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4話 始まりの終わり

始まりの終わり


 目の前で起きた奇妙な事について説明できる者がいるならしてほしい。


 魔力を感じない人間の男が立場を弁えず、こちらを馬鹿にする言動をしたので躊躇なく爆殺した。予想していたよりも呆気ない死に様ではあったが、体が黒焦げになっていたので()()()でもない限り謎の男は死んでいた。


「そう、死んでいた。跡形すら残さずに。そうでしょ、人間」


「よく人を殺しておいて、気軽に話しかけられるな。ガキが」


 いつまでも辞めない命知らずの物言いについイラッとして弓を構えるが、一度深呼吸をして心を落ち着かせる。謎を謎のままにするな。森を守る者としての矜持を胸に、もう一度対話を試みる事にする。


「殺しておいて……というのはあなたが蘇生の術を使えるという認識でいいってこと?」


 蘇生魔法は高位に位置する魔法であるために、他者に使用する蘇生魔法も、自己に使用できる蘇生魔法も習得者が極端に少ない。そんな魔法を発動したことすら気づかせることもなく、使うことが出来る人間。ここでの行動1つで村を危険に晒しかねない事に気づいたミーティアはもう一度深めに深呼吸し、頭を掻きながら無用意に立つ男をしっかりと視界に入れる。


「もう1度、警告させてもらおう。ここは危険な森である。迷いこんだというのなら、出口まで案内するくらいやぶさかではない」


 これで大人しく帰ってくれるならそれで話は終わり。何の脅威もなかったと報告できる。もし、少しでも反抗的な動きや言動を見せたなら、もう1度殺して蘇生している間に逃げる。最悪、村まで追いかけられる可能性があるので、村と真逆の方向に逃げればとりあえずの時間稼ぎはできる。


 しかし、男は蘇生前と心が入れ替わったのかのように興奮気味にこちらへ近づいてくる。


「本当か!いやぁ、急にぶっ殺してくるヤバい奴かと思ったが、話せばわかる奴だったんだな」


「待った。それ以上は寄らないでくれ。案内はする。だが、お前が怪しい人間である事には変わりはない」


 近寄ろうとする人間へ手を向ける。一挙手一投足に気を配ってみたが、その動きにやり手と思われる所作は感じない。それでも、間合いを詰められるのは……気持ちが悪い。


「怪しいと言われても……な。自己紹介でもしようか?俺は煉瓦 勝、38歳。職業、無職。趣味はカラオケ。特技はなし」


「……ダメダメじゃないか?もしかして大した事ないやつなのか?」


 聞こえないよう小声で本音を漏らす。人間の事情は知らないが、聞いた限りでは碌でもない男で間違いないと強者なのかと疑惑が浮かぶ。しかし、すぐに顔を振って雑念を払う。


 とにかく、この人間をここから遠ざける。それが先決だとミーティアは足早に森の中へ歩き出した。正確には歩き出そうとした。


「ついてこい。出来るだけ安全な道で外に「おい、後ろ!」


 急に男が遮るように大きな声を出すが、そこで驚いて振り返る私ではない。すぐさま何があっても良いように、背中から魔法障壁を展開する。


 魔法障壁は魔力があれば誰でも扱えるスキルのようなものだ。使用者の魔力の量や質によって強度が変わる。ミーティアの場合は衝撃特化で、大砲による砲撃くらいなら無傷で防ぐ。


 ミーティアは自分の盾に絶大な信頼を置いている。だからこそ後ろを一度も見ないでの防御姿勢。そんな自信は障壁から異音が発生した事で簡単に揺らぐ。


 流石に、自身を守る盾から異音がすれば振り向かざるを得ない。


「ローグパンサー?いや、それにしては大きい……まさか、()()!?」


 異音がした箇所を見てみると、巨大な白猫が障壁に飛びついて刺さった太い鉤爪が少しずつ、ほんの少しずつ亀裂が入り、魔法障壁を切り裂こうとしていた。あまりの急展開と間の悪さに脳がパンクし、思考が停止したミーティアは呆然と立ち尽くす。


「こんなところにいるはずが」


「でっかい猫だ。下手したら丸呑みされかねない……ていうか、冷静だな俺。ぶっ飛んだ事がありすぎて流石に頭のネジでも飛んだか」


 男は今まさに命の危機だというのにも関わらず、他人事のように呑気な声で呟く。それを強者の余裕と捉えるか、或いは……気が狂ったか。人によるだろうが、ミーティアにはそれが前者とはとても思えなかった。それでも彼女の善性が、見ず知らずの一度殺した男でも見過ごせないと都合の良いように体が動く。


