ダイヤモンド半導体がチート過ぎる
「じゃあ炭素からダイヤモンド半導体のパーツって作れないかな?」
謀略を巡らせるような怪しい口調に、美稲はハッとした。
「そうね、ダイヤモンド半導体を作れたら、日本中に何十億って需要が生まれるわね。流石桐葉さん、目の付け所が違うわね」
「そうなれば、日本が世界に先駆けて5Gに続く6Gを手にすることになりますね。これは、IT分野における世界のパワーバランスが大きく変わりますよ」
「マリアちゃんの言う通りっす。日本に6Gが普及したら、今度は欧米やPAUに輸出も出来るし、半導体の需要は無限に近いっすよ♪」
「半導体ってなんだ?」
「電気を溜めたり放出したりする部品で、あらゆる電子機器を制御するためには欠かせない重要パーツっす」
「じゃあ6Gってのは?」
「え~~っとぉ……早百合ちゃんバトンパスっす♪」
「任されよう」
早百合局長が、現役教師の三倍は威厳のある表情で、キビキビと解説した。
「5Gや6Gは通信規格だ。数字が高くなるほど高速通信ができると思ってくれて構わない。21世紀初頭、世界中のパソコンはデータのダウンロードに多くの時間がかかっていた。だが、2020年代に5Gが普及し、ダウンロード時間は限りなくゼロになった」
「あれ? でも今のデバイスにはダウンロード時間ありますよね?」
アプリのダウンロード中に、シークバーが溜まりながら、何パーセントという表示を何度も見ている。
「貴君の言う通りだ。2030年代、脳の視覚視野に直接電気信号を送り、ARやMR、VRを見せるXRデバイスの登場で、人類は再びダウンロード時間に悩ませるようになった。XRは、それほどデータ量が多いからだ」
耳裏に装着しているデバイスをひとなでしてから、早百合局長はニヒルに笑った。
「しかし、ダイヤモンド半導体の効率性能は、現在主流のシリコン半導体の5万倍だ」
「5万て!? 少年バトル漫画の戦闘力よりインフレしてますよ! スーパーサイ●人3だって元戦闘力の400倍なのに!?」
「事実なのだから仕方あるまい。だが、問題は部品であるダイヤモンドだ。現在の技術では、人工ダイヤモンドパーツを大量生産することができん」
「だけど、私の【リビルディング】でダイヤモンドパーツを大量生産して国内の電子機器、半導体メーカーに分配すれば、世界で日本だけがダイヤモンド半導体の大量生産ができることになるわ」
「うむ。半導体を作れないメーカーは、個別に国が税金で支援しよう」
「これで電子機器業界は大丈夫っすね。あとは自動車メーカーですけど、日本中の人が自動車を買い替えればいいんすよね? いま主流の水素エンジン自動車と電気自動車の次ってなんすかね?」
「う~む、ダイヤモンド半導体があれば自動運転システムを飛躍的に小型化できるし性能も上がる。だが、日本中の半導体工場をフル稼働させても、デバイスと自動車、両方の需要は満たせないだろう。今から半導体の新工場を建設しても間に合わん」
「待って」
桐葉はくちびるをひとなでしてから三秒間、沈思黙考の表情を取った。
「……自動運転車が普及した今、車に求められるのは運転のしやすさよりも、燃料問題と航続距離だ。早百合局長、確かトミタ自動車が従来の半分の充電時間で1000キロ走れる新型全固体電池を開発したってニュースを去年見たんですけど、どうなったんですか?」
「調べてみよう」
複数のMR画面を手早く操作しながら、早百合局長は視線を走らせた。
「どうやらコストの問題で大量生産の目処が立たないようだ。全固体電池はレアメタルを使わないのがメリットだったが、新型の全個体電池にはコバルトやマンガンなどのレアメタルを使うらしい。いくら性能が良くても、値段を見れば消費者は買わない。今は海水から無尽蔵に取り出せるナトリウムを使ったナトリウムイオン電池の開発に力を入れている、む? コバルトとマンガン?」
その時、俺と早百合局長の視線が、バチーンとかちあった。
「へ?」
首を回すと、全員の視線が俺ひとりに集まっていた。麻弥まで俺を見上げていた。
「あ、俺が海底からアポートすればいいのか」
得心がいって、ぽんと手を叩いた。
「なんかずいぶんと簡単に解決しちゃったっすね♪」
「ほとんど桐葉たちのおかげだけどな……」
「おやおや、ハニーちゃん疎外感感じちゃったっすか? 落ち込まなくてもシサエはおバカなハニーちゃんをバカにしたりしないっすよん?」
「いや、頭脳労働でお前に負けたのが悔しい」
「失礼っすよハニーちゃん、これでも詩冴はインテリジェンス溢れるレディなんすからね!」
「レディと言う名のオヤジのくせに、おいやめろ、無言で殴るな、麻弥は脛を蹴るな、真理愛まで蹴るな、真理愛は俺の味方じゃないのか?」
「いいえ、今のはハニーさんが悪いが自分で判断しました」げしげしげしっ
「くそぉっ、これが桐葉の言っていた女子チームかぁ! 今からでも一夫多妻に反対してやるぅ!」
「え……? ハニーはボクと真理愛のダブルベッドライフを送りたくないの?」
目を丸くして尋ねられて、俺の頭はR指定の妄想を1秒間に3600秒分もふくらませた。
「ひ、卑怯者めぇええええ!」
「? 桐葉、ハニーはなんで体育座りをしているのですか?」
「なんでかなぁ? 麻弥、ハニーを立たせてあげて」
「うん。ハニー、床に座っちゃダメなのです。ちゃんと立ってお話をするのです」
「ぐぉぉ、そんなに俺をいじめて楽しいのかぁ!?」
「うん」
即答だった。グレたくなった。大人ならきっとお酒が欲しくなるんだろうな。
そこへ、真理愛がすっと麻弥を抱き上げた。
「麻弥さん、ハニーさんを困らせてはいけません。今、ハニーさんは内なる邪心と戦っているのですから」
「ハニー、悪い子になっちゃったのですか?」
「はい、主に下半身が」
「無表情同士で言われると余計に辛いからやめて!」
真理愛と麻弥、我らが無表情シスターズは、やっぱり無感動無表情で、不思議そうに首を傾げた。




