を走りつつ、時折、お店だった建物の残骸に寄り道をして資源回収を行っていた。
返す相手はもう居ないから「拝借」という言葉は正しくないかもしれない。遺品整理、のほうが近いかな。
まずはドラッグストア跡地へ。
日用品や生理用品、トイレットペーパーといった生活必需品は、見つけ次第回収するのが鉄則だ。それから医療品。消毒液や脱脂綿、包帯に絆創膏。風邪薬や鎮痛剤も重要だ。
「使用期限切れそうなやつは除外して……と」
薬はかなり長い間使えるけれど、変色しているものは避けて、箱が綺麗なものを優先的にリュックに詰め込む。
ルナも、いつものポーチではなく大き目のボストンバッグを持ってきている。まあ、このリュックもバッグも、どこかのアウトドアショップから拝借したものだけど。
次は、食品コーナー。
狙いは缶詰だ。非常食にはもってこいだし、物によっては製造から数年、いや十年単位で持つものもある。
味の保証はないけれど、背に腹は代えられない。
「ワインももらっておこうかな」
酒棚の前で、私は埃を被ったボトルを手に取った。
ワインに賞味期限はない。数十年もののヴィンテージがあるくらいだし、むしろ時間が経って美味しくなっている可能性すらある。
飲み過ぎは良くないけれど、たまの楽しみは必要だ。水だけの生活なんて、心が乾いちゃうしね。
ちなみにジュース類は、ペットボトルは劣化して蒸発してしまうのでNG。大丈夫そうなアルミ缶のものだけを選んで回収する。やっぱり缶は最強の保存容器なのだ。
「んー、他は野ざらしになってるから危ないかな? 大丈夫そうなのはこのくらい?」
レジカウンター(もちろん店員はいない)に戦利品を並べて検品する。
飲むときはもう一度、色や匂いをチェックしてからだけど、とりあえず見た目が無事なものは合格ラインだ。
「思ったより回収できた気がする」
ずっしりと重くなったリュックを背負い直す。
「ルナは終わってるかな?」
私は店内を見渡し、医薬品コーナーにいる相棒に声をかけた。
回収した物資を、『ポラリス』のキッチンにある冷蔵庫とパントリーに収納していく。棚が食料で埋まっていくのを見ると、なんとも言えない安心感がある。
「これで当分は持つかな」
「ん。今現在でも十分な備蓄量」
「それはそうだね。まあ、私達二人しか居ないもんね」
女性二人の消費カロリーなんてたかが知れている。私もルナも小食な方だし、これだけあれば数ヶ月は余裕で生きられるだろう。
「食料よし、医療品よし。……あとは」
私は自分の服の袖を摘まんで、くんくんと匂いを嗅いだ。
……うん、なんか埃っぽい。
「衣料品とか探してみない?」
「ん? 医療品ならさっき……」
「そっちじゃなくて、衣料品。服!」
「あー……」
ルナが自分のパーカーを見る。
私たち、ここ最近ずっとこの服と、予備の一着を着回しているだけだ。
シンプルで動きやすいパーカーにスカート。機能的ではあるけれど、女子らしさもお洒落さも皆無なサバイバルスタイル。
誰も見ていないとはいえ、そろそろ新しい気分になりたい。
「あっちに、雑貨屋っぽい大きなお店があったよ。なんでもありそうなやつ」
「もしかして、あれのこと?」
ルナが窓の外、数百メートル先にある巨大な建物を指差した。
黒と黄色の派手な外壁。そして屋上には、ナイトキャップを被った可愛らしいペンギンのキャラクターが描かれた看板。
ペンギンの塗装は剥げかけ、看板の文字も『激安の……』以降が欠落しているけれど、それが何のお店かは一発で分かる。
「そうそう。あのお店、営業時間が長いから昔は助かったなあ」
「ん。深夜徘徊の聖地」
「言い方」
あそこなら、服はもちろん、家電からパーティグッズまで何でも揃うはずだ。ジャングルのような圧縮陳列が売りの、あのお店。
「というか、あそこは行かなかったの? ルナ、さっき近くを通ったでしょ」
「ん……」
ルナが少し視線を逸らす。
「ああいうところを、一人で歩くのはちょっと怖い」
「怖い?」
「……商品が多すぎて、迷路みたいだから。影から何か出てきそう」
「ああ、なるほど」
確かに。電気が消えた状態であの迷宮のような店内を歩くのは、ちょっとしたホラーゲームかもしれない。
可愛らしいデザインでもそのペンギンの威圧感は伊達じゃない。
「ふふ。じゃあ一緒に行こうか。私が先導してあげる」
「……ん。ユキがいるなら、大丈夫」
そうと決まれば出発だ。
私たちは新しい服――できれば可愛いパジャマとか――を求めて、ペンギンの待つ迷宮へと向かうことにした。
知ってる人なら一発でわかりそう()




