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16 『落窪物語』をアレンジ⑪

読みに来てくださってありがとうございます。

予約を明日の朝に間違って設定していたことに今気づきました。すぐ投稿します。

「落窪」ラストです。巻き巻きで短めです。

よろしくお願いいたします。

 ある日、リーセロットの兄の元にレオポルドから手紙を届いた。


「話があるから、邸に来てほしい」


 何を今更、という気もしたが、もしかしたら運び込んだ家財を返してもらえるかもしれないと思った兄は、指定された日に邸を訪問した。


「会わせたい人がいる」


 レオポルドにそう言われた兄は、縁談かと身構えた。だが、そうではない、とレオポルドは断言した。


「周りの者に見覚えはないか?」


 壁際に控えている侍女たちの顔を見て、兄は思わずあっと叫びそうになった。この邸に引っ越す少し前に、母イフォンネや姉妹たちの傍にいた侍女たちが1人2人と辞めてしまっていた。後がまがいないとイフォンネたちが騒いでいたが、なぜ辞めた侍女たちがここにいるのだろう。


「私たち、前のお邸でお世話になった者でございます」


 侍女の1人が言った。


「ああ、分かる。覚えている」

「私たち、イフォンネ奥様のなさりようにずっと腹を立てておりました。どうして王女を母に持つような姫君を、あのようにひどく扱われるのかと」

「待て、その姫とはリーセロットのことか? あれはわがままな上に不器量で、とてもではないが外に出せるような子ではないから閉じ込めていたと聞いていたが」

「とんでもないことでございます。全てイフォンネ奥様が、マルハレータ様を憎んでしたこと。リーセロット様は、お美しくて気立ての優しい姫君です。リュートを習っておいでだったラウレンス坊ちゃまは、よく分かっておいででしたよ。子どもゆえ力がなく、助けられなくて申し訳ないと、よく泣いておいででしたから」

「そんな、私が聞いていた話と全く違う」

「ならば、リーセロットに会いますか?」


 レオポルドの言葉に、兄ははっとした。


「まさか、たいそう大切になさっていると噂のご婦人は、リーセロットなのですか?」


 レオポルドは何も答えず、奥の扉に向かって呼びかけた。


「出ておいで」


 扉から姿をあらわしたのは、美しいと評判の、イフォンネから生まれた姉妹たちよりも遙かに美しく、上品な女性だった。どこか見覚えのあるその顔に、兄は膝をついた。


「リーセロット。こんなに大きくなっていたのか」

「お兄様には、お邸に引き取られたあの日、一度しかお目にかかっておりませんが、確かに私がリーセロットでございます」


 兄は、これまでのレオポルドの嫌がらせの原因がこれなのだと理解した。なぜ、この邸の権利書をレオポルドが持っていたのかも納得した。リーセロットがひどい扱いを受けていたことは知っている。それがリーセロットに原因がある以上、家門を守るために閉じ込めるのは仕方がないと思い、また自分には関係ないこととして放置してきた。だが、実際はただの継子いじめだったのだ。そして、そのことに腹を立てたレオポルドが、母イフォンネに復讐しているのだと気づいた。


「母が、そなたに悪いことをした。事実を確かめなかった私にも責がある。本当に、申し訳なかった」


 頭を下げる兄に、リーセロットはどうかお顔をあげてください、と言った。


「兄様に謝っていただくほど兄様と接点があったわけではございませんし、兄様が私に何かしたわけでもございませんから」


 おっとりとしたその話しぶりも、王家仕込みなのだろうか。「いい女」と言われるような女性たちも知ってるが、リーセロットは格が違う。レオポルドが女を見る目は正しいし、こんな娘をいじめた母が愚かだし、それを認めていた父はどうしようもないとうなだれた。


「兄上には、今後頼みたいことがあるのだよ」


 レオポルドの言葉に、兄は顔を上げた。


「リーセロットは復讐を望んでいない。私が勝手にしていることを耳にして、心を痛めているほどだ。とはいえ、あの母上が、何かあればリーセロットに何かしないとも限らない。だから、リーセロットに近づかぬよう、止めてもらいたいのだ。

 ああそうだ、運び込まれた荷物の中から、リーセロットの生みの母上が残し、イフォンネ殿たちに奪われたものを調べさせてもらった。それはこちらにお返しいただくが、それ以外のものは全てそちらにお返しする。どうだろうか」


 いや、それは拒否できない話だろうと兄は思うが、「ありがたき幸せ、約束は必ず守ります」と御礼申し上げておく。


 とりあえずイフォンネの化粧道具などを馬車に積んで、兄は去って行った。この後、荷馬車が何台も来るだろう。そして、イフォンネとエンゲルベルトに、リーセロットがレオポルドの妻となり、この邸の権利書も正当なものだという話が伝わるだろう。


・・・・・・・・・・


 全ての事情を知ったエンゲルベルトは、兄と一緒に邸にやってきて、リーセロットにわびた。


「お父様に信じていただけないのはとても辛かった」


 リーセロットはそれだけ言うと涙ぐんで、話ができなかった。


「マルハレータの形見の品まで、イフォンネが取り上げていたと聞いた。本当にすまなかった。自分の判断力が信じられない今、もう国に仕えることも辞め、爵位をお前の兄に譲って、田舎に引きこもろうと思う」


 リーセロットはただ、お体をお大事に、としか言えなかった。


 荷物が運ばれてきたことでイフォンネは本当にレオポルドの妻がリーセロットだったのたど知った。自分の娘がその座に納まるはずだったのに、と怒り心頭だが、頼りにするエンゲルベルトがもう隠居するというし、長男はレオポルドに完全に尻尾を巻いてしまったし、イフォンネにできることはもうない。


 ものが戻ってきても、邸の修理代は返ってこない。


「慰謝料だと思ってください」


 そう息子に言われても、イフォンネは腹が立ってならない。これではエンゲルベルトについて田舎に行っても、平民レベルの暮らししかできないではないか、と大騒ぎした。


 その話を聞きつけたリーセロットから、資金援助の話が持ち込まれた。レオポルドが所有する海辺の領地に、全く使われていない別荘がある。そこに住めるよう手配するというのだ。その町は貴族の別荘が建ち並ぶような場所で、冬でも過ごしやすいと評判になって、老後をその町で送ることがステータスとされるような所だ。


「ええ、せっかくの申し出ですもの、行ってあげましょう」


 どの口がそんな偉そうなことを言えるのか、と周りの人間が全員思ったことを、イフォンネは知らない。イフォンネは意気揚々とその町に行き、我儘全開で遊び暮らしているらしい。それを聞いたリーセロットは「お父様とお義母様が快適にお過ごしならそれでいいの」と言った。


「復讐すれば一時的に気は晴れるでしょう。ですが、お母様がそんなことを望むとは思えませんし、私もずっと、心の中であんなことをしなければよかったと思いながら死にたくはございませんから」


 リーセロットはレオポルドに微笑みながらそう言った。


 その後、レオポルドは国王の補佐として誰からも認められる人となった。娘は王太子に嫁いで後に王妃となったし、息子たちも出世してこの国の発展に尽くした。


 継子いじめにあったリーセロットだが、レオポルドに救われてからは、本当に幸せな人生を送ったのだった。きっと、リーセロットの母マルハレータが、そう導いたんだろうと人々は話したそうだよ。

読んでくださってありがとうございました。

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