逆十字の見る夢
先に謝っておきます。すんませんでした。
キィ、ときしんだ音を立ててガラス張りのドアを押し開けると、からんからんとドアベルが鳴った。
「いらっしゃい」
その音に、頬杖で古雑誌をめくっていた女が顔を上げて、口の端を吊り上げた。皮肉げにさえ見えるその顔に怯むことなく、かっちりしたカッターとスラックスを綺麗に着こなした青年は、にこにこと彼女に笑顔を返す。
「こんにちは、店長さん」
「ん。何だ、久し振りじゃねーの。睦」
揶揄めいた口調にわずかに苦笑をにじませて、彼は肩をすくめて見せた。
「最近、ちょっと学校のほうもバイトのほうも忙しかったんですよ。おかげで本を読む時間も取れなくって、ご無沙汰してました。すみません」
「謝られるこっちゃねーけどさ。なんだ、健全だなァ。彼女のひとりやふたりや三人や四人、いないのかよお前」
「いや、ふたり以上いたら最低じゃないですか。生憎と、店長さんのご期待に沿えるようなことはないですよ」
「なんだよ、つまんねーなァ。……っこいしょっ、と」
「どっこいしょって、云うようになったらもうオッサンですよ、店長さん」
「馬鹿野郎、私はまだ若い」
「いくつですよアンタ」
「そういうこと聞くモンじゃありません。つか、女ァ二十歳超えたらずっと歳取ンねェモンなんだよ。野郎とは違ってな」
「……。はいはい、そーですか」
「うわ超棒読み」
笑いながら立ち上がった彼女は、客が入ってきたにも関わらず、カウンターの向こうの住居スペースへ引っ込んでいった。睦はそれを見送り、天井高く積まれている古本を物色する。面白そうなタイトルを二、三冊抜き取ると、売り物であるアンティーク調の椅子に遠慮なく座り込んだ。
埃っぽい、雑然とした店内には、物が溢れかえっている。『草月庵』と号するこの店は、古本や古物を扱う、いわゆる古道具屋である。(店主は決して「骨董」とは云わない。単なる中古品あるいは新古品に、品格もクソもないというのが彼女の持論である。)
紙とインク、金属とテレピン油、エスニックな香とコーヒーの匂い。まるで現実から切り離されたかのような、どこかノスタルジックな雰囲気のこの店は、クラシック映画に似たセピア色をしている。その雰囲気が居心地いいのか、この店には睦のみならず常連も多くいた。老若男女問わぬ彼らとはいつからか会話を交わすようになり、いつの間にやらすっかり顔馴染みである。
売り物のソファやら椅子やらに腰掛けて駄弁る彼らに、ウチは喫茶店でもガキの溜まり場でもないとぶつくさ云いながらコーヒーやら紅茶やらを供してくれる店主のおかげで、居心地はすこぶる良い。
アンティークな内装、物珍しい品々、マニア垂涎の古本、レコードのひび割れた音、コーヒーや紅茶の香り。愉快な連れと、笑いあう。
そんな時間の流れるこの店が、柏木睦は好きだった。
「ほい、お待たせ」
目の前に、ずいとカップが突きつけられた。ふわりとコーヒーの香りが鼻腔を掠める。
「すみません、ありがとうございます」
「なァに、礼はお前の店のスコップケーキで構わねェぜ」
にやりと笑む彼女に今度持ってきます、と苦笑して、睦はコーヒーカップに口をつけた。これもまた売り物であるウェッジウッドのカップである。コーヒーは香ばしく、わずかに酸味が強かった。
「美味しいです」
「そらァよかった」
カフェの店員である睦の舌をして、お世辞でなく口をついた褒め言葉にも、店主は気のない声で返事をする。
会話のない、しかし欠片の重さもない静寂が満ちる。
「そォいやあよ」
ふと、店主が顔を上げた。
「こないださー、マリアージュフレールで新しい茶葉が出たらしいんだけど」
「貸しひとつですよ」
街の中心部にある紅茶専門店の名を出した女に先んじてさらりと云ってやれば、彼女はにや、と人が悪く笑う。
「こないだ絶版本見つけてやったから、これでチャラだな。いや、こっちのがまだ幾つか貸しあンじゃねェ?」
睦は降参の意を込めて軽く両手を挙げた。彼女とは歳など十も離れていないだろうに、まったく敵う気がしない。
二十代半ばから後半ほどに見えるこの女が、吉田白風という、少し変わった名だということを睦が知ったのは、ごく最近のことだ。
白い、を通り越して透き通るような膚に、柘榴石に似た瞳。やわらかにひかるくせッ毛は首筋で尻尾のようにひとつに結わえられていて、その色は銀というにはやさしく、白というには華やかだった。
アルビノなんだよ、と気にした風もなく笑う彼女は、故にあまり表には出ない。メラニン色素が極端に少ない彼女にとって、紫外線は生命に関わりかねない天敵であることを知っているから、睦も貸しだの借りだの憎まれ口を叩きながら、快く彼女にパシられてやるのである。
「やあ、また寄らせてもらったよ、ご主人」
睦がコーヒーに舌鼓を打ちながら白風と雑談に興じていると、新たな客がやってきた。重々しい、平たく云えば偉そうな口調に似合わぬ、甲高い少年の声だった。
いかにも賢しそうなブルーアイがきょろりと動き、白風と睦を写してわずかに細まる。
「おう、ブルー。一昨日振りー」
「やあブルー、久し振り」
「おや、ムツミもいたのかね。キミとは大分会っていなかったな。元気だったかね?」
「おかげさまで」
ドアの隙間からするりと入ってきた彼の目線は、大分低いところにある。しかし彼は優雅でいながら威風堂々とした歩調で睦の向かいの席へと歩み寄り、身軽な動きで絹張りの椅子の上へと飛び乗った。
しなやかな身体はそれこそ絹のようなやわらかなベージュの毛に覆われ、顔と耳、手足と尾だけは甘いチョコレート色。
仔猫、と呼ばれる時期は過ぎたものの、まだまだ若い暹羅猫は、睦の返答にそれは何より、と鷹揚に笑った。
睦も笑みを返して来客を迎える。驚くような可愛げは、どっかそこらへんにうっちゃってひさしい。
猫が人語を喋る程度の理不尽などにいちいち驚いていては、この店の常連などやっていられないのだ。
動物が喋ろうと無機物が動こうと物理法則完全無視した現象が起ころうと、この店にあっては何の不思議もない。どうせ店主も訪れる客も、皆どっか間違ってる変人ばかりなのだ。そういうものなのだと割り切ってしまえば、別段気にするようなことでもない。
ちなみに、変人の中にあってひとりおのれは一般人だと信じきっている睦とて十分変人の域にあるのだが、本人そこらへんのことは気づいていない。知らぬが仏の見本である。
「御免」
三度ドアベルが鳴って扉が開き、中学生くらいの少女が顔を出した。紅縮緬に桜と菊の白染めの大振袖を、まるで戦装束のように颯爽と翻してカウンターへと歩み寄る。小柄な体躯はほっそりと華奢で、肩より少しばかり長いくらいの真っ直ぐな髪は濡羽色。白い貌に乗っている大人びた面差しの、切れ長な瞳のふちがほんのりと紅い。
まさしく生きた日本人形のような少女に、ブルー用のミルクを持ってきた店主が気安くひらひらと右手を振った。
「よォ、お泉じゃねェの」
「邪魔するぞ、店主殿」
おや、先客がいたか。久しいな、睦、ブルー。
泉はいかにも少女らしい声とは裏腹な武士言葉で笑い、常に背負っている花柄の竹刀袋を傍らの置物に立てかけた。みずからは近くの椅子を引っ張り、
カウンターを隔てて白風と向き合い、座る。
「どうしたよ。この時間に来るなんざ珍しいじゃねェの」
「うむ、店主殿に是非見て欲しいものがあってな」
そう云うと、抱えていた包みを丁寧にカウンターに置いた。ごとり、と重い音がする。
「ウチは古道具屋であって、何でも鑑定団じゃあないんですけどねェ……」
うんざり、というよりはあからさまに面倒くさそうな顔をする女に、ナニ、と少女は嫣然と笑む。
「謝礼はもちろん支払わせて頂こう」
「拝見させて頂きます」
途端張り切って準備をしだした白風に、睦と泉はのんびりと笑う。
「扱いやすくていいねえ」
「うむ、まったく」
「貨幣なんかに踊らされるなど、これだから人間は……」
ひとりブルーはそんな彼らを冷ややかに眺める。そんな彼のちろちろとミルクを飲む姿は、愛玩動物以外の何物でもない。
装飾過多な拡大鏡なぞ持ち出してきて(これもおそらく売り物だ)、さて、と白風が本腰入れて包みの中身を調べようとしたときだった。
「た、たすけてくださいッ!!」
突然がらがらとドアベルが鳴り、少女の絹を裂くような叫びが飛び込んできた。
思わず一同が出入り口に目を向けると、大きな河トランクを抱えたどうやら外人らしい金髪碧眼の少女が、そして彼女を追うように、フードつきのマントで顔も体格も判然としない人影が三体、今まさに店内へ押し入ってくるところだった。
「「「「えええええええッ?!」」」」
なんかいきなり日常的ほのぼのからシリアスっぽいアクションものへとジョブチェンジした事態へ脳が追いつかず、店内にいた一同はとりあえず叫んでみた。というか、それ以外のリアクションが取れなかった。当然といえば当然のことだが。
「ちょ、なんで唐突に追われてンのォ?!」
つーかなんでウチに来ンの?!
