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10 「落窪物語」をアレンジ④

読みに来てくださってありがとうございます。

短いです。

よろしくお願いいたします。

 幾度も手紙を交わした。そして、イフォンネの目をかいくぐりながら、レオポルドは何度もリーセロットの所へやってきた。リーセロットの心に中に、レオポルドを信用したいと思う気持ちが芽生え始めた。相変わらずリーセロットはイフォンネに命じられて服を作り続けていたが、レオポルドから直接・間接を問わず届けられる食料や身の回りのもののおかげで、隙間風や雨が吹き込み、有るべきものさえなかっったリーセロットの部屋も、多少は見られるようになってきた。


 いつものようにレオポルドから手紙が来た。今日は「恋人の日」だ。この日に愛を誓い合った2人は、どんな困難があっても必ず結ばれると言われている。あまりそういうことを知らないリーセロットだが、アレッタにそう言われてもう一度レオポルドの手紙を読み返すと、顔が赤くなった。


「必ず今日行くから、待っていてほしい。大事な話があるから」


 リーセロットは、空を見上げた。大事な話って何だろう、と思った。それと同時に、大粒の雨が降りそうな気配だが、大丈夫だろうかと思った。


 その夜、リーセロットの心配したとおりの雨になった。それも豪雨だ。大事な話といっても、こんな雨の中来ることはないだろう。もし今日、レオポルドから真剣な言葉をもらえたのであれば頷いてもいいかもしれないと思っていたが、天はそれを認めないつもりなのだろう。いや、そもそもレオポルドと自分では釣り合うはずもない。王女腹でありながら日陰者や召使いのような扱いの自分と騎士団で華々しく活躍するレオポルドが結ばれたところで、リーセロットが正妻になれるとは思えない。


 もう寝よう。


 リーセロットがそう思った時、ほとほとと扉を叩く音がした。雨の音に紛れて気づきにくいが明らかに違う音に、リーセロットは扉を開けた。


「遅くなってごめん」


 そこには、ずぶ濡れになったレオポルドがいた。


「絶対に今日中に来ないとって思って来たんだけど、この有様だ。何か拭くものを貸してくれないか?」


 アレッタが慌ててタオルをリネン室に取りに行った。リーセロットはとりあえず手元にあったタオルをレオポルドの顔にそっと当てた。


「拭いてくれるのか?」

「あっ」


 これまで自分から手を伸ばしたことなどなかったのに、ずぶ濡れの姿が痛々しくて、つい身近な人のように接してしまった。


「ごめんなさい、失礼でしたね」

「いいや、うれしい。拭いてくれるかい?」


 そう頼まれては、仕方がない。顔を拭いたが、髪もぐっしょりと濡れているので髪を拭かねばだめだ。


「少しだけ、かがむか頭を下げてくださいませんか?」

「こうか?」


 髪を拭こうとしたリーセロットは、レオポルドの目が自分の目の前に来たことに驚いた。


「……はい」


 リーセロットは急にドキドキし始めた心臓の音がレオポルドに聞かれるのではないかと気が気ではなかったが、そのまま髪を拭こうとして、顔が思いのほか近づくのにはっとした。


「いいよ、続けて」


 リーセロットは髪を優しく拭いた。拭いている最中に、突然レオポルドに抱きしめられた。


「リーセロットは、子どもの頭を撫でるように髪を拭いてくれるんだな。この雨の中来たことを褒められているような気になった」

「え、あの……」


 レオポルドの髪を拭いていたタオルを、驚きのあまり落としてしまう。その手をどうしたらよいのか分からず、リーセロットの両手は宙に浮いたままだ。


「リーセロット。嫌だったら言って」

「……、その、嫌ということではなく」

「なく?」

「その、どうしたらいいか分からなくて……」

「これから先も、ずっと、何度でも、リーセロットをこうやって抱きしめたい」

「えっ」

「リーセロット。君をここから連れ出しても構わないか?」

「それはだめです。お父様のお許しなくここを出たら、あなた様が誘拐犯にされてしまいます」

「ならば、正式に話を通そう。それまで、待っていてくれるか?」

「お待ちしていても、本当にいいのでしょうか?」

「リーセロットを迎えに来るまでの間にもこうやって君の所に来るよ」

「本当に?」

「おや、俺が来るのを楽しみにしてくれるのかい?」

「あっ、あの……」

「イエス? ノー?」

「……イエ」


 最後の1音は言えなかった。レオポルドが唇を重ねてきたからだ。驚いて目を見開いたリーセロットは、ずぶ濡れのレオポルドの腕の中に囲われて、その冷たい雨が自分の服にもしみてくるのを感じた。冷たい雨のはずなのにそう感じないのは、きっと自分の体がほてっているからだと気づくと、ますますリーセロットは心臓が高鳴るのを感じた。


「びっくりさせたならごめん。うれしくて、つい……」


 ようやく離れたレオポルドは、そういってうれしそうにリーセロットを見た。


「今日、俺たちは愛を誓い合った。だから、必ず一緒になれる。俺はそのために動く。絶対に迎えに来る」

「はい。一日も早く、迎えに来てください」

「頑張るよ。ね、リーセロット」


 レオポルドはデレクを連れて帰っていった。レオポルドを信じたい、そしてこの邸を出たい。リーセロットはレオポルドからもらった手紙を全て出して読み返した。そして全てしまった……はずだった。

読んでくださってありがとうございました。

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