Route:016 - 朝の光と、使用期限
ゆうべはおたのしみでしたね()
「……ん、朝か」
目を覚ますと、カーテンの隙間から差し込む太陽の光が、埃の粒子をキラキラと照らしていた。
スマホの時計を見ると、7時30分。
健康的な起床時間だ。
「なんか寒い……って、あ!?」
シーツから出ている自分の肩を見て、私は慌てて布団を被り直した。
いつもなら着ているはずのパジャマがない。
というか、下着すら着けていない。生まれたままの姿だ。
「ルナ……」
恐る恐る横を見れば、私と同じように何も纏っていないルナが、私の腕を枕にしてすやすやと寝息を立てていた。
白い肌に、キスマークみたいな赤い痕がいくつか残っているのを見て、昨夜の記憶が一気にフラッシュバックする。
「あー、うん。一線超えちゃったかー」
三大欲求の話をして、勢いで告白して、そのまま……。
詳細を思い出すと顔から火が出そうになるけれど、不思議と嫌な気持ちではなかった。むしろ、隣で無防備に眠るルナの体温が愛おしくてたまらない。
「……意外とルナ、激しかったなぁ」
普段は大人しいのに、スイッチが入るとあんな風になるなんて。
新しい発見だ。
「……とりあえず。シャワー浴びて着替えよう」
余韻に浸っていたいけれど、昨夜の汗やあれやこれやがそのままだ。
さすがにこのまま二度寝はできない。
「ルナ、起きて」
「……んぅ」
肩を揺すると、ルナがうっすらと目を開けた。
ぼんやりとした金色の瞳が、私を捉える。
「……ゆき?」
「はい。愛しのユキさんですよ」
「!」
自分で言っておいて恥ずかしいセリフだけど、昨夜のことを思えば間違いではないはずだ。
ルナの顔が、みるみるうちに赤く染まっていく。
「ゆ、ユキ……その」
「お話はあと。まずはシャワーね。さっぱりしてから着替えよう」
「ん……いっしょ?」
「……もちろん」
朝のシャワーを浴びて、ドン・ペンギン(仮)で手に入れたお揃いの新しい服に着替えた私たちは、リビングのソファに向かい合って座っていた。
コーヒーの湯気が立つ中、少しだけ気まずい、でも甘い沈黙が流れる。
「その、ごめん。昨日はちょっと暴走した」
「いや、謝らなくて大丈夫だよ。それにもう私たち、お互い両思いだと知った訳だし」
「うん……好き」
「うんうん。私も好きだよ」
テーブル越しに身を乗り出して、チュッと軽いキスをする。ルナは驚くことも嫌がることもなく、自然に受け入れてくれた。
昨夜のようなディープなものではなく、挨拶みたいなキス。これからは、これが私たちの日常になるんだ。
「ま、これで晴れて付き合う? ことになった訳だけど」
「ん。恋人」
「だね。でも、私たちの目的はこの世界を旅することだし、やることは変わらないよね」
「うん」
そう。関係が変わったとて、旅の目的は変わらない。
むしろ、心も体も繋がった最強のパートナーとして、この終わった世界をどこまでも進んでいける気がする。
「さて、と。出発前に何か補給すべきものってあったっけ?」
私は気持ちを切り替えて、タブレットの在庫管理アプリを開いた。
「うーん。ちょっと待ってて」
ルナが立ち上がり、収納棚の方へ向かう。
「水は昨日入れたし、食料もまだ余裕あるよね」
「ん。特に不足はない。……強いて言うなら、薬関係?」
「薬?」
ルナが救急箱を持って戻ってきた。中には綺麗に整頓された瓶や箱が並んでいる。
「使用期限が近いものがあるから、それを入れ替えるか、追加するか」
「あー……そうだよねぇ。薬も長持ちするとはいえ、永遠じゃないもんね」
少し前にも話題に出たけれど、薬には使用期限がある。
包帯やガーゼは劣化しなければ使えるけれど、化学薬品はどうしても成分が変わってしまう。
昔の薬は2~3年だったらしいけれど、最終戦争前の技術革新で5年~10年持つものも増えた。おかげで私たちもこうして恩恵に預かれているわけだけど。
「一番期限が近いものは、こっちにまとめてある。痛み止めと抗生物質、大体あと半年くらいで期限切れ」
「半年かあ。意外と早いね」
「うん。だから、新しいのを見つけておきたい」
ルナが優秀すぎる。
ちゃんと期限ごとにラベリングして、古い順に取り出しやすく並べ替えてくれているのだ。この几帳面さが、私の大雑把さをカバーしてくれている。
「ルナとしてはどう思う? この町で探す?」
「ん。まだ期限があるとはいえ、備えあれば患いなし。追加で期限が長いのを回収したほうがいい」
「りょーかい。じゃあ、今日はドラッグストア巡りデートだね」
「……デート?」
「ふたりで出かければ、なんだってデートだよ」
私がウィンクすると、ルナは呆れたように、でも嬉しそうに小さく笑った。
「ん。じゃあ、行こう」
恋人繋ぎで手を重ねて、私たちは朝の廃墟へと繰り出した。
(続く)