マントの人影に乱暴に押しのけられて床に落ちる品々を見て、白風が悲痛に叫ぶ。それらについていた値札の数字を知っている睦とブルーも、うわあと遠い目で呻いた。あれ全部の合計、睦のウェイターのバイトの給料、六ヶ月分でも多分きかない。
しかし一同の行動は迅速だった。過去何度かこの店絡みであほらしい騒動に巻き込まれたりもしていれば、いい加減慣れも出てくる。睦は少女をカウンターへと押しやり(自分もちゃっかり避難している)、ブルーが彼女を誘導する。白風が両腕をいっぱいに広げ侵入者たちを押しとどめようとし、泉は油断なくそれらを睨みつけていた。
「はいはいはいはい、お客さん方、ストップ! そこまで!」
があん、と椅子をマントの集団へと蹴り飛ばし、白風が制止をかける。
「どんな理由があんのか知りませんがね、女の子ひとりに何人がかりだよ。つーか、店のモンに何しやがンだゴラァ。損害賠償請求すっぞ、器物損壊でパクられたくなかったらとりあえず出てけ!!」
入り口を指して怒鳴る女に、彼らは戸惑ったのか躊躇ったのか、数拍だけ動きを止めた。だが少女の金髪がカウンター裏に隠れたのを見ると、一斉にそちら目掛けて走り出す。
「そぉかい、忠告を聞く耳ィ持ってねえッてことかよ……!」
青筋浮かせる白風を庇うように泉が前に出る。少女と追跡者たちの直線上にはふたりの女。避ける素振りもない彼女らは迎撃の姿勢をとる。
「ご主人! セン嬢!」
鋭い声が飛んだ。カウンターの上に立ったブルーが叫んでいる。
「彼奴ら、ヒトではないぞ!」
「「マジでか?!」」
少女の隣からこっそり頭を出して状況を見守っていた睦も、驚いてマントを纏うモノ共を見詰めた。体格も性別もわからないが、この滑らかに動くモノたちがヒトではない?
――――マントがひるがえり、その下の四肢をちらりと覗かせる。
そこから覗く膚は確かに、生物の持つ質感のそれではなかった。
目を剥く睦とは真逆に、泉を押しのけた白風は、ニィと犬歯を剥き出して獰猛に笑う。
「……だったら、手加減してやる必要もねェよなァ?」
云うなり手近にあった青龍偃月刀を引っ掴んで、ぶんと一振り。
荒々しくあるいはしなやかな軌跡を宙に描くと、何の遠慮も躊躇いもなく、異形のものどもへと振り切った。
「店長さァん?!」
この女いきなりなんかはじめやがった。ていうかそれレプリカじゃなかったのか。睦の悲鳴と金属がぶつかる耳障りな音が重なり響く。横薙ぎに払われ完全に胴がまっぷたつになったそれを見下ろし、お、と白風が軽く目を見張った。
睦にはその材質はわからない。だがその切断面はあきらかに生物のものではなかった。ただの木偶や人形を割ったような、なだらかなそれ。
「人形? ……自動人形か?」
「なんですよそれ?!」
「説明面倒いググれ」
「検索かけて出てくるような一般的なモンなんですか?!」
それ確実に「ググるな危険」の類だと思う。
睦が白風に食って掛かり、彼女がそれを面倒そうに流している間に、生命活動を行っていないが故のしつこさで、人形らが立ち上がり、再び襲ってくる。
「また来るぞ!」
「承知済みよ! 我に任せるがいい!」
ブルーの警告になんだかちょっぴり楽しそうにそう吼えて、泉が竹刀袋から取り出したのは、一振りの太刀。
しかも模造刀のようなやすっぽい輝きはない。素人目にも業物だということがわかる。
…………業物?
「ちょっと待って、いつも持ってたそれ、真剣だったの?!」
中身を竹刀か、あるいはせいぜい木刀だと思っていた睦は悲鳴に近いツッコミを入れた。一体ナニやってんだ、このいろいろ間違ってる女子中学生もどき。泉に相手を譲った白風もうわあと微妙な声を上げて、ちょいちょいと彼女を呼ぶ。
「あのね、お泉ちゃん。世の中には『銃砲刀剣類所持等取締法』っていうのがあってね?」
「店長さんにだけは云われたくないと思いますよ、泉ちゃんも」
幼子に云って聞かせるように優しく語りかける白風に間髪要れず、睦の氷点下のツッコミが飛んだ。現在進行形で青龍刀振り回してる女が何ほざく。
「ウチのはまっとうな商売なの。ちゃんとケーサツに許可も取ってんの!」
彼女の主張はさらりと流された。すうと刀を正眼に構えた、泉の纏う空気のせいだった。
ぴりりと張り詰める。彼女の時間だけが止まる。人形らは人外じみた動きで少女に迫る。その手はまさしく異形と称するに相応しく、手というよりは刃物が寄せ集まって手の形を成しているといったほうが正しい。
その切っ先同士が交差した。
――――睦にはその瞬間はわからなかった。
ふ、と泉の手が消えたと思った次の瞬間、ごとりと重い音がした。ごとごとごとり、細切れになった人体の破片が落下し散らばる。――――刹那にすら満たぬ間の、神速の剣。
「……お泉ちゃん、それどこの斬魄刀?」
「ざんぱく? なんだそれは」
「店長さん、泉ちゃんにはジャンプネタは通じませんって」
「じゃあ別誌で。それ何の罪歌?」
「店長さん、泉ちゃんには電撃ネタも通じませんって」
危ないネタを出す白風に訝しげな顔をしながらも、ぱちん、と鍔鳴りをさせ刀を収めた泉は、シニカルに笑う。
「……ふ、またつまらぬものを斬ってしまった」
「なんでそんな台詞知ってるの」
睦は半眼で突っ込んだ。この少女の知識はなんか嫌な方向に偏っている。一般常識には疎いくせに。
「おー、怪我ねェか、お嬢ちゃん?」
睦と泉が漫才繰り広げている間に、白風はよいせと青龍刀を肩に担ぎ上げ、カウンターの奥へ声を掛けた。
「…………は、はい……」
少女は深い息を吐き呼吸を整えると、立ち上がりぴょこんと頭を下げる。
「…………ありがとうございまス。助かりました」
「ナニ、礼など不要。大事はないか?」
コントを切り上げ訊ねる泉に、少女ははい、とやっと顔をほころばせた。あんなのに追いかけられていれば、それは笑う余裕などないだろう。
それはよかった、笑って頷いた泉は、やおら表情を引き締める。
「……それで、随分と物騒な連れだったようだが、ぜんたい何事だ?」
「しかもまたこのご時勢、珍しい奴らだったよなァ。やめてくれよォ、厄介ごとはゴメンだぜ」
嫌そうというか、心底面倒くさそうな顔をする白風。少女は困ったように眉を下げる。
「……は、あの……」
「…………店長さん、泉ちゃん……」
口を開いた少女にかぶせて、睦の声が漏れた。なんだよ、とふたりが振り向く。盛大に顔を引きつらせている睦を継いで、同じく引きつった声でブルーがその事実を指摘した。
「…………いや……なんか、……増殖したぞ?」
「「「…………は。」」」
揃った声は少女と合わせてみっつ。彼女らがからくりじみた動きで出入り口を見れば、果たしてそちらには倍の数のオートマタがひしめいていた。
「…………秘技・三十六計ー!!」
白風の号令一下。
一同はすみやかに裏口から逃げ出した。
*
本が山と崩れ落ち、割れた陶器やガラスやその他ガラクタの散乱した床を、ざ、とブーツを履いた足が踏みしめる。
ちらと三体分の人形の破片を一瞥すると、ぱちん、指を鳴らした。人形はそれで形を失い、さらさらとした灰になる。
「ふん。失敗したか」
そうしてまた視線を別方向にやれば、後から送り込まれた六体の人形が膝をつく。それらは壊されてこそいなかったが、標的を追いかけることも出来ずにいた。床に目をやれば、東洋の魔方陣がうっすらと発光している。
「奇門遁甲とは、やられたな」
本来は結界として使用されるそれだが、呪いとしても有効かつ強力な術である。一歩陣に足を踏み入れたが最後、その方角によってあるいは怪我を負い、あるいは死に、あるいは発狂し、あるいは迷霧の中を永遠に彷徨う。しかも術者はこの場にはいない。トラップとして仕掛けていたのだろう、命を奪うよりも足止めの意味合いが強い術式であった。
ルール違反、というよりはセオリー無視の荒業にくつり、と喉を鳴らす。
「まあいい。どうせ逃げられはしないさ」
たんぽぽの髪の少女を思い浮かべる。偉大な男の血を引きながら、その才をまったく受け継いでいない、ちっぽけな小娘。
――――そんな人間が、持つべきものではないのだ、アレは。
「いくぞ、人形共」
ばちんと音を立てて、陣が消え失せる。
次の瞬間、荒れ果てた店内には誰ひとりとしていなかった。
*
「くそう、外出ンならもうちょっと厚着してきたのに……」
云いながらもちゃっかり上着と帽子を引っ掴んで店を飛び出してきている彼女は、ちらりと空を見上げて、恨めしげに低く呻いた。アルビノである彼女にとって何の準備もせずに屋外に出るのは、曇りといえどキツイらしい。即行でコンビニ入って日焼け止めとサングラスを調達していた。
とりあえず外が苦手な白風と息が上がりっぱなしの少女を気遣い、某有名コーヒーショップのチェーン店へ入る。注文の品を受け取り店内の一角を陣取ると、いっせいに深い息を吐いた。ちなみにブルーは睦のトートバッグの中で丸まっている。本人、文句たらたらだが、飲食店なので仕方がない。
「……あの連中、追っかけてきませんかね」
アイスコーヒーで喉を潤しつつ、若干不安げに睦が呟く。それにナイナイ、と手を振ったのは、勢いで剥き出しのままの刀と青龍刀を持ってきてしまった、物騒な二人組。
「それについては大丈夫。なー、お泉?」
「うむ、安心するがいい。少なくとも当分は追っては来れん」
「…………なんでかとは聞きませんからね」
なんかやけに自信満々なふたりへじっとりした眼差しを送る彼を、白風は青いなと鼻で笑い飛ばす。この青年があの店の常連などやっていく上で、いつまで常識人を気取っていられるか、楽しみで仕方がない。ちなみにそれについて他の常連と賭けが行われていることを、本人だけが知らない。
「そんで? お嬢ちゃん、いったい何がどうなってこうなってるワケ?」
そのままアイスカフェオレを一息に飲み干した少女に視線を向ければ、彼女は恐縮したように縮こまった。
「……す、すみません……」
「いや、謝られても困るけど」
「私、エルマ・リーゼといいまス」
たんぽぽのような金髪頭をひょこん、と下げて、少女は名乗った。
「あの、お姉さんのお店、『草月庵』サンで、間違いなかったデスね?」
思いがけない確認に、白風は目を丸くする。
「ん?オオ、そうだけど。何で知ってンの? 我が店ながらナンだけど、ウチの店ァ地元民でも知ってるヤツほとんどいねェッてくらいマイナーっつか、アングラもいいとこだぜ?」
『草月庵』は、かの店と同じく骨董や古本などを取り扱う店が立ち並ぶ通りにある。その中でも歴史的というか趣があるというか、ぶっちゃけ地味で襤褸い店構えの『草月庵』は、営業しているかどうかでさえ、一見の一般客にはわかり難い。――――その店を、わざわざ訪ねてきたというのだろうか。
「私のお祖父さんが、以前こちらのお店に来たことがあるのでス」
一年くらい前のことなのですが覚えていませんかと問うエルマに、店主は首を傾げた。いかんせん、心当たりが多すぎる。
一応客商売であるので、客の顔を覚えるのも彼女の仕事のうちではある。しかし、老人など腐るほど来店するのだ。それが外人というキーワードを足したところで、検索結果が多いということに変わりはない。
「ジーさんってもなァ……。……えー、どんな?」
えーと、とエルマは頬に手を当てた。考え考え、祖父の特徴を話す。
「ヒゲが白くって、額が広くて……えっと、ぶっちゃけると、レオナルド・ダ・ヴィンチの自画像にそっくりです」
「……んんー?」
ストローを行儀悪くくわえたまま、白風は天井を睨みつけ唸った。レオナルド・ダ・ヴィンチ?
