二時限目 先生は皆、神様
僕らはある日突然、神の領域である神域で転生者として目覚め、そこにいた神様に転生者のための学校の生徒として迎えられたのだが…。
「ふざけんな!何が生徒だ!何がリンカネーションスクールだ!」
僕はもちろん同じ境遇に立たされていた全員が唖然となっていたが、リュウトだけは反抗的な様子で怒鳴り散らしていた。
「とっとと俺を元の世界に転生させろ!クソ野郎共とクソドラゴンを地獄に叩き落してやる!」
話は傍らで聞いていたがリュウトは仲間に裏切られ、しかもドラゴンに殺されたと言う壮絶な死に方をしているため、例え相手が神だろうと怒鳴り散らすのも無理もない気がする。
「はっはっはっ、復讐を果たすために元の世界に戻りたいか。尚の事、君は私の生徒に相応しいな」
「何でだよ!」
怒鳴り散らされても笑って許すどころか、生徒としてリュウトを招き入れようとするなんて、器の大きさはさすがは神様と言うべきだろうか。
「どっちにしてもお前らは入学する他ないってことだな!」
「ああ?誰だお前らは?」
気が付くと校舎の前には六人の大人が立っていたのだが、髪の毛が炎や水流のようにユラユラしていたり、それでなくとも人間とは思えないオーラを放っているようにも思えた。
「俺様はゼウス!名前ぐらいは何人かは知ってるだろ?」
ギリシャ神話に出てくるローブを身に纏った金髪の筋肉質の大男は自らをゼウスと名乗った。
僕の知っている限りゼウスとは雷の神様のイメージがあるけど、この人もよく見るとビリビリと電流のような物が筋肉質の身体を駆け巡っているようにも見えた。
「ゼウスだがセンスだが知らねぇが何でこんなふざけた場所に入学するしかねぇんだよ!」
「分かんねぇかな?お前らは確かに転生者として生まれ変わったが、ここはお前らの知る現世じゃねぇんだよ」
「つまり君達は生きてはいるけど、ここでは生殺与奪は僕らに握られているのさ」
今だに荒ぶるリュウトに話しかけるゼウスに続いて、ナチュラルに恐ろしいことを口にしたのは、台詞の割に穏やかそうな和装とメガネを掛けた人だった。
「ここは本来特定の種族を除いて生者が来れる場所ではないんだ。ここでは僕ら神々が絶対的な存在なんだ。例え…いや、だからこそ君達の命ですら僕らの手中にあると言うことさ」
見た目が人間と変わらないし、本当に神様かどうかは疑問だったけど、人間の命をまるで虫けらのように扱う言い方に僕は心の底からゾッとする。
自然の猛威たる天変地異も、人の生死や運命なども人間にはどうしようも出来ないことだ。
しかし目の前にいる六人の神からすれば気まぐれや悪戯も同然であり、人の命も天変地異も…いや、この世の全ても些細なことだとしか思ってないらしく、さすがのリュウトも恐怖に顔が引きつっていた。
「ガイア先生、生徒達が怯えていますよ!」
「皆、安心してね。幾ら何でもあなた達をまた死なせるようなことはしないわ」
そんな僕らの心情を見抜いたのか髪が水流になっているツインテールの女性が見た目の割に恐ろしいことを口にしたガイア先生を叱責し、頭の上に見事な大輪の花を咲かせた女性が僕らを宥めてくれる。
「私達はあなた達が良い転生者になれるように教え導く先生よ。だから何も恐れることはないわ!」
「無事に全ての学業を修了し、卒業出来ればいよいよ異世界に行けるのよ」
確かに恐ろしい人…と言うよりも神様だったけど、つまりは僕達を良い転生者として異世界に送れるように指導してくれるようだ。
「…とにかく、この神域で転生者となったらやることは一つ。ここで転生者として一から十まで教えてあげるから」
締めくくったのは小柄で眠そうな様子の白い魔法少女の先生だった。彼女は身の丈に合わない大きな杖を掲げて呪文を唱えると折り紙の蝶が出現し、僕らの手元に向かって飛んでくる。
「…それはあなた達のクラス分け。それぞれ割り振られた教室に向かってね」
折り紙の蝶を元の紙にして広げてみると見たことない文字が書かれていたが、不思議とその文字が『レッドウイング』と書かれているようにも見えた。
「皆のクラスは分かったかな?ではここで君達の先生となる神様を紹介しよう」
クラスを頭に入れた後、神様は僕達の先生になってくれる神様の自己紹介を始める。
「まずはこの私。学園長の『創造神』じゃ。まあ、堅苦しいのは苦手じゃから学園長や校長と好きな方で呼んでくれ」
最初に紹介したのはやはり目覚めた僕らに声を掛け、この神域を作り出した神様からだった。
取り仕切っている辺り一番偉い人なのだろうと思っていたけど、やっぱり…ううん、そもそも神域はもちろんリンカネーションスクールを創立したのだから学園長先生と言うのも納得だった。
「…私はムーンシンボルの神様。創造神様から『ユノ』と呼ばれているわ」
「俺はファイヤーシンボルの神様!創造神様からは『プロメテウス』と呼ばれている!よろしく頼む!」
「あたしはアクアシンボルの神様よ。創造神様からは『ウンディーネ』の名を授かっているわ」
「私はプラントシンボルの神様です。創造神様からは『イグドラシル』と呼ばれていますわ」
「俺様はゴールドシンボルの神!創造神様からはさっきも聞いたように『ゼウス』と呼ばれているぜ!」
「改めて僕は『ガイア』。グラウンドシンボルの神様です。以後お見知り置きを」
六人は自己紹介をするのだが、どれもこれも神話やゲームなどで聞いたことがあるような神様や聖霊の名前をしていた。
(でも、シンボルの神様って…?)
