表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終わった世界をキャンピングカーで。~白と黒の少女の、気ままな終末紀行~  作者: 月夜るな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/60

Route:050『星の降る屋上』



 『ポラリス』をビルのエントランス(車寄せ)に横付けし、私たちはガラス張りの自動ドアをくぐった。

 ロビーは静まり返っているけれど、暖房が効いていて暖かい。無人の受付カウンターを素通りして、エレベーターホールへ。


「……やっぱり」


 並んでいるエレベーターのボタンを押すが、反応がない。あるいは、ランプは点くけれど扉が開かない。


「セキュリティロックがかかってる」

「ん。高層階はオフィスか高級ホテル。関係者以外立ち入り禁止」


 ルナがパネルにタブレットをかざし、淡々とコードを解析し始める。普段は可愛い恋人だけれど、こういう時の彼女は頼れるハッカーだ。


「……セキュリティレベル、高い。でも、突破可能」

「お、いける?」

「ん。ゲスト権限を書き換えて、最上級VIPロイヤルで登録した」


 ピンポーン、と軽やかな音が鳴り、中央のエレベーターの扉が滑らかに開いた。中は金色の装飾が施された、少しバブリーな空間だ。


「さすがルナ様。一生ついていきます」

「ん。……一生養って」


 冗談を言い合いながら乗り込み、最上階のボタンを押す。

 Gがかかり、箱が上昇を始める。


 ガラス張りのシースルーエレベーターだ。足元から地面が遠ざかり、周囲のビル群がどんどん低くなっていく。


 チン、と到着音が鳴る。

 扉が開くと、そこは屋上へ続くメンテナンスエリアだった。重たい鉄の扉を(ここは物理で)押し開けると――


 ごうっ、と冷たい夜風が吹き込んできた。


「……うわぁ」

「すごい……」


 私たちは屋上のフェンスに駆け寄った。

 眼下に広がっていたのは、光の海だ。

 AIによって管理された街灯、ビルの窓明かり、道路を照らすライト。それらが碁盤の目のように広がり、どこまでも続いている。

 かつて人間が作り出し、今は機械たちが守り続けている文明の輝き。


 私は手すりから身を乗り出し、ふと悪戯心を起こして叫んだ。


「見ろ! 人がゴミのようだ!」

「……」


 隣でルナが呆れたように溜息をつく。


「……そもそも、人いないけどね」

「あはは、確かに! ゴミどころか、埃ひとつ落ちてないクリーンな街だ」


 誰もいない。動くものといえば、自動運転の清掃車くらい。

 それでも、上から見下ろすこの景色は、私たちがこの世界の「支配者」になったような錯覚を覚えさせてくれる。


「ここから見える全てが、私たちの庭だね」

「ん。広すぎて管理できない」


 私たちは笑い合った。

 寒さで鼻がツンとするけれど、不思議と降りる気にはなれなかった。


「……上、見て」


 ルナに促されて見上げると、そこにはもう一つの光の海があった。


 満天の星空。


 地上の人工的な光にも負けないくらい、強く、鋭く輝く無数の星々。空気が澄んだ冬の夜だからこそ見える、宇宙そらの深淵だ。


「きれい……」

「ん。プラネタリウムみたい」

「こっちが本物だけどね」


 その時、視界の端をスーッと光の筋が走った。

 流れ星だ。しかも、大きくて長い。


「あ、流れ星!」

「ん。……願い事」

「えっ、今からじゃ間に合わないよ!」


 慌てる私を見て、ルナがくすくすと笑った。


「嘘。願い事なんて、もうない」

「え?」

「だって、一番欲しかったものは、もうここにあるから」


 ルナが私の手を握り、自分のポケットに入れた。

 温かい。

 冷え切った指先が、彼女の体温で溶かされていく。


「……そっか。私もだよ」


 世界は終わってしまったし、人はいないし、未来はどうなるか分からない。でも、隣に君がいる。それ以上の願いなんて、今の私には思いつかない。


 私たちは言葉もなく、しばらくの間、空と地上の二つの星空に包まれて寄り添っていた。


 この夜。


 それは、間違いなく私たちの旅のハイライトだった。


(続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