Route:002『2223年の雨』
あとがきにAIで作成した表紙もどきがあります。
苦手な方はご注意ください。(非表示推奨)
キャンピングカー。
それは車でありながら、家でもある場所。
移動する城、走る要塞、あるいは――世界の果てまで行ける、鋼鉄の揺りかご。
ざっくりしすぎ?
でもまあ、実際そんなものでしょう?
「雨、やまないね」
「そうだね。小雨だから、そこまで酷くはないけど」
昼過ぎ。
ひとしきり外の空気を吸った後、私とルナは愛車『ポラリス』に戻ってきていた。
淹れたてのコーヒーの香りが漂う車内。
窓の外を見れば、相変わらず灰色の空からパラパラと雨粒が落ちて、強化ガラスを濡らしている。
ついこの間までは、呆れるほどの快晴だったのに。
梅雨の時期にでも入ったのかな? カレンダーなんて見てないから正確な月日は怪しいけれど、一応スマホの日付は6月の上旬を指している。
「2223年の6月、だって」
「……その数字が正確なのか、誰にも分からないけどね」
「あはは、それもそうかも」
私は笑って、車体後部に設えられたベッドに仰向けで寝転がった。
ダブルサイズのベッドは、キャンピングカーにしては破格の広さだ。私とルナ、小柄な少女二人が手足を伸ばして寝てもまだ余裕がある。
天井を見上げながら、私はふと思い出したように尋ねた。
「そういえば、燃料は大丈夫?」
「ん。問題ない。メイン動力の反応炉は正常」
ルナが運転席のコンソールパネルを操作しながら答える。
「さすが、当時の技術力を結集させた超高性能バッテリーだね。ほぼ無限って響きが素敵」
「核融合は偉大」
核融合。
詳しい原理を話すと長くなるから割愛するけれど、かつての原子力発電よりも安全で、膨大なエネルギーを作れる夢の発電システムだ。
実用化されるまでには、素材の強度だとか炉の制御だとか、色々と大変だったらしいけれど。
おかげで私たちは、こうして文明が死んだ後でも、エアコンの効いた部屋で温かいコーヒーを飲んでいられる。
「あ、そうだ。水の方は?」
「そっちは無限じゃないから。あとで浄水タンクのチェックする」
「はーい」
「……ユキ、返事だけ」
「ふふ。ルナってば、たまにお母さんみたい」
「……」
ルナがジト目を向けてくる。
お互い、過ごした時間はそれなりに長い。
世界が滅ぶ前から、私たちは一緒に行動していた。私とルナは性格も得意分野も真反対だけど、なぜか波長が合う。
なんで仲良くなれたんだろう? まあ、今は理由なんてどうでもいいか。
「それにしても、この車って優秀だよね」
メインの動力以外にも、屋根には予備の展開式ソーラーパネルがあるし、滅多に使うことはないけれど、旧時代の遺物であるガソリンエンジンでの発電も可能だ。
「少し前に寄ったスタンドで、ガソリン抜いておいてよかったね」
「ん。……まあ、ガソリン自体がもう劣化して使えなくなりつつあるけど」
「だねえ」
無人のガソリンスタンド。お金も払わず、給油ノズルを握った時のあの奇妙な感覚を思い出す。
既に今では、ガソリンなんて過去の遺物だ。使う機会がこの先あるのかすら怪しい。
「……そろそろ、ここから移動する?」
ルナがタブレットから顔を上げて言った。
「それもいいかもね」
この終わった世界が、どこまで続いているのかは分からない。
多分、大陸の端から端まで行っても、生きた人間には会えない気がする。
じゃあ、私たちは何のために旅をするのか。
文明の復興? いやいや、無理無理。
そもそも人が居ないのに復興なんて意味がないし、か弱い女の子二人で国造りなんて土台無理な話だ。電気を通して、畑を耕して、二人で細々と暮らして……それで? 私たちが死んだら終わりじゃん。
だから、やることは変わらない。
ただ、確かめるだけ。
この静かな世界がどこまで続いているのか。私たちが知らない景色がまだあるのか。
幸い、私にはこの『ポラリス』がある。
動力は当分大丈夫。食料や医療品は、道中の廃墟で現地調達。
かつての文明が残してくれた「長持ちする保存食」や「高品質な医薬品」のおかげで、今のところ生存に不自由はない。
まあ、それもいつか尽きるかもしれないけれど――その時はその時だ。
「何処に行こうか」
「ん。何処でも」
「あはは。それ一番困るやつー」
私はベッドから起き上がり、大きく伸びをした。
「でもまあ、来た道を戻る趣味はないから。このまま進もう」
「ん。りょーかい」
ルナがコンソールを操作すると、車体が微かに震えた。
重厚なモーター音が、雨音に重なる。
鋼鉄の揺りかごが、再び目を覚ました音だ。
「よし、出発!」
私は運転席――ではなく、助手席にダイブする。
今日の運転はルナにお任せだ。私は隣で、優雅にコーヒーの続きを楽しむことにしよう。