「今、シンボルの神様はどう言うことなのか質問があったため答えよう」
ドラゴンだから喋れないし、心の中で疑問に思っていると校長先生がそれを読み取って質問に答えてくれる。
喋れないから助かるけど、ハッキリ言ってそこまで言い当てられるとめちゃくちゃ驚いてしまう。
「彼らは私の眷属の神で、現存する様々な異世界のあらゆる要素を司る存在だ。例えばプロメテウスは火や熱、空気や気体、意思や意識などの不定形な存在を司る神なのだ」
紹介に預かったのは髪の毛が炎のようにユラユラと揺れる褐色肌の男性の神様のプロメテウス先生だった。
その名の通り人類に火を授けた神だと前世では周知していたが、プロメテウス先生は火だけでなくその他の要素も司っていると言う。
つまり目の前にいる六人の神様は僕の生まれ故郷である前世の世界はもちろん、他の生徒達の生まれ故郷の異世界を構成している火や水などの元素や様々な要素を司る神様だと言うことだ。
「一つ聞きたいことがあります。僕は本来捨てられるオモチャだったのですが、今こうやって人間に似た姿を与えられたのはあなた達のお陰だと言うのは分かるのですが…どうも与えられたのは姿だけではないような気がするのです」
ロボット人間のような男子が自分を捨てられるオモチャだと言っているのが気になるけど、校長先生は良い所に気が付いたなと言わんばかりに笑い始める。
「その通りだビホット。君達の何人かには新しい姿を与えたが、ここにいる全員には私達、神からの祝福が授けられている」
「祝福とは…?」
「前世では考えられなかった特別な力だ。別の言い方をすれば特典やチート、ギフトや特殊スキルと言う言い方も出来る。とにかく君達には神からの祝福が与えられたのだ」
異世界転生ではもう一つお馴染みの物がある。それは神様から何か特殊な力である特典やチートなどを授かることだが、どうやらここにいる生徒達…僕も含まれる全員がそれを授かっているようだ。
あのロボット人間の男子生徒ビホットの違和感は恐らくその特殊な力…ここでは祝福と言うらしく、それが違和感の正体なのではと僕は考えた。
「けど、僕は特にそんなの感じないよ?」
『キュル…』
獣人の男の子の言う通り、僕は姿はドラゴンだけど特出して何か変わった力があるようには見えなかった。
「キュルちゃんだってそうでしょ?」
『キュル…!?』
しかし今一番気になったのは彼が着けた僕の名前だった。恐らく僕の鳴き声からそんな安直な名前を着けたのだろうが、これからそう呼ばれるとなると違和感があった。
「あくまでも私達はこの神域で転生させ、切っ掛けを与えただけだ。祝福とは君達の中に眠るあらゆる可能性が具現化した物であり、どんな祝福になるかは君達の可能性次第だ」
物語によってはどんな転生特典かは明かされない場合もあるが、この場合は僕らがどんな祝福を目覚めさせるかどうかと言うことだ。
例えるならば工作に材料だけを与えられ、そこから自分達で何を作れるかと言うことだろう。
「そんなこと出来るのかな〜…?」
「うがあ〜!?もどかしいなぁ〜!?」
「安心して欲しい。リンカネーションスクールは祝福を学ぶ場所でもあるから、ここでよく学んで行くと良いぞ」
僕もだけど他の人達も祝福を開花出来るかどうか不安がっていたが、この学校は異世界だけでなく自分達の祝福のことも教えてくれるらしく安心する。
「さて…そろそろオリエンテーションと行こうか」
「オリエンテーション?」
「学校のことを知らなれけば色々と苦労するだろう。まずは学校探検だ!」
神様と言うから近寄りがたい厳格なイメージがあったけど校長先生である創造神様は器が大きく、意外にもノリは悪くないため親しみが持てそうだった。
「では、まずは校舎に入って各々の教室に向かってくれ」
教室と言うからには先程ユノ先生が配った紙に書かれていた名前の教室に向かうべきだろう。多少ザワつきながら生徒達もそちらへと歩き始める。
『キュル!?キュルル〜…!?』
しかし問題があった。僕はドラゴンになったと言うのに空を飛べなかったのだ。
おまけに飛べない以上は歩いて行く必要があるが、子供よりも小さい上に、長年連れ添った元の人間の身体とは異なることもあって教室に向かうだけでも一苦労だった。
