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【第2章開始】悪役王女に世界を救えるはずがない!  作者: 如月結乃
第一章 伝説の始まり

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13 四人の王子

「――私はビビット・フォン・ハーティエ。聖剣に選ばれたからには、世界を何が何でも救ってみせるわ。これから毎日顔を合わせるのだから、貴方達も順に名乗りなさい」


 私を始め、伝説の才に目覚めた王族の子には、名前の間にそれぞれの王家の飾り名がつく。我がハルジオン王国の飾り名は”フォン”。剣聖の証だ。


 私は今度こそ王子達と対話するために彼らを強い眼差しで見回すと、横から黒髪の王子が真っ先に口を開いた。


「オレはハク。――ハク・リ・フェイ。クレナイの国の王子だ」


 ハクはさっきまでの剣幕が嘘だったかのように、黒髪の中から生えている猫のような耳をかき、和やかに言った。こっちが彼の素なのだろうか。改めて見ると、さすがは攻略対象者。ものすごい美形だ。


 確か私より二つ年上だけれど、少し猫背気味の彼と私では頭一つ程の身長差がある。鮮やかな赤いチャイナ服のような衣がとてもよく似合っているし、特に琥珀色の瞳が漆黒の髪によく映えていて、見惚れるほどに美しい。


「初対面で騒ぎを起こして悪かったな、剣聖……いやビビット。これからよろしくな!」

 

 腕に付けた金色の腕輪をシャラリと鳴らして、彼は私に拳を差し出してきた。


「……ええ。ハク、こちらこそよろしく」


 これでいいのかと戸惑いつつも私も手を拳に握ると、ハクは尖った犬歯を見せながら無邪気に笑い、ゴツンと拳をぶつけてきた。


 するとパチパチと拍手の音が聞こえ振り向けば、金髪の王子がにこりと甘い微笑みを浮かべてこちらを見ていた。


「無事、和解できたようでよかったよ。まだ続くようなら、僕も口を挟まなければと思っていたからね」


 言いながら彼は長い脚でトントンッと、あっという間に私の前に歩み寄ってきた。


「僕の名は、レイド・ラ・シーボルト。彼に習って、僕もビビットと呼んでも構わないかな?」

「もちろん、構わないわ」


 高身長の彼を見上げながら答えると、レイドは優雅な仕草で右手を目の前に差し出してきた。


「じゃあ、ビビット。僕の王国カトレアでも、君は剣の申し子だって有名だったよ。今は亡き君の母上も僕の母と親交があったようだし、僕たちも上手くやっていこう」


 隣国、カトレア王国の王子である彼は、美形揃いの王子たちの中でも民の間で絶大な人気を誇っていて、確か『エスロワ』ファンの人気も一番だと聞いた記憶がある。彼も、私より二つ年上だったはず。


 金髪金眼の彼は、その色の眩しさに負けないほどに目鼻立ちが美しく、まさに物語に登場する王子様のような風貌だ。


「ええ、レイド。私の方こそよろしくね」


 私がレイドと握手し終えると、残る一人である銀髪の王子に自然と皆の視線が集まる。


 視線に気づいていないらしい彼は、さっきハクが破壊した椅子の破片や木の粉が飛んでくる場所にいたらしい。狼の毛並みのようにふわふわの銀髪を、手で払っている最中だった。


「悪い。誰にも当たらねえように蹴ったつもりだったんだけど」


 私が声をかける前にハクが彼に謝罪すると、彼は手を止めてこちらを見た。


「……別に。俺が立ってた場所が悪かっただけだろ」


 ボソッと呟くように言うと、彼は髪を払うのを再開しようとしたので慌てて声をかける。


「それどころじゃないかもしれないけれど、今皆で自己紹介をしていたところなの。貴方が最後よ」


 すると彼は、青い瞳でジッと私を見つめたかと思うと、はあ、と短くため息をついた。


「……ロルフ。ロルフ・ド・ペンドラゴン。スターチスの第一王子」


 如何にもめんどくさそうに言ったロルフは、乱れた髪を手で払いながらさらに続けた。


「俺はそこの黒いのと違って暑苦しい熱意もないし、金色の奴みたいにへらへら慣れ合うつもりもない。ただ、やることはやる。以上だ」


 スターチス王国。アーサー王を祖先とする国の王子である彼の容姿は、伝記やこの教会のステンドグラスにもなっているアーサー王の面影がある。銀と青という色合いも相まって、神秘的で美しい顔立ちだ。私とは唯一、同い年である。けれどその瞳の奥は冷ややかで、態度や発言もとても勇者の末裔とは思えない。


 ヒューッと尻上がりの口笛が聞こえ、隣を見るとハクが円卓の上に座り、首を傾げながら二ヤリと微笑んでいた。


「やることやるって言ってんだから、俺は文句ないね」


 言い終えた後、ハクは私をちらりと見た。


 どうやら彼は、先ほどの騒ぎで空気を悪くしたことを気にしているらしい。本心では、ロルフの態度を気に入らないと思っていそうだもの。そうでないと、私へのさっきの仕打ちの説明がつかない。


「僕も彼とも協力したいと思っているし、彼もそう言っているのだからいいんじゃないかな」


 ハクに続けてレイドも、へらへらしているつもりはないけれどねと付け足しつつ、にこやかにロルフを援護した。


「私も、貴方が貴方の為すべきことを果たすのならそれで構わないわ。ロルフ」


 私としても特に問題はない。何故なら彼だけは、ゲーム通りに名乗ってみせたのだから。


 私が微笑みかけると、ロルフはわずかに眉をひそめ、明らかにふいっと空中に視線を逸らした。


「ああ、そうかよ。じゃあ、さっさとこの話し合いってやつを終わらせてくれよ。剣聖」


 その言葉を最後に、ロルフは周囲からの視線を遮るかのように髪や衣服についた椅子の破片落としにまた取り掛かった。


「わかったわ。――それじゃあ、これからの防衛任務について、段取りを決めましょう」


 ようやく話ができる状態になった私達は、一日を朝番と夜番の二つに分け、私と王子の誰か一人とでペアになり早朝から四つの国を防衛し、夕方を境に私と別の王子のペアに交代するという『エスロワ』と同じスケジュールを組んだ。


 私はこれから、毎日二人の王子と協力して死霊と戦うことになる。死霊の強さや数に応じて非番の王子を呼び出すライン決めまで終えて、この日は解散となった。


 教会を出ると外はすっかり夜になっていて、星々がきらきらと宙に輝いていた。落ち着いて夜空を見られるのも、これが最後かもしれない。


 古くからの慣わしで、剣聖の才に目覚めた者はその任務にあたる前に一日だけ猶予が与えられる。だから防衛任務は明後日からだけれど、明日は城でハルジオンの貴族に向けた私のお披露目パーティーがある。猶予というほどゆっくりできはしないだろう。


 心身共に疲れ切った私は、明後日から始まる防衛任務に備えてしっかり体を整えなければと意気込み、迎えに来ていた使用人頭と共に転移門をくぐったのだった。


 ――ここへ来る前に自分がしでかした事の大きさと、城で今何が起きているのかをすっかり忘れて。

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