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《第一話》入学

やったあああああ早川ばんざーーーーーい!!!


あ、読め。

「貴殿らの入学を心より歓迎する。それと同時に、当校の生徒ソルジャーとしての活躍を期待している。以上」


五感を以て体の全てが警戒を余儀なくさせるスピーチが、そんな挨拶で幕を閉じた。


今、壇上でスピーチを行っていた女性がこの学校の代表理事である青藍氏である。


狩人ハンターとして30年ほど前に名声を上げ、今もなお狩り(ハント)において前線を任されるほどの実力を保有する、この世界随一の能力者だ。


理事の挨拶でしびれた空気は体育館中を支配し、一切の微動をも許さない。


「これにて入学式を閉式とする。各自、教室に戻り待機するように」


司会進行の教員の誘導が響き渡り、緊張の糸が若干弛む。


上級生の誘導に従い、各々が教室に向かって歩を進め始めた。



入学式後に配布されたクラス分け票を確認し、新入生たちは分散した。


後方から突き刺さる理事からの鋭利な視線に気づかないふりをしながら。




「んだてめぇ、今俺の靴踏んだだろ!」

「あ?誰に向かって口を聞いている。愚鈍が」

「上等じゃねえか!」


各教室にそれぞれが向かう最中、廊下の一端から怒号が響き渡った。


一方は焦げ茶色の短髪の男でガタイが異常な程に良い。


声量もとんでもなく、耳元であんな声を出されては鼓膜に支障をきたすほどだろう。


対するもう一方は白銀のような艶のある髪を靡かせる、王子然とした態度の男だ。


こちらは傲慢な性格が言動の節々から見て取れる。


「来るなら来い、雑魚が」


そんな傲慢な声と発言に短髪の男子生徒が激昂する。


腹に響くような低い雄叫びと共に、姿勢を屈め、どこからともなく突如右腕に炎が宿る。


それに驚く様子も見せず、銀髪の男子生徒は仁王立ちを崩さない。


廊下が揺れるような衝撃とともに炎を右腕に纏った男子生徒が地面を蹴る。


一般人には目で追うことすら出来ない速度で、不敵に笑う相手の顔面にめがけて渾身のストレートを放つ。


目にも止まらぬ炎の突進に、しかし銀髪の生徒はすんでのところでそれを躱していた。


躱した勢いのそのまま全身を翻し、全力のストレートを放った際にできた隙だらけの背中目掛けて回し蹴りを繰り出す。


音速を超えるような速度の回し蹴りに短髪の生徒はぎりぎりの所で対応する。


炎を纏った右腕を背中に回し、回し蹴りを相殺する。


しかし勢いは凄まじく、そのまま弾き飛ばされる。


「なにをしている?これはサーカスか何かか?」

「一発入れただけでいい気になってんじゃねえよ!まだまだ行くぞゴラァ!」


安い挑発にすぐに噛みつき、右腕の炎の火力を更に強めると、短髪の男子生徒は再度突進の体勢をとる。


「それしか出来ないのか?」


相変わらずの傲慢にしかし男は反応せず、集中力を高める。吐く息が熱を帯びている。


「UWOOOOO!!!」


正に獣と言わんばかりの咆哮と同時に先程よりも速い速度で銀髪に迫る。


流石の銀髪もこれには全力を以た対応を強いられる。


炎の熱が伝わるよりも断然速く迫る拳が顔面に肉薄する。


───と、その刹那。


超音速のパンチが銀髪の顔のあった位置の直前で急静止した。


同時に銀髪は元いた場所よりも一歩下がっており、パンチの射程範囲外に移動している。


