Route:028『夕暮れ公園』
「公園」
「公園だね」
砂漠エリアを抜け、さらに数日走った先で私たちが訪れたのは、小高い丘の上にある公園だった。
正確には”公園だった場所”である。……雑草は伸び放題で、かつて芝生だった広場は草原になっているけれど、遊具たちはそのままの形で残されていた。
「結構広いね」
「うん。遊具の種類も豊富」
ジャングルジム、シーソー、滑り台。それぞれが2、3個ずつ設置されている。ただ、鉄でできた遊具の大半は赤茶色に錆びついていて、触ればボロボロと崩れてしまいそうだ。
「あ、このブランコ……無事っぽいね」
「本当だ……」
広場の隅にある二連のブランコ。
支柱は少し塗装が剥げているけれど、鎖や座面は奇跡的に綺麗な状態を保っていた。ステンレス製なのか、あるいは特殊なコーティングでもされていたのか。
「よいしょ」
「……」
「ルナも座ったら? そっちも無事っぽいし」
「ん……」
私が片方に腰を下ろして促すと、ルナもこくりと頷いて隣に座った。
大の大人が二人(まあ体格は小柄だけど)並んでブランコに座る図は、客観的に見ればシュールかもしれない。
でも、観客は沈みかけの太陽だけだ。
「久しぶりに乗った」
「ルナも? 私もだよ。小さい頃以来かも」
地面を蹴って、静かに揺れ始める。
キーコー、キーコー。
乾いた金属音が、誰もいない公園に寂しく響いた。
「なんか、落ち着くねぇ」
「ん」
茜色に染まる空を見上げながら呟く。
日が沈みかけのこの時間は、世界が一番美しくて、一番心細くなる時間だ。
肌を撫でる風は冷たい。
そろそろ本格的に冷え込んできた。
(今日はここで休もうかな)
無理はできない。風邪を引いても、病院はない。薬だって有限だ。
ルナが管理してくれている在庫も、使用期限という寿命がある。全ての薬が期限切れになった時、私たちは本当の意味で「自然の一部」に戻るのだ。
「今日はどうするの?」
「うーん。もう日が沈みかけてるし、今日はここでキャンプしよう」
「ん。了解」
好き好んで夜道を運転する趣味はない。所々街灯が生きているとはいえ、AIの目でも見落とす危険はある。
それに比べて、この公園は優秀だ。
「この公園の街灯、生きてるねぇ」
「ん。ソーラータイプ。優秀」
周囲を見渡せば、遊歩道沿いの街灯がポツポツと点灯し始めていた。夜になってもそれなりに明るそうだ。
キーコー、キーコー。
一定のリズムで揺れていると、視界の端に珍しいものが入った。
「お? あれは……」
「どうかした?」
私はブランコを少し強く漕いだ。勢いをつけて、一番高くなったところで手を離す。
「よっと!」
宙を舞い、砂場の手前に着地する。
ザッ、と土埃が舞った。
「危ない」
「大丈夫大丈夫、そんなヤワじゃないし」
ルナにジト目で咎められたけど、軽く流して私は気になった遊具へと駆け寄った。
ルナも呆れながらついてくる。
「懐かしいなあ。まだあったんだ、これ」
「ん。これ?」
木々の間に設置された、長いワイヤーと滑車。そしてぶら下がったロープ。
いわゆる「ターザンロープ」だ。他にも「ロープウェイ」とか「ジップライン」とも呼ばれる、子供たちの憧れ。
「そう、ターザンロープ。昔は学校にもあったけど……」
「年々、見なくなってた」
「だよねぇ」
一番の理由は「危険だから」。
落ちて怪我をしたり、勢い余ってぶつかったり。安全管理の名の下に、昭和の遊具たちは次々と撤去されていった。だからこそ、こうして残っているのは珍しい。
「でも、これは流石に遊べないね」
「ん。ワイヤーが錆びて切れそう。支柱も腐ってる」
ルナが支柱をコンコンと叩くと、カスカスの音がした。観覧車とは違い、こちらは完全に寿命を迎えている。
もし私が飛び乗っていたら、ワイヤーが切れて地面に叩きつけられていただろう。
「昔はここに行列ができてたんだろうな」
子供たちの歓声が聞こえてきそうな場所で、今はただ風が吹いているだけ。朽ち果てたターザンロープは、この世界の縮図みたいだ。
「……もう少しだけ、公園見て回ろっか」
「ん。暗くなる前に」
私たちは錆びた遊具たちに別れを告げて、もう少しだけこの静かな遊び場を散策することにした。
(続く)