その具体例に、一年程前にふらりと店に現れて、一週間ほどの間毎日通いつめてきていた、老人の姿が思い起こされた。学者然とした、穏やかな知性を瞳に宿した老紳士。
「……あー、あーあーあー。思い出した。あのジーさんか!」
「ハイ、多分、そのジーさんです」
ぽん、と手を打って、白風はエルマを見た。満開のタンポポのように広がった黄みの強い金髪、上等の緑柱石めいて輝く瞳。もうだいぶぼやけているが、記憶の中の老爺と目の前の少女とに、共通事項は全くない。ジーさんに似なくてよかったなー、などと、当人にしてみればでっけえお世話なことをつい考えてしまったことは秘密である。
「ンで、そのジーさんの孫が、何で追っかけられてんの? つか、アイツら、何?」
当然であり今更な問いに、エルマは若干答えにくそうに視線を彷徨わせる。
「……多分、お祖父さんの関係者です……。……あの、多分、ヴァチカンの人だと思いまス……その、……『奇跡狩り』、の」
「「――――はアッ?!」」
コングレッソ・ヴェイタート?!
その意味がわかる一人と一匹が悲鳴を上げ、店内から注目を食らう。
「ちょ、待って待って、お前のジーさんホント何した人?! 何をどーすれば『奇跡狩り』の連中に追っかけられるようなことになる訳?!」
「というかよくもキミひとりで逃げられていたものだね?! 何者だねキミは!」
白い視線など箸にも棒にも引っ掛けぬ、もの凄い剣幕の白風とブルーに詰め寄られ、エルマはわたわたと彼らを見比べうろたえる。
そんな彼らに顔を見合わせたのは、一人と一匹のテンションの上がりっぷりに置いてけぼりを食らってしまった睦と泉である。
「はーい、質問」
「我もー」
そっち方面には通じておらず意味がわからない二人が、よいこのポーズで手を上げる。
「「何ですか(なのだ)その不穏な単語は?」」
「「………………ふっ」」
一人と一匹は右手を上げた彼らを数秒眺めると、鼻で笑いながら微妙な表情で目をそらした。
具体的に云うと、「知らないって幸せだよなあ」的な、なまぬるい顔をされた。
「……わかりました。もういいです」
「寧ろ聞きたくない。聞かないほうが平和に過ごせる気がしてならん」
そのリアクションに色々と悟った二人は、それ以上を追求しないことにした。
「賢明だ」
うんうん頷くブルーの顔が、猫の分際で疲れきっているように見えるのも見ないことにする。
「……えーと、お話、続けさしてもらいまスよ?」
そして強引に話を続けようとするこの子も、大概神経が太いっぽい。
「私、イタリアで、お祖父さんとふたり暮らししてました。でもお祖父さん、先日お亡くなりになりました。ですので私は、日本にいる親戚のお世話になることになったのです。今月のはじめのことでした」
「二人暮らし、というと、親御殿は……?」
わずかに表情を曇らせた泉が訊ねれば、エルマは淡々と答える。
「私のお父さんは、私が生まれる前に亡くなりました。私のお母さんは、私が生まれてすぐに亡くなりました。なので私は、お祖父さんに育てられたのです」
その祖父が、くだんのダヴィンチ似の老人なのだろう。想像通りの返答に沈黙が訪れたが、シリアス大嫌いな白風がしめっぽい雰囲気を払拭するように質問を再開する。
「ジーさんって、どっちのジーさん?」
「お父さんのお父さんです。私のお母さんは、ニッポン人なのでした」
「ふむん? なれば主は、いわゆる『はぁふ』というヤツなのか?」
「はい、そうです。私は育ちはイタリアなのですが、生まれはニッポンです。お母さんの実家のある北海道の厩町というところで生まれたのでス。十二月二十五日の朝のことでした」
にこにこと笑うエルマに、睦も笑って相づちを打つ。
「へえ、クリスマス生まれなんだね」
「はい。バースディとクリスマス、いっぺんに祝われるので、得なんだか損なんだか、よくわからないのです」
「なるほど、それは複雑だ」
わずかに苦笑含みで喉を鳴らすブルーにつられるように、睦も微笑む。子供にとって誕生日とクリスマスが一気にやってくるということは、それは重要事項だろう。そうなのデスヨーと笑ったエルマは、ふとその笑みを消して、胸元に手をやった。首から細い金のチェーンが伸びている。その先は服の下に隠れているため、トップは見えない。
「えっと、それで、お祖父さんが私に遺してくれたものがあるのでス。あのひと、それを欲しがってました。でも私、お祖父さんの形見ですから、手放したくありません。お祖父さんにも、肌身離さず持っているよう云われました」
気持ちはわかる。亡くして間もないのであればなおさらだ。エルマはうつむいたまま、胸元を掴んだ手に力を込める。
「もしも危険なものであるのなら、……それはお祖父さんが私に遺してくれたものデスから、そんなことはないのだと思いますけれど、万が一があったなら。私、それをこっそり捨ててしまおうと思いました」
誰も手に取れないように。お祖父さんの遺したもので、誰かが悲しくならないように。
「それで、こちらのお店だったら、お祖父さんが愉快なお店だったと笑って話してくれたお店だったら、お祖父さんの形見が何なのか、わかるかなと思ったのでス」
だからよろしくお願いしたいのデスと頭を下げるエルマに、げんなりとした顔で手を振る店の主人。
「いやさ、だからウチってただの古本兼古道具屋でね? そんな、怪しげなマジックショップではない訳なんだけれどもね?」
「説得力ありませんがね」
「やかましい」
げしっとテーブル下で蹴りを入れられ悶絶する青年を無視して、白風は往生際悪く理屈をこねる。この女、本気でやる気がないらしい。
「つーか、確かに古物取り扱いはウチの商売だけどさァ、そーゆう『奇跡狩り』が出張ってくるような魔法だ何だ非常識は、どっちかっつとお泉の領分じゃね?」
「うむ、無理だ。舶来のものはどうも相性が悪くてな」
即答し胸を張る少女に、なんとか痛みをやりすごした(でもちょっと涙目の)睦が苦笑を漏らす。
「……そういえば泉ちゃん、こないだレンジで卵爆発させてたね」
「ボクも危うくチンされてホットキャットになるところだったな……」
いつぞやの雨の日、泉が濡鼠だったブルーを手っ取り早く乾かそうとレンジに押し込もうとして、その場にいた全員に突っ込みを食らっていたことは記憶に新しい。当時の恐怖を思い出したか、彼は毛を逆立てぶるりと身体を震わせた。あのままだったら、内臓から破裂してスプラッタも真っ青な惨状になっていたのだ。あのあとしばらく彼がレンジに近づかなくなったことを誰もが気づいたが、それを指摘してやるほどKYな人間はいなかった。
「ブルーお前は? そーゆうのだったら、専門だろ?」
「ふむ、確かに」
四足歩行動物の分際でやたら哲学家なこの猫は、無駄に博識でもあった。このテの知識は特に豊富で、睦が大学のレポートで宗教関係についてを書かなければならなかったとき、彼に大分世話になった過去がある。
「とりあえず、その遺品とやらを拝見させてもらえるかね、お嬢さん?」
「ハイ」
ブルーに促されて、エルマは首の後ろに手を回した。かけていたチェーンを外して、一同に差し出す。
それは、ひとつのロザリオだった。
中心に深紅の石が据えられている黄金の十字架は、女性の手のひらに乗る程度。幾分古びているような印象を受けるが、精巧で緻密な細工が施されており、一見して値打ち物だと知れる。
ただひとつだけを除けば、それは単なるロザリオにしか見えなかった。
――――少女の手に載せられたそれは、金色の鎖から上下逆に下げられていたのである。
「……逆十字…………?」
「……ってェより、聖ペテロ十字みてェだわ」
思わずこぼした睦の呟きを拾い、白風が訂正した。ロザリオを受け取り眉間に皺を寄せながら検分する彼女の言葉に、睦が首を傾げる。その名前ならば聞いたことがある。
「聖ペテロって、確かキリストの弟子でしたよね?キリストが処刑された後、弟子じゃないって嘘ついて逃げようとした人」
「おう、よく知ってんな」
鑑定に集中していておざなりな白風に代わり、ブルーが詳しい説明を入れてくれる。
「ペテロ、ペトロ、ペテロス、ピエトロ、ピーター、そのように呼ばれているね。キリスト十二使徒の筆頭でもある。元ガラリヤの漁夫で、ローマで殉教した御仁だな。彼が神の子より天国への鍵を継承したという逸話は、あまりに有名だね」
「そうです。物知りデスね、猫さん」
「…………ブルーと呼んでもらえるかね、エルマ嬢」
