Route:030『氷点下の宝物庫と、エネルギー銃』
「……これって、RPG-7?」
「ん。形は似てるけど、多分『110mm個人携帯対戦車弾』」
「……またマニアックなものが出てきたね」
基地の深部、武器庫エリア。ルナが棚から引っ張り出してきたのは、私の身長の半分くらいありそうな巨大な筒状の兵器だった。
それはずっしりと重く、金属の冷たい質感が手に伝わってくる。
「とりあえず、戦車を破壊することを想定した武器」
「なるほど。……というか、ルナ、そういうの詳しいんだ」
「ん……知識データとして知ってるだけ。うろ覚えだけど」
タブレットで照合しながら淡々と解説するルナ。私も機械の構造には詳しいけれど、兵器のスペックに関してはルナの方が一枚上手らしい。
「で、これ持っていく?」
「ん。流石にいらないかな。動物相手に使うには火力過多だし」
「だよね。猪狩りにロケットランチャーはやりすぎだ」
「それに、爆風に巻き込まれるリスクがある。閉所で撃ったら私たちが死ぬ」
却下。
爆発物をキャンピングカーに積むのはリスクが高すぎる。ちょっとした振動や事故で起爆したら、旅が終わってしまう。
「とりあえず、武器周りの選定はルナに任せていい?」
「ん。りょーかい」
「私は私で、他の物資を探してくる」
私はルナを残し、別の通路へと足を向けた。
「おー……これは」
重厚な金属扉が並ぶエリア。
その中の一室に入ると、そこはひんやりとした冷気に包まれていた。壁一面に並ぶ棚、棚、棚。そこには無数の段ボール箱が整然と積み上げられている。
「自衛隊のレーションかな?」
手近な箱の蓋が少しずれていたので、中を覗き込んでみる。
銀色のレトルトパウチがぎっしりと詰まっていた。箱の側面には『携行型食糧Ⅲ型 Type-C』の文字。
「賞味期限は……わぁ」
印字を見て、感嘆の声が出る。常温保存でも5年以上。そして、特定の条件下ではほぼ無期限。
その「特定の条件」というのが――
「……今更だけど、ここ寒いな」
私は自分の腕をさすった。パーカー越しでも冷気が染みてくる。
吐く息が白い。一旦通路側に戻り、そこにある温度計を見れば、表示は『-20℃』となっていた。
「冷蔵庫じゃなくて、冷凍庫じゃん」
入り口の扉を再確認すると、掠れた文字で『第3冷凍保管庫』と書かれていた。……道理で寒いはずだ。氷点下の20度とか、中々経験できる気温ではない。温暖化だって進んでいたのだから。
電気が生きているおかげで、ここは数十年もの間、極寒の世界を維持し続けていたのだ。つまり、ここに眠るレーションたちは、完全に時が止まった状態で保存されているということ。
「これは……大発見かも」
Type-Cがあるなら、AもBもあるはず。そして「第3」保管庫ということは、第1と第2もあるに違いない。
私は寒さも忘れて、宝の山を見つめた。
◇◇◇
「情報のすり合わせをしようか」
「ん」
一通りの探索を終え、私たちは通路のベンチで合流した。
「まず、私の方は『冷凍保管庫』を見つけた」
「冷凍?」
「そう、マイナス20度の世界。そこに大量のレーションが眠ってた」
私が報告すると、ルナが目を輝かせた。
「すごい。冷凍保存なら品質劣化はほぼゼロ。味も保証付き」
「でしょ? 『第3』だったから、他にもあるはず。食料問題はこれで一気に解決するよ」
「ん。優先順位、最高ランク」
これで当分、食いつなぐ心配はない。贅沢を言えば、デザートとかもあればいいんだけど。
「で、ルナのほうは?」
「わたしのほうは、これ」
ルナが背後のバッグから取り出したのは、二丁の拳銃だった。私たちが持っているものに近いサイズだけど、デザインがより未来的だ。
グリップの上部にインジケーターがあり、赤く発光している。
「小型ビームガン」
「おお!」
「それと、アサルトライフル型のエネルギーライフルも目星をつけてきた」
さすがは最新鋭の基地。エネルギー兵器もちゃんとあったんだ。
「これ、マガジンの代わりにエネルギーセルが入ってる。取り外して再充填可能」
「専用の充電器は?」
「充填器。それも確保済み。『ポラリス』のコンセントで使える」
完璧だ。弾切れ知らずのエコ兵器。これさえあれば、弾薬の残りを気にせず撃てる。
「おー、流石だねルナ!」
「……もっとほめて」
「えっ」
「……」
ルナがじっと私を見つめてくる。
か、可愛い。
私は思わず彼女を抱きしめた。
「流石ルナ! 世界一のナビゲーター! 大好き!」
「ん……よし」
ルナが満足げに頷く。
チョロい……いや、愛おしい。
「サイズも、私たちが使ってるホルスターに入る?」
「ん。少しきついけど入る。……でも、もっといいもの見つけた」
ルナが別の袋から取り出したのは、太ももに巻くタイプのレッグホルスターだ。ただし、二丁挿せるようになっている。
「ダブルホルスター。実弾とエネルギー、両方装備できる」
「おー、かっこいい!」
「サイズも調整可能。多分、女性隊員用だったのかも」
確かに、ベルトの径が細身だ。
これを私たちが装備すれば、見た目は完全にSF映画のヒロインだ。
「よし、じゃあ方針決定。まずは冷凍庫の食料を『ポラリス』に搬入。そのあと、武器庫のライフルを回収しよう」
「ん。了解」
私たちは新たな装備(と食欲)を胸に、再び探索へと繰り出した。
(続く)




