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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

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作者: ああああ


 迫真に迫った声が、舞台から客席に届く。もし、観客がいたのであれば、見惚れていただろう。だが、この男からしてみれば未熟・・でしかない。

 まだ舞台にあげる事すら避けたい。その程度の実力。


「止めろ。それ以上は喉が枯れる」

「うるせぇ!!」

「落ち着け」

「俺はまだやれる!! そこで見ていろ!」

「駄目だ」


 哲郎てつろうはもう見る気はないようで、立ち上がり柊木ひいらぎのそばに歩いて行く。コツコツと鳴り響く足音が、この静かな空間に威圧感を与えている。

 

「明日は顔合わせだと言っただろ。いま声を枯らして不調を残らせたらどうするんだ」

「どうでもいい!! 喉なんてかれねぇ!!」


 気持ちが高ぶっている柊木は荒々しい言葉使いになってしまっている。そんな所がまだまだ未熟なんだと言いたい。未熟者が体調を管理出来るわけがないのだから俺の指示に従っていればいいんだと。

 しかし今の柊木は話を聞ける状態ではなかった。


「息が切れてるぞ」

「切れてねぇ!」

「ふらついてるぞ」

「ふらついてねぇ!」 


 一歩、また一歩と柊木に近付いて行き、見下ろせるくらい前でとまる。


「焦点が合っていないぞ、酸欠か?」

「まだ出来る!!」


 仕方がない。我慢していたため息を小さく吐きさらに一歩前に出る。

 話が聞けない子供に出来る事なんて、好き勝手させるか叱るかの二択だ。もし哲郎が先生で、柊木が中学生なら好き勝手させてもよかっただろう。だが、ここにいるのはマネージャーと高校生だ。

 わがまま言う青年に容赦なんてしない。

 

「んがッ?!」


 哲郎は柊木の顔を下から掴んだ。手に力はいれていないが、掴まれたのが衝撃的だったようで柊木は腕を引っ張ろうとするがうまくいっていない。


「なにすんだ!!」


 どうにかして手を放させようと腕を下に引っ張ったりしているが、その程度の力でどうにかできるほど軟ではなかった。


「放せよ! クソが!」


 柊木はさらに力を入れようとするが、なぜか手が顔から放される。哲郎から一歩後ろに下がり、怒りを含んだ目で睨んで来る。

 しかし哲郎は、その目が見えていないかのような足取りで、遠のいた一歩を縮め口を開く。


「息、切れていたぞ」

「はぁはぁ……掴んできたからだろうが!」

「自分の事何も分かっていないようだな。さっきから耳障りだったんだよその呼吸」

「切れてねえ!!」


 柊木の怒鳴り声が響き渡る。

 しかし、後から聞こえたため息のほうが怒っていると感じるだろう。


「俺が聞こえるって言ったら聞こえてんだよ。なんだ? 演技中に息を切らせる程度の未熟な役者さんは観客に文句言うのか」

「・・・」

「もう一度いうがな、酸欠になるほど酸素が足りてないんだよ。そんな状態でどれだけ練習したって何の意味があるんだ、言ってみろ」

「・・・」


 柊木は何も言えないまま突っ立っている。

 それを見て反省したと安心し、哲郎は舞台を降りる。


 そもそも、演劇って言うのは息はぁはぁになりながらやるもんじゃないんだ。どれだけ役の事が分かっていても、実際にできない状態では意味がない。

 確かに4時間・・・ぶっ通しでやり続けたのは凄い。だが、求めているのは凄いではない。感動だ。


「なに突っ立ってんだ、帰るぞ。」


 哲郎が舞台を降りてもなぜか柊木は動かない。まだ未練があるのかと思いもしたが、あれだけ言い負かしたんだ。直ぐに来るだろう。

 そう思い、出口まで歩いて行く。


 だが、予想外の事が起きた。

 背後から物が倒れたような音がしたのだ。


 嫌な予感がし直ぐに振り返ると、そこには舞台の上で倒れている柊木の姿があった。


「柊木!!」


 直ぐに駆け寄る。今日は革靴できたがそんなのは気にしない。

 騒々しい足音が響き渡った。




「起きたか」

「あぁ」


 柊木はふてくされたような表情で哲郎の事を見る。しかし本の様なものを見ていて顔は見えない。


「倒れてから1時間が経っている。ただの疲労だったから、その点滴打ち終わったら直ぐに出れる」

「すみませんでした」

「なんだ急に。デレたのか?」

「そんなわけねぇだろ!」


 ギャアギャア言ってくる柊木を見て不調が無い事を自分の目で確認する。たとえ医者に言われたとしても、マネージャーなのだから自分で確認しない事には納得が出来ない。


「一応聞いておくが、明日の顔合わせには行けるな?」

「はぁ? 行くに決まってんだろ」

「分かった……言っとくが次からは疲労で倒れる様な事するんじゃねぇぞ。今回は誰にも迷惑がかかっていないが、次はわからないからな」


 病室の中に響くその声は、柊木の頭に残るような怒りが乗っていた。演技ではない。哲郎は心の底から怒っているのだから。


「あぁ。もう倒れない」

「分かったならいい。行くぞ」

「え! ちょっと、まだ点滴やってんだけど!」

「しらん」



 


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