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【第2章開始】悪役王女に世界を救えるはずがない!  作者: 如月結乃
第二章 勇者の末裔

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26 騎士団の視察

 早朝。


 死霊の討伐に三度城を出た私と今日の朝番であるハクは城に戻り、それぞれ別々の方向に別れた。私が向かう先は、城の敷地内にある王国騎士団の詰め所である。


 ――今日は私が、剣聖としてハルジオン王国の王立騎士団を視察する日だ。


 そして『エスロワ』ではシークレットキャラクターであるエドガーが、親友である青髪の彼の仇を取るべく、王立騎士団に入団する日でもある。


 どうか彼の姿を二度と見ることがありませんようにと願いながら、私は騎士団の詰め所に到着した。


「お待ちしておりました、ビビット様。本日はよろしくお願いいたします」


 私の姿を見るや、騎士団長が私に声をかけてきた。


「ええ。こちらこそよろしくお願いするわ」


 アリスたちと出会う前。私が朝から晩まで訓練で騎士団のお世話になっていた頃は、騎士団長はもちろん、騎士たちに対してこんな砕けた話し方はしていなかったのだけれど、すでに気狂いを演じてしまった身である私はそれを貫くことにした。


 とはいえ、我ながらなんて偉そうなのかと思いつつ、私は彼から騎士団の訓練メニューの説明を受けながら、今まさに騎士たちが腕を磨いているという訓練場へと案内された。


 そこでは騎士たちが騎士団長に聞かされたメニューの通りに、剣と魔法を用いてひたすら剣の打ち合いに没頭していた。その隅で、年少騎士たちが腹筋やスクワットなどの筋肉トレーニングを行っている。


 私はその中にエドガーの姿がないことにひっそり安堵し、訓練中の彼らに視線を留めたまま、横に控えている騎士団長に尋ねる。


「――このメニューを考えたのは貴方?」

「はい。私が考案したものでございます」

「そう……」


 私は頷きながら、遠くで一人の騎士が相手に向かって豪快な火炎を放射したのを見て、その場から一歩踏み出し、火炎を向けられた騎士の隣に立った。驚いて私を見ている隣の騎士に、「少し借りるわね」と言って剣を奪い、眼前に迫る火炎に向けて剣撃を放って炎を打ち消した。


「なあっ……!」


 驚きの声を上げている隣の騎士に、「ありがとう」と剣を押しつけるようにして返した私は、目を見開いてこちらを見ている騎士団長の元へ戻った。


「一つ貴方に聞きたいのだけれど、貴方たち騎士が今相手にしているのは何かしら」

「それは……死霊、でございます」

「そうね。間違いではないけれど、それは私たち剣聖と三賢者の役目よ。無論、民の誘導や討伐後の手当では協力してもらっているけれど、死霊に対して腕を振るう機会は貴方たちにはないわ」

「……ですが、我々騎士は国がために剣と魔法を極めるのが務めでございます」


 何を言いたいのか分からない、といった様子の騎士団長に、私は「分かってるわ。でも……」と続ける。


「呪われた時代においては、我々連合国は互いに他国との外交の一切を禁止している。鎖国状態にある今、内戦でも起きない限り戦地に貴方たちが駆り出される可能性は極めて低いわ。現状、貴方たちの力が活きる機会は限られている。そうでしょう?」


 そこまで言うと、騎士団長は全てを理解したのか目を伏せ、瞼を僅かに震わせた。やり切れないと語るように、彼は拳を強く握りしめている。


 私は声が震えそうになるのを耐えながら、再び口を開く。


「あるとすれば、民を襲う予期せぬ危険……そう、真っ先に挙げるとするならば、魔災への対策ね。貴方たちが今一番にすべきは、敵を前提に己の力を磨くことではなく、民を守るための術を身につけることよ」


 私は『エスロワ』のビビットを強く頭に思い浮かべながら、自信に満ちた声で言い放った。すると、騎士団長は私の目の前に勢いよく跪いた。


「……っ! 申し訳ございません、ビビット様!! 我々は同じ過ちを繰り返すまいと決意しながらも、やり方をっ、間違えていたようです……! それをあろうことかビビット様にご指摘いただくというご無礼、どうか! どうかお許しを……っ」


 怒りなのか、悲しみなのか。激情を声に滲ませながら許しを請う騎士団長に、私は慌てて声をかける。


「頭をあげてちょうだい。私は、母様の件で貴方たちを責めたくて言ったのではないわ。どんなに剣や魔法の腕があっても、自然に人間が叶わないという原則は変わらないもの。……ただ、悔いが残らないよう備えることはできるわ」


 ――そう。“魔災”という、魔力の元となる魔素が瞬間的に集まり、暴走して起こるこの世界の自然災害で母様たちは亡くなった。


 私がもっと早く記憶を思い出していたら。……その時に母様を救おうと思えたなら、私は自分も同行するのではなく、母様がその日城を出ないよう引き止めただろう。


 魔災は天気と違って予測がつかないから、余程腕のある魔法使いや剣士がその場にいない限り、基本は出くわしたが最後なのだ。


 だからこそ、彼らには魔災にも負けない力や逃れる術を身に着けてほしい。母様たちを見殺しにした私が言えることではないのは分かっているけれど、それでも私は同じような後悔を彼らにしてほしくない。


「……おっしゃる通りにございます」


 騎士団長は頭を上げ、一瞬何かを堪えるような顔を見せたものの、立ち上がるといつもの厳しい顔で私を見つめた。


 私は頷き、彼の目を見つめ返す。


「貴方も知っているでしょうけれど、魔災や大魔法を打ち消すには、反対属性の魔法で打ち消すか、同属性の大魔法で相殺するのが基本よね。でもさっき私が見せたように、剣だけで魔法を打ち消してしまうこともできるわ。だからこれからは対敵を想定した訓練を減らして、その分魔災や大魔法を想定したメニューを組むのはどうかしら」


「はい。賛成でございます。ビビット様のように、魔法を打ち消すことができるまでに剣技を磨くには時間がかかるかもしれませんが、魔力の底上げを図ることができれば、大規模な魔法にも複数人で対応できるようになるでしょう」


「そうね。魔法については私は助言出来ないけれど……メニューを聞いた限りだと素振りの時間が多いから少し削るといいわ。剣聖になって気づいたのだけれど、型が体に染み込みすぎるのはいいことではないから。それと年少部隊の筋肉トレーニングは、木刀の打ち合いに変えるべきね。剣に必要な筋力は実戦で身につけていく方が早いもの」


 私が訓練中の騎士を眺めながら感想を含めて意見を述べると、騎士団長は深く頷き、懐からペンを取り出した。そして片手に持っていた訓練のメニュー表にメモをするように何かを書き込むと、指で表の一部を示して私に見せた。


「成程……。そのようにいたします。それではこの部分は……」

「そこは――」


「団長!!」


 質問に答えようとした私の声を遮る呼び声に、私と騎士団長は同時に振り向く。


 ――その目に飛び込んできた光景に、私は思わず目を見開いた。



「お話し中に失礼いたします! エドッ……彼が、今日一日訓練を見学したいと申しておりまして!」



 そこには、騎士団長に向かって笑顔を向ける、右腕を包帯で吊ったくすんだ青髪の少年が。


 ――そしてその隣には、私を驚いたような顔で見つめるエドガーの姿があった。

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