Route:052『終末世界の年明け』
デジタル時計の秒数が57、58、59……そして、00へと切り替わる。
――2224年1月1日 00:00
年が明けた。
遠くの山寺から響いていた除夜の鐘も、いつの間にか止んでいる。
世界は再び、深雪に吸い込まれるような静寂に包まれた。
「……あけまして、おめでとう」
「ん。あけおめ、ユキ」
私たちは向かい合って、ぺこりと頭を下げた。
たった一つの数字が変わっただけ。
けれど、誰もいない世界でまた一年を生き延び、新しい年を二人で迎えられたことは、奇跡みたいに特別なことだ。
「今年もよろしくね、ルナ」
「ん。こちらこそ。……今年も、ずっと一緒」
ルナが少し照れくさそうに微笑む。
最高の年明けだ。
さて、感傷に浸っている場合じゃない。
私たちは早々にカップ麺の容器を片付け、運転席へと移動した。普段はリスクを避けて夜間の運転はしないけれど、今日は特別だ。
「目指すは海。初日の出を拝みに行こう」
「ん。地図データによると、東の海岸まで約30キロ」
「ほうほう。そこまで遠くはなさそうだね」
「ん。でも油断禁物。外は真っ暗だし、雪も降ってる」
「もちろん」
私はエンジンを始動させ、ヘッドライトを点灯した。
強力なLEDの光が、闇の中に白い帯を作る。舞い落ちる雪片がライトに照らされ、光の粒となってフロントガラスに流れてくる。
「じゃあ、行こうか。2224年、初ドライブ!」
「ん。発進」
『ポラリス』が静かに動き出す。
今までとは違う、真夜中の雪道ドライブだ。
周囲は漆黒の闇。けれど、所々で生きている街灯が、スポットライトのように雪道を照らし出している。
誰もいない交差点の信号機が、律儀に赤から青へと変わる。その光景はどこか幻想的で、まるで私たちのためだけに用意された滑走路のようだ。
「道が変わってたら迷うかも」
「その時は、気合で」
「……根性論」
「冗談だよ。ルナのナビがあるから大丈夫」
私が笑うと、ルナも小さく息を吐いてタブレットに視線を戻した。信頼できる相棒と、頼もしい愛車(足)。
不安なんてない。
◇
山道を抜け、平野部に出ると、空がわずかに白み始めた。夜明け前の、一番暗くて、一番美しい藍色の時間。
私たちは海岸線沿いの広い駐車スペースに車を停めた。
目の前には、広大な太平洋。
波の音が、ザザーン……と響いている。
「……そろそろだね」
「ん」
私たちは防寒具を着込んで、外に出た。刺すような寒さだけど、空気が澄んでいて気持ちいい。
水平線の向こうが、茜色に染まり始める。
そして――。
一筋の強い光が、海を割って現れた。
初日の出だ。
圧倒的な光のエネルギーが、冷えた世界を黄金色に塗り替えていく。
「きれい……」
「ん。神々しい」
私たちは自然と手を合わせた。何を祈るわけでもないけれど、ただこの光景に感謝したくなる。
「あ、あそこに鳥居がある」
ルナが指差した先、海を見下ろす小さな岩場に、古びた石の鳥居が立っていた。社は崩れているけれど、鳥居だけは残っている。
「せっかくだし、初詣していこうか」
「ん。お賽銭はないけど」
「気持ちの問題だよ」
私たちは雪を踏みしめて鳥居の前まで行き、二礼二拍手一礼をした。
(今年も、ルナと美味しいご飯が食べられますように)
(大きな怪我や病気をしませんように)
(そして、この旅が少しでも長く続きますように)
目を開けると、横でルナも真剣な顔で祈っていた。
何をお願いしたのかな。たぶん、私と同じようなことだろうけど。
「よし、帰って寝よう! 初夢も見なきゃだし」
「ん。お雑煮も食べたい」
「お、いいね。お餅、余ってたっけ?」
新しい太陽に見送られ、私たちは温かい我が家へと戻っていった。
今年もきっと、いい旅になる。
(続く)




