表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

別の世界ではただの日常です

有名になる目

作者: 茅野榛人

 俺と言う存在を必要としている人間は、この世に何人いるのだろうか。

 最近、そんな事ばかり考えている。

 家族に勘当され、友達も出来ず、学校の先生にも好かれず、恋人も出来た試しがない。

 年齢関係無く、俺を必要とする人間が、一向に現れない。

 自分なりに挑戦はしている。

 しかしそれでも、皆俺を頼らず、避けている。

 特に不足している所は無いはずなのに、どうしてなのだろうか。

 こうやって周りから避けられると、段々と生きるモチベーションすら保てなくなってくる。

 俺はこの世界には不必要な存在なのだろうか。

 取り敢えず、生きよう、どれだけ辛くても。


 樹海にやって来た。

 やはり、俺はこの世界から消えた方が良さそうだ。

 何時まで経っても必要とされないのは変わらなかった。

 このまま俺が生きていても、周りも、俺自身も、誰も何も得をしない。

 この緑豊かな樹海の真ん中で、静かに命を絶とう。

 俺はロープで輪を作り、樹木に括り付け、折り畳み式の小さな机を展開して設置した。

 後は机に乗ってロープの輪に首を通して机を蹴れば死ねる。

 これでやっと生き地獄から抜け出せる。

 机に乗り、ロープの輪を首に通した。

 その時だった。

「やめて……死なないで」

 突然後ろから女性の声がした。

 俺は首からロープの輪を外し、振り向いた。

 そこには俺が持っているものと同じ位の大きさの鞄を持ち、白いワンピースに身を包んでいる、二十代前半位のボブヘアーの女性がいた。

 足音も気配もせず、まるで突然そこに現れたかのように思えた。

「降りて……お願いだから……」

 思わぬ邪魔が入った。

 このまま首を吊ったとしても、多分この人に助けられる。

 俺は乗っていた机から降りた。

 すると彼女はこちらに近づいて来た。

「お願いだから……命粗末にしないで……」

「……申し訳ありません、貴方に俺の気持ちなんか分かりっこありません」

 そう言って逃げようとした時だった。

 女性が突然俺の胸ぐらを掴んで来た。

「教えて! どうして死のうと思ったのか! 教えて!」

 俺はその圧に負け、全てを話した。

「だから……俺はこの世界には必要無いんです」

「世界……ここ以外の他の国行った事あるの?」

「……いいえまだ」

「行った事ないのに……世界からは必要無いなんて言っちゃうんだ……確かに、君の何かが悪いのかもしれない、でも、それに気が付いていないだけじゃない? その悪い所に気が付いて、直したら良いんじゃない?」

 そんな事、とっくにやっている……って言おうとしたのだが、俺は言えなかった。

 もしかしたら、本当にまだ気が付いていないだけかもしれない。

 そう思うと、涙が零れ始めた。

「君は……一人で決め付け過ぎ……もっと……視野を広げなさい……」

 俺は喋る気が起きず、首を一回だけ縦に振った。

「少し深呼吸してみようか、ここは緑豊かな樹海だし、きっと空気が美味しいよ」

 俺はその場で数回深呼吸をした。

 数を重ねれば重ねるほど、涙が溢れ出た。

 暫くして、ようやく涙が止まった。

「落ち着いた?」

「……はい」

「うん……じゃあ……この樹海から……直ぐに出ようか……」

「……はい」

「私が樹海の外まで付き添うから」

「……ありがとう」

 樹木からロープを外し、机を折り畳み、鞄にしまい、二人で樹海の外を目指して歩き始めた。

 俺と言う存在が必要無いかどうかなんて、まだ分からない。

 例え直ぐには気づけなくても、いつか必ず。

 女性と樹海の外を目指して歩いていると、ふと女性がここに来た目的が気になった。

「貴方は……どうしてここに?」

「ん? んー……目的は無い……ただ来てみたかっただけ……」

「そうですか……あ、なら、その大きな鞄は一体?」

「……え?」

「あ、す、すみません! 突然変な事聞いて……でも……やっぱり気になっちゃって……俺が持っている鞄と同じ位の大きさの鞄で……え?」

 そこで俺は突然気が付いた。

「ん? どうした?」

「もしかして……その鞄の中身……俺の鞄の中身と同じだったりしませんか?」

「……鋭いね」

 出来れば当たって欲しく無かった勘が当たってしまった。

「教えて下さい……どうして死のうと思ったのか……俺は貴方にそう言われて話しました……」

 俺はこの人に助けられた。

 今度は俺がこの人を助ける番だ。

「これから言う事……信じてくれる?」

「はい」

「何もかも全部……信じてくれる?」

「はい、何もかも全部」

「君……有名人って知ってる?」

「はい、知ってます」

「なんで……有名とか……無名とかって言葉があると思う?」

「え? いや……突然言われても……」

「実はね……この有名とか無名とかって言葉を作ったの……私の先祖なの……」

「……はい?」

「そうなるよね……でもね……本当なの……」

「……」

「聞いた話だけど……私の先祖は……右目にある能力を持っていたらしくて……その右目で、血の繋がりが無い人の両目を片方ずつ見つめると……その人は……有名になったらしいの……」

「……うん……それで?」

「それで……私の先祖によって……多くの人達に名が知られる人が出来て……有名とか……無名とかって言葉が出来たの……」

「……うん」

「で……その右目の能力は……血の繋がりがある人全員に遺伝するらしくて……私にも……」

「右目の眼帯をしてるのって……その為だったんだ……」

「うん……むやみやたらに有名人を増やす訳にはいかないから……」

「どうして?」

「……この右目の能力は……人を有名にする能力……人気にする能力じゃない」

「……どういう事?」

「右目の能力を使ったからと言って……必ずしも好印象の有名人になる訳じゃないの……」

「つまり……」

「悪印象の有名人になる可能性もあるって事なの」

「……なるほど」

 俺は彼女が死のうとした理由に察しがついた。

「能力を使うと……使われた人が青色か赤色に輝くの……使った人の右目でしか見えないけどね……赤色に輝くと好印象……青色に輝くと悪印象の有名人になるの……」

「……ほう」

「私……まだ赤く輝いたこと……三回しか無いの……一週間前……眼帯付け忘れて……私の好きな人の目を見ちゃって……青色に輝いて……ニュースになってる猟奇殺人鬼になっちゃって……昨日……逮捕されちゃった……」

「……そうだったのか」

「右目を切り裂こうと思った事もあった……でも……怖くて出来なくて……私……もうこの能力嫌……」

 彼女は涙を流していた。

 俺は彼女に優しく抱き付いた。

「俺には……貴方の気持ちが分かりません……自分の右目で見た人が有名になるなんて能力……俺にはありませんから……でも……俺は貴方に生きて欲しいと思っています……俺が……貴方を支えます……ですからどうか……」

「……ありがとう」

「ゆっくり……深呼吸しましょう……」

「……うん」


 私とあの人が結婚してから、暫くが経った。

 今日、眼帯を付け忘れて、右目であの人の両目を見た。

 人生で四回目になる赤色の輝きを見た。

 とても美しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