刹那の出来事であり、周囲で喧嘩の様子を見守る生徒は何が起こったか分からない。更に言うならば、当事者二人も状況を把握出来ていない。


「はいはい、そこまで。入学出来たのが嬉しいのは分かるが、内部で潰しあっては意味が無いよ」


そんな混乱の渦中に一人の男の声がかかる。


当事者含め、周囲の人間の注目全てがその男に向けられる。


すると男は一度パチンと手を叩き、生徒を教室に戻るように促した。


当事者二人も特に罰則もないまま、それぞれの教室に帰っていった。


謎の力が自分に干渉したことには気づいていても、その正体がなんなのかが分からない。


その恐怖に一度は昂っていた感情も鳴りを潜め、ただ得体の知れない恐怖が身を支配する感覚に襲われる。


それを感じ始めたのがその男が姿を表してからだったので、当事者二人は完全にその男一人に畏怖の念を抱いていた。




「先ずは入学おめでとう。青藍代表理事が殆どのことは話してくれたので、僕から君たちに伝えることは特にない。先ほどのような内部抗争は避けてくれとだけ伝えておくよ。あぁ、申し遅れたね。僕が君達class1を受け持つことになった、松本だ。諸事情でフルネームは伝えることができないけど、気軽に松本先生と呼んでくれたらいいかな」


朗らかな表情と優しい声で教壇に立つ男は、このクラスの担任の教師だった。


その温厚そうな見た目に対して、本人が周囲に放つオーラは尋常じゃないほどに濃い。


教室全体を包み込むようなオーラに、新入生たちは少し身構えるが、その必要はないと本人に諭され警戒を解いた。


「それじゃあ早速自己紹介と行こうか。出席番号1番から順に前に出てきてくれ」


かくして恒例とも呼べる自己紹介が始まった。


そして8番の生徒が終わり、9番目の生徒が教室の前方に歩み出す。


「はじめまして。出席番号9番、神楽 累(かぐら るい)といいます。出身は北の方で、つい最近上京してきました。こっちのことはまだわからないことが多いので、教えてくださると嬉しいです。得意なことは運動全般です!お願いします」


特に誰かが興味を寄せるわけでもない、まばらな拍手で自己紹介が終わった。


教師を含め、誰一人として違和感を感じている人間はいない。


たった今自己紹介を終わらせた人物が、この教室唯一の女性であるというのに。


能力:【変異(ヴァリエート)


姿形だけでなく、その人間が放つオーラや雰囲気、存在の概念にすら触れる勢いで容姿を変異させることのできる能力だ。能力の汎用性は高く、臨機応変な対応ができるのがメリットである。


そして女性が累しかいない理由、それはこの世界における能力者は99%が男性であるからだ。


それはもちろんこの学年にも言えたことで、30人のクラスが4クラスの合計120人の能力者が集まれど、累以外に女性は一人もいない。


さらにその累も男装しているため、120人全てが男子で形成された学年ということになっている。


その中で女性の姿でいると目立ってしまうため、累はこうして能力を行使しているわけだが。


「俺の能力は、物体のバランスを均衡に保つっていう能力だ!奥義は教えられねぇがバランスを保つことで体を自由自在に動かすことができるのが強みだ!よろしくな」


普通能力持ちはそこまで自分の能力を開示しない。


というのも、能力を知られては対策をされてしまうという当たり前のような理由で、累も例に違わず能力を知られないよう行使しているのだが、自己紹介で意外にも自分の能力をひけらかし、更には実際に行使してみせる輩もいる。


