Route:047『Side:L / 欲張りな航路と、移動する要塞』
ユキとAIが運転している『ポラリス』。
この車は、ただのキャンピングカーじゃない。
核融合炉をメイン動力として、燃料補給なしで地球を何周でも走り続けられる。車内の空調、水循環、電力供給。全てが半永久的に稼働する、すごいやつ。
わたしは、運転席でハンドルに手を添えているユキを横目で見る。
基本はAIの自動運転だけど、彼女は念の為といって、常に前方やモニターを注視している。真剣な眼差し。綺麗な横顔。
……ユキは隠しているつもりかもしれないけれど、わたしは知っている。
この『ポラリス』には、過剰とも言える高度な防衛機構が搭載されていることを。
動体検知センサー、自動追尾タレット、高電圧の電撃ネットランチャー。どれだけのお金とコネを使ったのか、それとなく聞いても教えてくれなかったけれど。
でも、わたしには分かる。ハッキングしなくても、システムログを見れば一目瞭然だ。
だから、ここは世界一安全な場所。移動する要塞であり、わたしたちだけの甘い城。
タイヤが雪道の段差を越え、車体が小さく揺れた。
サスペンションが衝撃を殺し、車内には心地よい揺れだけが残る。静かな走行音は、まるで子守唄みたいだ。
外の景色は相変わらず、雪と枯れ木と廃墟の繰り返し。代わり映えしないはずなのに、ユキと一緒なら、ただの雪景色が宝石箱の中みたいに輝いて見える。
「……ふふ」
自然と、笑みがこぼれた。
「どうしたの? なにか嬉しいことでもあった?」
ユキが不思議そうにこちらを見る。
「うん。ユキと一緒で、嬉しいなって」
「……それはそれは。私も同じだよ」
ユキが少し照れたように鼻をこすった。こういう素直な反応が返ってくるのが、たまらなく好きだ。
わたしは手元のタブレットに視線を戻す。
青森県に入ったのは確定しているけれど、南下するにつれて、北海道の時と同じように地名データが欠損し始めている。
ここから先は、古い地図データと推測で進むしかない。
「ねえ、ユキ」
「ん?」
「秋田と、岩手」
「……うん?」
「ユキは、どっちがいい?」
わたしは地図を表示させた画面をユキに見せる。
「その問いの真意は……」
「現在地は青森の南端。ここから南下するルートは二つ」
「なるほど」
「西へ行けば秋田県、日本海側。東へ行けば岩手県、太平洋側」
日本海側は雪が多いけれど、海鮮が美味しいかもしれない。太平洋側はリアス式海岸の絶景が続いているはずだ。通常なら、どちらかを選んで最短ルートで東京を目指すところだけど。
「あ、そゆこと。……別に、どこでもいいかなぁ」
ユキが楽しそうに口角を上げた。
にしし、と悪戯っぽく笑う。
「なんなら、両方行っちゃう?」
……やっぱり。
ユキならそう言うと思った。わたしは呆れたような顔を作ってみせたけれど、内心では同じことを考えていた。
「それもいいかも。どうせ秋田と岩手は隣接してるし、ジグザグに進めばいい」
「でしょ? 急ぐ旅じゃないし、見れるものは全部見ておきたいじゃん」
旅に終わりはない。
誰かが待っているわけでも、締め切りがあるわけでもない。だったら、欲張りに全部楽しんでしまえばいい。
「りょーかい。ルート再検索。……欲張りな船長さん」
「ふふ。優秀な航海士さんがいて助かるよ」
わたしたちは顔を見合わせて笑い合った。
『ポラリス』は分岐点を迷うことなく直進する。まずは日本海側、秋田へ。その次は山を越えて岩手へ。気ままなジグザグ飛行が、ここから始まる。
(続く)




