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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

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【三人の王子シリーズ】無能王子に婚約破棄されたので実家に帰ろうとしたら、王国のトップ3(全員仕事中毒の変態)に拉致されました。「私の書類を恋人のように撫で回すのはやめてください」

【番外編】「逃がしませんよ。貴女の全ては僕のものです」天使な第四王子との読書会は、朗読という名の隷属契約でした。こっそり声を録音して「毎晩聴いて寝ます」って、その純粋な笑顔の裏が真っ黒すぎませんか?

作者: 文月ナオ

このお話は、本編『無能王子に婚約破棄されたので実家に帰ろうとしたら、王国のトップ3(全員仕事中毒の変態)に拉致されました。「私の書類を恋人のように撫で回すのはやめてください」今さら復縁?私の承認印がないと予算出ませんよ 』の後のエピソードです。

まだ本編を読まれていない方は、先にそちらをお読みいただくと、より楽しめます!

▼リンクはこちらです▼

https://ncode.syosetu.com/n9542lp/

 

 イグニス殿下との市場調査、テオ殿下との下町デートを経て、私の休日はことごとく「王族対応業務」へと消えていた。


 今日こそは、一人静かに過ごしたい。


 誰にも邪魔されず、好きな本を読んで心を落ち着けたい。


 そんな私のささやかな願いを察知したのか、あるいは私の思考パターンを完全に先読みしていたのか。


 昨日の夕方、第四王子ウィル殿下から一通の招待状が届いた。


『静寂と知性を愛するレイラさんへ。

 王宮の地下にある「禁書庫」へご招待します。

 そこなら誰も来ませんし、貴女が読みたがっていた東方諸国の経済史料も揃っています。

 美味しいお茶を用意して待っていますね』


 完璧だった。


 私のニーズを100%満たす提案だ。


 イグニス殿下のような強引さもなく、テオ殿下のような物理的な拉致もない。


 あまりにスマートで魅力的なお誘いに、私は二つ返事で了承してしまったのだ。


 ……それが、彼の狂気を知ってしまう事になるとも気づかずに。




 ◇◆◇




 王宮の地下深く。


 選ばれた王族と一部の学者しか入ることを許されない「王宮禁書庫」。


 重厚な扉を開けると、そこには古紙とインクの混ざり合った、本好きにはたまらない香りが満ちていた。


 壁一面を埋め尽くす書架。魔法のランプが灯す、温かな明かり。


 そして、部屋の中央に置かれたアンティーク調のテーブルセット。


「お待ちしていましたよ、レイラさん」


 本を読んでいたウィル殿下が、顔を上げて微笑んだ。


 色素の薄い金髪に、知的な碧眼。


 まだ14歳という少年ながら、その佇まいはすでに完成された美しさを持っている。


 まさに、天使のような笑顔だ。


「おはようございます、ウィル殿下。お招きいただきありがとうございます」


「いいえ。僕が貴女と過ごしたかっただけですから」


 彼はさらりと甘い言葉を口にしながら、私をエスコートしてくれた。


「座ってください。今、お茶を淹れますね」


 テーブルの上には、見たこともない高級な茶器と、可愛らしい焼き菓子が並んでいる。


 ウィル殿下の淹れる紅茶は、プロの宮廷茶師も顔負けの絶品だった。


 温度、蒸らし時間、茶葉の量。全てが計算し尽くされている。


「はぁ……美味しい」


 一口飲んで、私は思わず息を吐いた。


 日々の激務でささくれ立った神経が、柔らかく解れていくようだ。


「気に入っていただけて嬉しいです。茶葉は、貴女が以前『香りが良い』と褒めていた銘柄を取り寄せました。お菓子も、甘さ控えめのものを選んであります」


「私の好みを、よくご存じですね」


「当然ですよ。貴女のことなら、何でも知っていますから」


 彼はにっこりと笑った。


 その言葉が、単なる比喩ではなく、文字通りの意味(徹底的な情報収集の結果)であることを私は知っている。


