離れた気持ちは戻らない
照れ隠しとは厄介だ。本心とは真逆なことを言ってしまうのだから。
「ごめん、私ケンのこと、そういう風には見れない」
その一言が、私から好きな人を奪った。いや、突き放してしまったのだ。
本当は飛び跳ねたくなるくらい嬉しかった。幼馴染の彼と両想いであったことに。
「そっか……」
思い上がっていた。
勇気を出して告白してくれたのだから、あっさり諦めることはないだろうと勘違いをしていた。
それ以降、私はケンと話すことが極端に少なくなった。
内心焦りが募った。でも私は何もしなかった。
お姫様のように待ち続けていた。彼がまた、私に告白してくれることを。
今にして思えばこれが私の2つ目の過ち。すぐに伝えるべきだった。私の気持ちを。
それができなかった理由は下らない。好き――という言葉を口にするのが恥ずかしかったから。
私にとってケンは、一緒にいて当たり前の存在。わざわざ好意を声に出す必要はないと、妙なプライドがあった。
「三奈、俺彼女できたんだ」
「え?」
だからなのかもしれない。告白から数ヶ月もしない内にケンに恋人ができたと知った時、それが現実だと思えなかったのは。
私は気付いていなかった。ケンを狙っている女子がいることに。
彼は私から誤解されないように、異性を意図的に遠ざけていたのだ。それで私は、ケンはモテない男子だと勘違いをした。
「なんで!? なんでなの!? 私のこと好きなんじゃないの!?」
私は1人部屋のベッドで泣きじゃくった。
逆恨みも甚だしいのだけれど、私は彼に怒りさえ覚えていた。傍から見たら、相当見苦しい。
このままケンを憎んでいれば、まだ気が楽だったと思う。でも、私の心は折られてしまった。
見てしまった。彼が恋人と幸せそうに手を繋いで歩いているところを。
「……あぁ」
よく見かける男女のデート。ありふれた光景なのに、胸が引き裂かれそうになった。
ケンの恋人が羨ましくて仕方がない。本来であれば、彼の隣にいるのは私だったのに……。
後になって友達から聞いた。ケンは私にフラれた後、もう一度告白するチャンスを窺っていたらしい。
しかし、今のケンの彼女がそれを止めた。脈なしだから諦めた方がいい、と。
彼はそう言われ、私への想いがなくなってしまったようだ。そしてケンの彼女はじわじわと、彼の心に空いた穴を埋めていった。
私は後悔している。あの時素直になっていれば、ケンとずっと一緒にいられた。
大好きだった幼馴染は私の傍にもういない。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
お試しで書いたすれ違い(?)ものですが、いかかでしたでしょうか。