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終わった世界をキャンピングカーで。~白と黒の少女の、気ままな終末紀行~  作者: 月夜るな


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19/20

Route:019『楽園の残響、回る珈琲カップ』



「おー!」

「ん。広い」


 森の中から頭を出していた観覧車を目印に、私たちは旧道を進んだ。

 錆びついたフェンスに沿って走ると、やがて広大な駐車場と、立派なメインゲートが現れた。


 ゲートのアーチには、無数の電飾がちかちかと点滅している。

 一部の電球が切れていたり、プラスチックのカバーが割れて剥き出しになっていたりするけれど、その輝きはここが「遊園地」だったことを必死に主張していた。

 看板の文字は蔦に覆われていて読めないけれど、まあ、名前なんてどうでもいい。


「思ったより埋もれてないね」

「ん。意外と綺麗。駐車場のアスファルトも生きてる」


 私たちはゲートに最も近い、身体障害者用スペースのさらに横のゼブラゾーンに『ポラリス』を停めた。

 普通なら警備員が飛んできそうな停め方だけど、私たちを咎めるホイッスルの音は聞こえない。


「……まるで営業中だね」

「ん。この前の駅よりも賑やか」


 車を降りると、そこは音に満ちていた。

 スピーカーからは、少しノイズ混じりの軽快なマーチが流れている。

 ゲートの横では、ホログラムのマスコットキャラクター――シルクハットを被った猫のような生き物――が、誰もいない空間に向かって手を振り、お辞儀を繰り返していた。


「いらっしゃいませ! 夢と魔法の王国へようこそ!」


 合成音声が虚しく響く。


「誰もいないねえ」

「ん」


 チケット売り場の窓口には「営業中」のランプが灯っているけれど、中にスタッフの姿はない。


 私たちはフリーパス(無料)で、回転式のゲートを抜けた。バーを押し込むと、カラカラと乾いた音がして、私たちは園内へと足を踏み入れた。


「自然遊園地、って感じ?」

「言い得て妙だね」


 園内は、不思議な光景だった。

 整備されていたはずの遊歩道は、敷石の隙間から雑草が伸び放題で、まるで草原のようになっている。

 花壇の花は野生化して道まで溢れ出し、ベンチは蔦に覆われて緑のソファになっていた。


「あれって、高いところから落ちるやつだよね」


 私が指差したのは、空に向かってそびえ立つ垂直の塔。ドロップタワーだ。


「……あれ、苦手」

「意外だなぁ。ルナなら顔色一つ変えずに乗りそうなのに」

「そんなことない。内臓が浮く感じ、気持ち悪い」

「あはは、確かにね。あの『ヒュンッ』ってなる浮遊感は、独特だもんね」


 見上げてみるけれど、ゴンドラは一番上で止まったままだ。ライトも消えている。どうやらあれは動いていないらしい。

 ルナがほっとしたように胸を撫で下ろした。


「……あ! 見て、これコーヒーカップだよ!」

「ん」


 少し歩くと、巨大なティーポットを中心にしたアトラクションが見えた。色とりどりのカップが、音楽に合わせて優雅に回転している。


 こっちは生きているみたいだ。


「これなら怖くないでしょ? 乗ってみようよ!」

「ん……ユキがそう言うなら」

「じゃあ決まり!」


 私たちは柵を乗り越え(入口まで回るのが面倒だった)、ピンク色のカップに二人で乗り込んだ。

 座席に座ると、ガクンと一度揺れて、重量センサーが反応した。

 ブザーが鳴り、ゆっくりと床が回り始める。


「おー、回る回る」


 真ん中のハンドルを回せば回転速度を上げられるけれど、今は自動回転に身を任せることにした。

 景色がゆっくりと流れていく。

 キラキラした電飾と、野生化した植物の影が混ざり合って、幻想的なマーブル模様を描いている。


「こういうのもいいねえ」

「ん。ユキと一緒、楽しい」

「ふふ。私もだよ」


 遠心力に逆らわず、自然と肩が触れ合う。

 どちらからともなく体を寄せて、私たちはくっついた。ちょっと照れくさいけれど、私たちはもう恋人同士なわけだし。これくらいの密着は役得だ。


 ふと空を見上げる。

 遊園地の照明が明るいせいで、森の中で見た時より星の数は少ない。それでも、人工の光と天然の星明かりが混ざり合う夜空は、宝石箱みたいに綺麗だった。


「数は少ないけど、星も綺麗だね」

「ん。……ユキのほうが綺麗」

「ぶっ!?」


 不意打ちの言葉に、変な声が出た。

 隣を見れば、ルナが真剣な瞳で私を見つめている。


「な、なんかルナ、付き合ってからかなり積極的になってない?」

「ん……こういうのは嫌?」

「……いや、全然。むしろ嬉しいけど」

「ん。ならいい」


 ルナが私の腕に頬をすり寄せる。

 甘える猫みたいだ。

 こんな一面があったなんて、付き合ってみないと分からなかったな。


 誰もいない遊園地、回るコーヒーカップ。

 世界で一番贅沢なデートスポットで、私たちは夜が更けるまで、甘い回転に身を委ねていた。


(続く)

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