 少しだけ背筋が寒くなるが、この快適な空間には代えがたい。


 私は彼に勧められるまま、貴重な古文書を手に取り、読書に没頭することにした。




 ◇◆◇




 静かな時間が流れる。


 ページをめくる音と、時折カップを置く音だけが響く、理想的な空間。


 私は幸せを噛み締めていた。


 ……はずなのだが。


 視線を感じる。


 それも、かなり熱烈な視線を。


 私は本から顔を上げずに、静かに尋ねた。


「……ウィル殿下。先ほどから、ページが進んでいないようですが」


「ええ。進んでいませんね」


「本を読まないのですか?」


「読んでいますよ」


 彼は即答した。


「貴女という、この世で一番難解で、美しい本を」


 私は思わず顔を上げた。


 ウィル殿下は、手元の本を開いたまま、頬杖をついて私を凝視していた。


 その瞳は、獲物を観察する学者のようでもあり、宝物を愛でるコレクターのようでもあった。


「……そんなに見られると、集中できません」


「困りましたね。僕は貴女が思考に没頭している時の、その冷たくて美しい横顔を見るのが一番の趣味なのですが」


「悪趣味です」


「最高の賛辞です」


 彼は悪びれもせず、くすくすと笑った。


 そして、席を立つと、私の隣へと移動してきた。


「レイラさん」


「はい?」


「少し、近づいてもいいですか? 貴女のインクの匂いを嗅ぎたいんです」


「……お断りします。私はインクではありません」


「比喩ですよ。……貴女からは、知性の香りがするんです」


 彼は拒否を聞かなかったことにしたのか、あるいは最初から聞く気がなかったのか、私の座る長椅子の隣に腰掛けた。


 そして、ふわりと私の髪を一房すくい上げ、鼻を寄せた。


 スゥ、と深く空気を吸い込む音。


 ゾクリと鳥肌が立つ。


 物理的な接触は髪だけなのに、まるで全身を愛撫されたような気分になる。


 絡め取られるような湿度のある接触。


「……ああ、落ち着く。最高の香りだ」


 ウィル殿下はうっとりと目を細めた。


「殿下、近いです」


「許してくれませんか? 僕は、今とても幸せを感じているんです。貴女が嫌でないのなら、このままで」


「……まあ……いいでしょう」


 口が達者だ。


 14歳にしてこの図太さ。末恐ろしいにも程がある。


 私はため息をつき、本を閉じた。


 これでは読書どころではない。




 ◇◆◇




「……はぁ……」


 読書を続けていると、ウィル殿下は、私を見つめ、わざとらしくあざといため息を何度もつく。


「……何かご用でも?」


 私が観念して尋ねると、ウィル殿下はパァっと表情を明るくした。


「さすがレイラさん。察しが良いですね」


 彼は一冊の古い書物をテーブルに置いた。


 革の表紙は古びており、かなりの年代物に見える。


「実は、目が疲れてしまって。……少し、朗読をしていただけませんか?」


「朗読、ですか?」


「ええ。耳から情報を入れたい気分なんです。それに、貴女の声はとても聞き取りやすい。……低くて、理知的で、冷ややかで。脳に直接染み込んでくるようだ」


 彼は熱っぽい瞳で私を見つめ、甘えるように上目遣いをした。


「お願いできませんか? 僕の可愛い先生」


 ……ずるい。


 この「年下特権」と「美少年」という武器を、彼は完璧に使いこなしている。


 ここで断れば、私が冷たい大人のように思えてしまう。


「……分かりました。どこを読めば?」


「ここです。古代ルーン語で書かれた詩なのですが、解釈が難しくて」


 彼が開いたページには、複雑な幾何学模様のような文字が並んでいた。


 古代ルーン語。


 魔術の契約や、王家の儀式に使われる古い言語だ。


 普通の貴族令嬢なら読めないだろうが、生憎と私は「超」がつくほどの勉強家だ。これくらいなら翻訳なしで読める。


 私は咳払いを一つして、読み始めた。


「……『我、深淵より来たりて、汝に誓う』……ですか?」


「はい。続けてください」


 私は朗読を続けた。


 内容は、ある騎士が主人に対して忠誠を誓う、一種の宣誓文のようだった。


