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終わった世界をキャンピングカーで。~白と黒の少女の、気ままな終末紀行~  作者: 月夜るな


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Route:041『AIと湯上がり』



「あれ、これ……浴衣?」

「ん……本当だ」


 たっぷりと千人風呂を堪能し、体の芯まで温まった私たちは、ポカポカとした状態で脱衣所に戻ってきた。

 すると、脱衣籠に入れておいたはずの私たちの服(パーカーや下着)が綺麗に消えており、代わりに畳まれた浴衣と帯が置かれていたのだ。


「服……盗まれた?」

「まさか。こんな無人の山奥で?」


 一瞬だけ警戒して周囲を見回すが、不審な気配はない。代わりに、壁のディスプレイに『ただいま、クリーニングサービス中』という文字が表示されていた。


「ん。……なるほど、管理システムが気を利かせて、服を洗濯してくれてるみたい」

「えっ、勝手に? ……まあ、便利だけど」

「ん。乾燥まで40分。それまでリラックスしてね、ということらしい」


 ルナがバスタオル姿のまま、浴衣の横に丁寧に置かれていたタブレットを操作して確認してくれた。

 どうやら、入浴を検知したAIが、自動搬送ロボットを使って服を回収し、ランドリーに放り込んだらしい。

 下着まで洗われるのは少し恥ずかしいけれど、旅人にとって洗濯の手間が省けるのはありがたい。


「どうする? 全裸で待つわけにもいかないし」

「ん。せっかくのAIの気遣い。この浴衣、着てみよう」

「いいね。温泉といえば浴衣だもんね」


 置かれていた浴衣は、旅館によくある幾何学模様のものではなく、少しデザインの凝ったものだった。

 私の方には白地に椿の柄、ルナの方には紺地に月見草の柄。

 サイズもぴったりで、AIの観察眼の鋭さに舌を巻く。


「……帯、どうやるんだっけ?」

「ん。ちょうちょ結びでいいと思う」

「いや、それは違う気がするけど……まあいっか」


 慣れない手つきで、お互いの帯を結び合う。

 ルナが私の背中に回って、キュッと帯を締めてくれる感触がくすぐったい。私もルナの細い腰に帯を巻き、少し大きめのリボン結びにした。


「できた。……うん、可愛い」

「ユキも。似合ってる」


 鏡の前で並んでみる。

 湯上がりで火照った頬と、しっとりとした浴衣姿。普段のサバイバルな服装とは違う、艶っぽい雰囲気にドキッとする。


「よし、洗濯が終わるまで休憩処に行こうか」

「ん。喉乾いた」


 私たちは草履を履いて、ペタペタと廊下を歩いた。ロビーの一角にある休憩スペースには、畳敷きの小上がりと、マッサージチェアが並んでいる。

 そして何より重要なのが――


「あ! 瓶牛乳の自販機!」

「ん。フルーツ牛乳もある」


 腰に手を当てて飲むあれだ。

 自販機のディスプレイは点灯しているけれど、当然お金は使えないし、電子マネーのサーバーも死んでいる。

 ダメ元でボタンを押してみると、ガタン、と音がして冷えた瓶が出てきた。


「……フリードリンク?」

「ん。宿泊客へのサービスモードみたい」

「太っ腹だなぁ、AI女将は」


 私たちはそれぞれの瓶(私はコーヒー牛乳、ルナはフルーツ牛乳)を手に取り、窓際の椅子に腰掛けた。

 管理システムが動いているのか、中に入っていた飲み物は賞味期限が未来の日付になっていた。

 基本的に製造工程もAI管理なら、確かにありえる。ただ念の為、中身を確認して問題なさそうとわかったのでそのまま一口飲む。


 窓の外は相変わらずの吹雪。

 けれど、今はその冷たささえも心地よい。


「ぷはぁー! 美味しい!」

「ん。生き返る」


 甘くて冷たい液体が、火照った体に染み渡る。これ以上の贅沢があるだろうか。


「……極楽だねぇ」

「ん。ここに住みたい」

「あはは、それもアリかもね」


 でも、と私は思う。

 どんなに快適でも、旅を止めるわけにはいかない。この温かい時間は、厳しい旅の途中にあるからこそ輝くのだ。


「洗濯が終わったら、また出発だね」

「ん。……でも、もう少しだけ」


 ルナが私の肩に頭を預けてくる。洗いたての髪から、シャンプーと硫黄の混ざった良い匂いがした。


「うん。もう少しだけ、このままでいようか」


 私たちはクリーニング完了の通知が来るまで、静かなロビーで雪景色を眺めながら、湯上がりの余韻に浸り続けた。


(続く)

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