微笑ましげによしよしとエルマに頭をなでくりまわされて、嫌な顔をするブルー。ちなみに現代日本及び西洋の知識が全くといって良い程ない上、いつまで経っても慣れる素振りもない泉は、カタカナの羅列に両目をぐるぐるさせながら黙っている。
「で、なんで、これがペテロの十字架になるんです?」
寧ろ睦には、その二つの違いがわからない。
「んー、まあ、名前のとおり、ペテロさんの殉教に関わってんだけどさ。奴さん、ローマ皇帝に磔刑を申し渡された際、イエスと同じ死に方をする訳にゃいかんと、みずから頭を下にした、いわゆる逆十字の状態で死んだ訳だな。これが起源だ」
「でも、逆十字って、悪魔崇拝っていうか、アンチキリストの象徴じゃないんですか?」
「あー、そういうこともあんな。アレイスター・クロウリーって知ってっか?」
聞いたことがあるかもしれない、と首を捻った睦の横で、反応を返したのはエルマである。
「世界最高の魔術師デスね?」
「ん。そいつが逆十字を神の恩寵への反駁や離反の象徴として捉えたんだな。そういうふうに意味づけされれば、その存在もまたそうなるってことだ。故に逆十字は相反する意味を持つ。即ち、神への畏敬と、サタニズム」
「そういうふうに意味づけされれば……って?」
「んー、つまりなァ」
ロザリオを手に持ったまま、白風はひょいと視線を宙に向けた。
「……例えばだ、「かまいたち」ってあるだろ?はい、知ってる人挙手ー」
はーい、と手を上げる睦と泉。
「真空波がどうのとかいう自然現象ですよね?」
「む? 妖の所業ではないのか?」
不審げな顔をする泉と、認識の違いに苦笑いする睦に、我が意を得たりとばかりに白風は頷く。
「そういうこった。「かまいたち」それ自体はただの現象だが、そこに妖の姿を見れば――――それは、妖怪「鎌鼬」になるっつー訳だな」
極論だがな、肩をすくめる彼女に、睦はなるほどと膝を打つ。そういうことか。
それはいいとして。泉が小首を傾げる。
「何故に店主殿はそのようなことを知っておる?」
「趣味かな」
「趣味なんですか」
条件反射の勢いで突っ込んでしまった睦に、白風はきょとりと紅い瞳をまたたかせた。
「うん、あくまで趣味の範疇だよ。だって、私魔術なんて非常識なモン、使えねェもん」
なんか云ってやがる。
じっとり「嘘吐けやテメエ」と視線に乗せて訴える睦とブルーを鬱陶しそうに見やり、彼女はぱたぱたと片手を振る。
「いやいや、マジだって。別に私神秘主義者って訳じゃあないし。そーゆう『世界』もあるってことは知ってるよ? でも、宗教もオカルトも、ある種の文化って以上には思ってねェよ。科学とは方向性の違う技術ってところか? 知ってる奴多くない使う人間を選ぶ最近の電化製品以上に扱いが難しいっつう点で、化学ほどに万人受けはしてねェがな。それに私、魔術だなんだって、根本的に性に合わねェの」
「性に合わないって?」
「だって呪文唱えてる暇あったら、殴ったほうが早ェし」
「それは同意だ」
けろりと答える白風に、うんうんと頷く泉。どっちにしろ一般人とは云い難い。
「で、なんで連中そんなにこれにご執心な訳? しかもなんで、出張ってくんのが『奇跡狩り』……?」
男性ふたりの心中突っ込みを綺麗に無視って、白風がエルマに目を向けた。見られたほうも困ったように首を傾げるのみである。睦にはそっち関係の細かいことはわからないし知りたくもいないが、なんとなく異例なことであるのだろうということは理解できた。したくはなかったが。
「ていうかエルマちゃん、よくあのお店の場所わかったね。わかりにくくなかった?」
あんまり詳しいことを耳にしてしまってもヤバイ会話だということも理解できたので、さりげなく話題を変えてみる。エルマは見え見えな話題転換にもいぶかる様子なく、大丈夫でしたと微笑んだ。
「お祖父さん、このお店のマッチ持ってましたから」
「……。あー」
微妙な声をあげたのは白風である。忘れてしまっていたけれど、そう云われればそんなものもあったような気がする。カウンターの上に置かれた、籐の籠に盛られたマッチ箱。店の名前入りのそれは、当然ながら住所と電話番号もばっちり記載されている。
紹介状を持っているエルマは立派な客だ。ならば如何な厄介ごとを背負っていようと、店は彼女を拒まない。
もの云いたげな四対の瞳に、肺の中の空気を全て吐ききる勢いで盛大に溜め息吐いた白風は、がしがしと頭をかき混ぜて観念したように呟いた。
「……ま、客だったら仕方ねェ。出張鑑定くらい、やってやるよ」
ウチの店ァコンビニエンスなサービス精神をモットーにしてるんでね、そう嘯く女に睦は忍び笑う。まったく、筋金入りのひねくれものだ。しかしそう云ってしまったからには、彼女はきっと古道具屋の主以上の働きをしてやることだろう。口では何のかのと云いながら、この女は根っからのお人好しであるのだから。泉もブルーもしかりである。
「……さて、じゃあ僕はこのへんで」
「……は?」
失礼させてもらいますね、さりげなく戦線離脱っつか敵前逃亡宣言する睦に、白風が間抜けな顔をした。
「ちょ、待って待って。このへんでってなによ、オイ」
「いや、だって、さっきの人形みたいの、まだ出てくるんでしょ? ていうか、これからまたどっかのラノベみたいな展開になるんですよね?」
「またってお前」
「で、ですね。ほら、このメンツだと、僕だけ一般人ですごく浮いてるじゃないですか。だから脇役は脇役らしく、この辺で舞台から下ろさせてもらおうと思うんです。足手まといになってもアレですし」
ていうか、死にたくないし。
じゃっ、とさわやかに片手を上げ踵を返そうとする彼の肩が、それをさせじとばかりに掴まれる。
「いやいやいや、睦君。ここまで来て逃げるなんて、男じゃねーよ?」
満面の笑みで、しかし背後になんか背負いつつ威圧してくる白風に負けず劣らずの笑顔を作り、睦はいやだなあと笑う。
「逃げるだなんて人聞きの悪い。僕は自分の分というものを弁えてるだけですよ?」
そう、睦はおのれというものを知っている。特に、彼女らのように面倒ごとだとわかっていて首を突っ込めるお人好しには、死んでもなれないということとかを。採算のとれない善意を提供できるほど、睦は(いい意味での)馬鹿ではなかった。寧ろ聡い部類に入るだろう、物心ついてこの方、ずっと計算を外さずに生きてきたのだから。……こいつらってか、あの店に関わってから、計算外のことも多いけど。
そして計算式を狂わせる原因のひとつが、この上なく甘く笑う。
「何云ってんの、弁えてンならそんなの云うはずねーだろ。いいか? 見ろ、このメンバー」
白い指がさした先には、こんな状況にもかかわらず、のほほんと会話している少女二人と猫一匹。
「見ろこれ、ボケ・ボケ・ボケのオンパレードじゃねェか。これじゃうっかりボケられねェじゃねェか。私がツッコミ回んなきゃ話進まねーじゃねェか。つかひとりでこれだけのボケに対応できるはずがねーだろ。……逃がさねェぞ、突っ込み要員」
「……僕の存在価値、突っ込みだけですか?」
マジ顔で云い切られ、肩を落としてしまったのは、これは仕方がないことだと思うのだ。
*
「ところで、ご主人」
つい今まで少女二人と会話に花を咲かせていたブルーが、ふいにその名の通りのブルーアイを女に向けた。
「そのロザリオなのだがね、やはり逆十字ではなくペテロ十字みたいだよ。彼女の祖父君はヴァチカンの枢機卿とも近しかったそうだ。もっとも、本人はそれほど敬虔なクリスチャンというわけではなかったようだが。しかも祖父君の遠い先祖にはロマニーがいて、生活の中にはアメニズムもいくらか入っていたそうだよ」
「マジでか。……ふーん、確かになんらかの意味づけされてはいんだよなァ……。ブルーお前、どう見るよ?」
「ふむ」
いかにも人間臭く小首を傾げ、ブルーはその瞳をきょろりと動かす。ラムネのビー玉色の、なんとも云い難い、不可思議な色にひかるキャッツアイ。
「……クロス。逆向きのコレは、悪魔崇拝ではなくペテロの謙遜によるものだ。……新約聖書。……しかし、コレを持つものの名がエルマというのが気にかかるのだが……」
「あ、やっぱり?」
ブルーの呟きを拾い、白風が身を乗り出す。今更かもしれないが、あまり大きな声で話してるとまずいのではないだろうか。特にブルー。本人たちは気にした様子もないので、睦もひとりで胃を痛めるなんて空しい真似はしないけど。
「そう、そこひっかかんだよね。名前だけ取れば、もっと相応しいモンがあるはずだ。ロマニーの末ってンなら、尚更だろ」
