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迫るおっぱい

 翌日の7月30日月曜日の放課後。


 俺と桐葉は、早百合局長と一緒に、美稲の仕事場である貨物船の中にいた。


 持ち込んだソファに四人で座りながら、紅茶を片手にMRテレビでニュースを眺める優雅な時間だ。


 MRテレビの中で、早百合局長はOU国への対策を解説している。


「ふむ、こうして客観的に見ると……やはり私は美人だな!」

「自画自賛ですね……」

「フッ、もっと褒めてくれても良いのだぞ。むしろ褒めろ。私は褒められて伸びるタイプなのだ」

「そんな気がします……」


 キメ顔を作る早百合局長に、俺は辟易とした溜息を洩らした。


「そういえばそのOU対策ですけど、昨日から美稲が作っているダイヤモンドパーツは売れているんですか?」


 現在、OUは日本に金塊貿易とメタンハイドレート採掘をやめなければ経済制裁として、日OU貿易を停止すると脅してきている。


 OUに大量の電子機器を輸出する日本にとっては、致命的な一撃だ。


 なので、その対策として美稲が炭素からダイヤモンドパーツを作り、電子機器メーカーがダイヤモンド半導体を大量生産。


 それを国内で売りさばくことで、電子機器メーカーの衰退を防ごうとしている。


「万全だ。どこのメーカーも、あとはダイヤモンドパーツさえあればダイヤモンド半導体を作れる、という段階に来ていたからな。ダイヤモンドパーツは飛ぶように売れている」


 その吉報に、美稲が胸をなでおろした。


「よかった。あれだけ作っておいて売れ残ったらガッカリだよ」

「だな」


「それと、OUが異能者管理局を作るよう国連に働きかけている件だが、今日、総理が貴君ら能力者を日本政府が保護するという声明を出してくれる。仮に国連が異能者管理局を創設しても、日本の能力者は国連に引き渡さないという強い意思表示だ」


「これでOUが俺らの拉致を諦めてくれればいいんですけどね」


 世の中がそんなにあまかったら苦労はない。

 今のは、俺の淡い願望だ。

 ニュースは、OUの圧力から芸能へと移る。


 真理愛は相も変わらず芸能・スポーツ業界のスキャンダル動画をネット上に投稿し続け、多くの関係者が警察に捕まっている。


 多くのファンには申し訳ない一方で、良いこともあった。


「お、この芸人なつかしいな。しばらく出ていなかったのに」

「へぇ、新人アイドルの人気取り番組、面白そうだね」

「あ、ハニーってこの監督の映画好きだったよね。続編出るんだ」


 確かに、真理愛の念写パワーで、数えきれない人数のプロデューサーや監督、芸能人が失脚した。


 その一方で、業界内の政治的圧力が消滅したことで理不尽に干されていた芸能人や監督が戻ってきたり、若い才能や日の目を見なかった中堅どころを発掘する流れができていた。


 元から、昨今の芸能業界は上が詰まっていて若手が活躍できないと言われていた。


 けれど今回、いい意味で業界の新陳代謝が進んでいるようだ。


「これも真理愛のおかげだな」


 俺の言葉に、美稲も頷いた。


「そうだね。けど芸能界の人、不倫しすぎじゃないかな? ちょっと許せないよ」

「え、あ、はい、そうですね不倫は駄目ですね」


 桐葉の他に、真理愛とも付き合っている俺は、罪悪感で胸が痛んだ。


「愛する人を傷つけて他の人と付き合うなんて、人として最低だよね。ハニー君もそう思わない?」

「美稲さん、わざとやってます?」

「え? だってハニー君は桐葉さんの許可を得て真理愛さんとも付き合っているんでしょ? じゃあ何も気にすることないじゃない?」

「意味深な笑顔!?」


 俺がチクチクとした攻撃に苦しんでいると、早百合局長が愕然とした。


「なんだと!? 貴君はまだ真理愛しかハーレムに加えていないのか!? 私はてっきりもう内峰美稲と枝幸詩冴も加えているものとばかり!」

「早百合局長は俺をどういう目で見ているんですか!?」

「奥井ハニー育雄だと思って見ているぞ?」

「だからそのミドルネームやめましょうよ……」


 げんなりする俺に、だけど早百合局長は上機嫌に肩を叩いてきた。


「まぁまぁよいではないか。日本の法律で入籍さえしていなければ何人と付き合っても問題ない。法律の穴だな。このまま四天王をコンプリートしてくれたほうが私としては都合がいいのだ」


「確認ですけど早百合局長って総務省の高級官僚ですよね? 国の役人ですよね? なんで青少年を悪の道に引きずり込もうとするんですか?」


「え? ハニーって真理愛と付き合うのは悪の道なの? いけないんだぁ、今の真理愛が聞いたら悲しむよ?」


「いやそういう意味じゃないから!」

「ハニー君、もう諦めようよ」


 美稲に肩を叩かれ、俺は苦悩した。


 ――あれぇ、おかしいなぁ、俺が二股しているんだよな? 俺が桐葉から責められる案件だよな? 女性陣の倫理観どうなっているの?