「何を呑気に!逃げるならさっさと逃げろ。私が狙われている間に何か行動を起こしてくれ!」


 忠告しても、男は力のない返事をするばかりで、魔法を使う素振りも逃げる素振りすらもみせない。しかし、これ以上は咎めている時間も義理もない。最も大切なのは自分や村の仲間の命で、それ以外は二の次。


「忠告はした。後はお前がどうなろうと私の知ったことではない」


『ファイアアーマー』『グロウステップ』『ヘビーパワー』


 3つのスキルを使って能力を可能な限り高める。ミーティアは主に弓を使うレンジャーである為、近接戦闘を得意とはしない。だが、ローグパンサーとの距離を考えると暫くは至近距離での戦闘を余儀なくされる。近距離で攻められ、手も出せないまま殺されるのはミーティアとしても避けたい。


「ここから後2歩離れた瞬間、盾が維持できなくなる。動く前にもっと強化したいが」


 爪は、既に盾を半分は切り裂いている。これでまだ割れていないのは、ミーティアの魔力が優れているからに他ならない。それでも残された時間は短い。


「これ以上は障壁が持たないか。なら後は」


 無防備に晒されている眉間へ狙いを定め、深く息を吐いて集中する。人を一撃で消し炭にするインパクトボウも、大きさが人とは異なる獣を、一撃で仕留めるのは流石に難しい。


 更に相手が悪い。敵はローグパンサー。気配を消して素早く動く、まさに暗殺者のような動きをするので弓使いと相性が悪い。しかし、外皮が薄いという明確な弱点があるので、討伐難度はCと決して高くない。


 問題なのは"ハイ"という上位個体である事。ハイと一目でわかる違いとしては、体の大きさが明らかに違う。通常は人種の成人と同じくらいの大きさだが、目測では2倍以上は違うだろうか。


 それだけならただ育っただけだが、ハイと称される個体は通常の個体から大きさ以外になんらかの変異があった個体である。つまりは普通の個体よりも外皮が強化されていたり、筋肉が異常に発達していたりする可能性がある。


「一撃でもまともにもらえば命はない……か。いや、そんなたられば、考えたって仕方ない。やれるだけやるしかないんだから。………………魔法障壁……解除!」


 障壁を支えにして空に浮かんでいたローグパンサーは、支えを失い落下する。しかし、その目に焦りなどは見えず、ミーティアから一切目を離さない。


「ふっ」


 ミーティアは後ろへ飛びながら構えていた矢を放つ。矢は一直線に目を離さないローグパンサーの眉間へと向かい、顔へ着弾する。するとローグパンサーの巨大を隠すほどの大きな爆発が起こり、その爆風は弓を放ったミーティアを吹き飛ばす程の威力で、距離のあった勝のところまで飛ばされた。


「迫力がすげぇ。っておい、大丈夫かよ」


「大丈夫だ、問題ない。これで死んだとは思えないが、重症くらいには」


「なってないみたいだぞ。ほら、ピンピンしてらっしゃる」


 煙の奥から出てきた顔には軽い火傷のように腫れた傷はあれど、出血していたり傷が抉れていたりする訳ではない。血が滲んだ擦り傷の事なんて、気にならなくなるくらいには衝撃的だ。


 渾身の一撃という訳ではないが、今の一瞬でできる最大威力の攻撃手段ではあった。それを擦り傷程度で済まされたのは想定外。傷だけで見れば痛み分けではあるが、これでは怯ませるどころか追撃が、


「くる!」


 近寄ってきていた男を殴り飛ばしてから敵の方を見る。他人を気遣っている暇などないのは確かだが、体が勝手に動いていた。


 彼女なりのお節介を戦闘中、それも危機的状況で見せてしまう。それが良い事なのか悪い事なのか。誰にも正解はわからないが、この場では彼女にとっては不正解だった事だけは誰の目にもわかる。


 男を押し退けてローグパンサーの方を見た時、既に距離は目前。いつの間にか挙げられていた腕が、目で追えない速度で振り下ろし始められている。


「くそ!間に合わな……」


 待機状態にしていた短距離移動スキル『グロウステップ』を使い距離を取ろうとするが、一歩踏み出した瞬間にローグパンサーの腕がミーティアの肢体に届く。


 回避しようのない、痛みすらも感じさせない素早い一撃をもらい、自分から流れ出る大量の血が舞ってるのを見て思う。


「ふざけるなよ、ちくしょう」


「俺もそう思う」

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