「同意だ。……けれど、彼女は、クリスマスに生まれたとも云っていたね」
「あー……。……ん、そーすっと……」
難しい顔で考え込む一人と一匹。訳のわからん会話に入り込む気などさらさらない睦は、手持ち無沙汰にプラスチックカップの中の氷をからからと鳴らす。
「偶然……? ……おー、エルマ。お前、父ちゃん母ちゃんの名前、なんていうんだ?」
唐突に話を振られ、ハイ? と裏返った声で返事をしたエルマは、こてんと首を傾げながらも素直に答える。
「え? えーと、お父さんがジョゼフ・リーゼ、お母さんが麻里亜・リーゼです。お母さんのマリアは、麻の里のアジアの亜と書きます」
「……ちなみに、エルマ嬢の名前は、誰がつけたのだね?」
「お祖父さんがつけてくれたって、聞きました」
「…………………」
「…………………」
「……えーと? ど、どうかしましたか…・…?」
「ん……。いや、なんでもねー」
あ、サンキュこれ返す。
渋柿を口いっぱいに詰め込んだよりも渋い顔をする白風と、あからさまに溜め息を吐いたブルーにエルマがそろっと声を掛けたが、彼女は生返事とロザリオを返すと、それきりまた黙り込んでしまった。
疑問符を飛ばしながらもまた泉との会話に戻るエルマを横目で追って、睦は白風に問いかける。
「……で、今の質問の意図は? ってか、何かわかったんですか?」
「んー……。……なんとなく、予想はついた、けど……。なんで、ここであえてエルマ……? 流石にメシアの名をつけるのは憚られたんだろうけど、……いやここまでやるジーさんがそんな殊勝なこと考える訳ねーか……。……んんー…………?」
彼女が腕を組んで再び唸り始めた、時だった。
通りに面した窓ガラスが凄まじい音を立てて割れ、雨と降る破片に居合わせた客が悲鳴を上げる。
「来たか?!」
素通しとなった窓から先程逃げてきたばかりの人形たちがにじり寄ってくる。ち、と舌を打ち、泉がエルマの腕を掴んで立たせ、階段のほうへ追いやった。
「店主殿! 睦! ブルー! 先に行け!」
「泉ちゃんは?!」
「我は殿だ! とりあえずここは人目がある、下の河川敷にでもゆけ! 我もすぐに行く!」
「わかった!」
短い会話を交わすと、泉を除いた一同は店を飛び出した。そのまますぐ東にある河川敷へ降りてゆく。デートスポットとして人気なこの場所は、時間的な問題で、人はほとんどいなかった。すぐに追いついてきた泉が、これなら多少暴れても問題あるまい、と鬼のように笑う。目算でしかないが追っ手の数が減っているように見える。つくづく外見を裏切る少女だ。
「……ま、ロザリオの件はいいとして、もいっこの疑問は、なんでコイツらがエルマを、っつかロザリオを追っかけてくんのかってことだったんだが」
ひゅ、と刃が風を切る音。
「…………カラダに聞きゃ、早ェよなァ?」
にやりと獣めいて笑んだしろい女は、なんかとっても怖かったことをここに明記しておく。
「――――お前たちごとき黄色いサルに、それが出来るものならば」
さながら氷の鏡の砕け散るがごとく。
ぱりん、と聴覚外のところでなにかが砕けた(あるいは氷結した)音を聴いた。
侮蔑と共に吐き出された声に目を向ければ、そちらには人形たちを従えた黒装束のひとりの男。睦ともそう年齢の変わらなさそうな青年。エルマと同じくコーカソイドで、しかしその髪も瞳も、闇のように黒い。
彼は睦らなど瞳にも映さず、ただエルマに手を差し出す。――――いや、突きつける。
「それはお前のような小娘が持っていていいものではない。こちらによこせ」
「で、でも、これはお祖父さんの……!」
「黙れ」
少女を見るグラスアイはどこまでも冷ややかで、まるでそこに映っているのは少女ではなく、物体ででもあるかのように、なんの感情も見られない。
「お前などにそのペテロ十字は扱えない。それはリカルド・リーゼが遺した、彼の男の叡智の結晶。一歩間違えればとてつもない破壊をもたらす魔術兵器であり、正しく使用すれば異教徒どもを根絶やしにすることが出来る神の鉄槌」
一同の視線が、エルマの手の中にある金色に向けられる。睦も内心で叫び倒していた。――――コレが、こんなものが、泉や白風の刀などよりもずっと物騒なシロモノだって?
「リカルド・リーゼは最高峰の魔術師だった」
青年は淡々と語る。
「識者であり、我ら『奇跡狩り』の長だった。――――尊敬すべき師であった」
澱みなく抑揚なく、しかし強い感情の暴れる声で、滔々と語る。
「師の知識は弟子に継がれるべきだ。お前のような、魔法の魔の字も知らない小娘ではなく。リカルド・リーゼの弟子であり『奇跡狩り』の一員でもある、俺に」
独善的なものいいに、状況にそぐわずムカッ腹が立った。
なんか云い返してやればいいのにと睦がエルマを見ると、少女は口をぽかんと開けて、間抜けな表情で突っ立っている。
「…………」
寝耳に水と顔に書いているエルマに、こそっと聞いてみる。
「…………もしかしなくても、知らなかった?」
おじいさんが『奇跡狩り』のひとだったとか、弟子がいたとか、そこらへんのこと。
少女は間抜け面のままこっくり頷く。
無理もない、といえばそうなのかもしれないが。
青年は尖った声を隠そうともしないまま、エルマに手を突きつけ続ける。
「渡せ。それさえこちらに寄越せば、お前などに用はない。……が、断るというのなら、多少どころではなく、手荒になる」
「……わかりました」
呟いたエルマの小さな声に、え? と睦はそちらを見る。そして即行で目を逸らす。きっと顔を上げて青年を睨みつけるエメラルドアイは、がっつりと据わっていた。
「つまり、これは日本の伝統、夕焼けの川原で殴り愛というヤツなのですね」
「いや、違うと思う」
ついうっかり突っ込みいれてしまった睦は、やはり突っ込み要員らしい。
そして字も違う。
「そして私がお祖父さんの形見を持ち続けるためには、アナタをボコればいいのでスね。わかりました。クリア条件はシンプルなのがいちばんデス」
「いや、ある意味そうなんだろうけど、違うと思う」
ちょっとニアピン。
「わかりました! ならば私は私の持ちうる限りの全力を持って、アナタにグウと云わせてみせます! 小学校の頃は、男の子たちにもケンカで負けたことはありませんでした! いきます!」
「ちょ、エルマちゃあん?!」
なんかテンションとかがいろいろとおかしくなった少女に制止をかけるが、彼女はえっらい楽しそうに、ひと時も手放すことのなかったトランクをどん、と足元に置いた。手早く鍵を外し大きな革トランクを開ければ、とたんに飛び出してくる薄紅色。
まるで意思を持っているかのようにのたうつ幅広のリボンは、蛇のような動きでしゅるしゅると人形たちに巻きつき、その自由を奪っていく。は、と目を剥く一同を他所に、微妙な沈黙の元凶は、全開笑顔で胸を張る。
「どうですか! 小人さん謹製絹のリボン! その名も『グレイプニル』です!」
「なんでそんなモン持ってンだよッ?!」
高らかにとんでもねえことをいってのけるエルマに、白風の渾身のツッコミが入れられた。
「……で、ナニ、あれ」
なんか漫才始めたエルマと白風から(というかエルマから)はっきり距離をとって、睦はこっそりブルーに話しかける。問われたほうも、なんかちょっと頬の辺りがひきつっていた。
「……ほ、北欧神話に出てくるアイテムだね。神々の王オーディンを殺すだろうと予言された大狼・フェンリルを縛りつけるために、小さき人々の手によって作られた、なにものにも切れはしないというお墨付きの一品だ。まあ、ラグナロクのあたりでフェンリルはリボンを引き千切り、予言どおりオーディンを飲み込んでしまった訳であるのだが、それでも彼を長い年月を封じ込めていられるだけの力はあったということだ」
「…………へえ」
伝説のアイテムときやがりましたよ。
「ちなみにフェンリルは上顎が天に届き、下顎が地につくほど巨大だったといわれている。ならばそれを縛めるためのリボンが、どれだけの長さが必要だったかなどとは、推して知るべしということだね。その切れ端の一部が現代に残っていたとして、……まあ、……それほど不思議でも、ない……と、思う。多分」
「いや無茶苦茶非常識だよねそれ」
なんかもう驚きも過ぎて、いい加減面倒臭くなってきた。
「何、お前も魔術師だったのもしかして?!」
「いいえ! 私は魔法を使えません! 私に可能なのは、道具に込められた力の使用のみです!」