 人生観をゲシュタルト崩壊させながら俺が遠い目をしていると、早百合局長が指を鳴らした。


「そうだ。伊集院秀介の処分が決まったぞ」

「確か、殺人教唆で捕まったんですよね?」


「うむ、とはいえ未遂であること、未成年であること、それに殺人を依頼したわけではなく、あくまでもネット上で煽っただけであることが考慮されて、処分は軽くなる。執行猶予付きの更生施設一か月行きだ。これは、OU対策でもある」


 早百合局長は、声を引き締めた。


「未だOU国が貴君らの身柄を狙っている可能性は高い。しかし伊集院秀介は24時間以内の危機なら、詳しく予知できる。いつまでも拘束しておくのは、貴君らのためにもならない。無論、厚生施設でも、一日三度、貴君らのことを予知させる予定ではあるが、彼には可能な限り、協力的であって欲しい」


 ――つまり、嘘の予知を教えられないようにってことか。


「一か月ってことは、夏休み期間中ですか?」


「そうだ。明日の終業式には出席するが、夏休み期間中は更生施設で過ごすことになる。ちなみに終業式の風物詩たる校長の長話には15分の時間を取ってある。最初は廃止にしようかとも思ったが、社会に出てから学校あるあるで盛り上がれるよう、残すことにした」


 いらねぇ、と思いながら、俺は別のことを尋ねた。


「伊集院の奴、終業式に出られるんですか? 下水道にテレポートしたから、感染症でしばらくは入院するんじゃ?」


「親のコネと金で治療系能力者の力を借りたようだ。ただし、退院する以上、夏休みに入れば即、更生施設送りだ。夏休みが終わったあとも、三か月間、監視付で行動には制限が設けられる」


 ――監視か、そういえば桐葉って、一応俺の監視なんだよな?


「監視って、桐葉みたいなですか?」

「いや、伊集院秀介にはスキンヘッドでサングラスでゴリマッチョで趣味がナイフ研ぎと筋トレの傭兵、鬼瓦権蔵おにがわらごんぞうと非愉快な仲間たちが交代で24時間密着監視をする予定だ」


 ――さらば伊集院。


 一生に一度しかない高校一年生の夏を失った伊集院に、俺は陰ながら黙とうを捧げた。


「だってさハニー。ボクも24時間密着監視したいなぁ」


 甘い声で、すり寄ってくる桐葉に、俺は興奮で息を詰まらせた。


「お、お風呂とベッドは別だぞ!」

「ん~、でもハニーがお風呂の中でイケナイことをしているかもしれないし」

「だから毎日、舞恋にサイコメトリーされているんじゃないか! 俺にやましいことなんて何もないぞ!」

「じゃあなんで目を背けるのかな?」


 俺に押し付けていた肩を基点に、桐葉はくるりと反転。俺の膝、いや、下腹にまたがり向かい合ってきた。


 ――うっ、うぉおおおおおおおおお!?


 制服越しでも自己主張の激しい桐葉の豊乳が目の間に迫って、大迫力だった。

 まさに、二次性徴の暴力である!

 邪心を抑えようと顔を背けた。

 刹那、ぷにすべの両手に顔をホールドされて、強引に正面上を向かされた。


「やましいことがないなら、ボクの顔を見られるはずだよね?」

「いや、見たら逆にやましい気持ちになってしまうというか、絶対わかって言っているよな? あと美稲、いま絶対RECしているだろ?」

「いや、内峰美稲ではなく私がしている!」

「自重してください!」

「何を言う、こんなリアルな青春の一ページを保存できる機会はなかなかないぞ?」

「こんなリアルがあってたまるか! ていうか、あああああ! 早百合部長まで迫らないでぇえええええ!」


 桐葉超えの重圧接近に俺が叫ぶと、桐葉は妖艶な雰囲気を引っ込め、平坦な口調になった。


「青春と言えば、異能学園って行事の予定とか決まっているんですか?」

「うむ。学園祭などの鉄板行事は考えている。が、個人的には生徒たちからの意見を集めようと思っている。学校行事に関する意見があれば、まとめておいてくれ」


 そこまで言うと、ビジネスライクな口調を緩めた。


「実は異能学園を創設する際、能力者の学園生活だけは守ろうと決めたのだ」


 早百合局長の言葉に、爆乳と爆乳のはざまで動けなくなっている俺も、そして桐葉と美稲も聞き入った。


「日本を経済破綻させたのは我々大人の責任だ。大人のツケを、貴君ら子供に回すのは日本人の悪い癖で、申し訳ないと思っている」


 以前、似たような話を聞いたことがある。


 多くの小学校では、社会問題や環境問題を生徒たちに教えてから、『日本の未来を作るのは君たちだ』なんて耳当たりのいい言葉を使っている。


 けれど、それは要約すると大人たちの失態の後始末を子供に押し付けているだけだ。


 大人なら、きちんと後始末をし終えた綺麗な社会を子供たちに託すべきだろうと。


 早百合局長は、他の大人たちとは違う、慈愛と責任感を合わせた眼差しで、俺らに語り掛けてきた。


「貴重な青春の【放課後】や【休日】を、日本を救うために働かせて本当にすまない。その代わり、貴君らには最高の学園生活を提供したいと考えている。それが、私にできる最低限の礼だ」


 あまりに真摯な態度に、俺は胸を打たれた。

 相変わらず、早百合局長は最高の上司だ。

 こんな大人がもっと身近に居れば、俺の人生はあんな悲惨なことにはならなかっただろう。


「では、私は仕事に戻る。内峰美稲、録画の続きは頼んだぞ」

「任せてください」

「任されるな!」

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