Route:022『メイド服とホバークラフト』
「……ルナさんや」
「ん?」
「これは?」
「メイド服」
「うん、それは見れば分かる」
休憩ポイントとして見つけた、川岸の開けたスペース。
私たちは『ポラリス』を降りて、整備作業の準備をしていたのだが……。
今の私たちの格好を、誰かに見られたら何と思われるだろうか。(まあ、誰もいないから関係ないんだけど)
二人して、フリルのたっぷりついた、クラシカルなメイド服を着ているのだ。
以前、あのドン・ペンギン(仮)の店で、ルナが「作業着にいい」と言い張って持ち帰ったやつだ。
「なんで私たち、この寒い川辺でメイド服なの?」
「ん。これから大作業だから。エプロンがあるから汚れてもいい」
「作業着ならツナギとかあったじゃん……」
「……」
ルナが視線を逸らす。確信犯だ。
「それに、水に入るなら水着の方がよくない?」
「ダメ。今の気温何度だと思ってるの? 死んじゃう」
「……確かに」
「あと、そもそも私たち水着持ってない」
「あー、そうだった」
生きるのに必死で、レジャー用品の回収は後回しにしていたんだった。この秋風が吹く中で水着は自殺行為だし、服が濡れるのも困る。
そう考えると、動きやすくてエプロンのあるこの服は、あながち間違いではない……のか?
「まずは水上モードと水中モードの点検。詳しく見たいから、地面を這ったりして汚れるし」
「まあそうだね。命を預ける機能だし、本格的に見るなら気合入れないと」
これから行うのは、『ポラリス』の水陸両用機能のテストだ。
長らく使っていなかった機能だから、いきなり本番で川に突っ込むのはリスクが高すぎる。まずは陸上で変形機構のチェックを行い、問題なければ無人で入水させる手順だ。
「メイド服でやる意味……」
「ん、可愛いから正義。……ユキ、似合ってるよ。わたしの専属メイド」
「もう専属でしょ、私たちお互い」
「ん……///」
私がサラッと返すと、ルナが耳まで赤くして黙り込んだ。
可愛い。
まあ、ルナが喜ぶならメイド服での整備も悪くないか。
「よし、じゃあ始めようか。まずは水上モードから」
「ん。水上モード、移行シークエンス起動」
ルナがタブレットを操作すると、『ポラリス』の車体からプシューッという排気音が響いた。
四つのタイヤがウィーンと機械音を立てて、車体の内側へと格納されるように九十度回転し、地面に対して水平になる。
SF映画でよく見る、空飛ぶ車の変形シーンみたいだ。
「メインスラスター、出力安定」
横を向いたホイールの中心から、高圧のエアが噴き出す。
砂利が巻き上げられ、数トンの重さがあるキャンピングカーが、ふわりと地面から浮き上がった。
「おー、エアホバリング。動いてるね」
「ん。動作良好」
詳しい原理は割愛するが、いわゆるホバークラフトの超進化版だ。強力なエアクッションで水面(あるいは地面)に浮く。
実はこのまま陸上走行も可能なのだけれど、燃費(バッテリー消費)がタイヤ走行の比ではないので、普段は封印している機能だ。
「よし、目視点検いくよ」
私は浮き上がった車体の下に潜り込み(メイド服のスカートが邪魔だけど気にしない)、変形したアーム部分や、防水シールの状態をチェックしていく。
ルナはシステム側から、エラーが出ていないか監視する役割だ。
「駆動系よし、油圧よし……パッキンの劣化も、見た感じ大丈夫そう」
「ん。システムオールグリーン。エラーなし」
「OK。じゃあ、いよいよ入水式といきますか」
私は車体の下から這い出し、服についた砂を払った。
「タブレットでの遠隔操作に切り替え。……ポラリス、発進」
ルナが指先で画面をスライドさせる。
誰も乗っていない『ポラリス』が、滑るように川へと向かっていく。
固唾を呑んで見守る私たち。もしあそこで沈んだら、私たちは家も物資も全て失うことになる。一応保険はかけているけど。
バシャァッ!
大きな水しぶきを上げて、車体が川に着水した。
沈まない。
エアの力で、水面に見事に浮いている。
「……浮いた!」
「ん。水平維持、安定してる。浸水アラートなし」
「成功だね!」
私たちは顔を見合わせて、ハイタッチ(手は油で少し汚れてるけど)をした。
「よし、水上はクリア。次は……」
「ん。本番」
水中モード。つまり、潜水艦としての機能。
これはただ浮くのとは訳が違う。完全密閉が破れれば、即座に溺死だ。
「……一回、お茶休憩してからにしない?」
「ん。賛成」
川面に優雅に浮かぶ鉄の塊を眺めながら、二人のメイドはとりあえず休憩することにした。
(続く)
超技術(?)




