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終わった世界をキャンピングカーで。~白と黒の少女の、気ままな終末紀行~  作者: 月夜るな


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12/18

Route:012 - 行き止まりの川と、鈍感なふり


「……ルナさんや」

「何?」

「向こうに見えるのって、また森では?」

「うん。そうだね。濃い緑」


 長い長い緑のトンネルを抜けたと思ったら、その先にはまた別の山と森が広がっていた。どうやら日本列島は、私たちが思っている以上に自然に還ってしまっているらしい。


「でも、その手前に川がある」

「あ、ホントだ」


 ルナが指差した先を見ると、森と森を分断するように、結構大きな川が流れていた。

 水面が太陽の光を反射して、キラキラと眩しい。川幅はかなり広く、向こう岸までは結構な距離がある。

 そして最大の問題は――


「……向こうに渡れそうな橋、ないね」

「そうだね。落ちてる」


 数百メートル先に、かつて橋だったと思われる巨大なコンクリートの残骸が、川の中に突き刺さっていた。

 どうやら私たちの直進は、ここでゲームオーバーのようだ。


「……とまあ、冗談は置いておいて」


 私はハンドルを切って、車を路肩に寄せた。

 橋はないけれど、川に沿うように道路が左右に伸びている。ここを進めばまだ旅は続けられそうだ。問題は、右に行くか左に行くか。


「あっちが山っぽいから、こっちに行けば下流かな?」

「たぶん」

「地図情報だとどうなってる?」

「ん……これ見て」


 ルナがタブレットをこちらに向ける。


「……わぁ、画面いっぱい緑だあ(棒)」

「衛星写真だと、木しか見えない」


 道すら森に隠れてしまっているらしい。

 まあ、水は高いところから低いところへ流れるのが物理の法則だ。下流へ行けば、海か湖か、あるいは大きな平野に出るはず。


「川の流れを見た感じでも、左が下流っぽいよね」

「だと思う。逆流してなければ」

「よし、じゃあこっちに行ってみよっか」

「ん」


 ルナが頷いたので、私はウインカー(出す必要もないけれど)を出して、左側の道へと『ポラリス』を進めた。

 まあ、間違っていたら戻ればいい。

 私たちには、締め切りもなければ、帰るべき家もない。時間は無限にあるのだから。


「にしても、この川大きいね」

「うん。水量が多い」


 川の名前は何だろう。

 看板は見当たらないし、あったとしても誰かが勝手に付けた名前だ。人間がいなくなって、川はただの「川」に戻った。それはそれで、清々しい気もする。


 川沿いの道は、森の中よりはずっと走りやすかった。

 視界が開けているし、風も心地よい。


 所々アスファルトがひび割れて車体が揺れるけれど、悪路には慣れっこだ。直す人もいない世界で、道が残っているだけでも感謝しないとね。


「……ルナはさ」


 流れる景色を見ながら、私はふと聞いた。


「こんな私と旅して、楽しい?」

「うん。楽しい」


 間髪入れずに返ってきた答えに、少しだけ驚く。

 普段は言葉少なな彼女が、こういう時は迷わない。

 その真っ直ぐさが、私の胸の奥をくすぐる。


「そ、そっか。それは良かった」

「ユキは?」

「え?」

「ユキは、楽しい?」


 助手席から、金色の瞳がじっと私を見つめている。

 その瞳に映っているのは、間違いなく私だけだ。


「……楽しいよ。ルナと居られることも含めてね」

「……そ、そう」


 私の言葉に、ルナが少しだけ頬を染めて視線を逸らした。

 可愛い反応だ。


 ――知ってるよ。

 ルナが私に向けてくれる感情の種類も、時々熱っぽい視線を送ってくることも。私が「鈍い」ふりをすると、拗ねたり怒ったりすることも。


 全部、気づいてる。

 気づいていないふりをしているだけだ。


 だって、名前をつけてしまうのが怖いから。

 「友達」以上の名前をつけたら、この心地よい関係が変わってしまう気がする。

 この終わった世界で、互いに依存し合うだけの関係。それが愛なのか、執着なのか、ただの生存本能なのか。


 ……まあ、今はまだいいかな。

 そろそろ自覚しないといけないのかもしれないけれど。


 もう少しだけ、この「鈍感な運転手」と「不器用なナビゲーター」の旅を続けていたい。

 私はアクセルを少しだけ踏み込んで、きらめく川沿いの道を走り抜けた。


(続く)

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