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【第2章開始】悪役王女に世界を救えるはずがない!  作者: 如月結乃
第一章 伝説の始まり

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幕間 月は知っている

「――創世の魔法使いの末裔は、まだ見つからないのか」


 謁見の間にて、白く豪奢な王座に足を組んで座している陛下は、その苛立ちを隠せぬ様子でハルジオン王国の宰相である私を見下ろした。


「はい、陛下。国の最重要任務として騎士団の暗部が極秘に国内外を捜索しておりますが、その名を知ることさえできていないのが現状でございます。申し訳ございません」


 私が現状を報告すると、陛下は美しい眉をひそめ、静かに怒気を発した。その姿はまるで青く燃え盛る炎のようで、私は背中に冷や汗がつたっていくのを感じた。


「ふん……。我が国の騎士団が他国に舐められているという噂は、貴様の耳にも届いているだろう。俺が直々に騎士団に処分を下す日も、そう遠くはあるまい」

「いえ……陛下。恐れながら申し上げますが、全力を賭して任務にあたっている彼らを罰するというのはいかがなものかと、私は愚行いたします」

「ほう。貴様がこの俺に異を唱えるとはな……。して、根拠は?」


 生半可な根拠なら許さぬと言うように、陛下は私を冷酷な眼差しで射抜いた。しかし私は、考えを曲げるつもりはなかった。


「はい。我が王国騎士団は、王妃様の死に責任を感じ、血の滲むような訓練を重ねているようです。私は騎士団長から報告を受けるだけの身ですが、彼は私にこう告げたのでございます。――己の命を懸けてでも、陛下並びにビビット様ら王族の皆様のために全身全霊を尽くすと。彼のその覚悟は、信じるに値すると私は愚行いたします」


「……はっ」


 陛下は私の言葉を鼻で笑い、それ以上口を開こうとはしなかった。つまり私の発言は、陛下の怒りに触れなかったということだ。


 私が密かに安堵していると、陛下はここではないどこかに思いを馳せているように遠い目でジッと宙を見つめていた。その胸中を想像するだけで、呼吸が苦しくなるように心が締め付けられる。


「――陛下。恐れながら一つ、私にご提案がございます」

「……言ってみろ」


 発言を許可してくださった陛下は、玉座の肘掛けに頬杖をついた。


「はい。捜索中の魔法使いの件及び、王妃様とジルサンダー様を葬った敵がどこかに潜んでいるという()()を、剣聖となられたビビット様に打ち明けるべきではないかと」


 ――そう言い切った瞬間。


 陛下の氷の如く済んだ瞳は怒りで濁り、先ほどのものとは比べ物にならない覇気で私を圧倒した。


「……申し訳ございません。陛下。ビビット様におきましては、国政や政略への利用の一切を禁ずるとのお言いつけを、私は忘れたわけではございません。ただ、その身の安全を考慮するという意味でもやはり真実を――」


「くどい。俺は剣聖となったあの娘を、もはやこの国の王族とは思っていない。除名するまでもないあの傀儡が、どこで生きて死のうと俺の知る限りではない。貴様もその首が惜しければ、この場で二度とその名を口にするな」


 実刑を宣告するかのような剣幕で私にそう言い放った陛下は、酷く気分を害されたご様子で一言「去れ」と言い、再びその視線を宙に彷徨わせた。


「はい……大変申し訳ございませんでした。失礼いたします」


 謁見の間を後にした私は、自室の書斎に戻ると、窓の外に浮かぶ月を眺めながら思案する。


 ――四日前に剣聖の才にお目覚めになられたビビット様は、今日の夜会の最中に見事死霊を滅し、ルイス様のお命をお救いになられたと騎士から報告が入っている。


 ビビット様は王室の慣わしで若干二歳の頃から剣に触れ、その類まれなる剣の才能で我々を驚嘆させた。


 そして、連合国二人目の伝説の才が発現した八年前……当時六歳だったビビット様が剣聖となる可能性が高まったため、騎士団によるビビット様への休みない訓練が始まったのだ。


 私は訓練の全て把握する身であり、陛下や王妃様にお伝えする立場でもあった。


 だがその内容を知り、口にする度に、ただの幼い少女であったビビット様を何にも屈しない勇者に育て上げるためとはいえ、この国の在り方はこれで良いのかと何度も己の心に問うた。


 しかし、私の報告を涙ながらに聞いていた王妃様や、一切表情を変えずに聞きながらも瞳を微かに揺らしていた陛下の胸中を考えると、当時の私は何も言うことができなかったのだ。


 ――ビビット様は、我々を憎んでおいでではないのか。


 そうであるなら……いや、そうであって当然の仕打ちを、我々王国はビビット様に対して向け続けた。その過ちとも言い切れることのできない過去が、この国や連合国にどのような結果をもたらそうとも、私は全てを受け入れるつもりでいる。


 陛下もああはおっしゃっていたが、恐らくは……。


 宰相は誰にも打ち明けることのないその胸中を、夜空を照らす月だけに告げるかのように、しばらく窓の外の月夜を見上げていたのだった。

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