### **第三章 雲耀の誕生**
※そういえば桐野は示現流で合ってるのか? と調べたら、小示現流という示現流の分派を学んでいたという説があるらしいですね。なのでギリギリセーフかな?
ちなみに別に「古」示現流もあるんだとか……ややこしい。
薬丸自顕流を学んだ。いや独学だったという話もあって、独学だったとしたら相当なハンデのある中で「軒先から雨粒が地面に落ちるまで三度抜刀した」と伝えられるレベルの剣技を身につけるとは(この辺まで行くと真偽不明ですけどね)……そんな有能な人間を他にも沢山使いつぶしたのが明治維新でした……とても惜しいなと個人的には思います。
彼らにもいずれスポット当ててみたいな。
例えば前原一誠とか。萩の乱の首謀者だからなのか、松陰先生の弟子なのに影薄すぎるのが不憫。
その記事は、たった一日で町中に広まった。
それが新聞というものの力だと、谷晋助は初めて実感した。
たかが紙切れに書かれた文字列が、誰かの心を動かし、誰かを怒らせ、誰かを歓喜させる。
**剣では変えられなかった時代が、言葉で動くのか。**
だが、その記事を書いた本人は、何の手応えも感じていなかった。
ただ、衝動に任せて書いた。
あの記事への怒りを、そのままぶつけただけだった。
「——お前が書いたのか?」
その日、新聞社の編集部に呼び出された彼は、一人の男と対峙していた。
福沢諭吉。
新聞社の出資者であり、日本の知識人たちの頂点に立つ男。
桐野は、福沢諭吉の顔を初めてじっくりと見た。
西郷とも、大久保とも、木戸とも違う。
鋭さもあるが、それ以上に軽やかだった。
この男は剣を振るわずして、権力の座についたのだろう。
「ただの市民の一意見です」
そう返すと、福沢は小さく笑った。
「君がただの市民なら、この国には剣を振るう市民ばかりだな」
桐野は、言葉に詰まった。
「君、名前は?」
「……名乗るほどの者じゃありません」
すると、福沢は机を指でトン、と叩いた。
「ならば、名前をつけよう。雷のように鋭い言葉を持つ君には、それがふさわしい」
彼は筆を取り、一文字を書いた。
**雲耀。**
「雲の間から稲妻のように光る剣——示現流の『雲耀の太刀』から取った」
「……」
「君の言葉は、まるで雷光のように鋭く、速く、そして人々の目を奪う」
「俺はもう剣を振るうつもりはない」
「これは剣ではない。だが、同じように時代を斬れる」
福沢の言葉に、桐野は小さく笑った。
「——ふざけた名だ」
「気に入ったか?」
「……まぁな」
こうして、**「雲耀」という名が誕生した。**
この名が、のちに明治の世を揺るがす雷光となることを、
このときの桐野はまだ知らなかった。