### **第七章 雷光の筆**
「フランケンシュタインの怪物」の出典元の小説「フランケンシュタイン」がこの時代あったのかファクトチェックしたところ……1818年!?
日本だとまだ江戸時代に発行されてることにビビった。
という訳で、西郷の弟。西郷小兵衛など海外留学した人間も薩摩にはそこそこいるので知っていてもおかしくないカモ……ということにして直しません。
あと乃木式義手はマジで存在します。
史実では兵士に自由にタバコを吸わせてやりたい。
と乃木さん自ら設計したそうな。
桐野は、失った右腕を見つめていた。
そこにあるべきものがない。
剣を握る手。
筆を握る手。
言葉を記す手。
それがなくなった。
「……俺は、終わったのか」
そう呟いた時、
目の前に立つ乃木が、静かに言った。
**「右手がなくても、雷は落ちるのです」**
雷。
その言葉が、彼の胸を貫いた。
雷が落ちるのに、剣はいらない。
雷が鳴るのに、右手は必要ない。
「……」
桐野は、ただ無言で乃木を見上げた。
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数日後、乃木が再び訪ねてきた。
彼は、小さな木箱を持っていた。
「開けてください」
桐野は、それを受け取り、蓋を開けた。
中には、**義手** が収められていた。
「これは……?」
「私が開発に関わった義手です」
「義手? 俺にこれを使えと?」
「ええ」
乃木は静かに頷いた。
「武士の時代は終わりました。しかし、新たな戦いに適した武器が必要でしょう?」
「……武器?」
「これは、ただの義手ではありません」
乃木は、桐野の視線をしっかりと受け止めながら続けた。
「これは、雷を宿すための手です」
「……雷を?」
「筆を握り、言葉を刻むための、新たな剣」
「……」
桐野は、無言で義手を手に取った。
冷たい金属の感触。
自分の肉体ではない異物。
それでも、そこに確かな重みがあった。
「装着してみてください」
「……チッ、面倒なことを」
桐野は、手を伸ばし、義手を装着する。
装着した瞬間、わずかに電気が走るような感覚があった。
まるで雷が指先を駆け抜けるように。
「どうです?」
「……最悪だ」
桐野は、嘆息した。
「まるで、フランケンシュタインの怪物だ」
「違いますよ」
乃木は微笑んだ。
「これは、雷光の筆です」
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その夜、桐野は義手を使い、初めて筆を握った。
違和感があった。
感覚が鈍い。
細かい動きがうまくいかない。
だが、彼は書いた。
一文字、一文字、刻み込むように。
それは、剣を振るう感覚に似ていた。
かつて、示現流の剣を振るっていた頃のように。
振り下ろせば、一撃で決着がつく。
そう——これは剣だ。
だが、剣ではない。
これは筆だ。
だが、筆でもない。
これは——雷だった。
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「雲耀、復活!」
翌朝、新聞社には歓喜の声が響いた。
数週間、姿を見せなかった「雲耀」が、再び記事を書いたのだ。
それは、戦場の記録だった。
**「戦場の記録者として」** というタイトルの記事。
旅順要塞の惨状。
塹壕戦の地獄。
戦場に散る兵士たちの叫び。
そのすべてが、紙面に刻まれていた。
読んだ者は、震えた。
「これが……これが雲耀の記事か……!」
**雷のような言葉が、紙の上に落ちていた。**
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桐野は、再びペンを握った。
いや、違う。
**彼は、雷を握った。**
右手がなくても、雷は落ちる。
ならば、彼は——
**雷光の筆を振るう者になる。**
それが、彼の新たな戦場だった。