「魔道具使いかよ?! それだって大分タチ悪……! うわーッ?!」
さながらどっかの某青ダヌキのポケットのごとく。次々に取り出される不思議道具に、睦はもとより、それを商う白風も唖然としている。ていうか悲鳴を上げてる。そんなにヤバイのか、あれ。
「とどめです!!」
楽しそうに叫んだエルマが、睦には到底使用法などわかりもしないブツを取り出した瞬間、白風の顔色が変わる。
「ちょっとエルマちゃアァァん!! それはヤバイ! それはヤバイ! 下手したら地球の自転止まる!!」
ちなみに地球の自転速度は時速約1700㎞。それがいきなり停止したらどうなるかなど、慣性の法則とかを知っている者なら簡単に推察できよう。
少なくとも、日本列島、沈む。
「先手必勝! そして一撃必殺ですッ!!」
「可愛い顔して何云ってンのこの子オォォ?!」
そしてどすばたと騒ぎながらもなんとか彼女にそのブツを使わせず済ませた頃、十数体あった人形はさりげに全て粉砕されていた。
「ふん。それなりには使えるか」
表情ひとつ動かさず、青年はなお侮蔑の視線を向ける。
「なァに余裕ブッこいてンの。見ただろォ、今この嬢ちゃんがお前のオートマタ全部ぶっ壊したとこ。手持ち、もうねェンじゃねェの?」
それに腹が立ったか白風がガンつけるが、彼はそれを意に介した風もない。
「ここは霊場だ。人形ならば、幾らでもいる」
そして薄い唇から紡がれる、耳慣れない言葉。それが詠唱だと知ったのは、睦があの店の常連となりしばらく経った頃だ。――――また何かやらかそうとしている。白風がそれを阻止すべく駆け出す前に、世界が揺れた。内腑を抉られるような、不快な耳鳴りで頭が痛い。
――――ぼこ、と、青年の足元の土が盛り上がった。
ぼこ、ぼこ、ぼこ、まるで蟻塚のように次々と盛り上がる地面。まるでその下にあるものがふと起き上がったかのように。
「できそこないとサルの相手など人形どもで十分だろう。まずはこいつらを片付けてみろ」
その台詞に嫌な予感がして、やべっと睦は顔をしかめた。この河川敷にまつわる怪談話を思い出した所為である。
この河川敷で語らうカップルは、必ず等間隔で座る。そうしないと、広く開いたそこに、幽霊が座るというのだ。どこにでもよくある怪談。しかしここには、そんな話が出来るだけの土壌があった。
ここは戦国の世、処刑場だったのだ。とある武将の妻妾遺児実に三十九人が打ち首になり、その首は並べて晒され、身体はその場に埋められた。あたかも畜生のように。
はたして睦の予想は的中した。嫌な予感ほどよく当たるのは、これはもう現実世界のデフォである。
ぼこぼことそこここから形の崩れた元人間が湧き出てくる様は、どっかのアクションホラーゲームにとてもとてもよく似ていた。
「……てゆーか、こんな派手なことしてたら即行通報されるって! 何考えてんだアンタ!」
はたと気がつき睦は絶叫するが、シカトぶっこく青年は睦のほうを見もしない。あ、なんかムカついた。なんか今イラっときた。微かに笑みに黒いものを含ませる睦に、どうやら白風に任せ見物体勢に入った泉が、その心配はあるまいと溜め息を吐いた。
「人避けの呪いがかけてある」
「……というと?」
「うむ、つまりな、今この場は現世とは切り離されて、ひとつの『世界』として確立されているということだな」
「……どこまでラノベ的展開な……!!」
彼のテンプレートな日常とかけ離れた目の前の現実に睦は頭を抱えたが、それでどうなるわけでもない。
ホラーな光景に軽く現実逃避していた白風は諦めたように青龍刀を構えなおし、エルマはトランクをごそごそと漁っている。みつけた、と笑顔で取り出したのは、いかにも使い込まれた、そして風格のあるハープだった。華麗な装飾の中、ひとつだけ嫌に目立つ男性の頭部のレリーフが異様で、睦はごくりと唾を飲む。
「なによそれ?」
「『オルフェウスの竪琴』です」
呆れたように訊ねる白風にエルマはあっさり答え、よいしょ、と抱きかかえるようにして構えた。
白い指がぽろん、と弦を爪弾く。流れる旋律は穏やかで、心が安らいでいくような、やさしさに満ちた音。
「…………」
説明しろや、という無言の催促をふたつ受信し、ブルーは溜め息をついて語りだす。
「……ギリシャ神話の詩人だ。優れた音楽家でもあった彼は、蛇に咬まれて死んだ妻を連れ戻すため冥界へ赴いた。死者たちや冥界の番人たちをその竪琴の音に聞き惚れさせ、なんとか妻エウリュディケを見つけたが、『地上へ戻るまで決して振り返ってはならない』という条件に背いてしまったがため、結局彼女を失ってしまったのだ」
「……本物?」
「いや、彼の持っていた竪琴は星座になったはずだから、レプリカだとは……」
「……それでも大概だな」
「――――さあ、眠ってください。せめて安らかに。アナタ方の眠りは、もう誰にも妨げられることはありません」
ごそごそ云い合っていた青年らを置いといて、エルマの声が凛と響く。
皮膚が剥げ骨が覗き眼球が落ちいやらしい黒味がかった緑や紫に変色していた彼らの姿が、変わっていく。艶やかな着物の女性たちに。紅顔のこどもたちに。彼らは皆一様に穏やかな顔で、すう、と空気に消え入った。冷たい土の中ではなく。
「ほう、やるやる」
その光景に青年はぴくりと眉を動かし、泉は歓声をあげる。
「ふむ、歳の割になかなか肝が座っておる。あちらの若造も、あの年であれだけの傀儡を従えられるならば、たいしたものよ。近世では術者の数もめっきり減って、晴明や道満ほどの手練れなど、とんとみなかったからな」
「……えっと、」
その呟きにひくりと顔を引きつらせたのは睦とブルーである。
いつだったか「数え歳で十五歳」と云っていた少女が、明らか年上の青年を若造と呼び、遥か平安の世の術者の名を親しく呼ぶ。
数えで十五、ということは、満で十三、もしくは四。
――――で、あるはずなのだ。普通は。
「…………待ってくれセン嬢。キミは一体幾つなのだね? ていうか、いつの時代の人間なんだ?」
たらりと冷や汗流しながらのブルーの問いに、少女の皮をかぶったなんかは明後日の方向を見ながらさらりと云う。
「寧ろ、人の子であると云った覚えもないのだが」
「いやいやいやいや!! え、ちょ、センちゃん?! それは一体どこからどこまでが冗談なの?!」
「サテ、おなごに秘密は憑物よ」
嫣然と笑んでみせる少女に一人と一匹が突っ込む幕間劇はおいといて、青年がざ、と一歩を踏み出した。
「…………さすがは、リカルドの血、といったところか」
だが、弱い。
断罪のように切り捨てると、一瞬にしてエルマへと肉迫する。その手にはダガー。鈍く銀色を閃かせる。
――――キィン、冬の朝のように澄んだ音が響いた。
「…………おねえさん……!」
剣先がエルマを貫くより一瞬早く回りこんだ白風が、青龍刀で青年の短剣を受け止めていた。エルマに下がってろと云い捨て、ぎりぎりと競った彼女の顔には冷や汗が浮かんでいる。
「魔法使い同士の戦いなんてなァ……ッ!」
絞り出すような声。青龍刀と短剣では重さも丈夫さも青龍刀に軍配があがりそうなものだが、これが魔術師同士(片方否定してたけど)の戦いなのだろうか。
「二次元の中だけにしときやがれエエェェェ!!」
武器対魔法も二次元の中だけの話にして欲しいと思う青年ひとり。
弾き飛ばすように青年を押し返して大きく息を吐いた女に、彼は僅かに口の端を歪める。笑んだように。
「……黄色サルごときが、俺のダガーを止めるか」
面白い。
ダガーを持った右手が空中に何かを描く。それは繊細で優美で、鳥が羽ばたくような仕草にとても似ていた。
「ならば止めてみせろ。この刃を」
現れたのは、ひかりのやいば。無数に浮いたそれらは、切っ先を白風に向け制止している。
「人形繰りはあくまで大道芸。俺の魔術は、こちらだ」
酷薄に、そして傲岸に。
黒尽くめの青年は宣言する。
「『百雷』ダンテ・オルガンティーノ。神の怒りを模したいかずちの雨、しのげるものならばしのいでみろ」
キン、と高くやいばが鳴る。
一斉に白風目掛けて降り注ぐ刃は、まるで流星雨のようだった。
「どうわアアァァァッ?!」
ギャグちっくな奇怪な動きでなんとか避けきった白風は、ちょっとストップ! と必死でダンテと名乗った青年を制止する。
「ちょ、死ぬ! 死ぬ! お泉、タッチ! 交代! 私じゃ無理!!」
冷や汗ダラっダラな白風と手を打ち合わせ、泉はふふと楽しそうに笑った。やいばのように美しく、どっか危険な笑みだった。
