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終わった世界をキャンピングカーで。~白と黒の少女の、気ままな終末紀行~  作者: 月夜るな


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Route:001『静寂の花畑』

本作品を見ていただき、ありがとうございます!

この作品は過去に不定期で更新していた「2人の少女は終わってしまった世界を旅する」のリメイク版です。

基本的な進行は同じだと思いますが、2人の容姿と名前に一部変更が入っています。




 世界の終わりって、どんなものだと思う?


 世界中で核ミサイルが飛び交って、相打ちで全てが灰になった時?

 はたまた、空から謎の物体が降り注ぎ、地球に暮らす全てのものをドロドロに溶かしてしまった時?

 それとも恐竜時代の幕引きみたいに……巨大隕石が衝突して、地表が炎に包まれた時?


 ――どれも、あり得ない話ではない。


 他にも世界規模の地殻変動で大陸ごと沈むなんてこともあるかもしれない。「世界が終わる時」の定義なんて、非常に曖昧だ。

 でも、それはいつ来てもおかしくはないものでもある。そういった災害とか不条理は、いつだって唐突に来るものだから。


 少なくとも、私達が迎えた「終わり」は、もっと静かなものだったけれど。


「……」


 黒ずんだ空から、ぱらぱらと雨が落ちてくる。

 アスファルトを濡らす音だけが、辺りに響いていた。


 この雨は至って正常で、普通のものだ。触っても皮膚が爛れることはないし、服が溶けることもない。こんな終わってしまった世界でも、空は律儀に水を循環させているらしい。


「ここも……誰も居ない、か」


 ビニール傘を傾けて、私は独り言ちる。

 期待はしていなかった。それでも「万が一」を探してしまうのは、まだ私がこの世界に慣れきっていない証拠かもしれない。


 目の前に広がるのは、かつて公園だった場所だ。

 手入れをする人がいなくなって久しい花壇は、今や野生の花畑と化している。

 青、黄色、白。カラフルな花たちは、ここが文明の墓標であることなんて気にもせず、雨に濡れながら綺麗な花弁を広げていた。


「ふぅ」


 白い息が漏れる。

 こんな世界でも雨は降るし、花も咲く。

 あれ……? さっきも似たようなことを考えた気がする。思考がループしているな。まあ、話し相手もここには私達しか居ないから、そんなこともあるだろう。


「自然は生きているんだなあ」


 ここに来るまでの道中、人っ子一人見当たらなかった。

 道路は苔むし、建物は植物に浸食されつつある。

 でもそれはあくまで”人”がいないだけの話。この花畑のように植物は元気だし、よく見れば葉の裏で雨宿りをしている虫の姿もあった。


 世界は終わったけれど、死んではいない。

 ただ、人間だけがその輪から外されただけ。何故か私達だけはこうしてまだ存在しているけれども。


 相変わらず空はどんよりとしていて、雨脚も少し強くなってきた気がする。

 大雨と強風が混ざると、このビニール傘なんて簡単にひっくり返ってしまうだろうな。


「……ユキ」


 ぼんやりと花を眺めていると、ふと後ろから声がした。

 世界に二人しかいない、いつもの聞き慣れた声。


「どうかしたの? ルナ」

「ん。また外出てるの?」


 振り返ると、黒い髪を濡れないようにまとめた少女――ルナが立っていた。彼女もまた、私と同じような傘を差している。


「時々、自然を感じないとね。車の中ばかりだとカビちゃうよ」

「そっか」


 そう言うとルナは、ちゃっかり私の隣に移動して、同じようにしゃがんで花を見始めた。

 雨音の中に、二人の呼吸が混ざる。


「世界は終わっても植物は無事、なんだね」

「そうだね。よく分からないけど……植物が元気なおかげで酸素はあるし、私達も生きていられる訳だけど」

「ん」


 そう。植物すらも死滅していたら、この世界はとっくに酸素がなくなり、私達も生きていられない。

 この世界を「終わった世界」と私達は呼んでいるけれど、実際は「人間社会が終わった世界」と言うのが正しいのかもしれない。


 気付いた時には既に、人類は消えていた。

 本当に何の前触れもなく……だと言うのに、家も、車も、この公園のベンチもそのまま残っている。まるで神隠しみたいに。


「今何時だろ……」


 私はポケットからスマホを取り出し、画面をタップした。

 バックライトが灯り、無機質なロック画面が表示される。

 右上のアンテナピクトを見れば、アンテナはマックス。接続良好状態。


「……虚しいねえ」


 ネットには繋がる。けれど、どのニュースサイトも最終更新日は『あの日』で止まっている。SNSを開けば、数年前の「お腹すいた」「仕事行きたくない」なんていう他愛ない呟きが、化石のように残っているだけ。

 世界中のサーバーと繋がってはいるけれど、誰とも繋がらない回線。

 まるで、幽霊と電話しているみたいだ。


「11時過ぎ、か」


 デジタル時計は『11:08』を表示していた。

 基地局が生きているおかげで、時刻の自動補正だけは正確に機能している。皮肉なほどに優秀だ。

 少し前にふざけて、自分のアカウントで「おーい」と送ってみたけれど、当然反応はない。私の投稿だけが、タイムラインの最上段で寂しく浮いている。


「毎度思うけど……電波は立っているけど、その時間って正しいの?」


 横からひょいと覗き込んできたルナが、疑わしそうな声を出す。


「さあ? でもある程度の目安にはならない? ルナも見てるでしょ?」

「それはそうだけど……誰も修正してくれないから」


 時間を気にするのは、染みついた現代っ子の習性かもしれない。

 空は分厚い雲に覆われているけれど、これだけ明るいならまだ昼間だということは分かる。


「こう見ると、さ。地球以外の惑星は生きているんだなって思うよ」

「……?」

「だって、太陽の光は届いてくるし、夜になれば月だって見えるでしょ? 太陽も月も無事なら、太陽系の他の惑星も同じように回ってるんだろうなって」

「……ユキ」

「ん?」

「月は惑星じゃなくて衛星。太陽は恒星」

「え、そうだっけ?」

「そうだよ。常識」


 ルナがジトッとした目でこちらを見る。私は「あはは」と笑って誤魔化した。


「そっか。まあ細かいことはいいじゃない。とにかく、宇宙はいつも通りってこと」

「まあそれは……うん」


 私達が消えても、星は回る。

 不思議なものだなって思う。私にとってはこの喪失感が全てなのに、宇宙から見れば些細な変化ですらないのだ。


 少しだけ、足先が冷えてきた。


「車、戻ろっか」

「ん」


 十分自然を感じられたし、そろそろ温かいコーヒーでも飲みたい気分だ。

 そう提案すると、ルナは小さく頷いて、私の服の裾をくいっと掴んだ。


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