### **第四章 雷のように駆ける言葉**
天下の二福。福沢諭吉のライバルポジのキャラ。福地桜痴さん出ました!
個人的には割と好き。
素直すぎてなんでも率直に言いすぎて周りと揉めてるところとかね~。
福沢先生呼びは不自然かと思ったけど……直さずにそのまま通します。
雲耀。
雷のように鋭く、一瞬にして空を裂く剣。
かつて桐野が振るった示現流の剣術、その一撃の名を、彼は新たな己の名として授けられた。
だが、名前を与えられたからといって、すぐに何かが変わるわけではなかった。
「名前なんて関係ねぇ」
新聞社を出た後、彼は呟いた。
剣を捨てた人間が、今さら名を持つことに何の意味があるのか。
そんなものはただの飾りにすぎない。
そう思っていた——しかし、現実は違った。
翌日の新聞に、再び「市民の声」として彼の文章が掲載された。
そして、その下には、初めて**「雲耀」の名が記されていた。**
たった一つの名前が、世間を動かすことを彼はまだ知らなかった。
人々は、その名を口にした。
「雲耀の記事を読んだか?」
「雲耀は、政府の嘘を暴く正義の記者だ」
「雲耀は、もしかすると西南戦争で生き残った士族なのでは?」
名前とは、こうして一人歩きしていくものだった。
「おもしれぇな……」
桐野は、その広がりを冷めた目で見ながらも、
心の奥で、何かが燻り始めているのを感じていた。
**「雲耀」という名前が、まるで雷のように駆けていく。**
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しかし、その雷光を快く思わない者たちもいた。
「君の記事には鋭さがあるが、少し軽率だな」
そう言って、彼の前に現れたのは、福地桜痴だった。
政府寄りの新聞を率い、福沢諭吉と並び立つ知識人の一人。
そして、彼は明らかに「雲耀」の名を警戒していた。
「お前が俺に何の用だ?」
福地は、穏やかな笑みを浮かべながら、ゆっくりと口を開いた。
「新聞とは、時代を映す鏡だ。しかし、君はその鏡を、砕こうとしているように見える」
「砕いて何が悪い? 歪んだ鏡に映るものを見続けるよりは、よほどマシだろう」
「なるほど、君は剣を捨てたと言うが、言葉を剣として振るう気は満々のようだ」
桐野は、皮肉げに笑った。
「お前は違うのか? お前の新聞も、政府の剣として振るわれているんじゃないのか?」
「君の言うことはもっともだが、だからこそ言っておく。君の書く記事は、危険だ」
福地の口調は柔らかかったが、その奥には鋭さがあった。
まるで、長州人らしい洗練された剣さばきのように、淡々と、しかし急所を狙うような言葉だった。
「君がどうなろうと勝手だが、福沢先生にまで迷惑が及ぶ可能性がある」
その言葉に、桐野は無意識に歯を食いしばる。
「俺がどうなろうと構わねぇさ」
「だろうな。だが、福沢先生は違う。君の言葉が政府に目をつけられたとき、それは君一人の問題では済まなくなる」
「……俺に黙れって言いたいのか?」
「そんなことは言わない。だが、君の言葉が雷のように轟くなら、その雷光が誰を焼くか、考えた方がいい」
福地はそれだけ言うと、穏やかに微笑み、静かにその場を去った。
桐野は、その後ろ姿を見送った。
**雷のような言葉は、人を撃つ。だが、その雷光は時に、己をも焼き尽くす。**
その言葉が、胸の奥に残り続けた。