「うむ、任せられい。……ふふ、戦い甲斐のありそうな相手よ」
すっげえ楽しそう。
「……ていうか、年下の女の子に戦わせるって、どうなんですよ年長者として」
ほうほうのていで逃げ出してきた女に、自分のことを棚上げして冷ややかにそう云ってやれば、冗談じゃねえと怒鳴り返される。
「あんなビックリ人間相手にできっか! 私は一般人なの! ちょっと扱ってるモンは胡散臭いかもしんないけど、私自身は普通の人間なの!」
「青龍刀普通にブン回すような人、一般人どころか女性ってカテゴリに入れるのも嫌ですよ」
「お前後で酷いことになるって予告しておくかんな」
外野のあほまるだしな会話をまるっと無視して泉が袂から取り出したのは、彼女が白風に鑑定して欲しいと云っていた、あの包みだった。
藍染の袱紗を丁寧に開くと、中から桜色の扇子が現れる。
「来い、魔術師」
短く挑発の言葉を吐き、少女はすうと扇子を開き、目の前へ水平にかざした。ダンテは言葉を返さず、無造作とも云える所作で右手を振るう。
魔術師の意思を汲み、光の刃が泉を襲う。
『天つ風、雲の通ひ路吹き閉ぢよ。乙女の姿しばしとどめむ』
鍔鳴りのような声が、閉じられた世界に響く。
――――刃は、少女を傷つけない。
「……この扇子は先日、うちの蔵から出てきたものでな」
どこか宝物を自慢する子供のように、泉は弾んだ声で語る。
「骨組みも染料も、すべて桜の古木から出来ている。それも百歳千歳歳ふりて、神格化した霊木よ」
緻密な彫り物細工の骨。桜色の地に桜の花びらが舞っている。房飾りは八重桜のような鮮やかな紅色。
「……当然、この扇子も力持つ。例えば、花に吹く風を喚んで、光の道を閉ざしたり、な」
にんまり笑う少女に、青年はわずかに眉を寄せる。
「…………極東の小国の猿知恵か」
「ナニ、そう捨てたものでもなかろう?」
かたや無表情、かたや笑顔でプレッシャー合戦するふたりの横で、うわーと遠い目をする古物屋の店長。
「……そーいや、ゴタゴタしてて鑑定、してなかったが……。……うっわァ、ありゃァマジモンだわ……」
「マジですか」
云いながらその返しが棒読みなのは、いい加減もうどんな不思議も驚きゃしないという悟りにも似た心境の所為だ。人はそれを諦めとも呼ぶ。
「……その程度で、いい気になるなよ」
苛立ったような色を声音に混ぜて、ダンテが吐き捨てた。再度中空に図形を描く。鳥が羽ばたくように。
ひかりのやいばが顕現する。主の御手にも似たいかずちの雨。
その数は、先程の比ではない。
ちょびっと口許をひくりとさせた泉に、ダンテは酷薄に笑む。
「これだけのやいばならば、どうだ?」
エフェクトバリバリなアクション映画でも見ているような気分で高みの見物決め込んでいた連中は、あれ、そこではたとおのが状況に気づき、たらりと冷や汗を流す。
「……ちょっと待って、なんか規模が違くね?」
「これ、もしかして僕らも攻撃範囲入ってないですか……?」
やっべーと顔引きつらせる観戦者ども。
担いでいた青龍刀をくるりと回し、遠い目をした白風が非戦闘員一人と一匹を振り返る。
「とりあえずお前ら逃げ……や、私から離れンなよ。多分、そのーが安全だわ」
「何があっても絶対離れません」
「何のプロポーズだねそれは」
「え、ゴメン、それはリアルに遠慮する」
「上等だクソガキゴラァ」
はたから聴いていると馬鹿馬鹿しい会話だが、本人たち結構必死なので、念のため。
つい、と指揮者のように荘厳な所作で指を振り上げる黒い青年。
「桜は潔く散るものだ」
みずからの優位を信じて疑わぬ声。
傲慢な言葉は、絶対の自信に裏打ちされていた。
降り注ぐ、光の刃。
アンタ一体どこの武将だと突っ込みたくなるほど鮮やかに(本人必死に)刃を弾き飛ばす白風の後ろ、睦もブルーを抱え雪合戦のときの要領で何とか避けていたが、避けることに夢中になるあまり、少し白風から離れてしまっていた。
あ、ヤベ。思ったときには既に遅く、捌ききれなかったやいばのひとつが、睦の眼前に迫っていた。
「マズ……ッ!」
「ムツミ!!」
振り返った白風と彼に抱えられていたブルーの声が重なる。
そして睦の視界は、真緋に染まる。
「……ブルー?」
とさ、と意外なほど軽い音をさせて落下した猫の身体は、バウンドすることなく地に伏せて、地面を赤黒く染めていった。
「睦邪魔だ! ブルー持って下がってろ!!」
鋭く吼えて戦列に踊りこんだ女の言葉に、睦は我に返って動くことない小さな友人を慌てて拾い上げて後退する。
よろりと足元がもつれ、なんとか踏ん張る。貧血を起こして酷く眩暈がしたときの心地に似ていた。
霞む視界で見下ろせば、手の中でついえたひとつのいのち。ひとりのゆうじん。
自慢のベルベットの毛並みが、べっとりと濡れて鉄臭い。
その名の通りのブルーアイが開くことは、もう、ない。
「…………」
言葉もなく、涙もなく、ただ、睦は瞳を閉じる。
捧げ持つようにして両手に乗せたその身体は、憎たらしいほどにあたたかくて軽かった。
ぬくもりは、まだ消えない。
「……やれやれ、せっかくの毛並みが汚れてしまった」
その聞きなれた少年の声と偉そうな口調に、一瞬思考が停止した。
「…………は?」
思わず目を開けると、つい今さっき串刺しになったブルーが、おのれの手の中しれっとした顔で血のついた毛皮をまずそうに舐めている。
「…………え、……なんで生きてんの……?」
お前アレは死んどけよ生物として、つーか俺の悲しみを返せ。そんな意味を込めて睦が問うと、くるり前足で顔を撫でたブルーは、茶目っ気に輝く瞳で青年を見上げる。
「聞いたことはないかね?『猫は〈九つの命〉を持っている』、と」
それは聞いたことがある。というか、他ならぬこの猫が云っていた。……だからって、それはどうだ。
「……えええー……?」
「猫には不思議が良く似合うのさ」
犬には不思議と似合わないがね。そう嘯き、納得いってなさげな青年を見やるブルーの顔は、猫の分際で睦にもはっきりとわかるほどに笑っていた。
そしてついでのようにぼそりと呟く。
「……ま、ボクが持ってるのは九つどこじゃないがね」
「…………ちょっと待って待って、なんか今日一日で僕の中の現代日本における常識とか普通とかがゲシュタルト崩壊起こしてるんだけど……!」
とうとういろんなものが信じられなくなった睦を冷ややかに見やり、溜め息を吐く四足歩行動物。
「やれやれ、これだから人間は。そんなもの自分たちがつくった幻想でしかないじゃあないか。科学知識も物理法則もまた然り。たかがヒトがつくったあやふやな概念が、絶対であるわけがないだろう? 今やそれが一般的かもしれないがね、忘れたかい? ほんの数世紀前までは、太陽が地球の周りを回っていると信じられていたんだよ?」
「…………ね、猫に観念的なこと語られた……!」
「失敬な。猫こそもっとも知能の高い霊長類なのだよ」
軽く絶望する青年に、青の賢者はそう云って笑った。
*
ダンテは苛立っていた。
リカルドの孫とはいえ、半分イエローモンキーの血が混じった小娘など、簡単にあしらえると思っていた。
しかしこのザマはどうだ。
人形たちの追尾から逃げ切り、それどころか手持ちの全てを破壊された。
おまけに何故か少女の味方をするこの日本人たちは、なかなかどうして油断がならぬ。
少女の胸にひかる黄金に、ダンテは歯噛みする。
――――リカルド・リーゼの一番弟子は、このダンテ・オルガンティーノだ。
あの偉大な魔術師を継ぐものは、この自分だ。
リカルドの遺産は、師から全てを受け継いだこの自分が持つべきなのだ。あんな、魔術師でもない小娘ではなく。
誰よりも素晴らしい魔術師の遺したものを、ド素人の玩具にされて、それで何か起こされては師の名前に傷がつく。
それだけは、許してはならないのだ。
ダンテは三度腕を振るう。
鳥が羽ばたくように優雅に。魔法使いが杖を振るように美しく。
*
「……余計な情けなどかけずに、最初からこうしていればよかった」
薄く笑んだ口許は、やや自嘲めいた色があった。同時に、憐憫も、僅かに。
とりまくやいばは質量を持ち、光は断罪の形を成す。鋭く、狭く、重い、それはキリスト教の正義そのもののカタチをしていた。
そしてさっきどころじゃなく、その数はヤバかった。
「……あれ、もしかして絶体絶命? いやん」
軽くほざいた白風の頬にも、汗が一筋流れている。
ドーム状に彼らを覆う刃の群れ。
逃げ場は、ない。
彼ら。
――――違う!!
