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終わった世界をキャンピングカーで。~白と黒の少女の、気ままな終末紀行~  作者: 月夜るな


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Route:051『年越しのカップ麺』



 時間が過ぎるのが早いか遅いか、それは主観の問題だ。何かに集中している時は一瞬だし、退屈な作業をしている時は永遠に感じる。

 けれど、この旅においては「早い」と感じることの方が圧倒的に多い。


 ピピピピ、とアラームが鳴る。

 ディスプレイに表示された時間は午前6時。

 冬至を過ぎたばかりの北国において、この時間はまだ深夜のように暗い。


「……ん。ユキ……」

「起きた? おはよう」

「ん……」


 トロンとした寝惚け眼のルナが、毛布の中から顔を出す。

 無防備で可愛いけれど、その顔を見ていると二度寝したくなるので、私はえいやっと上半身を起こした。


 窓の外はまだ薄暗く、しんしんと雪が降っている。

 いつも通りの朝。

 けれど、今日は少しだけ特別な日だ。


 ――2223年12月31日


 スマホのカレンダーがそう告げている。

 ルナが衛星と同期させたおかげで、この日付は正確だ。今日は大晦日。この誰もいない世界で迎える、一年の締めくくり。


「外気温、マイナス10度」

「うわぁ、しばれるねぇ」


 極寒の世界だけれど、『ポラリス』の中は春のように暖かい。

 程よい温度を維持してくれる優秀な空調システムに感謝しつつ、私はキッチンへ向かった。


「今日は大晦日だねぇ」

「ん。長いようで、早かった気がする」

「ルナと一緒に居られることが楽しいからね。楽しい時間は過ぎるのが早い」


 私はティーポットにお湯を注ぎ、濃いめに抽出した紅茶にミルクをたっぷりと加えた。

 甘い香りが広がる。


「はい、特製ロイヤルミルクティー」

「ありがと。……温まる」


 換気のために少しだけ窓を開ける。

 ヒュオッ、と冷たい風が吹き込み、頬を刺す。

 その冷気を感じながら温かい飲み物を啜るのが、冬の朝の密かな楽しみだ。


「この一年、色々あったね」

「ん。北海道を回って、海を渡って、ここまで来た」

「来年はどこにいるかな」

「……ユキの隣なら、どこでも」


 ルナがマグカップ越しに上目遣いで見てくる。

 朝から破壊力が高い。


 朝食は、いつもの『携行型食糧Ⅲ型』。今日は洋風メニューで軽く済ませた。

 Ⅲ型は美味しいし飽きないけれど、今日の主役は夜に取っておきたい。


「……夜は、お蕎麦にしたいな」

「でも、生麺も乾麺もない」

「そうなんだよねぇ。流石に手打ち蕎麦を作るスキルはないし」


 私たちは棚を漁り、一つの答えを見つけ出した。


「これがある」

「カップ麺!」


 以前、どこかのコンビニ跡で大量回収した『天ぷらそば』だ。

 保存技術が進化したカップ麺は、賞味期限も長く、お湯を注げば揚げたてのような天ぷらが蘇る。そう、最新であろうⅢ型の食糧のように。


「よし、今夜はこれで年越しだ」

「ん。贅沢な大晦日」







 夜。

 私たちは雪深い山寺の近くに車を停めていた。

 本当にお寺なのかは分からないけれど、地図データには『卍』のマークがあり、山の上からゴーン、ゴーンと鐘の音が聞こえてくるから間違いないだろう。


「……自動除夜の鐘システム?」

「ん。多分、鐘突きロボットがいる」


 誰もいない山中で、機械が正確なリズムで鐘を突いている。

 シュールだけど、その重低音は不思議と心に染みた。煩悩を払う108回の音色を聞きながら、私たちは熱々のお湯をカップに注いだ。


 3分待って、蓋を開ける。

 出汁の香りが立ち上る。


「いただきます」

「ん。……美味しい」


 ズルズルと麺を啜る音が、静かな車内に響く。

 ただのインスタント麺なのに、今まで食べたどの年越しそばよりも美味しく感じるのはなぜだろう。


「お蕎麦ってさ、『細く長く生きられますように』って意味があるんだって」

「ん。……わたしたちの旅みたい」

「そうだね。細くてもいいから、長く、ずっと一緒にいようね」


 私が言うと、ルナは箸を止めて、真剣な瞳で私を見た。


「ん。……来年も、再来年も。ずっとユキのそばにいる」

「ふふ、ダジャレ?」

「……ちがう」


 ルナが少しむくれた。

 遠くで、ゴーン、と鐘が鳴る。

 日付が変わるまで、あと少し。

 私たちは残りのスープを飲み干して、新しい年が来るのを静かに待った。


(続く)

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