松本先生が言っていたように校内で本気で敵対することは滅多にないが、それでも校内競争の際に不利になるのは間違いない。


そして、自己紹介で能力を開示した人間に強い能力や「概念持ち(コンセプター)」がいないことは、確認している。


ちなみに「概念持ち(コンセプター)」というのは、この世界における概念に干渉する能力のことで、狩人として前線で活躍をする能力者は概念持ちが複数いる。


とはいえど、概念持ちというのは国に10人いれば多い方で、現在日本で確認されている概念持ちは代表理事を含めて6人。


概念の卵(インフェリア)と呼ばれる、成長によっては概念になりうる能力者は100人ほど見られているが、それが大成するのは稀な事象である。


実際、現在この学園に概念持ちの生徒はおらず、概念の卵(インフェリア)が3人在籍しているらしい。


いずれも上級生の情報なので、新入生の中に既に概念の卵を持っている人間がいてもおかしくはない。


しかし、クラスの自己紹介を見たところこのクラスに疑いのある人間はいなそうだった。


「よし、全員終わったな。これから5年間の生活を共にする仲間だ。ぜひ親睦を深めるように。それでは今日はこの辺で。さようなら」


自己紹介が終わり間もないのだが、松本先生はそれだけ残して教室を後にしてしまった。


後のことは各人に任せると言ったところか、教室のあちこちで徐々に話し声が聞こえ始める。


「ねえねえ、神楽くんって言ったよね?」


そんな彼らを横目に眺めていた累に背後から声がかかる。


「ああ、君は鬼路君だったか?」


「おー!僕の名前覚えてくれてたんだね!改めて、僕は鬼路 咲間(きろ さくま)。これからよろしくね!」


健気に笑う優しそうな少年。


控えめな茶色い髪は地毛だろう、しかし純日本人とは思えないような透き通った青い目が特徴的だ。


声のトーンも優しく、何か(能力)を見抜いたという様子はない。単純にクラスメイトとして話しかけただけか。


見抜いていたのなら対処を考えねばならないところだった。


「こちらこそ、よろしく」


「神楽くんは上京してきたって言ってたよね。もしよかったら今日は一緒に帰らない?」


「俺は寮住みだが…」


「僕も!実は僕も上京勢なんだー!」


曰く南というか西というか、その辺から数年前に越してきたらしい。


明確に言わないあたり、累は少し違和感を覚える。


しかし、折角できた知り合いだ。訝しんでいては相手に失礼だろう。


「じゃあ一緒に帰るか」


「やったー!これで友達だね!」


累と咲間は教室を後にし、昇降口を出て寮の方面へと歩く。


「累くんはさ、対人的な能力者?」


お互い当たり障りのないようなことを話していたのだが、いきなり咲間がそんなことを言い出した。


少し神妙な面持ちで話しているため、明け透けて裏の意図があるというわけではなさそうだ。


それすらもブラフかもしれないが。


「いきなりどうしたんだ?」


先ずは様子見。累もこればかりは探っていくしかない。


「実はさ、僕の能力そんなに人に誇れるものじゃなくてさ」


咲間は俯きつつ累にそんなことを話す。


存在の概念(エグジスタンス)】に多少触れる累だからこそ分かることだが、どうやら嘘をついている様子はなさそうだ。


「自己紹介で自分の能力を見せてた人たちはみんな強そうで、正直これから上手くやっていけるか不安なんだ」


空気やオーラに違和感はない。つまり累に対して、咲間は本心で話しているということだ。


「一ついいか?」


それならば累も親身になって相談を聞かねばならない。


しかし一つ気になることがあった。


「なぜ出会ったばかりの俺に、能力についての悩みを話せる?」


能力の内容の保護は能力者にとって自分の命を保護するのと同義。とてもではないが、初対面の相手に話していいような内容ではない。


狩りのパーティ内でさえ、能力を完全に把握してはいないくらいだ。


つまりそれを相手に打ち明けるというのは、相手を心から信頼しているということ。


「僕の能力は、まだ不完全なんだけど相手のことを把握する能力なんだ。それでさ、神楽くん僕に隠してることあるよね?」


咲間が自信に満ちた声でそんなことを言う。


累の背筋に冷たいものが走る。


発生点が不明な全身を包む感覚が累を襲う。


殺るか?

臨戦体制まで一気に脳が覚醒していくのが分かる。


帰り道の途中なので、周りにはまばらだが同じ学校の生徒がいる。


派手なことはできない。累の持ち合わせる技術で、相手の意識を刈る最も静かな技。


突如累の右腕が、脳を揺らすためだけに開発された、固くなく、しかし柔らかすぎないハンマーのような形に変形する。


これこそが累の能力【変異(ヴァリエート)


自身の体を自由自在に操ることができる能力。


次の咲間の発言によっては、完璧に意識を刈り取る。


それ(変異)を見抜く能力者は、誰であれ敵になるのだ。


いやあ能力系は厨二病炸裂で書いていてめちゃくちゃ楽しいですね。


よし、どんどん書くぞー!やったーーーー!



あ、読め。

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