「ここが僕らの教室?」
「きゃははは!何これ!面白そうー!」
四苦八苦しながら向かうべき教室、レッドウイングクラスに辿り着くと先程の獣人の男の子はもちろん、先に行っていたクラスメイト達が既に九人ほど集まって着席していた。
「けっ、そのドラゴンと同じ教室かよ」
これも校長先生である創造神様のイタズラか、寄りにもよってドラゴンを敵視しているリュウトと同じクラスだったらしく、彼も机に足を載せながら嫌悪感を露わにしていた。
僕はリュウトの視線におずおずしながら真ん中の最前列の席に近付くが…。
『キュル…』
机や椅子は神様が創り出したと言うだけあって、高級そうな白い机と椅子だった。しかしサイズが人間と同じ…子供より小さい僕からすれば、某忍者アトラクションほどのサイズはあった。
『キュ…キュルル!』
しかしこれから異世界の授業をするのならこれくらいで音を上げる訳にもいかないため、意を決して椅子の脚にしがみついて落ちないように登っていく。
『キュル…キュル…キュ〜…キュ!?』
息を切らしながら何とか椅子の天板まで登り、ようやく着席出来たとホッとしたら、再び弊害があることに気が付いた。
椅子に着席出来ても、机も人間サイズであるため前が見えないのだ。これではノートを記入するどころか、黒板の内容すら分からない。
『キュルル…!?』
再び息を切らしながら僕は机の天板に突っ伏す。いちいち着席するためにこんな忍者みたいな登り降りを繰り返してたら別の意味で強くなりそうな気がした。
「さて、お前達!集まっているな?改めて俺はお前達の担任を務めるプロメテウスだ!」
教室に入って来たのは髪の毛が炎のようにユラユラと動いているのが見え、それがすぐにプロメテウス先生だったとすぐに理解した。
「俺は主に国語と音楽、異世界の言語や文学はもちろんそこから構成される音楽などを担っている」
意外なことにプロメテウス先生は国語と音楽と文系の教科を担当しているようだ。
「次に一人ずつ自己紹介をして貰う。先生に君達のことを教えてくれ!」
今度は学校生活でお馴染みのクラスメイト同士の自己紹介が始まる。こう言うのはお互いに初対面であるため、恥ずかしがって誰から行こうか顔を見合わせていた。
「はーい!まずあたしからね!あたしは澪!学校の部活でチアリーダーやってたんだよ!」
ところが先陣を切ったのは元気いっぱいのチアリーダーの女の子の澪だった。特徴としてはチア衣装が目立っていることはもちろん、ボンボンのようなポニーテールが目に付いた。
「ぼ…僕はテアナ村出身のルワッフって言うの!よろしくね!」
澪に続いて自己紹介をしたのはあの獣人の男の子だった。恥ずかしがりながら明かした名前はルワッフと言うらしい。
「私は主の導きによって聖女を務めさせて貰いましたシャーリーと言います。よろしくお願いします」
白い修道服を着たシスターの女の子は自らを聖女と明かし、シャーリーと言う名前だった。
「きゃははは!僕はマイムだよ!よろしくね!きゃははは!」
笑うか話すかどっちかにして欲しい自己紹介をしているのはマジシャンとジョーカーを混ぜたような服装と、片方が白の笑顔でもう片方が黒の悲しみのピエロのフェイスペイントをした男の子のマイムで口を開く度に笑っているために騒がしかった。
「僕の名前はコダマだよ。カブトムシを捕ってたら雷に打たれたと思ってたけど…」
飄々とした吟遊詩人のような男の子は自身の死因を明かしてくるが、カブトムシを捕ろうとして雷に打たれたって…。
「…リュウトだ」
次に紹介したのはリュウトだったが、ぶっきらぼうに名前しか言わずにすぐさまそっぽ向く。しかし正確には彼は視線を僕の後ろの席に向けていたのだ。
と言うのも後ろの席の椅子には宝箱が置かれていたからだ。ゲームのダンジョンとかなら分かるが教室に宝箱があるのは余りにも場違いであってどうしても気になってしまう。
「次は君だ。自己紹介してくれ」
『ギュルル〜!』
『キュル!?』
プロメテウス先生が宝箱をノックすると中から蛸の足のような物がビックリ箱のように飛び出し、僕の方にまで足が飛んできたために度肝を抜かれた。