「エルマちゃん!!」
狙いはたった一点に収束する。たんぽぽの髪の少女へと。
誰も動かない。動けない。例えば彼の彼女の前に手を伸ばす、たったそれだけの動作を行う暇すらない。
少女は腕で頭を庇ったが、それがどれほどの効果があるだろう。
見ていられず、強く目を閉じた。
「……なん、……だと?」
「……あー、やっぱそうか」
――――覚悟、あるいは予想した音は聞こえなかった。
聞こえた声はふたつ、呆然とした男の声と、気抜けしたような女の声。
恐る恐る目を開ければ、そこには睦の想像通りの光景は広がっていなかった。
ぺたりと座り込んだ少女には、かすり傷のひとつもない。
「……当たり前だ、キミなどに彼女を傷つけられるハズがあるまい」
ある種の沈黙が流れる『世界』に、高く少年の声が響いた。
若く威厳に溢れた賢者は、優雅にそして冷然と告げる。
「キミとて知っているだろう、逆十字の示す意味を。その力を」
ヴァチカンに属するものであるのなら、知らないはずがない。ペテロがわざわざ逆さに磔になった理由。
「――――そう、聖ペテロ十字の象徴するものは、『神の子に比較しての無価値』」
「たかだかヒトでしかないキミが――――神の子を傷つけられる道理もあるまい」
「馬鹿な。イエスに対応するものが何処にいると――――」
反論しかけ、黒服の青年は口を噤んだ。
そして、気づく。
「ま、そーいうこった」
青龍刀を肩に担いだ白風が、なれなれしく少女の肩を片手で抱きながらにやにやと笑う。
「聖誕祭の日に厩町で生まれたヨゼフとマリアの子――――要素を満たすにゃ、十分だろ?」
金髪碧眼の少女。魔術師の孫。
何の力も持たぬと思っていた、取るに足りぬものと思っていた、その娘。
彼女こそが、彼の魔術師の残した最強のマジックアイテムの、ふたりといない使い手。
呆然とするダンテに、白風はさらに追い討ちをかける。
「……大体さァ、これ、お前が思ってるような魔術式なんて、込められてないぜ?」
「…………な、」
そんなはずがないと目を見開く黒尽くめの青年に、白いおんなは辛辣に云い捨てる。お前が求めるような、そんなものはここにはない。
馬鹿な、とダンテは狼狽を隠せずになおも云い募る。
「そんなはずはない。それは俺の攻撃を完璧に防ぎきった、」
「そ。攻撃、つまり悪意を防いだ。……それだけだ」
白風の告げる言葉は歌のように。ダンテには失望を。エルマにはぬくもりを。
「これはそんなもんじゃねェ。単なるお守り以上の、何物でもねェンだよ」
おまもり、途方に暮れたように呟いたのは、ダンテではなく、エルマだった。手の中のロザリオを見つめる少女の頭を乱暴に撫でてやりながら、白風は語る。古道具屋の主人は語る。そのモノが持つ意味を。大事な人に伝わって欲しいと誰かが願った、その声を。
「ん、それはお守り。悪意や敵意や病魔や魔物や、その他お前に害なそうとする全ての悪いものから、お前を守るようにって、そういう意味を込めて作られた霊装。――――お前のジーさんから、お前への、最後の贈り物」
もっと一緒にいてやりたくて、もっと愛してあげたくて、でもそれが叶わなかった老人が、それでも孫娘を守りたくてつくりあげた、おまもり。
「それがそのペテロ十字だ。――――大事にしろよ」
黄金の逆十字。神の鉄槌だの、なんだの。このロザリオに、そんな意味は込められてはいなかった。
そんなものでは、なかったのだ。
「…………おじいさん……!!」
少女の唇から、嗚咽が漏れた。
エルマはぐしゃぐしゃとかき混ぜられる金髪に構うことなく、ロザリオをその胸に抱きしめる。
睦は静かに涙を零す少女に声を掛けることが出来ずに、そっとおのれの肩に乗ってやがるブルーに訊ねる。
「……店長さんの云ったことが、真実だと思う?」
「さてね」
そっけない即答に苦笑する。白風はものいわぬモノの代弁者である。しかしその声が彼女以外に聞こえぬ以上、真偽の確かめようはない。ブルーは知者である。だからそのことを誰よりもよく知っている。――――時折、彼女がやさしいことばに真実をくるんでいることも。
だが、とブルーが言葉を継いだ。
「だが、ご主人がそういうならば、そしてエルマ嬢がそうと信じたならば、それが真実でいいと、ボクは思うよ」
ベージュ色の猫を見詰めれば、そのブルーアイはやさしくすがめられている。その眼差しの向く先は少女。
「……ご主人の云うとおり、エルマ嬢の祖父君は、ただ、祝福してやりたかっただけだったのやもしれぬな。二親を亡くし生きてゆかねばならぬ孫娘を。全世界にその存在を祝福された、神の子のように」
睦はブルーの囁きを聞いて、そして何も云わなかった。
ただ、そうであればいいと、そう思った。
少女は乱れる髪を気にしない。
*
「『エルマ』、というのはだね、聖書において『魔術師』であり、『あらゆる偽りとよこしまに満ちた者』であり、『悪魔の子』であり、『すべての正義の敵』
であるのだよ」
セピア色の店内に、若き賢者の声が朗々と響く。
「エルマはキプロス島にあるサラミスという街の魔術師だったのだよ。魔術によって人々を幻惑させ、みずからの言葉を神託として信じ込ませていたんだね。そして権力者に取り入って地位を得ていたわけなのだが、サウロが帰郷したことによってそれが脅かされたのだ」
騒ぎから数日後のことである。
睦がパシらされたルフナのミルクティーを清水焼の湯呑みで堪能し、これまた睦のおもたせのスコップケーキをむさぼりながら、何故か騒動の痕跡もない店内で、彼らはいつものようにくつろいでいた。
「サウロは彼を『あらゆる偽りと欺きに満ちた者、悪魔の子、すべての正義の敵。お前は、主のまっすぐな道を曲げることをやめないのか。』と非難した。そして、エルマは一時、目が見えなくされてしまう。しかしそれはサウロによる呪いではなかった。神自身の御手が下ったからだったのだよ」
サウロがエルマへ告げた言葉は呪いのそれではなく、神がエルマを裁くことを明らかにしただけであった。
「彼は光を奪われたが、それは救いありきのものだった。光とは、主の力であり、愛でもある。親の愛を奪われた孫娘に、それでもいつか救われるときが来ると、祖父君は伝えたかったのではないだろうかね」
しみじみと語り終えたブルーに、シリアス大嫌い人間の白風がけけけと笑って茶々を入れる。
「死人に話聞く術はねーけどな」
「口寄せという手があるぞ。やれというならばやってみるが」
「やめれ」
真面目に返した泉に全員で突っ込み、いつもの賑やかムードが戻ってくる。
くすくす笑いながら紅茶のお代わりを注いで回った白風が、思い出したようにカウンターの裏から一抱えもあるダンボールを持ってきた。
「さて、そのエルマとダンテから手紙と荷物が届いてんだけどな」
お、と一同が色めき立つ。
「イタリアから直送便だ。エルマ、向こうの荷物の整理が終わったら、また日本に来るってよ。手紙は各自勝手にあとで読め。イタリア語だけどな。そんで荷物は、ジーさんのコレクションの一部、鑑定料と迷惑料と慰謝料と謝礼として送ります、だってさ。開けてみようぜ」
「おお、何を送ってきたのだろうね」
「結構重そうですね。本だったら貸してくださいね」
「どれ、ではご開帳といこうか」
わくわくしながら、一同はガムテープをべりべりはがしてその蓋を開ける。
開けた瞬間、中からなんか涌いて出てきた。
もののけ姫に出てきたタタリ神っぽいのが、うぞうぞと。
「ぎゃー!! なんってモノ送ってくれやがりましたかあンのガキ共オォォォ!!」
「ちょ、コレどうすんですか店長さん?! うわあ来た助けて泉ちゃあん?!」
「無理無理、これは無理だ! うわーッ?!」
どすばたと騒々しい擬音が、物に溢れ狭苦しい店内に、舞い上がる埃と共に満ちていく。
「…………地獄絵図だな……」
ひとりだけちゃっかりと、背の高い洋服箪笥の上に避難したブルーが、その様を的確に形容する。
『草月庵』は、今日も平和だった。
こんにちは、「普通」というものがなんかよくわからなくなってしまった銀猫です。
えっらい長くなってしまったこんな駄文をお読みいただき、ありがとうございました。ていうか、締め切りやら文字制限やらいろんなものをぶっちぎっちゃってホントスイマセ……っ!(スライディング土下座ズザザーッ!)
えっと、本当はもっといろいろ長かったんですが、コレでも大分削ったんです。最初はコレの2.5倍くらいありました。いつか完全版載せてもいいですか。
あと各キャラについてです。
ブルー:ナチュに人語を喋る設定になっていました…。ちょっと酷い目にあっていますが、ナイン・ライヴズ云々を云わせたかっただけで、他意はないのです。悪意もないです。寧ろ愛です。
睦:一応この子視点のはず、です。あんまり腹黒さが出せませんでした。作中でも指摘されてる通り、単なるツッコミになってしまったような。でも一応、唯一の一般人(かもしれない)です。
泉:この子が一番他の皆さんと乖離してますね。赤い着物だけ一緒なのに、性格は斜め45度上空をアクロバットしています。和風→侍に変換されてしまうのは池波正太郎を読みすぎでしょうかそうなのか。
エルマ:当初はただのヒロインだったのに、あれよあれよというまにあんなことに。いや、「一撃必殺」がないなと思って付け足したのですが、やりすぎました。一番したたかっていうかマイペースというか、最強属性になってしまった彼女ですが、好きです。
白風:まゆさんとかっこうさんとダリアさんに綺麗に書いておいてもらってアレですが、こんなひとです。誤解されがちですが、彼女は普通の人間です。見た目言動性格その他が普通じゃないだけで。
書いていてとても楽しかったです!謝罪と感謝を申し上げます。ありがとうございました!