表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

96/384

毒親

 桐葉に勇気を貰った俺は、リビングのソファに預けていた背筋を伸ばした。


 それから、真理愛のデバイスに電話をかけた。


 すぐ隣で桐葉が見守る中、たった二回のコールで、真理愛は出てくれた。


 それが、まるで俺からの電話を待っていてくれていたように感じられて、嬉しかった。


『はい、真理愛です。何かご用でしょうか?』


 いつもよりも、僅かに早口だった。


「あー、滅茶苦茶大事な用事だ。可愛い彼女に会いたいんだけど、アポートで呼び出してもだいじょうぶか?」


 コンマ一秒の間を置いてから、

『待ってください』

 と、やや慌てた声。


 日頃、無感動な真理愛からは、想像もできないことの連続だ。


『……はい、大丈夫です。どうぞ、召喚してください』

 ――ゲームか!


 と、心の中でツッコむも、【召喚】という単語の本来の使い方としては正しいので指摘を飲み込んだ。


「じゃあ行くぞ、3、2、1、アポート」


 俺がアポートを発動させると、俺のすぐ隣に真理愛が現れた。


 水色のロングスカートに、白の半そでブラウスの部屋着姿。


 それに、シャワーに入ったのだろう、普段はシニヨンでまとめている濡れ羽色のロングヘアーが下ろされていて、随分と印象が変わる。


 普段は芸術品のように隙がない美しさがある一方で、こちらは守ってあげたくなるような、愛らしさがある。


 ――いや、見惚れている場合じゃないよな。


 心の姿勢を正してから、俺は真理愛に尋ねた。


「真理愛。玄関での会話、聞いちまったんだ」

「……」


 無言のままに、真理愛はまるで逃げるように視線を下げた。

やはり、他人に聞かれたくない場面だったらしい。


 同時に、彼女の苦しみが確実なものとなり、俺は膝の上で拳を握ってしまう。


「真理愛って、親とはずっとあんな感じだったのか?」


 長い沈黙の後に、真理愛は短く頷いた。

「はい」

「どうして何も言わないんだ? あんなのどう考えたって親が間違っているだろ?」

「っ……いえ、間違っているのは私なんです。私が、おかしいのです」


 まるで母親をかばうように、真理愛は自分を責めた。


「両親は悪くありません。私は幼い頃から頭が悪くて、いつも両親に恥をかかせてきたのです。だから、両親の思った通りに行動できない、私が悪いのです」


 普段の様子からは信じられない勢いでまくしたてる彼女に動揺しながらも、俺は両親という単語を聞き逃せなかった。


「両親って、父親もか?」

「はい。お父様にも、ずいぶんと恥をかかせてしまいました」

「恥って、俺は真理愛と一緒にいて、両親のことを悪く思ったことなんてないぞ?」

「ハニーさんはそうかもしれません。ですが他の人は違います。私がおかしなことをするたびに、普通ではない言動をするたびに、『親はどういう教育をしているんだ』と、両親に恥ずかしい想いをさせているのです」


 熱を帯びた真理愛の言葉に、俺も感情的になってしまった。


「おい待てよ、誰だよそんなこと言った奴」

「両親です!」


 理解が追いつかない俺に、真理愛は大きな瞳を濡らしながら語った。


「お母様にも、お父様にも、幼い頃からいつも言われてきました。私が普通ではない言動を取る度、『親はどういう教育をしているんだと思われる』『親に恥をかかせるな』『どうして普通にできないんだ』と」


「昔からって、小学生くらいの時からか?」


 真理愛は小さくかぶりを振った。


「いいえ。最初は幼稚舎に通っていた時でした。ある日、先生から尋ねられました。『何をしている時のお母さんが好き?』と。当時、四歳の私は、質問の意図がわかりませんでした。母のことは好きでした。ですが、何をしている時かで好きに変化があるのかと。どんな時でも、私の母のことが好きという想いに変わりはありません」


 真理愛の言うことも一理ある。


 四歳では、正確な意味が伝わらない子もいるだろう。


「だから私は、歩いている時の母が好きだと答えました。他の親御さんと比べても、母の背筋は伸びていて、姿勢よく凛と歩く姿を美しいと感じていたので」


 ――うん、いいんじゃないか。


 モデルのように姿勢よく、そしてメトロノームのように一定のリズムを刻みながら歩く普段の真理愛を思い出して、つい納得してしまう。


 真理愛がただ歩くだけの動画があっても、様になる気がした。


 だが、俺が納得した矢先、真理愛は悲しい声を漏らした。


「そのことをお母様に告げると、お母様は激しく憤慨しました」



『歩いている時が好きってなんなの!? 何わけわかんないこと言ってんの!? そういう時はお弁当を作ってくれている時のお母さんが好きとか、物語を読んで聞かせてくれる時のお母さんが好きとか言わないとダメでしょ! ああもう絶対変な家の子だと思われたじゃない! 次からお母さんどういう顔で先生に会えばいいの!?』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