よく見るとその宝箱の正体は僕らと同じく転生者の生徒であったミミックだった。
「元気があって良いじゃないか!君の名前は何だ?」
『ギュル…ギュルルル…』
蛸のような足を箱の縁に出しながら三つのギョロ目でプロメテウス先生を見ながら何やら唸り声を出していた。
「そうか、アレンと言うのか!」
『キュル!?』
「え…今何を言っているのか分かったの!?」
ルワッフだけでなく他のクラスメイト達も、同じく言葉を発せれない僕にも、ミミックの生徒が何を言ったか理解出来なかったが、プロメテウス先生だけはその生徒がアレンだと看破したことに驚きを隠せなかった。
「ふふふっ、俺が彼の言葉を理解出来たのがそんなに驚きか?」
「驚きましたよ…どうしてなんですか?」
元気いっぱいな澪は呆然とする僕らの気持ちを代弁するかのように、自慢気にするプロメテウス先生に質問を投げかける。
「俺達、神々は人々の心の声を聞けるのだ!祈りを捧げればそれを聞くことも出来る!他心通とも呼ばれているが、アレンが何を言っているか理解するくらい他心通を使わなくても朝飯前だ!」
「まあ…!だから私達の声も聞いてくれたのですね…!」
神社や教会などで願いや祈りなどを捧げたりするが、神様は他心通を使ってキチンと聞き入れてくれているようだ。
しかもそれは異世界共通らしく、特に聖女として祈りを捧げ続けたシャーリーからすれば冥利に尽きるだろう。
「今は分からないだろうが君達も俺の授業を受ければ異世界の言葉はもちろん、アレンやキュルの言葉だって分かるようになるぞ!」
「おお〜っ…!そうなんだ!」
「面白いね」
いきなり話題を振られて驚くも、プロメテウス先生は心の声だけでなくアレンや僕が何を言っているか理解するならば、国語の授業を受ければ良いと後押しをし、ルワッフやコダマ達もワクワクした様子を見せる。
「さて、残すはキュルと…」
「いっただきー!」
『キュア!?』
呼ばれて自己紹介をしようとしたら僕の身体が引ったくられるような衝撃に頭が大きく揺れた。
「へへ〜んだ!こんなとこに閉じ込められるぐらいなら…あたしはこいつと一緒に異世界転生してやるぜ!」
僕を持ち上げたのはフワフワしたショートカットの割にはやんちゃな雰囲気が特徴的な五歳ぐらいの女の子が、卒業を待たずして異世界へ行くと、先生である神様に犯罪声明でもするかのような発言をしていた。
「おい、何処に行く気だ!」
「あたしの祝福『サイキック』でどうすれば異世界に行けるかはお見通しだぜ!あ〜ばよ!」
『キュルル〜!?』
プロメテウス先生が呼び止めるも、その女の子は既に目覚めさせていた祝福を使う。すると僕の目の前の教室の光景が一瞬にして何処か別室の光景に早変わりするのだった。
『キュル…?』
早変わりしたことに車酔いしたかのようにフラフラする頭で見回すと、辿り着いたのはドーム状の部屋で、周りには様々な形状の扉が壁にはもちろん、天井やその中腹に設置されていた。
「ここは『ポータルーム』。ここを使えば学校の色んな場所に行くことはもちろん、異世界に行けるって先生達の考えをテレパシーで読み取ったんだ」
『キュル!キュルル!?』
「あ?こんなことは止めようって?」
どうやらテレパシーと言うのは本当らしく、プロメテウス先生のように一言一句アレンの自己紹介言い当てたように、彼女は僕の言っていることを理解してくれた。後は説得に応じてくれれば良いけど…。
「お前の立場は分かってんのか?お前はあたしと一緒に来るんだ!でもって子分になるんだよ!」
『キュル〜!?』
応じるどころか僕を子分にするとか言い出したために、耐え切れずに走って逃げようとする。空が飛べればもっと早く逃げれるんだろうけど…。
「逃がすか!」
『ギュ!?』
ところが逃げたいはずなのに僕の身体は金縛りにあったかのようにピタリと動かなくなる。何か見えない力が働いているようだ。
「さあ!あの扉を潜ってあたしらの異世界生活が始まるんだー!」
『キュル〜!?』
転生者の学校に入学したばかりなのに、いきなり問題児と共に卒業もせずに異世界に転生なんて…前途多難過ぎるよ!?




