Route:027『突発性砂漠と星の海』
「……砂漠?」
「砂漠だね」
豪雨エリアを抜け、いつものように緑に侵食された国道を走らせていると、唐突に景色が一変した。
本当に、唐突にだ。アスファルトが途切れ、木々が消え、視界いっぱいに黄土色の世界が広がったのだ。
視界に映るのは、ゆらゆらと陽炎が揺れる地平線。所々に乾いた植物の残骸らしきものはあるものの、大半がサラサラとした砂でできている。
「日本に砂漠ってあったっけ?」
「ないと思う。観光地としての鳥取砂丘とか、伊豆大島の裏砂漠っていうのはあったけど」
「あー、なんかあったね。でも、ここはそのどっちでもないよね」
「ん。規模が違う」
見渡す限り、砂、砂、砂。
ここはかつて海だった場所が干上がったのか、それとも何らかの影響で植生が死滅して表土が風化したのか? ……理由なんて分からないけど、この世界では常識のほうが先に死んでいる。驚くだけ無駄かもしれない。
「走れる?」
「問題なし。砂程度で私の『ポラリス』は止められないよ!」
私は自信満々にコンソールを操作した。
走行モードを『サンド/マッド』に切り替える。
プシューッという音と共にタイヤの空気圧が自動で減圧され、設置面積が増える。これで柔らかい砂地でもスタックせずに進めるはずだ。
色々と弄っているのだ。
雪道だろうが、沼地だろうが、砂漠だろうが。日本にいながら世界のあらゆる環境を走破できるように、私はこの車を改造しまくっていた。
……まあ、自分の車なのだから好きにしていいよね。当時の私、ナイス先見の明。
「ここからだとまだ先は見えないけど、そこまで広くないと思うし」
日本の地理上、大陸級の砂漠なんて存在しないはずだ。とはいえ、崩壊してから地形が変わっている可能性は否定できない。
例えば日本列島が変形しているとか、あるいは地殻変動で大陸と繋がってしまったとか。大昔、氷河期には日本と大陸が陸続きだったというし、歴史は繰り返すのかもしれない。
「でも、気温はそこまで高くないね」
「ん。20度くらい」
砂漠といえば灼熱地獄のイメージだけど、そこはやはり日本の秋だ。日差しは強いけれど、風は涼しい。
「まあ、見るものもないし、このまま突っ切るのが一番かな」
「あ、でも……」
私がアクセルを踏もうとすると、ルナが窓の外を見上げた。
「砂漠で見る星空って、綺麗そう」
「……あ、確かに」
周りに街灯も、木々さえもない。遮るものが何もない360度の地平線。そこから見上げる星空は、さぞ綺麗だろうと想像できる。
首都だった東京は、眠らない街の明かりで星なんてほとんど見えなかった。日本には砂漠なんてなかったから、本場の「星降る夜」を体験できる貴重なチャンスかもしれない。
そして何より……。
「どうかした?」
私の視線を感じたのか、ルナがこちらを見て首を傾げる。
「ルナと一緒に星を見たら、余計に綺麗に見えるかなって」
「! ……ん」
率直に伝えると、ルナが分かりやすく顔を赤らめた。
夜――ベッドの上では結構大胆というか、激しい一面を見せるのに、普段はこんなに初心な反応をする。
これが巷でいうギャップ萌えというやつか。破壊力が高い。
「じゃあ、今日は進めるだけ進んで……夜は砂漠のど真ん中でキャンプしよっか」
「うん……分かった」
こくりと頷くルナ。
世界は終わっているのかもしれないけど、私とルナの旅はまだ終わらない。この寿命が尽きるまでは、二人で色んな景色を見て回ろう。
ふと、考える。
もし私がこのキャンピングカーを持っていなかったら、どうしていただろうか?
――もしものIF。
車がなくて、ただのリュック一つだったら?
うーん、今となっては想像もつかないけれど。でもたぶん、それでも私は旅をしていたんじゃないかな。隣にルナがいるなら、徒歩だって構わない。
一日数キロしか進めなくても、野宿することになっても、きっと二人で手を繋いで歩いていたはずだ。
この『ポラリス』は最高の家だけど、私の本当の居場所は、この車の箱の中じゃなくて、ルナの隣だから。
「……まあ、それはいいか」
「?」
「ううん。何でもないよ。さあ、夜まで走らせようか」
「分かった」
砂塵を巻き上げて、銀色のキャンピングカーが荒野を駆けていく。今夜はきっと、最高の星空が見られるはずだ。
(続く)




