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終わった世界をキャンピングカーで。~白と黒の少女の、気ままな終末紀行~  作者: 月夜るな


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Route:054『白い世界』



「……めっちゃ吹雪いてる」

「ん。ここまでとは」


 一夜明け、私たちはリビングの窓から外を覗き込んでいた。夜の闇は去ったけれど、代わりに世界を支配しているのは「白」だ。

 空と地面の境界線が分からない。


 横殴りの雪が視界を埋め尽くし、数メートル先の立ち木さえ霞んでいる。いわゆる、ホワイトアウト。


「昨日よりは少しマシ……かな?」

「ん。風速は低下してる。でも、視界不良は変わらず」

「だね。運がよければ今日中に止むかなぁ」


 これでは『ポラリス』の高性能センサーでも、道路の端を認識するのは難しいかもしれない。無理に進んで溝に落ちるよりは、このまま待機が正解だ。


「まさか日本で、こんなブリザードみたいなものに出くわすとはね……」

「やはり、寒冷化が進行してる」

「地球は熱を帯びすぎたから、冷やしてるのかな」

「ん。熱冷まし」


 大体が私たち人類の責任だ。

 かつて温暖化、温暖化と騒いでいたけれど、それも自業自得。

 人間という熱源ウイルスがいなくなって、地球は本来の冷たくて静かな姿に戻ろうとしているのかもしれない。


 もしかすると、かつての氷河期というものが再来しつつあるのかも。

 根拠はないけれど、この窓の外の白い地獄を見ていると、あながち間違いじゃない気がしてくる。


「氷期が来るのは数万年先って、教科書で読んだ気がするけど」

「何が正しいのか分からない」

「ん。結局は仮説だから。現実はいつも予想外」


 それもそっか。

 私たちは今、誰も見たことのない「正解」の中を生きているんだ。


 窓ガラスに手を近づけると、ひんやりとした冷気が伝わってくる。断熱材の入った壁一枚隔てた外は、命を許さない極寒の世界。

 そう思うと、急に心細さが込み上げてきた。人肌が、恋しい。


「……ねえ、ルナ」

「なに?」


 私はソファに座ったまま、隣のルナに声をかけた。


「ちょっと、こっちに来てもらっていい?」

「……なんで?」

「だめ?」

「うっ……」


 ちょっとずるい表情(上目遣い)をして見せると、ルナが弱ったように眉を下げ、大人しくこちらに寄ってきてくれた。

 本当に、この子は私に甘い。


「……ぎゅ」

「ん!?」


 私はルナの腰に腕を回し、正面からぎゅっと抱きしめた。身長はほぼ同じだから、顔がすぐ近くにある。

 甘いシャンプーの匂い。


「な、なに、してるの……」

「いやあ、ついついルナをぎゅっとしたくなった」

「……」


 最初はモゾモゾと身じろぎしていたルナだったけれど、私が力を緩めずにいると、やがて観念したように体の力を抜いた。

 ちらりと顔を見ると、耳まで真っ赤になっているけれど、拒絶の色はない。むしろ、少し潤んだ瞳が安心しきっているように見える。


「……ん。お返し」

「おー?」


 ルナがおずおずと、私の背中に腕を回し返してきた。

 そして、私の胸元に顔を埋める。

 トクン、トクン、とお互いの心臓の音が伝わってくるようだ。


 温かい。

 即席コタツも温かいけれど、やっぱり生きている人間の体温には敵わない。これはただの物理的な熱の伝導だけじゃなくて、もっと深い部分――心の芯まで温めてくれる熱だ。


「……あったかいね」

「ん。……安心する」


 外は世界を凍らせる吹雪。

 でも、こうして抱き合っていれば、私たちは無敵だ。

 別に密着すること自体は恋人になってからは珍しくないけれど、こういう何でもない時間の抱擁こそが、一番贅沢なのかもしれない。


 私たちはしばらくの間、言葉もなく、ただお互いの存在を確かめ合うように抱き合っていた。窓の外の白さが、少しだけ優しく見えた気がした。


(続く)

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