Route:043『冬晴れのドライブ』
久しぶりの晴天だ。
ここ数日、ずっと分厚い雲に覆われていた空が、嘘のように澄み渡っている。突き抜けるような青空と、眼下に広がる純白の雪原。そのコントラストが眩しい。
気温は相変わらず一桁台をキープし、朝晩は氷点下になる極寒の世界だけれど、気分は晴れやかだ。
「……ん。いい天気」
「だね。久しぶりな感じがする」
私は運転席の窓を少しだけ開けた。
ヒュオッ、と冷たい風が吹き込み、頬を撫でる。
本来なら「寒い!」と閉めるところだけど、空調によってポカポカに維持された車内にいた私たちにとっては、この冷気が心地よい刺激になる。
頭がシャキッとするような、冬特有の澄んだ空気。
「さすがに長時間浴びてたら凍えちゃうけどね」
「ん。換気終了」
ルナが助手席から手を伸ばして、窓のスイッチを閉じた。密閉された車内に、再び静寂が戻る……はずだったけれど、今日は違う。
♪~
車内のスピーカーからは、軽快なアップテンポの曲が流れているからだ。
本州に上陸し、最高の温泉を堪能した私たちは、心機一転、BGM付きのドライブを楽しんでいた。
「ユキのスマホ、アニソンとかゲームの曲ばっかり」
「まあねえ。青春のバイブルだから」
ラジオは雑音しか拾わないけれど、スマホに保存された音楽データは生きている。懐かしいロボットアニメの主題歌や、やり込んだRPGのバトル曲。
文明華やかなりし頃の遺産だ。
「わたしも嫌いではないけど」
「でしょ? 日本のアニメは世界遺産級だったんだから」
かつて日本はサブカルチャーの大国だった。
廃墟になった街角にも、色褪せたアニメの看板やポスターが残っているのをよく見かける。
誰もいなくなった世界で、二次元のキャラクターたちだけが変わらぬ笑顔を振りまいているのは、少しシュールだけど。
「たまに流すと、いいよね」
「ん。テンション上がる」
ルナがリズムに合わせて、膝の上で指をトントンと動かしている。普段は静かな旅路だけど、たまにはこういう賑やかな移動も悪くない。
「気温は相変わらず低いけど、日差しは温かいね」
「仕方がないよ。それに、ルナも冬のほうが好きでしょ?」
「ん。暑いよりは、寒いほうが好き」
お互い、冬派だ。
空気が澄んでいて、世界が静かで、何より――
「寒ければ、くっつけるしね」
「……ん」
私がちらりと横を見ると、ルナが少し顔を赤らめた。
昨夜、温泉上がりにルナが結ってくれた髪――ハーフアップのお姫様スタイル――が、肩のあたりでさらりと揺れる。
鏡を見るたびに、少しだけ違う自分になったみたいで気分がいい。
「心機一転、だね」
「ん。次はどこへ行く?」
「とりあえず南下。寒すぎるのもあれだし、少しは暖かいところを目指そうか」
「りょーかい。ナビ設定、東京方面」
軽快なイントロがサビに入ると同時に、私はアクセルを踏み込んだ。
『ポラリス』が雪煙を上げて加速する。
歌声と一緒に、私たちは輝く冬の国道を駆け抜けていった。
(続く)