 だが、読み進めるうちに、少し違和感を覚えた。


『我が魂は汝の器なり。汝の言葉は我が理なり』


『星が巡り、海が枯れるとも、この鎖は解かれず』


 ……重い。


 忠誠にしては、あまりにも表現が重く、そして情熱的すぎる。


『――故に、我は汝を離さず。死が二人を分かつまで……』


 そこまで読んで、私は言葉を止めた。


 最後のフレーズ。


 これは、古代語における「魂の婚姻」、つまり「永遠の隷属婚」の定型句だ。


「……殿下。これ、ただの詩ではありませんね?」


 私が指摘すると、ウィル殿下は薄く目を開けた。


 その碧眼は、とろりと濁っていた。


「おや、気づきましたか」


「これは古代の『隷属契約書』、それも伴侶に対する絶対服従の誓いです。……こんなものを私に読ませて、どうなさるおつもりですか」


 私が咎めるように言うと、彼は体を起こし、私の顔を覗き込んだ。


 その距離、わずか数センチ。


 彼の整った顔立ちが、妖艶な笑みに歪む。


「……貴女が、僕にこれを誓ってくれたらいいなと思いまして」


「私が殿下に誓うのですか? 主語が逆では?」


 文脈からすれば、『我(読み手)』が『汝(聞き手)』を離さない、と誓う形になる。


 つまり、私が彼を束縛することになってしまう。


 しかし、ウィル殿下は嬉しそうに首を振った。


「いいえ。逆だからこそ、成立するんですよ」


「……はい?」


「『私(汝)を離さない』と、貴女自身の声で宣言してくれた。……それを僕が承認(受理)したことで、契約は完了しました」


 彼は私の手を取り、指先に口づけを落とす。

 ただの指先への口付けなのに、何故かとても濃密な湿り気を感じた。


「言質は取りましたよ、レイラさん。ご自分で誓った通り、死が二人を分かつまで……責任を持って、僕を飼い殺してくださいね?」


 彼は頬を染め上げ、とろとろにとろけた瞳で私を見つめ、そう言った。


「は……?」


 私は絶句した。


 つまり、私は自分の口で、彼という存在を一生背負い込む契約をさせられたということか?


「貴女の声で紡がれる束縛なら、僕は喜んで受け入れますよ。……ああ、ゾクゾクする。貴女に管理されるなんて、最高の快楽だ」


 彼は恍惚とした表情で、私の手を取り、その掌に頬を寄せ、猫のように何度も擦りつけた。


 まるでマーキングでもするように。


 妙に熱を帯びた肌の感触。


 そして、その瞳の奥には、狂気じみた情熱が燃えている。


 この子は、Mなのか、Sなのか。


 あるいは、その両方を併せ持つ怪物なのか。


「じょ……冗談ですよね?」


 私が引きつった笑いで尋ねると、彼はスンッと真顔に戻り、天使の笑顔を作った。


「もちろんです。ただの古い詩ですよ。……そんなに怖がらないでください」


 嘘だ。


 絶対に嘘だ。


 この顔は、本気の時にしか出せない顔だ!




 ◇◆◇




 夕方になり、私は禁書庫を後にした。


 ウィル殿下は名残惜しそうに、出口まで見送ってくれた。


「今日はありがとうございました、レイラさん。人生で最高の時間でした」


「え……ええ。お茶は美味しかったです。お茶は」


「ふふっ。また来てくださいね。次はもっと面白い本を用意して、貴女を()()()()()しますから」


 彼は無邪気に手を振った。


 私は一礼し、足早に廊下を歩き出した。


 背後に、まだ彼の熱い視線を感じる気がして、自然と歩調が速くなる。



 やはり、あの子が一番危険かもしれない。



 イグニス殿下やテオ殿下は分かりやすいが、ウィル殿下は何を考えているのか底が見えない。


 そんなことを考えながら角を曲がった時、私はあることに気づいた。



 ポケットに入れていたハンカチがない。



 禁書庫に忘れてきたのかもしれない。


 いや、でも、禁書庫では使ってないし、落とすとも考えにくいけど……。


 戻るべきか。いや、明日取りに行けばいいか。


 そう思ったが、もしウィル殿下がそれを拾って「レイラさんの匂い……」とかやり始めたらと思うと、背筋が凍った。


 今すぐ回収すべきだ!


