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終わった世界をキャンピングカーで。~白と黒の少女の、気ままな終末紀行~  作者: 月夜るな


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53/60

Route:053『極寒の吹雪と即席コタツの魔力』



「……ここ、南極とかだったりしない?」

「それはない。わかって言ってるでしょ。……気持ちはわからなくないけど」


 私がなぜそんな現実逃避じみたことを言ったのか?その答えは、ディスプレイに表示された外気温にある。


「マイナス18度」

「……冷凍庫の中と変わらない」


 以前、基地で見つけたレーション保管庫がマイナス20度だった。あれは人工的に維持された温度だったけれど、今のこれは天然自然の気温だ。


 窓ガラスの端には、内側からでも分かるほど分厚い氷の結晶――窓霜ウインドウフロストがびっしりと張り付いている。


 『ポラリス』のエネルギーモニターを見ると、暖房システムがフル稼働しているのが分かる。核融合炉の出力ゲージが、普段より少し高い位置で安定していた。


「ん、問題ない。動力炉、正常稼働中」

「そりゃね。そんな簡単に壊れたり止まったりするほどヤワじゃないし。核融合炉さまさまだねえ」

「ん」


 この半永久的にエネルギーを生み出す心臓部のおかげで、外が死の世界でも、私たちはTシャツ一枚で過ごせるほどの暖かさを享受できている。

 何でも小型化したがる日本の技術力が、車載用核融合炉なんていうオーパーツを生み出したことに、今ほど感謝したことはない。


 しかし、いくら車がすごくても、外の状況は悪化する一方だ。


「外、雪増えてきた」

「わぁ、本当だね……」


 視界が白く濁り始めている。

 風の音が、ヒュオオオオ……と低い唸り声のように車内まで響いてくる。冬の風物詩といえば聞こえはいいが、限度がある。これは、ただの降雪じゃない。


「警告」


 ルナが鋭い声を出した。手元のタブレットが赤い点滅を繰り返している。


「気圧が急激に低下してる。この雪の降り方と風……猛吹雪ブリザードが来る」

「うへぇ、マジで?」

「ん。視界ゼロのホワイトアウトになる可能性が高い。流石にその中の運転は危険」

「だよね。吹き溜まりに突っ込んだら、いくらポラリスでも動けなくなる」


 私たちは顔を見合わせた。

 判断は早い方がいい。


「よし、緊急停止。この先の道の駅に避難しよう」

「ん。賛成」


 私たちは少し先に見えていた「道の駅」の駐車場に滑り込み、建物の影になる位置に車を停めた。エンジン(駆動系)は切るが、ジェネレーター(発電系)は維持。

 これでしばらく足止めだ。


 ちなみに、道の駅という看板はあるのだがその下の名前の部分は掠れきっていて読めなかった。ルナのタブレット内のナビシステムも道の駅とだけしか表示されてない。


「……暇だね」

「ん」


 外は轟音を立てて荒れ狂う白い地獄。

 車内は静かで暖かいけれど、ソファに座っているだけだと足元が少しスースーする気がする。床暖房も入れているはずなんだけど、底冷えがすごいのだ。


「ねえ、ルナ。あれ、やらない?」

「あれ?」

「日本人が発明した、最強の暖房器具」


 私はニヤリと笑って、収納棚から分厚い毛布を引っ張り出した。


「……まさか」

「そのまさか。即席コタツを作ろう!」


 コタツ。それは魔の器具。


 一度入れば二度と出られなくなる、人間をダメにする装置。『ポラリス』にコタツそのものは積んでいないけれど、仕組みは簡単だ。

 リビングのローテーブルに毛布を掛けて、その上に天板(代わりの板)を置く。熱源は、テーブルの下に温風ヒーターの吹き出し口を向けるだけ。


「完成!」

「……見た目は悪いけど」

「機能美と言ってよ。ほら、入ってみて」


 ルナが恐る恐る、毛布をめくって足を入れる。


「……っ」

「どう?」

「……あったかい」

「でしょ? でしょ?」


 私も対面から滑り込む。

 おお、極楽。足先からじんわりと熱が伝わってくる。テーブルの下、暗がりの中でルナの足と私の足が触れ合った。


「ん……」

「あ、ごめん。邪魔だった?」

「ううん。……もっとくっついていい」


 ルナが私の足に、自分の足を絡めてくる。

 冷たい指先が触れ合い、互いの体温を交換する。外の吹雪の音すら、今は心地よいBGMだ。


「これで蜜柑があれば完璧なんだけどなぁ」

「ん。……缶詰のミカンならある」

「それだ!」


 私たちは即席コタツに入ったまま、シロップ漬けの甘いミカンを分け合った。

 急ぐ旅ではない。


 世界が凍りつくような嵐の日こそ、こうしてのんびりと、誰よりも温かく過ごそうじゃないか。


(続く)

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