 私は踵を返し、忍び足で禁書庫へと戻った。


 扉は少しだけ開いていた。


 中から、ウィル殿下の声が聞こえる。


「……再生」


 ヴンッ、という魔法の発動音。


 その直後、禁書庫に響き渡ったのは――私の声だった。


『――故に、我は汝を離さず。死が二人を分かつまで……』


 先ほどの朗読だ。


 それも、一番重い誓いの部分。


 どうやら、彼は魔道具を使って、こっそりと私の声を録音していたらしい。


「あぁ……いい声だ。レイラさんっ……」


 ウィル殿下の、甘く蕩けたような独り言が聞こえてくる。


「あぁ……これを毎晩聴いて眠れば、夢の中でも貴女に会える。……貴女に管理される夢が見られるなんて、幸せすぎる……。毎晩……夢の中でも僕に甘く囁いてください……」


 私は扉の隙間から、彼が魔道具を抱きしめ、うっとりと身をよじっている姿を見てしまった。


 そして、その手には――私が探していたハンカチが握りしめられていた。


 彼はハンカチに顔を埋め、深呼吸をしている。


「すぅ……はぁ……。あぁ……逃がしませんよ、レイラさん。貴女の知性も、声も、全て僕のものです。あなたの、この匂いも……僕だけのもの……」


 その言葉は、もはや少年のものではなかった。


 執着と独占欲に満ちた、一人の()の宣言だった。


 彼はその後も、何度も何度も私のハンカチの匂いを嗅いでは恍惚の笑みを浮かべ、深呼吸を繰り返した。




 私は、そっと扉から離れた。






 さて。





 ハンカチは諦めよう。





 彼は、ヤバい。


 ヤバすぎる。



 あれは彼への手切れ金……いや、供物だと思えば安いものだ。


 私は逃げるようにその場を去った。


 心臓が早鐘を打っている。


 恐怖か、それとも――。


 彼の底知れない狂気に満ちた愛情に、少しだけ絆されてしまった自分への戒めか。


 いずれにせよ、私の平穏な日々は、この天才ヤンデレ変態王子によって、これからも甘やかに、そして執拗に脅かされ続けることだろう。


 これが、私と、天使の顔をした悪魔な第四王子との、秘密の朗読会の顛末である。

 

ここまでお読みいただきありがとうございました!


現在、本編(番外編含め)連載版の執筆中です。

今週中1/17迄には投稿日の案内が出来ると思いますので、本編のあとがきにて投稿日のお知らせをいたします!



「面白かった!」「また読みたい!」と思っていただけたら、

下にある【★★★★★】評価やブックマークで応援していただけると、創作意欲が爆発します!

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★毎日短編投稿してます!ゲリラ的に2本投稿する日もございますので、興味のある方は作者マイページよりお気に入り登録していただくか、チラチラと確認していただけると、見逃さずにお読みいただけるかなと思います!

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【スカッとしたい方へ】

『その聖水、ただの麻薬ですよね?』

https://ncode.syosetu.com/n7575lo/


【笑ってキュンとしたい方へ】

『冷徹公爵様の心の声 (テロップ)がピンク色で大暴走している件について』

https://ncode.syosetu.com/n8515lo/


【とろとろに甘やかされたい方へ】

『触れるもの全てを殺す『死神公爵』様、なぜか私だけ触れても平気なようです』

https://ncode.syosetu.com/n7783lo/


他にも投稿済みの短編がございますので、作者マイページからお好みのものを見つけてご覧いただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
イケメン、ヤンデレ、有能 諦めろ。逃れられるはずがない。
白い(多分)ハンカチーフは貴方への素敵な贈り物〜♪ ヤンデレサイコパスとの禁書庫デート、きっと最後ではありませんわね。 いつかハンカチーフが特級呪物となって彼女を甘く苦しめる、そんな予感がしますわ‥
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